01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Lacey, N. (2004). A Life of H.L.A. Hart: The Nightmare and the Noble Dream. Oxford University Press.
章の要約
背景と論点
ニコラ・レイシーの伝記は、H・L・A・ハート(1907年生まれ)をたどる。オックスフォードの法理学教授であったハートの『法の概念』は、英語圏の大学における法哲学を一変させた。レイシーはハートの未公刊の日記と書簡、および聞き取りを用いて、外見上は成功しながら、自らの知的能力、性的アイデンティティ、親密な関係を築く力への疑いに苛まれていた人物像を描く。本書は、ハートの思想と経歴は、その内面生活と、彼が働いた戦後オックスフォードから切り離せないと論じ、法哲学への、また中絶・同性愛・死刑をめぐる英国の公的議論への貢献を評価する。最終章の題は本書の副題である。
本書は、叙述方法と資料についての覚書、序論、4部13章、注、ハートの著作および他の著者の文献目録、取材協力者の一覧、登場人物の略伝からなる。
序論:内側にいる部外者
序論は、オックスフォードの体制の中心にいながら自らを部外者と感じていた人物という逆説を提示し、私的文書をどう使うかを説明する。
第1部:北と南
**第1章「Harrogate, Cheltenham, Bradford」**は、ヨークシャーでの二世ユダヤ移民の子としての出自と学校時代を扱う。**第2章「An Oxford Scholar」**は奨学生としてのオックスフォードでの日々を、**第3章「Success Snatched from Defeat: London and the Bar」**は法廷弁護士として働いた年月(1932〜40年)を扱い、その間も哲学の研究は続けられた。
第2部:変化と連続
**第4章「Jenifer」**は、高級官僚で後にオックスフォードの研究者となるジェニファー・ウィリアムズとの結婚に充てられ、彼女がソ連のスパイだったという新聞の虚偽の告発を含む緊張を扱う。**第5章「From the Inns of Court to Military Intelligence: MI5, Marriage, and Fatherhood」**は、哲学者の同僚たちに刺激を受けた戦時のMI5での仕事を扱う。**第6章「Oxford from the Other Side of the Fence」**は、戦後に哲学のフェローとしてオックスフォードに戻る過程を追う。
第3部:黄金時代
**第7章「Selling Philosophy to the Lawyers: The Chair of Jurisprudence」**は、法理学教授としてのハートが新しい言語哲学を法思想に持ち込んだ様子を描く。**第8章「American Jurisprudence through English Eyes: Harvard 1956–7」**はハーヴァードでの滞在を扱う。**第9章「Law in the Perspective of Philosophy: Causation in Law, The Concept of Law」**はこの時期の二つの主著を取り上げる。**第10章「West and East, California and Israel: Law, Liberty, and Morality; Kelsen Visited; The Morality of the Criminal Law」**は旅行と、法と道徳をめぐる公開の論争に及ぶ。**第11章「Discipline, Punishment, and Responsibility」**はこれらの主題に関する研究を扱う。
第4部:講座の後
**第12章「Old Turks and Young Fogeys: Bentham and Brasenose」**は、ベンサム研究やブレイズノーズ・カレッジの学寮長職を含む晩年の経歴を扱う。**第13章「The Nightmare and the Noble Dream」**は生涯と業績をまとめる。
主要概念
第1・2部:学者の形成
- 部外者と内部者:伝記の組織的な緊張。オックスフォードの体制内の人物が自らを部外者と感じていた。
- 哲学と実務:法廷弁護士から戦時の情報業務を経て、大学の哲学へ。
第3部:黄金時代
- 法の概念:あらゆる形態の法に関わる法の概念を解明しようとする試みで、ベンサムとオースティンの伝統に、J・L・オースティンとウィトゲンシュタインの新しい言語哲学を結びつけた。
- 法・自由・道徳:1960年代の英国における中絶、同性愛の合法化、死刑についての考え方への影響。
第4部:遺産
- 生涯と思想を併せて見る:ハートの思想の起源と全体的な貢献についてのレイシーの評価。
批判的分析
長所
- 新しい一次資料。 レイシーは未公刊の日記・書簡と聞き取りを用い、同僚も気づかなかった私的な面に迫っている。サマンサ・ベッソン(『German Law Journal』)やジェレミー・ウォルドロンらの評者がこれを強調している(引用はBooktopiaの掲載による)。
- 思想の説明が明快。 同じページに引かれた評(『TLS』『London Review of Books』、ウォルドロン)は、物語と並行してハートの議論とそれへの反論が説明される点を称賛している。
- 戦後オックスフォードの描写。 ジョナサン・ダービシャーは『フィナンシャル・タイムズ』誌(2006年2月)で、戦後の大学とその学内政治の描写を特筆した。
- 研究の手がかり。 ハートの著作の文献目録、取材協力者の一覧、登場人物の略伝は、さらなる研究の足場となる。
短所
- ハート理論の入門書ではない。 思想を評価してはいるが生涯に沿った構成なので、『法の概念』の体系的な説明を求める読者は、ハート自身の著作か法理学の教科書が必要である。
- オックスフォードの細部が濃い。 多くの同僚や機関が登場し、約420頁という分量から、手早い概観を求める人には敬遠されるかもしれない。
コースにおける位置づけ
掲載された書物の中で、法理学コースの唯一の伝記である。シモンズのCentral Issues in JurisprudenceとワックスのPhilosophy of Law: A Very Short Introductionは理論を直接説明し、フラーのThe Case of the Speluncean Explorersは司法哲学をめぐる短い古典的な論争である。リーガンの動物の権利の著作とシンガー&リーガン編のアンソロジーは応用道徳哲学に、アン=ナイームの書は宗教法と国家法の関係に属する。
法実証主義の入門を済ませた後、ハートとデヴリンやフラーとの論争への言及になじみがある状態で読むとよい。『法の概念』と並べて、その執筆の背景を知ることもできる。
本書の使い方
ハートの理論の概要をすでに知っていて、それがどう生まれたかを知りたい読者向けである。叙述自体が説明的なので、それ以上の専門的な法の知識は要らない。
選択的な読み方:序論、続いて第7〜10章(講座、ハーヴァード、主著、論争)、最後に第13章。第1・2部は人物の背景、第12章はベンサムと晩年を扱う。ハートの生涯と特定の議論を結びつける箇所を記録し、その結びつきを受け入れる前にハート自身の著作で確かめるとよい。
