01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
McGinn, R. (2018). The Ethical Engineer: Contemporary Concepts and Cases. Princeton University Press.
章の要約
本書は約350ページ(x + 340ページ)、全7章からなる。短い概念的な3章で分析の枠組みを組み立て、群を抜いて長い第4章でそれを18の事例研究に適用する。出版社によれば、事例は10のエンジニアリング分野にまたがる。最後の3章は事例から教訓を引き出し、技術者が利用できる手段へと話を進める。出版社は、各事例に討論用の設問が付いていると記している。巻末には参考文献と索引がある。
第1章:The Ethics Gap in Contemporary Engineering(現代エンジニアリングにおける倫理のギャップ)
本書は二つの短いエピソードで始まり、問題設定を示す。工学部の学生が倫理的な問題に触れる機会は限られているのに、実務の技術者は倫理的な課題にしばしば直面する。その間にあるギャップである。章ではこのギャップの証拠を示し、その重要性を論じ、著者が実りがないと考えるギャップの埋め方を批判したうえで、本書が採る方法を述べる。
第2章:Sociological and Ethical Preliminaries(社会学的・倫理的な準備)
事例に入る前提として二つの話題を扱う。一つはエンジニアリングの社会学、つまり技術者が実際に働く組織的・社会的な環境であり、もう一つは専門職としての技術者団体の倫理綱領である。社会学を綱領と並べていることから、本書が文脈を背景ではなく倫理的分析の一部として扱うことがわかる。
第3章:The Fundamental Ethical Responsibilities of Engineers(技術者の基本的な倫理的責任)
本書の概念的な中核である。McGinnは自ら「倫理的責任アプローチ」と呼ぶ方法を採り、倫理的な問題を「危害」という概念に結びつけたうえで、技術者の四つの基本的な倫理的責任(略してFERE)を提示する。これが事例分析の主要な道具となる。
第4章:Case Studies of Ethical Issues in Engineering(エンジニアリングにおける倫理的問題の事例研究)
18の事例を次の順に扱う。キャデラック・ドゥビル/セビルのエンジン制御チップ、SDI(戦略防衛構想)の戦場管理ソフトウェア、ベル研究所における共同研究の慣行、アップルのニュートン・メッセージパッド、従業員データベース管理システム、シティコープ・センター・タワー、ボパールのユニオン・カーバイド農薬工場、スペースシャトル・チャレンジャー、複合材料自転車プロジェクト、ナノテクノロジーの研究開発、フォード・ピント、ナチス親衛隊(SS)向けに火葬炉を製造したトップフ・ウント・ゼーネ社、TRWと米国の弾道ミサイル防衛システム、ハイアット・リージェンシー・カンザスシティ・ホテル、マンハッタンのウェストウェイ計画、ケニア農村の農家のためのイノベーション、グーグル・ストリートビュー、そしてオピオイドの生合成と神経機能の増強である。工学倫理の授業で定番の事故(チャレンジャー、ボパール、ピント、ハイアット・リージェンシーの空中歩廊、シティコープ)に、ソフトウェア、研究慣行、開発協力、新興技術の事例が組み合わされている。出版社によれば、各事例の分析では、技術者の行動がFEREにどこまで沿っていたかが検討される。
第5章:Key Case Ideas and Lessons(事例の主要な考え方と教訓)
本書で最も多くの節見出しを持つ章で、事例分析に用いた考え方と、事例から読み取れる教訓をまとめ直す。見出しには次のようなものがある。現行の工学倫理綱領の多くで筆頭に置かれる規定、FEREそのもの、内部告発、リスクと社会における技術の理想化、職場の文化、一人のエンジニアリング専門職、確立した設計の範型から外れる設計と予防の倫理、リスクの常態化と実験的なものの日常化、技術移転、「二つの文化」、脱文脈化、エンジニアリングの意思決定の政治化と経済化、過失、利益相反、「〜のための設計」、エンジニアリング研究における倫理的問題、そして技術者を不正へと向かわせる要因である。出版社はこの要因を技術的・社会的・個人的なものと説明している。
第6章:Resources and Options for Ethically Responsible Engineers(倫理的に責任ある技術者のための手段と選択肢)
分析から実践へと向かう章で、責任ある行動をとろうとする技術者が使える組織上の手段、法的な手段と選択肢、雇用に関わる選択肢を扱う。
第7章:Conclusion(結論)
結論では、米国の工学倫理教育に対するBucciarelliの批判を論じ、著者が「基礎的・文脈的な倫理的責任アプローチ」と呼ぶ方法を示し、二つの引用で締めくくる。
主要概念
第1–3章:枠組み
- 倫理のギャップ:工学教育が与える倫理の少なさと、エンジニアリングの仕事で倫理的問題が生じる頻度との食い違い。本書が取り組む問題である。
- エンジニアリングの社会学:エンジニアリング実務の組織的・社会的な文脈。技術者が何をすべきかを判断するのに必要なものとして扱われる。
- 専門職の倫理綱領:技術者団体の綱領。出発点として検討され、第5章ではその筆頭規定が取り上げられる。
- 技術者の基本的な倫理的責任(FERE):危害の概念に結びついた四つの一般的な責任で、すべての事例に適用される。
第4–5章:事例と教訓
- 内部告発:通常の経路の外で懸念を表明することが、技術者の倫理的責任とどう関わるか。
- リスクの常態化:異常や実験的な状態が、しだいに日常的なものとして扱われていく過程。
- 予防の倫理:設計が確立した範型から外れるときに求められる、より大きな慎重さ。
