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The Digital Doctor: Hope, Hype, and Harm at the Dawn of Medicine's Computer Age(デジタル・ドクター:医療コンピュータ時代の夜明けにおける希望、誇大宣伝、害) cover

生体医工学

生体医工学

The Digital Doctor: Hope, Hype, and Harm at the Dawn of Medicine's Computer Age(デジタル・ドクター:医療コンピュータ時代の夜明けにおける希望、誇大宣伝、害)

Robert Wachter

英語原題: The Digital Doctor: Hope, Hype, and Harm at the Dawn of Medicine's Computer Age

米国の医療がデジタル化したときに何が起きたかを、医師であり患者安全の研究者でもある著者が取材に基づいて描いた本。臨床家、技術者、経営者、患者へのインタビューをもとに、電子カルテ、意思決定支援、アラート、患者ポータルを検討し、技術が実際の利益と新しい種類のエラーや不満の両方をもたらした理由を説明する。

前提知識: 不要。技術的・臨床的な素養は前提としない。

難易度レベル
初級
学術レベル
学部
health informaticselectronic health recordspatient safetyhealth itclinical workflow

01 / 読書ガイド

読書ガイド

引用

Wachter, R. (2015). The Digital Doctor: Hope, Hype, and Harm at the Dawn of Medicine's Computer Age. McGraw-Hill Education.

章の要約

本書は約330ページの取材にもとづくノンフィクションで、著者はロバート(ボブ)・ワクターである。パトリシア・サルバーの『mHealth』誌(2015年)の書評によれば、著者は当時カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のホスピタル・メディシン部門の長であった。サルバーは、本書をワクターがサバティカルの1年間に、米国医療のデジタル化に関わった100人近くの人々に取材した成果だと紹介し、著者が医療ITの影響を受けた人々の実話を通じて論点を示していると述べている。図書館目録の内容一覧には29の短い章が並び、冒頭の2章と、それに続く6つの章群から成る。2017年にはペーパーバック版(McGraw-Hill、ISBN 9781260019605、352ページ)が出ており、2018年に『Malaysian Orthopaedic Journal』で書評されたのはこの版である。

冒頭:On Call;Shovel Ready

冒頭の2章は本書の枠組みを示す。章題は、著者が身を置く臨床の現場と、「シャベル・レディ(すぐ着工できる)」と呼ばれた連邦政府の景気刺激策の支出を指している。出版社の紹介文によれば、医療がようやくデジタル化したのは数十億ドル規模の連邦政府の奨励金のおかげであり、本書はこの政府の介入が有益だったのか破壊的だったのかを問う。

The Note:The iPatient;The Note;Strangers at the Bedside;Radiology Rounds;Go Live;Unanticipated Consequences

電子カルテが日々の臨床業務をどう変えたかを扱う6章。サルバーの書評は、取り上げられている問題のいくつかを挙げている。患者や病棟スタッフよりも画面に没頭する研修医、放射線科カンファレンス(ラジオロジー・ラウンド)の消滅、誤りを広げてしまうコピー&ペーストやテンプレート頼みの記録、そして利用者への配慮があまりに乏しく、多くの医師に紙カルテを懐かしませるシステム設計である。この章群の最後の章は、システムの稼働開始とその意図せざる影響を扱う。

Decisions and Data:Can Computers Replace the Physician's Brain?;David and Goliath;Big Data

章題から判断すると、コンピュータによる診断と意思決定、そして大規模データの可能性を扱う3章である。

The Overdose:The Error;The System;The Doctor;The Pharmacist;The Alerts;The Robot;The Nurse;The Patient

最も長い章群で、一つの投薬過誤を8章にわたってたどる。サルバーによれば、UCSFの小児病院で10代の患者が抗菌薬を大量に、38錠半も投与され、けいれん発作を起こしたのち回復した。本書は、電子カルテへのオーダー入力(システムの単位の扱いのために、ミリグラムで入力された用量がミリグラム毎キログラムと解釈された)から、薬剤部、自動調剤ロボット、不慣れな病棟で働く看護師を経て患者に至るまでを追う。各章がこの連鎖の一つの環を担当している。

The Connected Patient:OpenNotes;Personal Health Records and Patient Portals;A Community of Patients

患者が自分の記録にアクセスすることと、オンラインの患者コミュニティを扱う3章。

The Players and the Policies:Meaningful Use;Epic and athena;Silicon Valley Meets Healthcare;The Productivity Paradox

導入を推し進めた奨励制度、主要な電子カルテベンダー、医療に参入するテクノロジー企業、そしてIT への巨額投資がなぜそれに見合う生産性向上を生まなかったのかという問いを扱う4章。

Toward a Brighter Future:A Vision of Health Information Technology;The Nontechnological Side of Making Health IT Work;Art and Science

