01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Hatcher, A. (2002). Algebraic Topology. Cambridge University Press. Free official edition: https://pi.math.cornell.edu/~hatcher/AT/ATpage.html
章の要約
第0章:基礎となる幾何学的概念
この短い予備的な章は、本書全体で使われる幾何学的な考え方を、非形式的に、ほとんど証明なしで紹介する。ホモトピー、変形レトラクト、写像柱とホモトピー同値、胞体を貼り合わせて作る CW 複体(胞体複体)、積・商・懸垂・結・ウェッジ和といった空間の操作、ホモトピー同値の二つの判定条件、そしてホモトピー拡張性である。著者は、最初に読んでもよいし、飛ばして必要なときに参照してもよいと述べている。
第1章:基本群
絡み合った円と絡み合っていない円の例を動機として、道、ホモトピー、基本群を定義し、π₁(S¹) ≅ ℤ を計算して、早い段階の帰結を導く。代数学の基本定理、2次元のブラウワーの不動点定理、S² に対するボルスク=ウラムの定理である。1.2節では自由積とファン・カンペンの定理を導入し、それを使って胞体複体の基本群を2次元骨格から計算する。1.3節では被覆空間――持ち上げの性質、π₁ の部分群による被覆空間の分類、被覆変換と群作用――を展開する。追加の話題では、グラフと自由群(自由群の部分群を含む)、K(G,1) 空間と群のグラフを扱う。
第2章:ホモロジー
高次ホモトピー群の計算がなぜ難しく、ホモロジーのほうが扱いやすいのかを説明した後、ホモロジーを段階的に構成する。Δ 複体と単体的ホモロジー、次に特異ホモロジーであり、ホモトピー不変性、長完全系列、切除、単体的ホモロジーと特異ホモロジーの同値性を示す。早い段階の応用として、ブラウワーの不動点定理と次元の不変性がある。2.2節では計算の道具――球面間の写像の写像度、胞体ホモロジー、オイラー標数、マイヤー=ヴィートリス完全系列、係数つきホモロジー――を展開し、Sⁿ が至るところ零でない接ベクトル場をもつのは n が奇数のときに限ることを証明する。2.3節ではホモロジーの公理と、圏と関手の言葉を提示する。追加の話題では、H₁ と π₁ の関係、古典的な応用(ジョルダンの曲線定理、領域の不変性、可除代数、ボルスク=ウラムの定理)、単体近似とレフシェッツの不動点定理を扱う。
第3章:コホモロジー
コホモロジーをホモロジーの双対として導入し、普遍係数定理で一方が他方をどう決めるかを示す。この章の重点は、反変性がもたらす追加の構造である。コホモロジーを環にするカップ積、キュネットの公式、射影空間のコホモロジー環の計算、そして ℝⁿ 上の可除代数の構造への応用である。3.3節では多様体の向きとポアンカレ双対性、そのカップ積との関係、アレクサンダー双対性などの他の形の双対性を展開する。豊富な追加の話題には、ホモロジーの普遍係数、一般のキュネットの公式、H 空間とホップ代数、SO(n) のコホモロジー、ボックシュタイン準同型、極限と Ext、トランスファー準同型、局所係数が含まれる。
第4章:ホモトピー論
高次ホモトピー群をその長完全系列とともに定義し、ホワイトヘッドの定理、胞体近似、CW 近似を示す。4.2節では、ホモトピー群の切除(フロイデンタールの懸垂定理を含む)、フレヴィッツの定理、ファイバー束とその長完全系列、安定ホモトピー群を扱い、球面の既知の安定ホモトピー群の表も示す。4.3節ではアイレンベルク=マクレーン空間を通じてホモトピーとコホモロジーを結びつけ、コホモロジー類を K(G, n) への写像で表し、ファイブレーション、ポストニコフ塔、障害理論を導入する。12の追加の話題は、基点の問題やホップ不変量から、ファイバー束のコホモロジー(ルレイ=ハーシュ、ギシン、トム同型)、ブラウンの表現可能性定理、スペクトラムとホモロジー理論、ドールド=トムの定理、スティーンロッド平方とべきにまで及ぶ。
付録
付録には、本文では軽く扱われる点集合位相的な内容がまとめられている。胞体複体の位相、コンパクト開位相、ホモトピー拡張性、単体的 CW 構造である。
主要概念
第0章:基礎となる幾何学的概念
- ホモトピー同値:合成が恒等写像とホモトピックになる写像 f: X → Y と g: Y → X。このとき X と Y は「同じ形」をもつ。
- CW 複体:次元の低い順に胞体を貼り合わせて帰納的に作られる空間で、本書の主要な空間のクラス。
- ホモトピー拡張性:部分空間上で定義されたホモトピーを空間全体に拡張できる性質で、CW 対では成り立つ。
第1章:基本群
- 基本群 π₁(X, x₀):基点におけるループのホモトピー類全体がループの合成を演算としてなす群。
- ファン・カンペンの定理:開集合の和集合の基本群を、各部分とその共通部分の基本群から計算する定理。
- 被覆空間:局所的に離散なファイバーとの積になっている写像。よい空間の連結な被覆は π₁ の部分群の共役類と対応する。
第2章:ホモロジー
- 特異ホモロジー:単体から空間へのすべての連続写像から作られるホモロジーで、ホモトピー不変であり切除を満たす。
- 長完全系列と切除:対、部分空間、商のホモロジーを結びつける道具で、ほとんどの計算の基礎となる。
- 胞体ホモロジー:胞体ごとに一つの生成元をもつ鎖複体から CW 複体のホモロジーを求める効率的な方法。
- マイヤー=ヴィートリス完全系列:二つの部分に分けられた空間に対する、ファン・カンペンの定理のホモロジー版。
第3章:コホモロジー
- 普遍係数定理:Hom と Ext を通じてコホモロジーをホモロジーで表す定理。
