01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Cruse, A. (2011). Meaning in Language: An Introduction to Semantics and Pragmatics (3rd ed.). Oxford University Press.
章の要約
Oxford Textbooks in Linguisticsシリーズの一冊である第3版は約510ページで、4部20章に、エピローグ、問題の解答、参考文献、著者索引・事項索引が続く。出版社の説明によれば、本書は意味論とともに通常は語用論に属するとされる話題も扱う包括的な入門書であり、多数の例と練習問題を通じて意味の豊かさと繊細さを示し、特定の理論に縛られない。この版では本文と練習問題が改訂され、前置詞の意味論と派生接辞の意味論の2章が新たに加わった。第1部も再編され、第2版(2004年)では4章だったものが第3版では3章になっている。
第1部:基本概念(第1〜3章:序論、論理と意味、概念と意味)
基礎となる部分。Sanjukta Ghoshによる第2版の書評は、対応する章について、言語をコミュニケーションと、意味を研究するさまざまな学問分野との文脈に位置づけ、言語学者に必要な論理的概念(命題、論理関係、意義と指示、量化)を概観し、語の意味を概念的なものとして示して、カテゴリーについての古典的アプローチとプロトタイプ・アプローチを紹介していると述べている。
第2部:語とその意味(第4〜8章:語彙単位、語の意味の文脈的変異、包含と同一性の範列的関係、排除と対立の範列的関係、語彙の階層)
語彙意味論を扱う最大の部。語の意味を担う単位を特定し、語の意味が文脈によってどう変わるか(曖昧性、同音異義、多義の領域)を検討する。2章が範列的な意義関係を扱う。包含と同一性(下位関係、部分・全体関係、同義性)と、排除と対立(両立不能性と各種の反対語)である。語彙の階層の章では、こうした関係が語彙をどう構造化するかを見る。
第2部の続き(第9〜12章:連辞的意味関係、語彙的意義の記述1:次元と構造、語彙的意義の記述2:語の意味の規定へのアプローチ、意味の拡張)
第2部の残りは、語がどう組み合わさるか(連辞的関係。第2版では正常な共起と異常な共起を扱っていた)、語の意義の記述についての2章(まず次元と構造によって、次に語の意味を規定するアプローチを比較して)、そして隠喩や換喩などの意味の拡張を扱う。
第3部:文法的意味(第13〜17章:文法的意味:名詞と名詞句、項構造と他動性、文法的意味:動詞と形容詞、前置詞の意味論、派生接辞の意味論)
第2版では文法的意味は1章だけだったが、ここでは5章を占める。名詞的範疇の意味、項構造と他動性、動詞と形容詞が担う意味、そして前置詞と派生接辞についての新しい2章である。
第4部:語用論(第18〜20章:発話行為、指示とダイクシス、会話の含意)
語用論の中心的な話題を扱う3章。発話行為、指示とダイクシス、会話の含意である。第2版について書評は、これらの章がAustinとSearleの発話行為理論、直接的・間接的・総称的な指示と5種類のダイクシス、そしてGriceの含意理論と、Leechのポライトネスの原理やSperberとWilsonの関連性理論を含むその後の展開を扱っていると述べている。
主要概念
第1部:基本概念
- 意義と指示:表現が意味することと、それが世界の中で指し示すものとの区別。
- 論理関係:命題間の含意などの関係。第2章で導入される論理の道具立て。
- 概念:語の意味は心的な概念と結びついているという見方。第3章の主題。
第2部:語とその意味
- 語彙単位:語彙意味論が研究する、形と意味の組み合わせ。
- 文脈的変異:語の意味が文脈間でどの程度変わり、どのような場合に別の意義とみなされるか。
- 範列的関係:語の意義の間の包含、同一性、排除、対立の関係。下位関係、同義性、反義性など。
- 連辞的関係:共に現れる語どうしの意味的関係。
- 意味の拡張:隠喩や換喩など、語が新しい用法を獲得するしかた。
第3部:文法的意味
- 項構造と他動性:動詞の意味が、それがとる参与者とどう関係するか。
- 派生接辞:語を形成する接頭辞や接尾辞が付け加える意味。
第4部:語用論
- 発話行為:約束や依頼など、行為として捉えた発話。
