01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Dahlquist, J., & Knight, R. (2026). Principles of Finance (2nd ed.). OpenStax, Rice University. Free official edition: https://openstax.org/details/books/principles-finance-2e
章の要約
本書は20章からなる。序文はそのうち14章を「コア」、6章(第3、4、13、14、19、20章)を、前提となる経済学・会計・統計を復習したり応用的なトピックを加えたりする「エクステンション」の章と位置づけている。以下では密接に関連する章をまとめ、原題を訳して示す。
第1〜2章:ファイナンス入門/企業の構造とガバナンス
第1章はファイナンスをリスクと期待リターンのトレードオフの研究と定義し、ビジネス・ファイナンス、投資、金融市場と金融機関の三つに分ける。企業内のファイナンス機能、データとテクノロジーの役割の拡大、ファイナンシャル・アナリストやビジネス・アナリストなどの職業、発行市場と流通市場とその参加者、短期金融市場と資本市場の金融商品、そして時間が価値に影響するという考え方を説明する。第2章は個人事業、パートナーシップ、株式会社、ハイブリッド形態を比較し、株主と利害関係者、取締役会と独立取締役、エージェンシー問題とESG、IR活動と決算説明会、そして海外展開の判断を扱う。
第3章:経済学の基礎――貨幣と金利
エクステンションの章で、需要と供給、インフレ、失業とGDP、景気循環、名目金利と実質金利およびリスク・プレミアム、為替レートと換算エクスポージャー、FREDデータベースで経済データを探して解釈する方法を復習する。アメリカン航空を例に、経営者がなぜ経済を注視しなければならないかを示す。
第4〜6章:発生主義会計のプロセス/財務諸表/財務健全性の尺度
第4章(エクステンション)は現金主義会計と発生主義会計、複式簿記と会計等式、収益と費用の認識、資産計上と費用処理、減価償却の方法、そして利益と現金の違いを説明する。第5章は小さな小売企業クリア・レイク・スポーティング・グッズを例に、損益計算書、貸借対照表、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書を作成し、営業キャッシュフローとフリー・キャッシュフロー、百分率財務諸表を計算し、SECへの報告と年次報告書を概観する。第6章は財務諸表を比率に変える。効率性(回転率と在庫日数)、流動性、安全性、市場価値(EPS、PER、1株当たり純資産)、収益性であり、最後に自己資本利益率のデュポン分解を示す。
第7〜9章:貨幣の時間価値I――単一支払いの価値/貨幣の時間価値II――等額の複数支払い/貨幣の時間価値III――不等額の複数支払いの価値
この三つの章が本書の中心となる道具を組み立てる。第7章は今日の1ドルがなぜ将来の1ドルより価値があるのかを説明し、将来価値、現在価値、利率、成長率、期間を、数式、金融電卓、Excelで求め、インフレ、リスク、複利の頻度への応用を示す。第8章は永久年金、通常年金と期首払い年金、ローンの償還スケジュール、表面金利と実効金利を扱う。冒頭では、実際の金利が広告の金利の倍近かった自動車ローンの話が紹介される。第9章はこの方法を不均等なキャッシュフローに広げ、プロジェクト評価の準備をする。
第10〜11章:債券と債券評価/株式と株式評価
第10章は債券の特徴と種類を説明し、クーポンと元本の現在価値として債券価格を求め、オーバーパー債とアンダーパー債と利回り、イールドカーブと金利の期間構造、金利リスク、デフォルト・リスクなどのリスク、格付けとラダー運用を説明し、Excelで債券の問題を解く。第11章は株式を、マルチプル(PER、PBR、PSR、PCFR)、ゴードン成長モデルや2段階モデルを含む配当割引モデル、無配企業のための割引キャッシュフロー・モデル、そして優先株によって評価し、最後に業務上の効率性と情報上の効率性、市場効率性のウィーク型、セミストロング型、ストロング型を論じる。
第12章:米国市場の歴史的パフォーマンス
この章は米国の短期金融市場、債券市場、株式市場(IPOとSPACを含む)、インフレの歴史と測定、国債・社債と、スタイル別・規模別の株式の長期リターンを概観する。そして、株式は平均リターンが最も高かったが、年間リターンがマイナスになった年がおよそ4分の1あったと結論づける。
第13〜14章:ファイナンスにおける統計分析/ファイナンスにおける回帰分析
二つのエクステンションの章が金融の例を使って統計を復習する。中心の尺度(幾何平均と加重平均を含む)、散らばりと位置の尺度、度数分布、正規分布と指数分布、期待値とポートフォリオのウェイト、データの可視化、そして相関、最小二乗回帰、予測区間、株式のベータを推定するための回帰の利用である。どちらの章にも統計ソフトRの短い入門がある。
第15〜16章:投資をどう考えるか/企業は投資をどう考えるか