- カップ積:H*(X; R) を次数つき環にする積で、加法的な構造より精密である。
- ポアンカレ双対性:閉じた向きづけ可能な n 次元多様体では H^k と H_{n−k} が同型であり、カップ積が非退化な対を与える。
第4章:ホモトピー論
- ホワイトヘッドの定理:すべてのホモトピー群に同型を誘導する CW 複体の間の写像はホモトピー同値である。
- フレヴィッツの定理:(n−1) 連結な空間では、最初の零でないホモトピー群が最初の零でないホモロジー群と同型である。
- ファイバー束とファイブレーション:ホモトピー持ち上げの性質をもち、ホモトピー群の長完全系列を与える写像。
- アイレンベルク=マクレーン空間 K(G, n):零でないホモトピー群をただ一つもつ空間で、コホモロジー Hⁿ(–; G) を表現する。
批判的分析
長所
- 幾何的で読みやすい叙述。 序文は読みやすさを最優先事項の一つとし、本書が代数的な側面よりも幾何的な側面に傾いていると述べている。第1章の絡み合った円から、射影空間やレンズ空間の胞体構造まで、多くの図と例が議論に添えられている。
- CW 複体と Δ 複体で計算が効率的。 CW 複体は自然な空間のクラスとして強調され、Δ 複体の構造(たとえばトーラスを、単体複体なら14個必要な三角形の代わりに2個の三角形で作る)が初期のホモロジー計算を簡単にする。
- 中核と充実した選択的内容。 各章は中核となる流れの後に追加の話題が続き、それらを合わせると本書のほぼ半分になる。そのため本書は最初の授業にも後の参照にも使え、読者はホモロジー、コホモロジー、ホモトピーの順序を選べる。
- 多くの演習。 すべての節と追加の話題の終わりに演習があり、日常的な確認から本格的な問題まで幅があり、ヒントや文献への言及がついたものも少しある。
短所
- 大学院レベルの前提知識。 序文は学部の代数と点集合位相、特に商空間を前提としている。点集合位相の細部は本文ではしばしば軽く扱われて付録に回されており、その素養のない読者は苦労するかもしれない。
- スペクトル系列や K 理論はない。 スペクトル系列は意図的に別巻に回され、ベクトル束、特性類、K 理論もさらに別の巻に回されているので、いくつかの標準的な計算は本書の範囲外である。
- 解答がなく、難易度にむらがある。 演習の解答はなく、追加の話題の難しさもかなりまちまちなので、独習は骨が折れる。
- 範囲は古典的。 著者は内容を本質的に古典的なものと述べており、モデル圏や高次圏論のような現代的な発展は論じられていない。
本書で扱う応用
応用は前半の節と追加の話題に集中している。代数学の基本定理、ブラウワーの不動点定理、ボルスク=ウラムの定理(1.1節)、次元の不変性、球面上の接ベクトル場に関する「毛玉の定理」、オイラー標数(第2章)、ジョルダンの曲線定理、領域の不変性、可除代数、レフシェッツの不動点定理(2.B〜2.C節)、カップ積による ℝⁿ 上の可除代数の構造の制限(3.2節)、そして多様体と部分空間の補集合に対するポアンカレ双対性とアレクサンダー双対性(3.3節)である。
コースにおける位置づけ
この「位相と幾何」のリストで、Hatcher は大学院レベルの代数的位相幾何学のテキストである。Richard Earl の Topology: A Very Short Introduction と Jeffrey Weeks の The Shape of Space は、一般に位相的な考え方や曲面・3次元多様体の幾何への非形式的で直観的な入門書とされる。背景となる読み物としては役立つが、本書の証明への準備にはならない。Sutherland の Introduction to Metric and Topological Spaces は一般に点集合位相の最初の授業向けとされ、Hatcher が前提とする商空間、コンパクト性、連結性を提供する。
Munkres の Topology は点集合位相を扱い、その第2部で基本群と被覆空間への入門を行う。Hatcher の前にこれか Sutherland を学べば必要な土台が得られ、その代数的位相幾何学の章は Hatcher の第1章と重なる。ホモロジー、コホモロジー、高次ホモトピー論のためには、これらの後に Hatcher を読むとよい。
本書の使い方
本書は大学院生と上級の学部生を対象としている。読者は群論と環・加群の基礎(係数やカップ積のため)、商空間を含む点集合位相を知っている必要がある。第0章と付録が幾何的・点集合的な予備知識を補う。
典型的な最初の授業では、必要に応じて第0章、第1章(1.1〜1.3節)、第2章(2.1〜2.2節)を扱い、場合によっては2.B節と第3章の一部(コホモロジー、カップ積、ポアンカレ双対性)を加える。2回目の授業では第3章と第4章の中核(4.1〜4.3節)に進む。追加の話題は関心に応じて拾い読みできる。たとえば自由群なら1.A、古典的応用なら2.B、ファイバー束なら4.D、スティーンロッド平方なら4.L である。図を描きながら例を丁寧にたどり、各節末の演習に取り組み、正誤表や補足資料を著者のウェブサイトで確認するとよい。
版と出典
本ガイドは、著者のコーネル大学のウェブサイトにある Algebraic Topology の無料電子版(2022年10月付のPDFで、2002年初版の Cambridge University Press 版の2015年増刷時の訂正を含む、https://pi.math.cornell.edu/~hatcher/AT/ATpage.html)に基づいている。序文(目的、構成、前提知識、Δ 複体、続巻、2015年増刷についての注記)、標準的な記法、すべての追加の話題と付録を含む目次全体、全5章の導入部、すべての節と小節の見出し、第1〜4章の主要な番号付き定理の主張、そして演習の例を参照している。