- 利益相反:技術者の他の利害が専門家としての判断を損ないうる状況。
- 不正を招く要因:技術者を不正行為へと押しやる圧力。
第6–7章:実践と方法
- 組織上・法的・雇用上の選択肢:職場で倫理的に難しい状況に直面した技術者が取りうる手段。
- 基礎的・文脈的アプローチ:一般的な責任と、各事例の文脈への綿密な注意とを組み合わせる、著者自身による方法のまとめ。
批判的分析
長所
- 一つの枠組みを一貫して適用する。 四つのFEREは第3章で一度導入され、その後18の事例すべてで使われる。そのため学生は、章ごとに新しい道具に出会うのではなく、一つの方法を繰り返し練習できる。
- 事例の幅広さと新しさ。 古典的な事故に加えて、ソフトウェア開発、ベル研究所の研究慣行、ケニアの農家のための開発プロジェクト、グーグル・ストリートビュー、ナノテクノロジー、オピオイドの生合成が並ぶ。出版社は10の工学分野を数えており、さまざまな専攻の学生が自分の仕事に近い事例を見つけられる。
- 文脈を真剣に扱う。 エンジニアリングの社会学に1章を割き、第5章でも職場の文化、意思決定の政治化と経済化、「二つの文化」といった節を設けている。これは、スタンフォード大学で科学・技術・社会(STS)を教える著者の背景を反映している。
- 分析から行動へ。 組織上・法的・雇用上の選択肢を扱う第6章は、技術者が実際に何をできるのかという、事例分析だけでは答えの出ない問いに取り組む。Nicholas Danneは『Metaphilosophy』誌(2019年)の書評で本書を推薦している。
短所
- 環境倫理がない。 Danneの書評は本書を推薦しつつも、環境倫理の扱いが欠けていると指摘している。目次を見ても、持続可能性や環境への責任を独立して扱う章や節はない。
- 倫理学理論が少ない。 目次には、帰結主義や義務論といった倫理学理論の扱いが見当たらない。本書の方法は責任と専門職の綱領に依拠している。理論に基づいて論じることを学生に求める授業では補助教材が必要になる。
- 構成の偏り。 18の事例がすべて一つの章に収められている一方、枠組みを示す3章は短い。そのため、通読するより選んで読むほうが向いている。
- 主に米国が舞台。 事例の多くは米国のもので、結論で論じられる工学倫理教育も米国のものである。明確な例外はボパール、トップフ・ウント・ゼーネ社、ケニアのプロジェクトである。他の国の読者は、特に第6章について、自国の綱領と法的な文脈を補うとよい。
コースにおける位置づけ
このコースの中で、McGinnの本は事例を軸にした選択肢である。Charles Fleddermannの『Engineering Ethics』はより短い入門書で、倫理がなぜ重要かを説明し、主要な倫理学理論を平易に示し、ジレンマを分析する段階的な方法を与える。McGinnがほとんど扱わない倫理学理論を補えるので、両者は相性がよい。Harris、Pritchardらの『Engineering Ethics: Concepts and Cases』はもう一つの大部な事例中心の教科書で、線引き法や創造的な中間解といった問題解決の方法を軸にしている。授業ではどちらか一方を主教材に選び、もう一方から事例を借りるのが普通だろう。MartinとSchinzingerの『Ethics in Engineering』はエンジニアリングを社会的な実験ととらえ、安全とリスク、環境への義務を継続的に論じるので、上で触れた環境倫理の欠落を補うのに役立つ。
van de PoelとRoyakkersの『Ethics, Technology, and Engineering』はより哲学的で、倫理学理論と論証を教え、設計、持続可能性、新しい技術へと議論を広げる。McGinnを読み終えて理論をもっと学びたくなった学生にとって自然な次の一冊である。MichelfelderとDoorn編の『The Routledge Handbook of the Philosophy of Engineering』は55章からなる研究水準の参考書で、さらに先へ進む人のためのものである。
本書の使い方
本書は、あらゆる分野の工学部生、大学院生、実務の技術者に向いており、哲学の予備知識は必要ない。授業時間の大半を事例の討論に充てる授業によく合う。
実践的な読み方:
- 第1–3章を最初に丁寧に読む。 どれも短く、第3章のFEREはすべての事例で使われる。四つの責任を書き出し、手元に置いておくとよい。
- 第4章は通読せず、事例を選ぶ。 バランスのとれた6〜8件の選び方として、古典的な事故から1件(チャレンジャー、ボパール、ハイアット・リージェンシー、ピントのいずれか)、ソフトウェアの事例から1件(キャデラックのチップ、SDIのソフトウェア、従業員データベースのいずれか)、研究の事例から1件(ベル研究所かナノテクノロジー)、開発の事例(ケニア農村の農家)、最近の技術の事例から1件(グーグル・ストリートビューかオピオイドの生合成)を取り、そこに読者自身の分野の事例を加える方法がある。
- 分析を読む前に自分で事例に取り組む。 討論用の設問を使い、関わった技術者は誰か、それぞれのFEREが彼らに何を求めていたか、彼らの行動がどこで不十分だったかを判断してから、McGinnの分析と比べる。
- 第5章は事例の後にまとめとして読む。 その見出し(リスクの常態化、利益相反、過失など)を、レポートの主題や事例どうしを比較する観点として使うとよい。
- 最後に第6章と第7章を読む。 第6章は、雇用主の意向と自分の責任が衝突したときに何をすべきかを考える回の柱になる。結論は、本書がそれまで使ってきた方法を説明している。
本書と並行して、自分が属する専門職団体の倫理綱領を読み、倫理学理論についてはFleddermannかvan de PoelとRoyakkersを使い、本書が扱わない環境と持続可能性への責任について別の資料を加えるとよい。
