01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Strachan, T., & Read, A. P. (2004). Human Molecular Genetics 3 (3rd ed.). Garland Science.
章の要約
第3版は21章、4部構成で約670ページ。ヒトゲノム計画の完了を受けて全面的に改訂されており、出版社によればゲノムデータが全体に組み込まれている。本版で新設された章が2つある。第3章「細胞と発生」(Cells and Development)と、第19章「ゲノム計画のその先:機能ゲノミクス、プロテオミクス、バイオインフォマティクス」(Beyond the Genome Project: Functional Genomics, Proteomics and Bioinformatics)である。
第1部(第1~7章)
第1部は、DNAの構造と機能、染色体、細胞と発生、家系図の解析、実験室の基本技術を扱う。以降の内容の準備にあたり、新設の第3章「細胞と発生」が、基礎的な内容に細胞と発生の背景を加えている。
第2部(第8~12章)
第2部は、各種のゲノム配列決定計画と、それらがヒトゲノムの構成、発現、多様性、進化について与える知見を論じる。本版ではゲノム計画の章が再編成され、第12章には分子系統学の新しい節が加わった。
第3部(第13~18章)
第3部は本書の医学的な中核で、メンデル遺伝病、複雑疾患、がんの遺伝的原因の地図作成、同定、診断に焦点を当てる。複雑疾患に関する節は、本版で全面的に書き直され、再編成された。
第4部(第19~21章)
最終部は、機能ゲノミクス、プロテオミクス、バイオインフォマティクス(第19章)、動物モデル、治療というより広い展望を扱う。出版社によれば、本版ではとくに細胞療法、ファーマコゲノミクス、個別化医療が従来より大きく取り上げられている。
主要概念
第1部(第1~7章)
- DNAの構造と機能:遺伝子を分子レベルで扱う出発点。
- 染色体、細胞、発生:ゲノムが置かれた細胞の文脈。
- 家系図解析:家系の中での遺伝の追跡。
- 実験室技術:実験室の基本的な方法で、応用の前に紹介される。
第2~4部(第8~21章)
- ゲノム計画:配列決定計画と、それが示すゲノムの構成、発現、多様性、進化。
- 分子系統学:進化的関係を復元する新しい節。
- メンデル遺伝病と複雑疾患:疾患遺伝子の地図作成と同定、診断。
- 機能ゲノミクスとプロテオミクス:ゲノム解読後の遺伝子機能への取り組み。
- 倫理ボックス:優生学、遺伝子検査と差別、生殖細胞系列の遺伝子治療と遺伝的増強、ヒトクローニングを扱う特集欄。
批判的分析
長所
- 基礎から疾患、応用への明快な流れ。 4部構成は、DNAと技術からゲノム、疾患遺伝子の同定、さらに治療と機能ゲノミクスへと進むため、読者は必要な水準から入ることができる。
- ゲノム時代に合わせた改訂。 出版社は、ヒトゲノム計画のデータが全体に組み込まれていること、ゲノム計画と複雑疾患の部分が書き直されたこと、前版以降、ほぼすべてのページが改訂・更新されたことを述べている。
- 倫理的・法的・社会的課題への配慮。 倫理ボックスは、遺伝子検査と差別、生殖細胞系列の遺伝子治療、ヒトクローニングなどの話題を科学の内容と並べて扱う。
- 参照のための補助。 一般索引と疾患・障害の索引の2種類があり、臨床の側から入る読者に役立つ。図版を収めたCD-ROMも補助教材として販売された。
- 著者の評価。 出版社は、著者がヒト分子遺伝学の教育への貢献により、2007年に欧州人類遺伝学会の教育賞を受けたと記している。
短所
- 現在の実践には古い。 本書はヒトゲノム計画の完了直後に書かれ、その後の版(2010年の第4版、2018年の第5版)がある。方法や臨床ゲノム学はそれ以降変わっているため、本版は基礎知識の情報源であって、現在の検査実務の拠り所ではない。
- 長くて難度が高い。 約670ページで分子レベルの詳細に及ぶため、専門的・発展的な学習用であり、臨床遺伝学の手軽な入門ではない。
- カウンセリングや管理の教科書ではない。 4部は分子の基礎から治療などの応用へと進むが、出版社の概要は、患者とのコミュニケーションや遺伝カウンセリングをテーマとして示していない。
- 臨床より分子に重点がある。 遺伝カウンセリングや日常の臨床管理は全体の軸ではなく、臨床実践にはそれらを扱う本のほうが適している。
コースにおける位置づけ
『Human Molecular Genetics』は、医学遺伝学のリストの中で分子面を扱う発展的な教科書である。『Clinical Genetics and Genomics at a Glance』は見開き2ページの視覚的な入門、『New Clinical Genetics』は実際の家族から出発して必要に応じて科学を積み上げる。『Emery's Elements of Medical Genetics and Genomics』と『Thompson & Thompson Genetics and Genomics in Medicine』は、遺伝様式やゲノム学から臨床応用までの完全な医学遺伝学教科書で、『Harper's Practical Genetic Counselling』は家族へのカウンセリングの実践書である。
『Human Molecular Genetics』は、入門書や教科書レベルの本を読んだあと、分子機構、遺伝子マッピング、ゲノムそのものについて、医学遺伝学の教科書以上の深さが必要になったときに読むとよい。Harper'sとの組み合わせがよい。StrachanとReadは疾患遺伝子がどう見つけられ解析されるかを、Harper'sはその結果が家族にどう使われるかを説明する。
本書の使い方
大学院生、分子面の選択科目をとる医学生、ヒト遺伝学の研究に入る研究者で、基礎的な分子生物学とメンデル遺伝学をすでに知っている読者に向く。
- **第1部(第1~7章)**は復習として使い、技術や概念がなじみのない章と、細胞と発生を扱う第3章を読む。
- **第2部(第8~12章)**は、ゲノムとその多様性・進化を理解するための中核である。
- **第3部(第13~18章)**は疾患遺伝学の中核で、順に読む。
- **第4部(第19~21章)**は、機能ゲノミクス、動物モデル、治療に関する選択的な読み物である。
- 検査や遺伝子治療に関する本文を読むときは、倫理ボックスを併せて読む。
- 現在の方法を知るには、後の版や最近の総説で補う。