最後の章群は、医療ITをよりよく機能させる方法を示し、技術と並んで必要となる組織的・人間的な変化にも触れる。

主要概念

冒頭とThe Note

  • ミーニングフル・ユース(Meaningful Use)奨励制度:米国の病院や診療所に電子カルテ導入を促した連邦政府の支払い制度。本書全体の政策的背景である。
  • 「iPatient」:ベッドにいる生身の人ではなく、コンピュータの中に表現された患者。章題が名指すテーマである。
  • コピー&ペーストによる記録:以前の文章やテンプレートを記録に流用すること。記録は速くなるが、誤りを引き継ぐおそれがある。

Decisions and Data;The Overdose

  • コンピュータによる意思決定支援とアラート:臨床医に助言や警告を与えるソフトウェア。過剰投与の章群は、アラートが実際にどう働くかを検討する。
  • エラーのシステム的見方:一人を責めるのではなく、有害事象を関わったすべての人と機械を通してたどること。過剰投与の章群の構成そのものである。

The Connected Patientから最後まで

  • オープンノーツと患者ポータル:患者が自分の記録に直接アクセスできるようにすること。
  • 生産性のパラドックス:情報技術への投資がすぐには測定可能な生産性向上につながらないという観察。

批判的分析

長所

  • 取材と事例に根ざしている。 サルバーの書評は、本書が100人近くへの取材にもとづく綿密な調査の産物であり、各論点を実話で示している点を強調している。そのため技術的・臨床的な背景のない読者にも読みやすい。
  • 一つのエラーの徹底した分析。 8章をかけて一件の過剰投与をオーダー入力から病床まで、一つずつたどる。この構成は、小さな設計上の選択、自動化、そしてコンピュータへの人間の信頼がどう組み合わさるかを示す。サルバーが特に取り上げる教訓は、臨床医が自分の判断よりもシステムを頼りにしたという点である。
  • バランスのとれた視点。 副題の「希望、誇大宣伝、害」と出版社の紹介文は、本書がデジタル化の利点と問題の両方を量っていることを示しており、批判だけでなく医療ITをよりよく機能させる方法の章で締めくくられている。
  • 読みやすさ。 サルバーは本書をよく書かれた、面白い本だと評している。

短所

  • 2010年代前半の米国の物語。 政策の章は米国連邦政府の奨励金と米国のベンダーを扱い、本書が描くのは2015年の刊行までの状況である。米国外の読者や、その後の展開(新しい相互運用性の規則、COVID-19以降の遠隔医療、現在のAIツール)を学ぶ読者は、他の資料が必要になる。
  • 教科書ではなく物語。 標準、データモデル、システム設計を体系的には扱わず、演習問題もない。コースの教科書を置き換えるものではなく、補うものである。
  • 取材対象の偏り。 サルバーが挙げる唯一の批判は、過剰投与の事例の関係者を除くと、取材対象者のうち女性が10人に1人にも満たないという点である。

コースにおける位置づけ

このコースの書目の中で、『The Digital Doctor』は物語による入口である。ハーシュの『Health Informatics: Practical Guide』は分野を体系的に概観する教科書で、電子カルテ、意思決定支援、安全と質、遠隔医療、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションの章を備えている。ワクターは、そうしたシステムが実際に使われる様子と、それがどう失敗しうるかを示す。ワクターを先に読むか、ハーシュの最初の数章と並行して読むと、教科書の歴史と政策の内容に具体的な人間の文脈が与えられる。

コイエラの『Guide to Health Informatics』は、医療における情報・コミュニケーション・意思決定についてより理論的な説明を加えており、ワクターが描く問題がなぜ起きるのかを理解したい読者にとって有益な次の一歩となる。ベンソンとグリーヴの『Principles of Health Interoperability』は、ワクターの政策の章が論じるデータ交換の欠如を技術的に詳しく扱う。ショートリフらの『Medical Informatics』とハーシュの『Information Retrieval』は、コースの後半で使う専門書・参考書である。

本書の使い方

本書は医療・健康情報学を学び始めるすべての人に向いている。生体医工学、医学、看護学、情報系の学生、将来臨床ソフトウェアを購入・設計する人などである。技術的・臨床的な知識は前提としない。章が短いので速く読め、教科書と並行して1週間で通読できる。

実際的な計画:

  • 中核: 冒頭の章、「The Note」の章群、「The Overdose」の8章。あわせて政策的背景、電子カルテが臨床業務に与えた影響、技術に関連した害の一つの完全な事例が見える。
  • 次に: 奨励制度とベンダー市場について「The Players and the Policies」、著者の提案について「Toward a Brighter Future」。
  • 関心に応じて: AIやデータ分析に関心のある読者は「Decisions and Data」、患者のアクセスやポータルに関心のある読者は「The Connected Patient」。

過剰投与の章を読む際は、エラーを食い止められた可能性のあるすべての地点と、どのような対策(インターフェース設計、アラート、人員配置、研修、方針)が役立ったかを一覧にしてみるとよい。ゼミの課題としてよく機能し、教科書の安全と意思決定支援の章に直接つながる。政策の章を読むときは日付に注意し、それぞれの主張を、2015年以降に米国と自分の国の医療制度で何が変わったかと比べること。