01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Moberg, M. (2025). Engaging Anthropological Theory: A Social and Political History(第 3 版). Routledge.
章の要約
第 3 版は十五章からなり、図・表・コラムの一覧、参考文献、索引が付く。出版社は 486 ページ、白黒図版 84 点と記している。人類学の思想の歴史的文脈と、人類学そのものが論争的であることを検討するのが目的である。以下の各章の説明は、公表されている章題と出版社の紹介に沿っている。
第1~2章:政治とパラダイム;人類学的知識の主張と批判
冒頭の二章が全体の枠組みを示す。章題には、政治とパラダイムの結びつきへの関心と、人類学の知識の主張がどのようになされ、どう批判されてきたかへの関心が表れている。出版社は本書の前提を、人間の多様性についての人類学の考えは、西洋と植民地化された社会との関係や学問的探究そのものの政治を含む歴史的条件に根ざしている、と説明している。
第3~4章:人類学者以前の人類学;世界を変えるための理論と実践
第 3 章は学問の成立以前にさかのぼり、第 4 章は題名からして、理論と実践の、世界を変えようとする努力との関係を扱う。二章あわせて、のちの学派が応答する思想的・政治的背景を整える。
第5~6章:秩序と進歩の継承者;スペンサー、ダーウィン、そして現代のための進化の物語
章題が挙げる十九世紀の状況を扱う。秩序と進歩の観念、そしてスペンサーやダーウィンに結びつく進化思想である。「現代のための進化の物語」という言い回しは、進化の考えが今日も用いられていることとの関連を示唆する。
第7~8章:ボアズ革命;文化と心理
第 7 章はアメリカ人類学におけるボアズ的転回を、第 8 章は文化と心理の関係を扱う。
第9~10章:機能主義――純粋なものとハイフンつきのもの;反構造と帝国の崩壊
第 9 章は純粋な形と混成した形の機能主義を取り上げる。第 10 章は題名によれば「反構造」を帝国の崩壊と結びつけ、脱植民地化の時代の理論をその政治的状況のなかに置く。
第11~12章:進化論の再来;現代の唯物論的・生態学的アプローチ
第 11 章では後の形の進化論に戻り、第 12 章では現在の唯物論的・生態学的アプローチを概観する。
第13~14章:象徴、構造、そして「意味の網」;ポストモダンの政治経済学と感性
第 13 章は象徴論的・構造主義的アプローチを扱い、「意味の網」という言葉が示す解釈の伝統を含む。第 14 章は政治経済学的研究とポストモダンの感性にかかわる。
第15章:現代人類学の瞬間
最終章は学問の現状を見る。出版社は、この版では、学問史でしばしば見過ごされてきた非正典的な人物や有色人種の研究者の貢献に特に注意を払っていると述べている。
主要概念
第1~4章
- パラダイムと政治:理論の枠組みは、それが生まれた政治的状況から切り離せないという、本書の組織原理。
- 人類学の知識の主張:他の社会についての主張がどのようになされ、批判されるかという問い。
第5~10章
- 秩序と進歩;進化思想:初期の理論が拠って立った十九世紀の観念。
- ボアズ革命:第 7 章が掲げるアメリカ人類学の転換。
- 機能主義:「純粋な」形と「ハイフンつきの」形で扱われる。
第11~15章
- 唯物論的・生態学的アプローチ:第 12 章で論じられる現代の潮流。
- 意味の網:文化を意味として捉える解釈的アプローチ。
- ポストモダンの政治経済学:第 14 章で論じられる二十世紀後半の転回。
批判的分析
長所
- 文脈を組織原理とする。 出版社は、本書が過去の見解を並べるのではなく、思想の歴史的文脈を検討し、それらが社会や歴史とどう関わるかを示すことを強調している。
- より広い顔ぶれ。 第 3 版は非正典的な人物や有色人種の研究者に注意を払い、標準的な学問史がしばしば狭く語る物語を広げている。
- 学習の助け。 各章に議論を促す自由回答式の復習問題があり、全体に図版が入っている。
- 旧版への読者の反応。 出版社のページに引用された旧版の評者(テキサス大学アーリントン校のジュリー・アドキンス、ノースカロライナ大学ウィルミントン校のウィリアム・L・アレクサンダー)は、文体が魅力的であり、理論の背後にある社会・政治的影響に注目している点が独特だと評している。
短所
- 分量。 五百ページ近い本格的な著作で、人類学理論の簡潔な歴史書よりずっと長く、時間がかかる。
- 理論家別ではなく文脈別の構成。 各章は学派ごとの要約ではなく歴史的状況とパラダイムに沿って進むため、ある理論家の考えをすばやく確かめたい読者には、簡潔な概説のほうが便利かもしれない。
コースにおける位置づけ
人類学理論のコースでは、モバーグの本は文脈を軸にした本格的な歴史である。エリクソンとマーフィーの『A History of Anthropological Theory』は、原典読本と併せて読むことを想定した簡潔な学生向けの歴史、エリクセンとニールセンの『A History of Anthropology』は、各転換をその制度的・思想的背景と結びつけた短く読みやすい叙述で、どちらも早く全体をつかめる。残りの三冊は歴史ではなく原典または批評である。ギアツ『文化の解釈』(解釈人類学と厚い記述)、ブルデュー『実践理論の概要』(実践理論とハビトゥス)、マーカスとフィッシャーの『文化批判としての人類学』(実験的な記述と批評)である。
よい順序は、モバーグかより短い歴史書で分野の地図を描き、そのうえでギアツ、ブルデュー、マーカスとフィッシャーを、対応する章(とくに第 13・14 章)を参照しながら読み、文脈のなかでの位置づけを確かめることである。
本書の使い方
文化人類学または社会人類学の入門課程を終えた上級の学部生や大学院の初年次の学生向けで、理論家の原著を事前に読んでいることは求められない。最初の二章は、以降すべてを貫く「パラダイムと政治」の枠組みを示すため、丁寧に読む。残りの章はおおむね歴史順に並び、原典の読み物と併せて一章ずつ割り当てられる。各章末の復習問題は、ゼミの討論の題や復習課題に使える。時間が限られるときは、年代の流れをざっと通読したうえで、シラバスの主要学派にあたる章を精読し、最後に第 15 章で現在の議論を確認するとよい。
