01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Duffie, D., & Singleton, K. J. (2003). Credit Risk: Pricing, Measurement, and Management. Princeton University Press.
章の要約
本書は13章(約345ページ)からなり、その後に三つの技術的付録、参考文献、索引が続く。著者が掲げる目的は、信用リスクを二つの用途のためにモデル化することである。ポートフォリオのリスクを測ること、そしてデフォルトしうる債券、クレジット・デリバティブ、その他デフォルト・リスクにさらされた証券を値付けすることである。前半の章は実証と経済学の土台を築き、中盤の章は債券とデリバティブの価格付けを扱い、最後の章はポートフォリオ、取引相手、そして市場リスクと信用リスクの統合へと進む。
第1~2章:序論、リスク管理の経済原理
序論は本書の目標を述べ、構成を予告する。第2章は冒頭の諸章のなかで最も長く、機関がなぜ、どのようにリスクを管理するのかを論じる。金融リスクの種類、リスクとリターンのトレードオフ、市場の不完全性がリスク管理の誘因に与える影響、リスクの主な測定方法が含まれる。
第3~4章:デフォルトの発生、格付け遷移(副題はいずれも「過去のパターンと統計モデル」)
第3章は本書で最も長く、過去のデフォルト・データと、デフォルト時点を記述する統計モデル(構造モデル、デフォルト強度モデル、デフォルト時刻のシミュレーション)を組み合わせる。第4章は信用格付けの遷移について同様の扱いをし、格付けと景気循環の関係、格付けの経過年数が挙動に与える影響を論じ、格付けをマルコフ連鎖または順序プロビットでモデル化する。
第5章:デフォルト・リスクの評価に対する概念的アプローチ
記述から価格付けへの転換点となる章である。リスク中立確率と実際の確率を対比し、構造アプローチと誘導形アプローチを並べて、それぞれが含意するスプレッドを示す。
第6~7章:社債とソブリン債の価格付け、デフォルト債スプレッドの実証モデル
第6章は社債とソブリン債を値付けし、不確実な回収率、格付けに基づくクレジット・スプレッド・モデル、回収を伴う誘導形価格付けを扱い、ソブリン債の特殊性を指摘する。第7章はクレジット・スプレッドの実証モデルを概観し、スプレッドと経済活動の関係、パラメトリックな誘導形モデルと構造モデルの推定を扱う。出版社は、本書が構造アプローチと誘導形アプローチを過去のデータで検証すると説明しており、この比較を行うのがこの二つの章である。
第8~9章:クレジット・スワップ、オプション的な信用価格付け
第8章はクレジット・スワップとクレジット・デフォルト・スワップのレートを紹介し、アセット・スワップやクレジット・デリバティブ取引の実務にも触れる。第9章は信用に関連するオプション、すなわちスプレッド・オプションと、コーラブル債・転換社債を値付けする。出版社は、信用保証や与信枠も本書が価格付けする商品として挙げている。
第10~11章:相関のあるデフォルト、債務担保証券
第10章は単一銘柄から同時デフォルトへ進み、CreditMetrics、コピュラによるモデル化、デフォルト相関の実証的方法を扱い、デフォルト時刻のシミュレーション・アルゴリズムを示す。第11章はこれを債務担保証券(CDO)に適用し、その構造と経済的意味、価格付けモデル、デフォルト損失の分析、分散スコアを論じる。
第12~13章:店頭取引のデフォルト・リスクと評価、市場リスクと信用リスクの統合的測定
第12章は店頭デリバティブの取引相手信用リスクを扱う。エクスポージャーの測定、評価に対する信用調整、スワップに適用される追加の調整である。第13章は信用リスクを市場リスクの測定に統合し、市場リスク・ファクター、ジャンプを伴うポジションのデルタ・ガンマ近似、信用リスクを含むバリュー・アット・リスクを扱う。
付録A~C:アフィン過程入門、アフィン期間構造モデルの計量経済学、HJMスプレッド曲線モデル
三つの短い技術的付録(合計約25ページ)が、誘導形モデルで使う数学を提供する。アフィン過程、アフィン期間構造モデルの推定、スプレッド曲線に適用したヒース=ジャロー=モートン・モデルである。
主要概念
第1~5章:基礎と評価の概念
- リスクとリターン、市場の不完全性:機関が市場リスクと信用リスクを管理する経済的理由(第2章)。
- デフォルト強度と構造モデル:デフォルトがいつ起こるかを記述する二つの主要な統計モデル(第3章)。
- 格付け遷移:信用格付け間の移動をマルコフ連鎖または順序プロビットでモデル化する(第4章)。
- リスク中立確率と実際の確率:価格付けと予測を分ける区別(第5章)。
- 誘導形評価と構造評価:本書が一貫して比較する二つの対立する枠組み。
第6~11章:債券とクレジット・デリバティブの価格付け
- 回収率:デフォルト時の不確実な回収率と、債券価格付けにおけるその役割(第6章)。