- ダイクシス:人称、場所、時間など、解釈が発話の文脈に依存する表現。
- 会話の含意:文字どおりに言われたことを超えて伝えられる意味。
批判的分析
長所
- 一つの理論に縛られない。 出版社もLINGUIST Listの新刊案内も、本書のねらいが特定の理論を解説することではなく意味現象の豊かさを示すことにあり、理論的アプローチは必要に応じて紹介されると強調している。第2版を書評したSanjukta Ghoshは、偏りがあるとすれば認知的立場への傾きだと著者自身が認めている点に触れている。
- 語の意味の扱いが際立って充実。 第2部は20章のうち9章を占める。Ghoshは、語彙意味論の扱いが入門的な意味論の教科書としては一般に見られないほど広いことを特筆しており、第3版は派生接辞の章を加えつつその重点を保っている。
- 解答付きの練習問題。 出版社によれば本文全体に多数の例と練習問題があり、巻末には問題の解答があるので独習にも向く。Ghoshは第2版の練習問題を非常に有用と評し、言葉づかいも平易で明快だとしている。
- 意味論と語用論を一冊で。 第4部は語用論の主要な話題を簡潔に紹介するので、両方を扱う授業を一冊でまかなえる。
短所
- 分量とレベル。 約510ページは最初の授業には長い。Ghoshが指摘するとおり、このシリーズは学部上級生と大学院生を対象としており、初学者には唯一の教科書としては手ごわいかもしれない。
- 語用論は最も小さい部。 語用論を扱うのは3章だけで、前提や談話構造などの話題には独立した章がない。語用論の授業には別の本が必要である。
- 形式意味論は手薄。 論理は1章で導入されるだけで、アプローチは形式的ではなく記述的なので、構成的・真理条件的な意味論への準備にはならない。
- 刊行年。 第3版は2010〜11年の刊行で、それ以降の研究は扱われていない。
コースにおける位置づけ
Cruseはこのコースの中で、やさしい側と形式的な側の中間に位置する。James Hurford、Brendan Heasley、Michael SmithのSemantics: A Coursebookは、まったくの初学者向けに基本的な考え方を練習とフィードバックで一歩ずつ教えるワークブックで、最初の一冊に適しており、その後に読むより充実したテキストがCruseである。John SaeedのSemanticsはCruseに最も近い選択肢で、中心的な概念から語の意味、文の意味を経て理論的アプローチへと進む、学生に親しみやすい入門書である。語の意味と文法的意味についてはCruseのほうが詳しく、諸理論の概観はSaeedのほうが充実している。
語用論については、Betty BirnerのIntroduction to Pragmaticsが含意、前提、指示、発話行為、談話構造をCruseの3章よりも深く扱い、Stephen LevinsonのPragmaticsは両者の後に読む、体系的でより高度な解説である。Irene HeimとAngelika KratzerのSemantics in Generative Grammarは構成的・真理条件的な意味論の大学院向け教科書で、Cruseの記述的アプローチとは異なる伝統に属する。本書の第2章はそこへ向かう最初の一歩にすぎない。
本書の使い方
本書は、言語学入門の授業を終え、意味、とくに語の意味についてしっかりした基礎を身につけたい学部生と、幅広く理論に中立な参考書を必要とする大学院生に向いている。意味論の予備知識は要らないが、言語学をまったく学んだことのない学生はコースブックから始めるほうがよいかもしれない。
読み進め方の例:
- どの授業でも中心となる部分: 第1部(第1〜3章)、次に語彙意味論の第4〜9章。
- 語彙意味論を深く: 意義の記述と意味の拡張を扱う第10〜12章。
- 文法的意味: 一般的な授業なら第13〜15章。第16〜17章(前置詞、派生接辞)は、授業で扱わないかぎり任意でよい。
- 語用論: 時間の限られた意味論・語用論の合同授業では、第1部と中心的な語彙の章の後に第4部を前倒しで読んでもよい。
練習問題に取り組みながら読み進め、巻末の解答で確認するとよい。エピローグは本書全体を振り返るのにちょうどよい区切りである。語用論に進む学生はBirnerへ、形式意味論に進む学生は論理に基づくテキストを加えるとよい。
