01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Cohn, R., Scherer, S., & Hamosh, A. (2023). Thompson & Thompson Genetics and Genomics in Medicine (9th ed.). Elsevier.
章の要約
第9版は全20章で、その後に「遺伝学の原理を示す臨床症例研究」、用語集、章末問題の解答が続く。出版社によれば、このシリーズは1966年に初版が出され、今回の版は新しい編集陣が拡張された書名のもとで改訂した。
第1〜4章:Introduction;Introduction to the Human Genome;The Human Genome: Gene Structure and Function;Human Genetic Diversity: Genomic Variation(序論;ヒトゲノム入門;ヒトゲノム:遺伝子の構造と機能;ヒトの遺伝的多様性:ゲノム変異)
冒頭の章で全体の見取り図を示したのち、ゲノムそのものを説明する。ゲノムがどう編成されているか、遺伝子の構造と働きはどうか、人によってゲノムがどう異なるかである。出版社は、コピー数変異と構造変異を重点的に扱う内容として挙げている。
第5〜6章:Principles of Clinical Cytogenetics and Genome Analysis;The Chromosomal and Genomic Basis of Disease: Disorders of the Autosomes and Sex Chromosomes(臨床細胞遺伝学とゲノム解析の原理;疾患の染色体的・ゲノム的基盤:常染色体と性染色体の疾患)
染色体やゲノムを解析する方法と、染色体・ゲノムの異常が引き起こす疾患(常染色体と性染色体の疾患を含む)を対にして述べる2つの章である。
第7〜10章:Patterns of Single-Gene Inheritance;Principles of Clinical Epigenetics;Complex Inheritance of Common Multifactorial Disorders;Population Genetics for Genomic Medicine(単一遺伝子遺伝の様式;臨床エピジェネティクスの原理;一般的な多因子疾患の複雑な遺伝;ゲノム医療のための集団遺伝学)
古典的な単一遺伝子遺伝を扱い、次にエピジェネティクスを独立した章で論じ、続いて一般的な多因子疾患の複雑な遺伝、最後にゲノム医療の観点から整理した集団遺伝学へ進む。出版社は、非コードRNA、クロマチン制御、エピジェネティクスなどの分野で近年の発見が取り入れられていると述べている。
第11〜13章:Identifying the Genetic Basis for Human Disease;The Molecular Basis of Genetic Disease;The Molecular, Biochemical, and Cellular Basis of Genetic Disease(ヒト疾患の遺伝的基盤の同定;遺伝性疾患の分子基盤;遺伝性疾患の分子的・生化学的・細胞的基盤)
疾患遺伝子がどのように見つけられるかを述べたのち、その遺伝子の変異が分子、生化学、細胞の各レベルでどのように疾患を生むかを説明する。本書で発症機序を主に論じる部分である。
第14章:The Treatment of Genetic Disease(遺伝性疾患の治療)
遺伝性疾患の治療を扱う独立した1章で、機序の章の後に置かれている。
第15〜16章:Developmental Genetics and Birth Defects;Cancer Genetics and Genomics(発生遺伝学と先天異常;がんの遺伝学とゲノム学)
それまでの内容を応用する2つの分野。発生がうまくいかないと先天異常が生じる仕組みと、がんでゲノムがどう変化するかを扱う。
第17〜19章:Genetic Counseling and Risk Assessment;Preconception and Prenatal Screening and Diagnosis;Application of Genomics to Medicine and Individualized Health Care(遺伝カウンセリングとリスク評価;妊娠前・出生前のスクリーニングと診断;医学と個別化医療へのゲノム学の応用)
臨床への応用である。患者への遺伝的リスクの伝え方、妊娠前および妊娠中のスクリーニングと診断、個別化医療でのゲノム情報の利用を扱う。
第20章:Ethical and Social Issues in Genetics and Genomics(遺伝学・ゲノム学における倫理的・社会的問題)
最後の章は、遺伝情報やゲノム情報が提起する倫理的・社会的な問題を取り上げる。
Clinical Case Studies Illustrating Genetic Principles(遺伝学の原理を示す臨床症例研究)