- クレジット・スプレッド:その実証的な挙動と推定(第7章)。
- クレジット・デフォルト・スワップとアセット・スワップ:基本的なクレジット・デリバティブ契約(第8章)。
- スプレッド・オプション、コーラブル債・転換社債:オプション的な信用エクスポージャー(第9章)。
- デフォルト相関、コピュラ、CreditMetrics:同時デフォルトのモデル化(第10章)。
- 債務担保証券と分散スコア:プールされた信用リスク(第11章)。
第12~13章と付録:取引相手リスクとポートフォリオ・リスク
- エクスポージャーと信用評価調整:店頭デリバティブにおける取引相手リスクの評価(第12章)。
- デルタ・ガンマ近似と信用リスクを含むバリュー・アット・リスク:市場リスクと信用リスクの統合(第13章)。
- アフィン過程とHJMスプレッド・モデル:付録の数学的道具。
批判的分析
長所
- データからデリバティブまでの一貫した枠組み。 本書はデフォルトと格付けのデータ(第3~4章)から、評価(第5~7章)、個別商品(第8~11章)、ポートフォリオの測定(第12~13章)へと進む。出版社は、信用リスクの概念的・実務的・実証的基礎を統合して扱った最初の書だと説明している。
- 実証面の裏付け。 出版社は、デフォルト確率、回収率、格付け遷移、利回りスプレッドの実証的性質の広範な分析と、構造アプローチ・誘導形アプローチが過去データにどう適合するかの比較を強調している。第3章と第7章は主に推定と適合にあてられている。
- 商品の幅広さ。 クレジット・スワップ、オプション、債務担保証券、取引相手調整、統合的リスク測定が一冊に収められており、同じデフォルト・モデルが各商品にどう再利用されるかを見たい読者に向く。
- 権威ある推薦。 出版社は学界・実務界の評を転載しており、修士・博士レベルの教育に勧める『Journal of Risk and Insurance』の書評や、技術的に厳密でありながら叙述は率直だと述べる『Risk』誌の書評が含まれる。
短所
- 技術的要求が高い。 出版社も書評も扱いが厳密だと述べており、モデルは連続時間の資産価格理論に基づく。アフィン過程とHJMモデルは付録でのみ展開されるため、確率解析と期間構造モデルの知識がない読者は先に他の教科書が必要になる。
- 扱う商品が古い。 仕組み信用と取引相手に関する章は、出版された2003年の市場を反映している。2007~2009年の危機や、その後の取引相手リスクに対する規制上の扱いより前の本であり、第11章と第12章は現在の実務の記述ではなく基礎として読むのがよい。
- 章の長さの不均一。 第3章だけで約40ページあるのに対し、格付けを扱う第4章は約15ページで、章ごとに必要な時間が大きく異なる。
コースにおける位置づけ
投資・金融市場のコースでは、これは信用リスク専門の教科書である。一般的な投資論と固定利付証券の内容の後に置くのがよい。債券の価格付けと期間構造に慣れていることが前提だからである。Bodie、Kane、MarcusのInvestmentsはポートフォリオ理論、固定利付証券、デリバティブの幅広い基礎を与え、固定利付証券の教科書(Tuckman&Serrat、Veronesi、Sundaresan)は期間構造の背景を扱う。Tuckman&Serratの社債とクレジット・デフォルト・スワップの章や、Sundaresanの信用リスクのモデル化、クレジット・デフォルト・スワップ、仕組み信用商品の各章は、Duffie&Singletonの第8章と第11章の内容への、より制度面に寄った入門になる。
数学面では、Hunt&KennedyのFinancial Derivatives in Theory and PracticeとBingham&KieselのRisk-Neutral Valuationが、誘導形モデルが依拠する確率解析とマルチンゲール価格付けを展開している。第5章や第8章の記法になじみがなければ、どちらかを先に読むとよい。
本書の使い方
本書は、大学院生、研究者、そして信用リスクを伴う商品を扱うリスク管理者、トレーダー、規制当局者を対象とする。読み始める前に、債券の価格付け、金利の期間構造、オプション価格理論、連続時間の確率過程に慣れておくべきである。
実用的な読み方は次のとおり。
- 中核: 枠組みのために第1~2章、リスク中立確率と実際の確率という中心的区別のために第5章、債券価格付けのために第6章、クレジット・デフォルト・スワップのために第8章。これで一貫した入門コースになる。
- 推定の筋: 第3、4、7章。デフォルト、格付け、スプレッドのデータを扱う読者向け。
- ポートフォリオと取引相手の筋: 第10~13章を順に。相関、CDO、取引相手調整、統合リスクを扱う。
- 参照: 付録。第5~9章でアフィン過程やHJMの道具が使われる際に参照する。
本文と並行して、第5章または第6章の価格式を一つ自分で導出し、簡単なデフォルト強度モデルを手元のスプレッド・データと比較するとよい。実証の章(第3、4、7章)が目指すべき比較の形を示している。
