01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Department of Linguistics, The Ohio State University. (2022). Language Files: Materials for an Introduction to Language and Linguistics (13th ed.). Ohio State University Press.
章の要約
第13版は大判で784ページ、図版は約520点に及ぶ。全17章は番号付きの短い「ファイル」に分かれており、各章は概観のファイル(File X.0、たいてい「What Is …?」という題)で始まり、練習問題と参考文献をまとめた Practice ファイルで終わる。巻末には例題の解答、用語集、主要参考文献、言語索引と事項索引、IPA とアメリカ英語の音の表が収められている。学科のウェブサイトでは音声ファイル、各章のリンク集、正誤表が公開されており、解答集は教員だけが利用できる。
第1章:Introduction(序論)
冒頭の章は、言語とは何か、言語を知っているとき話者は何を知っているのかを問い、その知識を言語を知ることの「その他の(本質的でない)側面」から区別する。続いて言語の設計特性と、音声言語と手話という二つのモダリティの違いを示す。本版のリリースノートによれば、設計特性のファイルでは言語の恣意的な側面と非恣意的な側面の説明がより明確になった。
第2–3章:Phonetics(音声学);Phonology(音韻論)
音声学の章は、言語音の表記法、英語の子音と母音の調音、英語以外の言語の音、超分節的特徴、音響音声学、手話の音声学を扱う。音韻論の章は、音素配列制約と外国語なまりから始まり、音素と異音、音韻規則、含意法則へと進み、音韻論の問題の解き方を説くファイルで締めくくられる。本版では相補分布と重複分布の説明が拡充され、声調言語に関する練習問題が加えられた。
第4–5章:Morphology(形態論);Syntax(統語論)
形態論の章は、語とレキシコン、形態的過程、言語の形態的類型、派生語の階層構造、形態分析を扱う。本版で最も大きく改訂された章で、語彙素の概念と異形態(補充法を含む)の節が加わり、テンプレート形態論、超分節的形態論、形態的音位転換の節が新設された。統語論の章は、基本的な考え方と統語的性質から、構成素と範疇を経て、文法の構築へと進む。新たに統語的非構成素と非生成的な規則体系の節が加わった。
第6–7章:Semantics(意味論);Pragmatics(語用論)
意味論の章は、語の意味を扱う語彙意味論と、合成的意味論とを分けて論じる。後者には文の意味と、意味がどのように組み合わさるかという二つのファイルが充てられている。語用論の章は、文脈の中の言語、会話の規則、結論の導き方、発話行為、前提を扱う。
第8–9章:Language Acquisition(言語獲得);Psycholinguistics(心理言語学)
言語獲得の章は、獲得の諸理論、子どもによる音の獲得、続いて形態・統語・語の意味の獲得、大人が幼い子どもにどう話しかけるか、バイリンガルの言語獲得を扱う。心理言語学の章は、言語と脳、言語障害、発話の産出と知覚、語彙アクセス、文処理、実験の方法を扱う。
第10–13章:Language Variation(言語変異);Language and Culture(言語と文化);Language Contact(言語接触);Language Change(言語変化)
この四章は言語を社会と歴史の中に位置づける。言語変異の章は、言語変種、構造の各レベルにおける変異、地域的要因と社会的要因、言語とアイデンティティを扱う。言語と文化の章は、言語人類学、言語と思考、言語と権力、ポライトネス、エスノグラフィーを扱う。言語接触の章は、英語への借用、ピジン、クレオール(本版で書き直されたファイル)、社会的多言語使用、言語の危機と消滅、事例研究を扱う。言語変化の章は、言語の系統関係、音・形態・統語・意味の変化、内的再建と比較再建を扱う。
第14–15章:Animal Communication(動物のコミュニケーション);Writing Systems(文字体系)
動物のコミュニケーションの章は、コミュニケーションと言語を比較し、野生でのコミュニケーションを概観したうえで、動物に言語を教えることができるかを問う。文字の章は、文字と文化、文字体系の種類、文字体系の歴史的発展を扱う。
第16–17章:Language and Computers(言語とコンピュータ);Practical Applications(実践的応用)
計算言語学の章は、音声合成、自動音声認識、コンピュータとの対話、機械翻訳を扱い、出版社によればコーパス言語学やこの分野の他の領域と並んで、深層学習と人工ニューラルネットワークに関する新しい内容が加わった。最終章は「言語学で何ができるか」という問いに、言語教育、言語聴覚療法と聴覚学、法言語学、広告の言語、暗号と暗号解読、言語学者であることについてのファイルで答える。
主要概念
第1–3章:言語、音声学、音韻論
- 言語の設計特性:恣意性などの性質で、本書はこれによって人間の言語を特徴づけ、他のコミュニケーション体系と比較する。
- 言語のモダリティ:言語が産出され知覚される経路で、音声か手話かのいずれか。
- 音素と異音:ある言語で対立をなす音の単位と、その予測可能な変種。相補分布と重複分布によって見つけ出される。
- 音素配列制約:音の組み合わせ方に対する制約で、外国語なまりの説明に用いられる。
