01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Brock, W. A., & Malliaris, A. G. (1989). Differential Equations, Stability and Chaos in Dynamic Economics. North-Holland.
章の要約
本書はNorth-Hollandの叢書Advanced Textbooks in Economicsの一冊で、約390ページ。経済学者に三つの数学的手法を紹介する。常微分方程式、安定性の手法、カオス的動学である。出版社の内容紹介は、扱う理論として、解の存在と延長、一意性、初期値とパラメータへの依存、線形システム、線形システムの安定性、二次元の位相分析、局所的・大域的安定性、安定多様体、最適制御の安定性、カオス的動学の実証的検定を挙げる。応用には、ミクロ経済の動学、投資理論、マクロ経済政策、資本理論、景気循環、金融経済学が含まれる。どの章も、雑多な応用と演習、補足的な論評と参考文献という二つの節で終わり、本書全体として、微分方程式、安定性分析、カオス的動学を用いた500を超える文献への手引きにもなっている。
第1–2章:Basic Properties of Differential Equations(微分方程式の基本的性質);Linear Differential Equations(線形微分方程式)
最初の2章が数学の土台を与える。第1章は微分方程式の基本的性質を扱い、出版社が挙げる主題には、解の存在、延長、一意性、初期値とパラメータへの依存が含まれる。第2章は線形微分方程式と線形システムの振る舞いに進む。
第3–4章:Stability Methods: An Introduction(安定性の手法:入門);Advanced Stability Methods(高度な安定性の手法)
2章で安定性分析を展開する。入門の章は線形システムの安定性と二次元の位相分析から始まる。高度な章は局所的・大域的安定性と安定多様体へ進み、非線形の経済モデルに必要な道具を扱う。
第5章:Stability of Optimal Control(最適制御の安定性)
この章は安定性分析を最適制御、すなわち経済主体が時間を通じて経路を選ぶ枠組みに応用する。数学の章と、経済理論で使われる動学的最適化モデルをつなぐ。
第6–9章:Microeconomic Dynamics(ミクロ経済の動学);Stability in Investment Theory(投資理論における安定性);Macroeconomic Policies(マクロ経済政策);Stability in Capital Theory(資本理論における安定性)
本書の中ほどは応用が続く。第6章と第7章はミクロ経済の動学と投資理論、第8章はマクロ経済政策、第9章は資本理論を扱い、いずれも前の章の安定性の手法を用いる。
第10章:Introduction to Chaos and Other Aspects of Nonlinearity(カオスと非線形性のその他の側面への入門)
番号の付いた最後の章は、カオス的動学とその他の非線形な振る舞いを紹介し、出版社の紹介が述べるカオスの実証的検定も含む。巻末には付録、文献一覧、索引がある。
主要概念
第1–2章
- 解の存在と一意性:微分方程式が一つの明確な解をもつ条件。
- 初期値とパラメータへの依存:出発点やパラメータが変わったとき、解がどう変わるか。
- 線形システム:解と安定性を完全に分析できるシステムのクラス。
第3–5章
- 線形システムの安定性:システムが定常状態に戻るのか、離れていくのか。
- 二次元の位相分析:二変数システムの振る舞いを平面上で調べること。
- 局所的・大域的安定性;安定多様体:非線形システムのための道具。
- 最適制御の安定性:動学的最適化問題についての安定性の結果。
第6–10章
- ミクロ経済の動学、投資理論、マクロ経済政策、資本理論:目次に挙がる応用分野。
- カオス的動学:不規則に見える振る舞いをする決定論的な非線形システムと、それを検出する実証的検定。
批判的分析
長所
- 目的がはっきりしている。 本書は、常微分方程式、安定性の手法、カオス的動学という名指しされた三つの手法を軸に組み立てられ、それぞれ何のためのものかが述べられている。目次は、基本的性質から線形システム、安定性、最適制御、応用、カオスの順に進む。
- 動学と最も結びつきの強い経済学の分野への応用。 10章のうち4章が、ミクロ経済の動学、投資、マクロ経済政策、資本理論に手法を応用し、紹介文はさらに景気循環と金融経済学も挙げる。
- 演習と文献への案内。 各章末の二つの節、すなわち応用と演習、補足的な論評と参考文献は、取り組める問題を与え、500を超える参考文献への道筋を示す。
短所
- 年代。 本書は1989年の刊行であり、その後の動学システム、カオス、経済学におけるその実証検定の研究は含まれない。手法と、当時までの文献についての資料である。
- 数学的な要求。 出版社は、経済理論に関心のある経済学の大学院生、経済学の研究者、応用数学者を読者として想定しており、目次は微積分や線形代数の復習ではなく、微分方程式の一般的性質から始まる。
- 範囲。 本書は連続時間の微分方程式に集中しているため、モデルが離散時間である読者は他の資料が必要になる。
コースにおける位置づけ
数理経済学の書目の中で、本書は専門性の高い大学院レベルの本である。LisとRosserのBasic Mathematics for Economistsや、Sydsaeter、Hammond、Strom、CarvajalのEssential Mathematics for Economic Analysisは、経済学の学生向けに初歩の技法から始まる入門書である。ChiangとWainwrightのFundamental Methods of Mathematical Economicsは、均衡分析と行列から最適化、さらに動学的な道具へと進む、定評ある中級テキストで、Ian JacquesのMathematics for Economics and Businessは経済・ビジネス向けの一般的な数学テキストである。
ChiangとWainwrightの動学の道具を学び終え、研究水準の動学モデルの背後にある安定性理論、最適制御、カオスが必要になった読者にとって、BrockとMalliarisは自然な次の一歩となる。
本書の使い方
経済理論専攻の大学院生、動学モデルを構築する研究者、経済への応用に関心のある応用数学者に向く。微積分と線形代数に慣れ、大学院レベルの経済理論を身につけていることが、適切な出発点になる。
実践的な読み方は次のとおり。
- 中核: 第1~4章。最適制御を使う読者は続けて第5章。各章末に演習があるので、必ず取り組む。
- 応用: 研究上の関心に合う応用の章を選ぶ。ミクロ経済の動学、投資、マクロ経済政策、資本理論のいずれか。
- カオス: 第10章は最後に読み、より新しい文献で補うべき入門として扱う。
- 参考書として: 各章末の補足的な論評は当時の文献への案内なので、原論文を探すのに使う。