各章の後に置かれた独立のセクション。出版社によれば、40を超える臨床症例が、表現度の変動、多面発現、複雑な疾患、新しい診断戦略を示す。
主要概念
第1〜6章:ゲノムとその変異
- ゲノム変異:コピー数変異や構造変異を含む、ゲノム間の違い(第4章)。
- 臨床細胞遺伝学:臨床の場での染色体・ゲノムの解析(第5章)。
- 染色体・ゲノムの疾患:常染色体と性染色体の疾患(第6章)。
第7〜10章:遺伝と集団
- 単一遺伝子遺伝:単一遺伝子疾患が家系内で伝わる様式(第7章)。
- 臨床エピジェネティクス:DNA配列を変えずに遺伝子の活性を制御し、それが受け継がれる仕組み(第8章)。
- 複雑な遺伝:一般的な疾患が複数の要因の組み合わせから生じること(第9章)。
第11〜16章:発症機序と応用
- 遺伝性疾患の分子基盤:変異が遺伝子産物や細胞機能をどう変えるか(第12〜13章)。
- 遺伝性疾患の治療:遺伝性疾患に対する治療的アプローチ(第14章)。
- がんゲノム学:がんの背景にある遺伝的変化(第16章)。
第17〜20章:臨床実践と倫理
- 遺伝カウンセリングとリスク評価:遺伝的リスクを家族に説明し、数値で示すこと(第17章)。
- 出生前スクリーニングと診断:妊娠前および妊娠中の検査(第18章)。
- 個別化医療:ゲノム情報を使って医療を個人に合わせること(第19章)。
批判的分析
長所
- ゲノムレベルの扱いが充実している。 目次には、ゲノム変異、臨床細胞遺伝学とゲノム解析、臨床エピジェネティクス、ゲノム医療のための集団遺伝学、個別化医療へのゲノム学の応用に、それぞれ独立した章がある。出版社は非コードRNA、クロマチン制御、最新技術を強調している。
- 症例が本の設計に組み込まれている。 40を超える臨床症例が専用のセクションにまとめられ、出版社によれば表現度の変動、多面発現、複雑な疾患を例示する。各章には章末問題があり、巻末に用語集と解答がある。
- 長い出版の歴史。 このシリーズは1966年に初版が出て改訂を重ねてきた。今回の版は新しい編集陣が多数の執筆者とともにまとめた。Elsevierは、2026年のDoody's Core Titles(臨床遺伝学)に選ばれたと述べている。
- 機序と応用のバランス。 第11〜13章の機序のあとに、治療、発生、がん、カウンセリング、スクリーニング、ゲノム医療が続くので、検査室での発見がどう臨床に届くかが分かる。
短所
- 専門領域のいくつかに独立した章がない。 目次には、ヘモグロビン症、免疫遺伝学、先天代謝異常を扱う章がない。Emery's Elements of Medical Genetics and Genomics にはそれぞれ独立した章がある。これらを独立した主題として扱う授業では、そちらや他の参考書が必要になるかもしれない。
- 患者ではなくゲノムから始まる。 最初の数章はヒトゲノム、遺伝子の構造、ゲノム変異を扱い、臨床症例は巻末の独立したセクションにある。臨床像から入りたい読者には、この順序が負担になることがある。コースの図書リストにある症例中心の本や図解中心の本は、別の入口になる。
- カウンセリングの実践は1章のみ。 遺伝カウンセリングとリスク評価は全20章のうち1章(第17章)で、カウンセリングの実践的な詳細を求める読者には専門書が必要である。
コースにおける位置づけ
医学遺伝学コースの図書リストにある、本格的な教科書2冊のうちの1冊である。もう1冊の Emery's Elements of Medical Genetics and Genomics は3つのセクションに分かれ、臨床寄りで、最後を遺伝カウンセリングと倫理的・法的問題の2章で締めくくる。これに対しThompson & Thompsonは、ゲノム、ゲノム変異、疾患の分子基盤により多くの紙幅を割き、臨床症例のセクションを別に設けている。どちらを主教材にしてもよく、もう一方を難しい話題の第二の説明に使える。
初学者には、見開きの図解の Clinical Genetics and Genomics at a Glance や、実在の家族から科学を組み立てる New Clinical Genetics がある。遺伝カウンセリングの実践や分子遺伝学を深く学ぶには、それぞれ Harper's Practical Genetic Counselling と Human Molecular Genetics を参照するとよい。
本書の使い方
出版社の説明では、医学生、遺伝カウンセリングを学ぶ学生、臨床検査医学の学生、より上級の研修者を対象とする。想定される予備知識は、入門的な生物学と、基礎的な細胞生物学および生化学である。
実践的な読み方:
- 基礎: 第2〜4章(ゲノムとその変異)、続いて第7章(単一遺伝子遺伝)。
- 臨床遺伝学の中核: 第5〜6章と第9〜10章(染色体、複雑な遺伝、集団)、および第17章(カウンセリングとリスク評価)。
- 機序と治療: 授業が変異による発症の仕組みと治療に進むときに、第11〜14章。
- 応用: がん、妊娠、ゲノム医療の臨床教育と並行して、第15〜20章。
- 症例と問題: 各トピックを学ぶごとに巻末の臨床症例を読み、章末問題と解答で復習する。
