01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Ross, S. A., Westerfield, R. W., & Jordan, B. D. (2024). Fundamentals of Corporate Finance (2024 Release). McGraw Hill.
章の要約
2024 Release は、1991年に初版が出た教科書を引き継ぐもので、直前の印刷版は第13版である。8部27章、900ページを超える。序文によれば、本書はファイナンス専攻・非専攻を問わず、ビジネス・ファイナンスまたはコーポレート・ファイナンスの最初の科目のために書かれ、三つのテーマの上に組み立てられている。直観の重視、正味現在価値(NPV)を中心に据えた統一的な評価のアプローチ、そして意思決定者としての財務担当者に焦点を当てる経営的な視点である。各章は現実の出来事を描いた導入と学習目標で始まり、まとめ、復習と自己テストの問題、概念の復習問題、段階別の問題、そしてミニケースで終わる。ミニケースの多くは小規模企業を舞台にしている。
第1部:Overview of Corporate Finance(コーポレート・ファイナンスの概観)(第1–2章)
第1章:Introduction to Corporate Finance(コーポレート・ファイナンス入門)、第2章:Financial Statements, Taxes, and Cash Flow(財務諸表、税、キャッシュフロー)。 企業の目標とエージェンシー問題、倫理と経営者報酬、サーベンス・オクスリー法、フィンテックを含むファイナンスと他分野とのつながり。続いて、キャッシュフローと利益の違い、市場価値と簿価、法人税率と個人の税率を扱う。
第2部:Financial Statements and Long-Term Financial Planning(財務諸表と長期財務計画)(第3–4章)
第3章:Working with Financial Statements(財務諸表の活用)、第4章:Long-Term Financial Planning and Growth(長期財務計画と成長)。 標準化された財務諸表、拡張されたデュポン分析や EV/EBITDA 倍率を含む比率分析を、実在企業や業界のデータとともに扱う。続いて、売上高比例法による見積財務諸表と、内部成長率・持続可能成長率を扱う。
第3部:Valuation of Future Cash Flows(将来キャッシュフローの評価)(第5–8章)
第5–6章:Introduction to Valuation: The Time Value of Money(評価入門――貨幣の時間価値)、Discounted Cash Flow Valuation(割引キャッシュフローによる評価)。 貨幣の時間価値は二つの章に分けられている。将来価値と現在価値についての短い導入の後、年金、永久年金、それらの成長型を、電卓のヒントやスプレッドシートの図表とともに扱う。
第7–8章:Interest Rates and Bond Valuation(金利と債券の評価)、Stock Valuation(株式の評価)。 債券の特徴と価格決定、実質金利と名目金利、期間構造、クリーン価格とダーティ価格、デフォルト率、イスラム金融の入門。続いて、定率成長・非定率成長の株式評価モデル、倍率による評価、株式市場の仕組みを扱う。
第4部:Capital Budgeting(資本予算)(第9–11章)
第9章:Net Present Value and Other Investment Criteria(正味現在価値とその他の投資基準)、第10章:Making Capital Investment Decisions(資本投資の意思決定)、第11章:Project Analysis and Evaluation(プロジェクトの分析と評価)。 NPV を IRR、回収期間、割引回収期間、MIRR、会計的利益率と比較し、実務に関する調査結果も示す。プロジェクトのキャッシュフローと割引キャッシュフロー分析の特殊なケース、そしてシナリオ分析、感応度分析、損益分岐点分析を扱う。
第5部:Risk and Return(リスクとリターン)(第12–13章)
第12章:Some Lessons from Capital Market History(資本市場の歴史からの教訓)、第13章:Return, Risk, and the Security Market Line(リターン、リスク、証券市場線)。 過去のリターン、ボラティリティ、リスク・プレミアム、算術平均と幾何平均、市場の効率性、2008年と2020年の市場の混乱。続いて、分散投資、システマティック・リスクとアンシステマティック・リスク、ベータと証券市場線を、通常のポートフォリオ理論の多くを省いた直観的なアプローチで展開する。
第6部:Cost of Capital and Long-Term Financial Policy(資本コストと長期財務政策)(第14–17章)
第14章:Cost of Capital(資本コスト)、第15章:Raising Capital(資金調達)、第16章:Financial Leverage and Capital Structure Policy(財務レバレッジと資本構成政策)、第17章:Dividends and Payout Policy(配当とペイアウト政策)。 実在企業についての加重平均資本コストの推定とフリー・キャッシュフローによる企業評価、ベンチャー・キャピタル、IPO、クラウドファンディング、レバレッジ、最適資本構成、倒産、そして配当、自社株買い、ペイアウト政策に関する証拠を扱う。
第7部:Short-Term Financial Planning and Management(短期財務計画と管理)(第18–20章)
第18章:Short-Term Finance and Planning(短期財務と計画)、第19章:Cash and Liquidity Management(現金と流動性の管理)、第20章:Credit and Inventory Management(信用と在庫の管理)。 営業循環と現金循環、資金繰り予算、フロート、回収と支払、そして信用政策と在庫管理の簡単な概観を扱う。
第8部:Topics in Corporate Finance(コーポレート・ファイナンスの諸問題)(第21–27章)
