01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Ahearn, L. M. (2021). Living Language: An Introduction to Linguistic Anthropology (3rd ed.). Wiley-Blackwell.
章の要約
第3版は全13章で三部に分かれ、その後に注、参考文献、索引が付く。第I部「言語:いくつかの基本的な問い」(第1–5章)は分野の基本概念を示す。第II部「話し手・聞き手・読み手・書き手のグローバルな共同体」(第6–9章)は共同体とその実践に移る。第III部「言語、権力、社会的差異化」(第10–13章)はジェンダー、人種、言語の危機、権力を扱う。出版社の説明では、この版は全面的に改訂され、ソーシャルメディアやオンライン会議といった技術が言語をどう変えたかを論じる新章が加わり、新型コロナウイルス感染症が言語実践に及ぼした影響にも目を向けている。
第1章:言語の社会的に帯電した生
冒頭の章は、言語は中立的な伝達媒体ではなく社会に埋め込まれた実践の集合であり、あらゆる社会的相互行為は言語によって媒介されると論じる。言語を「知っている」と言うために何を知っている必要があるかを問い、言語的多様性と研究の多様性の例を概観し、Keith Basso、Marjorie Harness Goodwin、Bonnie Urciuoli、Alessandro Duranti、Kathryn Woolard、James Wilce らの短い紹介を通じて分野を紹介する。中心となるのは、多機能性、言語イデオロギー、実践、指標性という四つの重要用語である。
第2章:ジェスチャー、手話、マルチモダリティ
この章は研究対象を発話の外へ広げる。バフチンの二重の声の言説、ゴフマンの参与枠組みと生産形式、会話分析を取り上げたうえで、ジェスチャーなど身体を用いたコミュニケーション、手話、そして詩、口笛言語、歌、イメージへと進む。
第3章:言語人類学における調査のプロセス
問いの形で構成された方法論の章である。言語人類学者がどのような調査課題を立て、どのようなデータをどの方法(参与観察、インタビュー、調査と質問紙、自然に生じる会話、実験的方法、マッチド・ゲイズ・テスト、文字テクスト)で集めるのか、どう分析するのか、どのような成果が生まれるのか、どのような倫理的問題が生じるのかを扱う。
第4–5章:言語習得と社会化;言語・思考・文化
第4章は言語習得と社会化の過程を扱い、「言語格差」アプローチへの批判、二言語・多言語環境での言語社会化、生涯にわたる言語社会化を含む。第5章は言語相対性とサピア=ウォーフ仮説の100年を振り返り、言語一般、言語構造、色、空間、時間、言語使用といった領域で言語が思考に及ぼす影響についての研究を検討する。
第6章:多言語使用者のグローバルな共同体
「言語共同体」を、規模と場所、成員が共有するもの、相互行為の種類から定義し、代替概念として言語圏、言語ネットワーク、実践共同体を示す。さらに多言語・越境的な言語実践、ダイグロシア、コードスイッチング、コードミキシング、ヘテログロシアに進む。
第7章:リテラシー実践
リテラシー事象とリテラシー実践、そして「自律的」モデルと「イデオロギー的」モデルを区別する。具体例として、米国南東部の就学前のリテラシー実践、Pema Kumari の手紙、ネパールのラブレター執筆、話し言葉と書き言葉の中間としてのインスタントメッセージが挙げられる。
第8章:オンライン共同体とインターネット上の言語実践
この版で新たに加わった章。オンラインのリテラシー実践(大文字化、句読点、絵文字)と、オンライン共同体・関係・ソーシャルメディアを扱い、ビデオ会議、アバター、近くにいながら遠いという経験にも触れる。
第9章:パフォーマンス、パフォーマティビティ、共同体の構成
パフォーマンスを能力との対比で定義し、パフォーマティビティの考え方を展開し、パフォーマンスを言語的技芸の誇示として扱い、最後にパフォーマンスとパフォーマティビティの民族誌を紹介する。
第10–11章:言語とジェンダー;言語、人種、エスニシティ
第10章は、ジェンダーとは何か、言語とどう関わるか、男女は同じように話すのか、ジェンダー差は年齢や背景を超えて共通なのか、何が神話で何が現実かを問う。第11章は人種とエスニシティを定義し、アフリカ系アメリカ人英語の規則性(習慣的 “be”、コピュラ省略、二重否定、語末子音の縮約)を説明し、人種差別的言語、言語における人種差別、人種的・民族的アイデンティティを論じる。
第12–13章:言語の危機と再活性化;結論:言語、権力、エージェンシー