第4–7章:構造と意味
- 語彙素と異形態:抽象的な単位としての語と、一つの形態素がとりうる異なる形。
- 言語の形態的類型:語の作り方に基づく言語の分類。
- 統語的構成素:まとまりとして振る舞う語のグループで、非構成素と対比して検証される。
- 合成的意味論:文の意味がその部分の意味からどのように組み立てられるか。
- 発話行為と前提:発話が何を行うか、そして何を前提としているか。
第8–17章:心・社会・使用の中の言語
- 語彙アクセス:話し手と聞き手が心的辞書から語を取り出す仕組み。
- 言語変種:言語の地域的・社会的な形と、それらとアイデンティティとの結びつき。
- ピジンとクレオール:接触言語と、それらが生まれる社会的状況。
- 比較再建:子孫の言語を比べて祖語の特徴を復元すること。
- 計算言語学:音声合成と音声認識、機械翻訳、コーパスを用いる方法。
批判的分析
長所
- モジュール式の設計。 本書は独立したファイルから組み立てられているため、教員は File 3.2 だけを 3.4 抜きで課したり、獲得の章を飛ばして変異の章を課したりできる。出版社と学科はこの柔軟性を本書の際立った特徴として紹介しており、一部の分野だけを取り上げる授業に向いている。
- 幅の広さ。 中核分野に加えて、心理言語学、言語接触、動物のコミュニケーション、文字体系、計算言語学、進路のそれぞれに独立した章を設けている。
- 練習と方法が組み込まれている。 どの章も Practice ファイルで終わり、例題の解答は付録に印刷されている。音韻論と形態論の章にはそれぞれ分析方法のファイル(「How to Solve Phonology Problems」「Morphological Analysis」)がある。オンラインの音声ファイルが音声学の章を支える。
- 全体を通じた手話の扱い。 手話は一つの節に押し込められず、序論(モダリティ)で扱われ、独自の音声学のファイルも持つ。
- 継続的な保守。 学科は詳しいリリースノートと正誤表を公開しており、第13版ではいくつかのファイルが改訂された。その中には、実験結果を不正確に伝えていた File 8.1 の一段落の削除も含まれる。
短所
- 分量と断片化。 784ページあるため一学期で通読することはできず、ファイル形式のせいで章が一貫した議論というより短い単位の寄せ集めに感じられることがある。学生には教員による取捨選択が必要になる。
- アメリカ英語が基盤。 巻末の音の表はアメリカ英語を対象とし、音声学の章は英語の子音と母音から始めてから世界の言語に移る。他の英語変種を学ぶ学生は例を読み替える必要がある。
- 解答が一部限定されている。 本書で解答が示されるのは例題だけで、完全な解答集は教員に限られる。そのため独学者は大半の Practice ファイルを自分で確かめられない。
コースにおける位置づけ
この言語学入門のリストの中で、Language Files は概説書のうち最も範囲が広く、練習問題も最も多い。George Yule の The Study of Language は似た範囲をずっと短い章で扱い、最初に読むにはより易しい。Fromkin、Rodman、Hyams の An Introduction to Language と O'Grady らの Contemporary Linguistics は本格的な概説教科書で、モジュール式のファイルよりも連続した章を望む授業に向いている。Language Files は、問題演習に時間をかける授業の主教材として、あるいはこれらの本と並行して使う追加の練習問題の供給源として役立つ。
さらに先へ進む学生には、Radford らの Linguistics: An Introduction と理論重視の Linguistics: An Introduction to Linguistic Theory が、中核分野で仮説がどのように立てられ検証されるかを示してくれる。Ray Jackendoff の Foundations of Language は、基礎をすでに身につけた読者のための分野全体の総合である。
本書の使い方
本書は言語学の予備知識を前提とせず、専攻生にも非専攻生にも向く最初の授業に適している。一学期の授業の実践的な計画は次のとおり。
- 中核: 第1章、次に第2–7章(音声学、音韻論、形態論、統語論、意味論、語用論)を順に読む。各章ではまず概観のファイルを読み、Practice ファイルの少なくとも一部に取り組む。問題演習に入る前に「How to Solve Phonology Problems」と「Morphological Analysis」を丁寧に読む。
- 授業の重点に応じて選ぶ: 認知面を重視するなら第8–9章、社会と歴史の中の言語なら第10–13章、より広い話題や進路への関心なら第14–17章。第13章は第4章の異形態の扱いを前提とするので、第4章を先に読む。
- 本文と並行して: 音声学の章を読みながら音声ファイルを聞き、巻末の IPA の表で表記の練習をする。練習問題に頼る前に正誤表を確認する。例題の解答は手本として使い、それ以外の解答はクラスメートや教員と照らし合わせる。
大学のリーディングリスト出典
- Stanford University — LINGUIST 1 (Summer 2024)
2024年夏学期のシラバスは第13版(2022年)を教科書に指定しています。当時の採用を示す資料です。
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