第15章は個別資産とポートフォリオのリターンとボラティリティを測り、分散投資と、企業固有リスクと市場リスク(システマティック・リスク)の区別を説明し、資本資産価格モデル(CAPM)とベータから要求リターンを導き、シャープ・レシオ、トレイナー測度、ジェンセンのアルファを紹介し、Excelでの計算を示す。第16章は資本予算を扱う。回収期間法、正味現在価値、内部収益率、収益性指数、割引回収期間、修正内部収益率、そして相互排他的なプロジェクト、耐用年数や規模の異なるプロジェクト、資本制約下でのプロジェクトの選択である。
第17〜18章:企業はどのように資本を調達するか/財務予測
第17章は資本構成と資本コストを説明する。負債の税引後コスト、配当成長モデルとCAPMによる株主資本コストの推定、加重平均資本コスト、完全市場における資本構成の無関連性、支払利息の節税効果、財務的困難とトレードオフ理論による最適資本構成、そして優先株、発行費用、転換社債である。第18章は売上予測と見積損益計算書・見積貸借対照表・資金予測の作り方、それらをExcelで結びつける方法、そしてそれらを使って成長の価値を判断する方法を示す。
第19〜20章:計画における企業間信用と運転資本の重要性/リスク管理と財務マネジャー
第19章(エクステンション)は運転資本、営業循環と現金化サイクル、企業間信用のコストと現金割引、現金・売掛金・在庫の管理(年齢調べ表やジャスト・イン・タイム在庫を含む)を定義・説明し、Excelで資金予算を作る。第20章(エクステンション)は企業がなぜリスクを管理するのかを説明し、商品価格リスク(長期契約、垂直統合、先物)、為替リスク(取引・換算・経済的リスク、ナチュラル・ヘッジ、先渡しとオプション)、金利リスク(デュレーションとスワップ)をどうヘッジするかを示す。
主要概念
第1〜2章:ファイナンス入門/企業の構造とガバナンス
- リスクとリターンのトレードオフ:期待リターンが高いほどリスクも高いという、ファイナンスの中心的な考え方。
- エージェンシー問題:株主(プリンシパル)と経営者・取締役(エージェント)の利害対立と、それを抑えるためのコスト。
- 発行市場と流通市場:証券が最初に発行される市場と、既存の証券が売買される市場。
第3章:経済学の基礎――貨幣と金利
- 実質金利:名目金利からインフレ率を差し引いたもの。
- 景気循環:拡張、山、収縮、谷の繰り返し。
第4〜6章:発生主義会計のプロセス/財務諸表/財務健全性の尺度
- 発生主義会計:現金の動きではなく、収益が稼得され費用が発生した時点で記録する会計。
- フリー・キャッシュフロー:営業キャッシュフローから設備投資を差し引いたもので、債権者と株主に支払える現金。
- デュポン分析:自己資本利益率を売上高利益率、総資産回転率、財務レバレッジに分解すること。
第7〜9章:貨幣の時間価値I〜III
- 貨幣の時間価値:今あるお金は、運用でき、将来の支払いには不確実性があるため、将来の同額より価値が高い。
- 年金と永久年金:一定期間続く定額の支払いの流れと、無期限に続くもの。
- 実効金利:1年の中での複利を考慮した真の年利。
第10〜11章:債券と債券評価/株式と株式評価
- 債券価格と利回り:債券価格はそのキャッシュフローの現在価値なので、価格と利回りは逆方向に動く。
- イールドカーブ:利回りを満期に対してプロットしたもので、金利の期間構造を示す。
- 配当割引モデル:ゴードン成長モデルのように、株式を将来の期待配当の現在価値として評価する方法。
- 市場効率性:価格が入手可能な情報をどの程度反映しているかで、ウィーク型、セミストロング型、ストロング型がある。
第12章:米国市場の歴史的パフォーマンス
- 株式のリスクとリターン:検討した資産クラスの中で株式の平均リターンが最も高く、損失の年もより頻繁であった。
- 短期金融市場と資本市場:短期の証券の市場と長期の証券の市場。
第13〜14章:ファイナンスにおける統計分析/ファイナンスにおける回帰分析
- 標準偏差:本書が投資リスクの尺度として使う散らばりの尺度。
- ベータ(回帰による):株式のリターンを市場リターンに回帰したときの傾きで、システマティック・リスクの尺度。
第15〜16章:投資をどう考えるか/企業は投資をどう考えるか
- システマティック・リスクと企業固有リスク:分散では消せない市場全体のリスクと、消せるリスク。
- 資本資産価格モデル(CAPM):要求リターン=無リスク金利+ベータ×市場リスク・プレミアム。
- 正味現在価値のルール:流入の現在価値が流出の現在価値を上回るならプロジェクトを採用する。
第17〜18章:企業はどのように資本を調達するか/財務予測
- 加重平均資本コスト(WACC):負債の税引後コストと株主資本コストを時価で加重平均したもの。
- 支払利息の節税効果:利息が損金算入されることによる節税で、財務的困難のコストが高まるまでは負債を魅力的にする。
- 見積財務諸表:主に売上予測によって作られる将来の財務諸表。
第19〜20章:企業間信用と運転資本/リスク管理