第12章は危機に瀕した言語の数を見積もり、言語が消えるとき何が失われるのか、なぜ言語は消えるのか、救えるのかを検討する。第13章は権力(ヘゲモニー、フーコーの権力関係と言説、実践理論)とエージェンシー(その文法的符号化とメタ・エージェンシー的言説を含む)を導入する。
主要概念
第1–3章
- 多機能性:発話は情報伝達だけでなく複数の働きを同時に果たすという考え方。
- 言語イデオロギー:言語についての信念や前提で、話し手や変種がどう評価されるかを左右する。
- 実践と指標性:言語使用を社会的に位置づけられた活動として捉える見方と、言語形式が社会的アイデンティティや場面を指し示すこと。
- マルチモダリティ:ジェスチャーや手話などの身体的チャンネルが発話とともに意味を運ぶこと。
第4–9章
- 言語社会化:言語を通じて、またその使い方へと入ることで共同体の成員になること。
- 言語相対性:サピアとウォーフに結びつく、言語が思考に影響するという仮説。
- 実践共同体:共有された活動に基づく、「言語共同体」の代替概念。
- ダイグロシアとコードスイッチング:言語や変種が機能を分担し、会話の中で切り替えられる仕方。
- パフォーマティビティ:言うことがそのまま行為になる発話。
第10–13章
- 言語の危機:言語の消失と、それとともに失われるもの。
- ヘゲモニーと実践理論:権力を考えるための本書の道具立て。
- エージェンシー:社会文化的に媒介された行為の能力と、言語がそれをどう符号化し語るか。
批判的分析
長所
- 前提知識が不要。 出版社は言語学や人類学の予備知識を求めないと明記しており、冒頭の章は日常的な例から語彙を築いたうえで重要用語を導入する。
- 明快な構成。 三部構成は基本的な問いから共同体、権力へと進み、多くの章が問いの形で組まれているため学習の手がかりになる。第3、10、12章の見出しがその例である。
- 現在の状況への対応。 第8章とパンデミック期の実践の議論は、会話の多くがオンラインに移った現実に応えている。
- 具体的な事例。 第7章のリテラシー事例や第11章のアフリカ系アメリカ人英語の詳しい扱いは、一般的な主張を特定の共同体と言語的特徴に結びつける。
短所
- 形式言語学が少ない。 目次に音韻論・形態論・統語論の章はないため、言語構造が必要な学生は別の教科書で補う必要がある。
- 版による違い。 第3版は一章を加え他の章も改訂しているため、第2版向けに作られた資料の章番号やページ参照は合わない。
- 入門としての深さ。 広い分野を13章で扱うため、マルチモダリティや言語の危機などは導入にとどまり、さらに進むには注と参考文献が頼りになる。
コースにおける位置づけ
言語人類学の書目の中で、本書はもっとも取り付きやすい概説書であり、自然な出発点である。Claire Kramsch の Language and Culture は、言語が文化的現実をどう表し象徴するかを扱うより短い入門で、第1章・第5章の前後または並行して読める。James Stanlaw と Nobuko Adachi の Language, Culture, and Society はより長く、言語の構造にも触れるため、社会面に重点を置く Ahearn を補う。
Alessandro Duranti の Linguistic Anthropology は理論と方法でより高度な教科書で、第3章・第9章の次の段階にふさわしい。Asif Agha の Language and Social Relations はレジスターと社会関係についての理論的モノグラフで、指標性と言語イデオロギーの議論をさらに追う。Ahearn 自身の Invitations to Love はネパールのラブレターの民族誌で、第7章のリテラシーや第13章のエージェンシーの背後にある研究を一冊の分量で示す。
本書の使い方
人類学、社会言語学、社会学、コミュニケーション学を学ぶ学部1・2年生と、この分野に初めて触れる大学院生に向く。言語学の素養は不要である。
実用的な読み方:
- 第1章から始め、四つの重要用語を身につける。後の章はそれらに繰り返し立ち返る。
- 中核の順序: 第3〜5章(方法、社会化、言語と思考)、続いて第6、7、9章(共同体、リテラシー、パフォーマンス)。
- 第8章は第7章と併せて読む。 オンラインの内容はリテラシーの議論の延長である。
- 第III部(第10〜13章)は第I部を土台とするので、重要用語に慣れてから読む。第13章は全体の糸をまとめるので、最後に読んでも、予告として先に読んでもよい。
- 練習: 週に一度、日常の会話(オンラインのものを含む)を記録し、その週の概念で記述する。注をたどり、各部から古典的研究を一つずつ読む。