第21–23章:International Corporate Finance(国際コーポレート・ファイナンス)、Behavioral Finance: Implications for Financial Management(行動ファイナンス――財務管理への含意)、Enterprise Risk Management(全社的リスク管理)。 為替レート、国際的な資本予算、政治リスク。バイアスとヒューリスティクスが財務上の意思決定に与える影響と、市場の非効率性を示す行動ファイナンスの議論。そしてフォワード、オプション、スワップによるヘッジを扱う。
第24–27章:Options and Corporate Finance(オプションとコーポレート・ファイナンス)、Option Valuation(オプションの評価)、Mergers and Acquisitions(合併と買収)、Leasing(リース)。 従業員ストック・オプション、リアル・オプション、オプションが組み込まれた証券。プット・コール・パリティとブラック・ショールズ・モデルの企業の問題への応用。M&A の分析、買収防衛策、事業売却。そしてリースの評価と最近のリース会計の変更を扱う。
主要概念
第1–2部:概観と財務諸表
- 企業の目標とエージェンシー問題:株主資本の価値を最大化すること、そして経営者と所有者の間に生じる利害の対立。
- キャッシュフローと利益:会計上の利益が企業の生み出す現金と異なる理由。
- 持続可能成長率:財務政策を変えずに企業が達成できる成長率。
第3–4部:評価と資本予算
- 貨幣の時間価値:異なる時点のキャッシュフローを比較可能な現在価値や将来価値に換算すること。
- 正味現在価値:市場価値が費用を上回る額であり、本書を貫く意思決定のルール。
- 感応度分析、シナリオ分析、損益分岐点分析:プロジェクトの価値が前提にどう反応するかを確かめること。
第5–6部:リスク、リターン、資金調達
- システマティック・リスクとベータ:分散投資によって取り除けず、要求リターンを決める市場全体のリスク。
- 証券市場線:ベータと期待リターンの関係。
- 加重平均資本コスト:企業の投資を評価する際に用いる全体としての要求リターン。
- 資本構成とペイアウト政策:負債と株式の組み合わせや、配当か自社株買いかが価値にどう影響するか。
第7–8部:短期の管理と特別なテーマ
- 営業循環と現金循環:日々の業務におけるキャッシュフローのタイミング。
- リアル・オプションとオプションの評価:経営上の柔軟性や企業の証券をオプションとして扱うこと。
- 全社的リスク管理:企業が直面するリスクを特定しヘッジすること。
批判的分析
長所
- 一つの考え方を貫く。 著者たちは、コーポレート・ファイナンスを寄せ集めのテーマではなく少数の統合された考え方として示すことを目指しており、すべてのテーマが評価と NPV に結びつけられている。これにより、債券や株式から資本予算、資金調達の意思決定まで、学生がたどれる一本の筋が生まれる。
- 公式の前に直観。 序文は、具体的な話に入る前に原理を常識的なレベルで説明すると述べており、各章の内容紹介はそれが実践されていることを示している。たとえば、時間価値と資本予算の最初の章は短く、証券市場線は重いポートフォリオ理論なしに展開される。
- 充実した学習支援。 電卓のヒント(Calculator Hints)、スプレッドシートの使い方(Spreadsheet Strategies)、番号付きの例題、要約表、主要な式、学習目標に結びついた大量の問題は、繰り返し練習が必要な学生に向いている。小企業を舞台にしたミニケースは、技法を現実的な意思決定に結びつける。
- 新しく実践的な事例。 2024 Release は章冒頭の導入や例題を更新しており(たとえばツイッターの買収、最近の金利上昇、最高財務責任者への調査結果)、フィンテック、クラウドファンディング、リース会計などのテーマも扱っている。
短所
- 分量。 27章、900ページ超は一つの科目で扱える量をはるかに超えており、教員も学生も取捨選択しなければならない。
- 意図的に理論を軽くしている。 著者たちは純粋に理論的な問題を控えめに扱うことを選んだ。ポートフォリオ理論、資本構成の理論、オプション価格理論は直観的に扱われるので、上級のファイナンスへ進む学生にはより厳密な教科書が必要になる。
- 米国中心。 税制、規制(サーベンス・オクスリー法、IPO に関する SEC の規則)、制度の細部は米国のものである。序文は、他の市場向けに国別の版があることにも触れている。
コースにおける位置づけ
ロス、ウェスターフィールド、ジョーダンの本書は、コーポレート・ファイナンスの最初の科目の標準的な教科書である。OpenStax の Principles of Finance は、財務諸表、時間価値、評価、リスクとリターン、資本予算を電卓とスプレッドシートの練習とともに扱う無料の入門書で、費用が問題になる場合の代替として、あるいはもう一つの説明として使える。ピーター・アトリルの Financial Management for Decision Makers は、意思決定を行う経営者の立場から財務管理に取り組み、理論と分析・計画のための実践的な道具を組み合わせている。
次の段階としては、バークとデマーゾの Corporate Finance が一物一価の法則を軸に分野を組み立て、リスク、資本構成、オプションをより厳密に扱う。ブリーリー、マイヤーズ、アレン、エドマンズの Principles of Corporate Finance は、企業と市場がなぜそのように振る舞うのかを説明する包括的な教科書である。ロスの第3–6部を学び終えた学生には、どちらもずっと取り組みやすくなるだろう。
本書の使い方
本書は基礎的な代数と会計についてのある程度の知識を前提とし、必要な会計は第2章で復習される。第5章以降は金融電卓かスプレッドシートが欠かせない。
- 最初の科目の中核: 第1–2章、続いて評価と資本予算の第3部・第4部(第5–11章)、リスクとリターンの第5部(第12–13章)、資本コストの第14章。
- よく追加される部分: 比率分析の第3章と、資金調達、資本構成、ペイアウトの第15–17章。
- 選択: 運転資本を重視する科目では第7部、第8部の各章は選択科目や2番目の科目向け。
各章では学習目標を読み、番号付きの例題を電卓かスプレッドシートで追い、章末問題の前に復習と自己テストの問題に取り組むとよい。ミニケースはグループワークやレポート課題に使える。Conch Republic Electronics(第10–11章)や複数の章にわたる S&S Air のケースは、技法を組み合わせる良い練習になる。貨幣の時間価値(第5–6章)は最もつまずきやすいところなので、計算が手に馴染むまで練習してから先へ進むべきである。
