01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Brown, P. J., & Closser, S. (Eds.). (2016). Understanding and Applying Medical Anthropology (3rd ed.). Routledge.
章の要約
本書は単著による通史ではなく、編者による論集(リーダー)である。49篇の読み物を2部に分け、編者による導入を付し、教員向けの序文、学生向けの説明、参考文献、索引を備える。出版社によれば、第3版では17篇が新しく、古い選択の多くが新しいものに置き換えられた。目次には主要な部と節の題名は載っているが、各読み物の題名は示されていないため、以下の要約は部と節のレベルにとどめる。Google Booksの目次のページ数は各部の比重を示している。第I部では「医療人類学における生物社会的アプローチ」の区分が25ページから、「医療人類学における文化的アプローチ」の区分が116ページから始まり、約330ページまで続く。第II部は331ページから、参考文献は447ページから始まる。
To the Instructor;To the Student(教員へ;学生へ)
それぞれ教員と学生に向けた前置きの文章。
第I部:Understanding Medical Anthropology: Biosocial and Cultural Approaches(医療人類学を理解する:生物社会的アプローチと文化的アプローチ)
概念と理論の部で、本文のおよそ4分の3を占める。Routledgeが挙げる節の題名は、健康の歴史、病いの意味と経験、生物医学・技術・身体、構造的暴力、民族医療と治療者、文化・病い・心の健康である。出版社の説明によれば、この版では「概念の道具」の節が更新・拡充され、エピジェネティクスやシンデミクス(syndemics)が加わり、さらに貧困などの社会的周縁化が健康に与える影響を扱う構造的暴力の節が新設された。
第II部:Applying Medical Anthropology(医療人類学を応用する)
応用の部で、331ページから参考文献まで。節は、生物医学の文化と向き合う、スティグマと慢性疾患への対処、文化と栄養、グローバルヘルスの課題とプログラムである。出版社は、事例が異文化間の臨床での出会い、新しい生物医学技術の文化的分析、グローバルヘルスの現場でのプログラム実施にわたると説明している。
この版で加わった話題
出版社によれば、新しい読み物は、気候変動、エボラ、イラクとアフガニスタンの帰還兵の心的外傷後ストレス、摂食障害、自閉症などを扱い、マーガレット・ミード賞受賞者のSera Young、Seth Holmes、Erin Finleyの近年の論文や、Paul FarmerとMerrill Singerの新しい論文も含まれる。
主要概念
第I部
- 生物社会的アプローチと文化的アプローチ:部の題名に示された二つのレンズ。一方は生物と社会的条件の相互作用に、他方は意味と文化に注目する。
- 構造的暴力:貧困や社会的周縁化から生じる健康への害で、この版で新設された節の主題。
- エピジェネティクスとシンデミクス:出版社が概念の道具に挙げている比較的新しい考え方。
- 民族医療:治療の伝統と治療者の研究。節の題名でもある。
第II部
- 応用医療人類学:人類学的理解を、臨床医、地域社会、プログラムとの協働に生かすこと。
- スティグマと対処:慢性疾患とともに生きることを扱う節。
- グローバルヘルスのプログラム:本書の最後の読み物が扱う実施の現場。
批判的分析
長所
- 多様な声とアプローチ。 出版社が引用している教員の一人、ジョージ・ワシントン大学のMark Edbergは、民族医療、病いの経験、生物と文化と健康の相互作用、政治生態学、異文化間の癒やしといった複数の視点を扱い、応用で締めくくる点を評価している。
- 読み物をつなぐ導入。 出版社は丁寧な背景説明を強調しており、カリフォルニア州立大学イーストベイ校のLaurie Priceは、導入のエッセイが学生に各アプローチ(生物文化的分析、進化、文化的解釈、政治生態学、応用的研究)を比較する助けになると述べている。
- 選択が新しい。 17篇の新しい読み物と、構造的暴力や概念の道具についての節があり、この版は近年の研究に傾いている。近年のマーガレット・ミード賞受賞者の論文も含まれる。
- 人類学の外でも使える。 Priceはさらに、医療従事者、公衆衛生の学生、人類学専攻の学生のいずれも、素材を見つけられると述べている。
短所
- 論集であって物語ではない。 多くの著者による49篇は多様性をもたらすが、一貫した論旨や声はない。読者は編者の導入によって、各篇の関係を理解する必要がある。
- 単独では完結しない。 Priceは、本書が健康をテーマとする民族誌と併せて使うとよく機能すると述べており、より長い事例研究と組み合わせて教えるのが最もよいことを示唆している。
- 応用に割かれる紙幅は少ない。 第II部は331ページから447ページの参考文献までで、第I部の約3分の1の長さしかない。書名に「応用」とあるにもかかわらずである。
- 刊行年による制約。 2016年刊のため、新型コロナのパンデミックなど、その後の出来事は、新しい教科書のようには扱えない。
コースにおける位置づけ
Andrea WileyとJohn AllenのMedical Anthropology: A Biocultural Approachは、生物学を先に置いて主題を体系的に扱う単著の教科書である。本書は、多くの著者の研究に学生が直接触れられ、応用により重きを置いている。両者は組み合わせて使うとよい。教科書は構造を、論集は一次資料とゼミ討論の素材を提供する。
Donald JoralemonとMary SundalのExploring Medical Anthropologyは主要な理論的視点を簡潔に紹介する入門書で、最初の授業にはこちらが向く。Arthur KleinmanのThe Illness NarrativesとByron GoodのMedicine, Rationality and Experienceは、病いの意味と経験に関わる解釈的な著作であり、Margaret LockとVinh-Kim NguyenのAn Anthropology of Biomedicineは、医療技術が身体と社会をどう形づくるかを、より本格的に論じる。
本書の使い方
医療人類学の1、2年目の授業を受ける学部生や、公衆衛生、看護、医学、グローバルヘルスの学生に向く。人類学の入門科目を履修していると役立つが、医学の背景は不要である。
実際的な進め方は次のとおり。
- 枠組みから始める: 教員・学生向けの文章を読み、各節の読み物に入る前に編者の導入を読む。各篇をつなぐ論旨は導入にある。
- 中心: 授業で概念をゼロから積み上げるなら第I部の節を順に読む。そうでなければテーマで読み物を選ぶ。
- 応用: 第II部の節は課題やプロジェクトに向く。ある節を公衆衛生や臨床現場の事例と組み合わせる。
- ゼミでの使い方: 同じ話題を異なる視点から扱う読み物を2、3篇指定し、学生に比較させる。健康に関する民族誌と組み合わせれば、より充実した事例になる。
