01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Radford, A., Atkinson, M., Britain, D., Clahsen, H., & Spencer, A. (2009). Linguistics: An Introduction (2nd ed.). Cambridge University Press.
章の要約
出版社の情報によれば、第2版はペーパーバックで447ページ、全27章が「音」「語」「文」の3部に分かれている。前付けには第2版への序文と、授業の担当者向けの注記があり、巻末には3つの付録(国際音声記号、音韻の弁別素性、英語子音音素の弁別素性表)、参考文献、索引が付く。各部は「Introduction」と題された章で始まり、章題からは繰り返し現れる構成が読み取れる。言語のある層についての記述的な章のあとに、子どもの獲得、処理、そして後半の部では障害と変異を扱う章が続く。
第I部 音:第1〜7章
第1章はこの部の導入である。第2章「Sounds and suprasegmentals」と第5章「Phonemes, syllables and phonological processes」は音声学と音韻論の記述的な中心部分を扱い、音声記号と弁別素性の付録もこの内容と関連している。第3章「Sound variation」と第4章「Sound change」は、音がどのように変異し変化するかを取り上げる。この部は「Child phonology」(第6章)と「Processing sounds」(第7章)で締めくくられ、音の体系の獲得と、音がどのように処理されるかへと話が移る。
第II部 語:第8〜16章
第8章がこの部の導入である。「Word classes」(第9章)、「Building words」(第10章)、「Morphology across languages」(第11章)は品詞などの範疇と語の構造を扱い、第12章「Word meaning」は語彙意味論を扱う。残りの章は語彙を外側へと広げていく。「Children and words」(第13章)、「Lexical processing and the mental lexicon」(第14章)、「Lexical disorders」(第15章)、「Lexical variation and change」(第16章)である。
第III部 文:第17〜27章
部の導入(第17章)に続き、統語論の章は「Basic terminology」(第18章)から「Sentence structure」(第19章)、「Empty categories」(第20章)、「Movement」(第21章)、「Syntactic variation」(第22章)を経て、「Sentence meanings and Logical Form」(第23章)へと進む。第24〜26章の「Children's sentences」「Sentence processing」「Syntactic disorders」は、獲得・処理・障害というテーマを文のレベルで繰り返す。番号付きの最終章「Using sentences」(第27章)は、この版で新たに加わった文の使用に関する内容を担うとみられ、出版社はこれを語用論と会話分析の中心領域を扱うものと説明している。そのあとに「Conclusion」が置かれている。
主要概念
第I部:音
- 超分節素(suprasegmentals):単一の音声分節を超えて広がる発話の特徴。第2章で音そのものと並べて扱われる。
- 音素・音節・音韻過程:第5章で扱われる音の体系の単位と規則。音韻の弁別素性に関する付録が付く。
- 音の変異と音変化:第3章と第4章の主題。
第II部:語
- 品詞と語形成:語の範疇と複合語の作られ方(第9〜10章)。第11章でほかの言語へ広げられる。
- 心的辞書:話者の語の貯蔵庫。第14章では処理を通して、第15章ではその障害を通して扱われる。
第III部:文
- 空範疇と移動:生成文法的な立場が文の構造を記述するために用いる抽象的な要素と操作(第20〜21章)。
- 論理形式(Logical Form):文の意味が表示される水準(第23章)。
- 語用論と会話分析:第27章で紹介される、使用の中の言語の研究。
- 実践共同体と最適性理論:出版社が、この版の新しい社会言語学的・理論的内容として挙げているもの。
批判的分析
長所
- 特徴的な構成。 下位分野ごとに章を立てるのではなく、音・語・文の順に進み、各部で獲得と処理に、後半の部では障害と変異に立ち戻る。読者は言語の各層をさまざまな角度から見ることができ、出版社はこの構成を学生が学問に取り組みやすくするものとして紹介している。
- 解答の助けがある練習問題。 出版社によれば、本書には多数の練習問題があり、必要に応じてヒントと模範解答が付く。第2版では練習問題が新たに加わり、参考文献も更新されている。
- 一冊で広がる学際的な範囲。 子どもの言語、処理、障害を扱う章題から、心理言語学的・臨床的な内容が後の授業に回されず、本書に組み込まれていることがわかる。
- 授業を意識した設計。 前付けにある「授業の担当者向けの注記」は、授業での使用を想定して作られた本であることを示唆し、3部構成は部ごとの選択を容易にする。
短所
- 主題が本全体に散らばっている。 獲得と処理が3つの部すべてに現れるため、主題別に組み立てる授業(たとえば言語獲得だけ)では、複数の箇所から章を集める必要がある。
- 統語論の章に見られる生成文法の傾向。 「Empty categories」「Movement」「Sentence meanings and Logical Form」といった章題は、文の部が生成文法の枠組みで書かれていることを示す。ほかの立場の概観を望む学生は別の資料が必要になる。
- 扱われていない領域がある。 目次には、言語類型論、文字体系、応用的な言語教育など、入門講義で扱われることのある領域を専門に扱う章がない。
- 刊行年。 本書は2009年の刊行で、出版社は現行版として掲載しているが、その後の研究は反映されていない。
コースにおける位置づけ
入門言語学のコースの一覧の中で、本書は数ある一般向け教科書の一つであり、下位分野別ではなく言語の層別に最も明確に組み立てられている。Fromkin らの An Introduction to Language、O'Grady らの Contemporary Linguistics、Yule の The Study of Language、オハイオ州立大学の Language Files がほかの一般的入門書で、本サイトではいずれも、この分野の初学者向けの幅広い教科書(オハイオ州立大学のものはモジュール式)と紹介されている。Radford らの本は、これらのいずれかを読んだあとの二冊目の教科書として適しており、また「音・語・文」の構成を好み、獲得や処理の内容に早い段階で進む準備ができている学生にとっては最初の一冊にもなる。
より理論的な内容を求める読者には、Fromkin 編の Linguistics: An Introduction to Linguistic Theory が問題集つきの理論重視の概説であり、Jackendoff の Foundations of Language は音韻論・統語論・意味論の並列的アーキテクチャを提案する総合的な著作である。本書のあとは、本サイトの専門的なコースが各部を引き継ぐ。第III部には Carnie の Syntax: A Generative Introduction、第II部には Lieber の Introducing Morphology、第I部には音声学・音韻論の教科書が対応する。
本書の使い方
出版社は本書を、各部が基礎概念を導入してから応用する学部生向けの教科書として紹介しており、ページには前提条件が書かれていない。そのため、言語学の最初のコースとして使うこともできる。
実践的な進め方は次のとおり。
- 中核: 各部を、導入の章から順に一部ずつ読む。各部の記述的な章(第2・5章、第9〜12章、第18〜23章)が土台になる。
- 関心に応じた選択: 子ども・処理・障害の章(第6〜7章、第13〜16章、第24〜26章)は、心理言語学や言語聴覚療法に関心のある学生がひとまとまりで読むとよい。純粋に記述的な授業では省略できる。
- 本の終わり近く: 文の使用を扱う第27章は統語論の章のあとに読むと効果的だが、語用論の入門としてこの章だけを読むこともできる。
- 練習問題: ヒントと模範解答で各問題の答え合わせをし、第I部を読むときはIPAと弁別素性の付録を手元に開いておく。
- 併用: 第III部には統語論のワークブックを併せて樹形図を描く練習を増やし、第I部には聴音訓練のある音声学の授業を組み合わせるとよい。