- 現金化サイクル:投入物の代金を支払ってから顧客から現金を回収するまでの期間。
- 企業間信用のコスト:現金割引を見送ることに含まれる暗黙の金利。
- ヘッジと投機:先物、先渡し、オプション、スワップなどのデリバティブを、価格変動に賭けるためではなくリスクを減らすために使うこと。
批判的分析
長所
- 前提知識の復習を内蔵。 経済学、発生主義会計、統計、回帰についてのエクステンションの章があるので、教員は二冊目の本なしに学生の知識の穴を埋められる。序文のコア/エクステンションの表を見れば、準備のできた学生にはそれらを省くのも簡単である。
- 計算への手厚い支援。 貨幣の時間価値、債券、株式、資本予算、財務予測、運転資本はそれぞれ数式、TI BA II Plus Professional金融電卓、Excelで解かれ、序文はいくつかの章でExcelファイルがダウンロードできると述べている。統計の章はRの簡単な入門も加えている。
- 企業財務、スモールビジネス、個人財務からの身近な事例。 「Why It Matters」の導入は、アメリカン航空の燃料費から著者の一人自身の自動車ローン交渉、若い卒業生の最初の投資まで幅広い。クリア・レイク・スポーティング・グッズやサムズ・スポーティング・グッズのような継続的な例が、財務諸表とプロジェクトの意思決定を具体的にする。
- 専門資格の学習とのつながり。 いくつかの章は、内容をCFA協会のレベルIの学習成果記述と結びつける注記で終わる。各章には多肢選択問題と復習問題、関連する章では計算問題、そして動画を使った活動がある。
短所
- 深さは入門レベル。 オプション価格モデル、独立したトピックとしての配当・還元政策、M&A、リアル・オプションはほとんど、あるいはまったく扱われず、資本構成も1章だけなので、後の授業で本格的なコーポレート・ファイナンスの教科書の代わりにはならない。
- 米国中心。 市場の歴史、規制(SEC)、税の例、データは米国のもので、第12章は全体が米国市場についてである。
- 章ごとの深さのばらつき。 要約や節には短いものがあり(たとえば第9章は他の時間価値の章に比べて短い)、道具に特化した説明は計算例を一つの電卓の機種とExcelに結びつけている。
- 解答は教員向け。 問題の解答例は教員用資料にあるため、独学者が自分で確認するのは難しい。
コースにおける位置づけ
「コーポレート・ファイナンス」のコースの書籍リストでは、本書とロス、ウェスターフィールド、ジョーダンの Fundamentals of Corporate Finance が入門向けの選択肢である。ロスらの本は一般に標準的な最初のコーポレート・ファイナンスのテキストとされる。OpenStaxの本は似た範囲(財務諸表と比率、時間価値、評価、資本予算、資本コスト)を無料で扱い、さらに会計と統計の復習の章を加えているので、そうした支援が必要な学生にとって最初の読み物や無料の代替として適している。
バークとデマーゾの Corporate Finance とブリーリー、マイヤーズ、アレン、エドマンズの Principles of Corporate Finance は自然な次の段階であり、本書が軽く扱うか扱わない資本構成、ペイアウト、オプション、企業支配にさらに踏み込む。アトリルの Financial Management for Decision Makers は大学院レベルの教科書で、一般に経営者や非専門家向けとされる。本書の第5〜6章と第16〜19章は、重なり合う実務的な内容を入門レベルで扱っている。
本書の使い方
本書は経営系専攻の学部生のための、通常2年次の中核的なファイナンス科目を対象としており、高校レベルの代数だけを前提とする。会計の知識が少しあると役立つが、第4章がそれを補う。金融電卓か表計算ソフトは欠かせない。
1学期の授業では、序文のコアの道筋に従うとよい。第1〜2章、第5〜12章、第15〜18章である。経済学や会計の知識が足りなければ第3章または第4章を、リスクとリターンの前に統計が必要なら第13〜14章を、運転資本とリスク管理には第19〜20章を加える。第7〜9章はそれ以降のすべての土台なので、計算が身につくまで練習すること。本書と同じように、各例を三つの方法(数式、電卓、表計算)で解くとよい。手早い確認には多肢選択問題を、練習には計算問題を使い、第10、15、16、18、19章のExcelを使う節で、後の授業や仕事にも役立つスキルを身につけるとよい。
版と出典
このガイドは Principles of Finance 2e(第2版、OpenStax、2026年6月刊、印刷版ISBN 979-8-3197-3155-5)に基づいており、https://openstax.org/details/books/principles-finance-2e の公式PDFで読んだ。序文(コア/エクステンションの授業計画と第2版での変更点を含む)、目次全体、そして20章すべてについて、「Why It Matters」の導入、学習成果付きのすべての節見出し、重要用語、章末の要約の全文を参照した。
