01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Bhattacharyya, G., Elliott-Cooper, A., Balani, S., Nişancıoğlu, K., Koram, K., Gebrial, D., El-Enany, N., & de Noronha, L. (2021). Empire's Endgame: Racism and the British State. Pluto Press.
章の要約
背景と主張
本書は8人の著者による共同の著作で、Pluto Press の FireWorks シリーズに属する。イギリスの人種主義をめぐる議論は個人の行動に偏りがちだったとして、代わりに政治的・経済的な文脈を提示する。帝国の遺産が、グローバル資本主義、デジタル環境、不安定な国民国家によって作り変えられてきたという見方である。「敵対的環境」政策、ブレグジットの国民投票、ブラック・ライヴズ・マター、ロードズ・マスト・フォールといった動きを背景に書かれ、人種主義を、危機と帝国の衰退の時代における国家権力の変化する道具として捉える。序論の前に前書きがあり、巻末には注と索引が付く。
序論:Racialised Mythologies in Times of Neglect, Cruelty and Expulsion(放置・残酷・追放の時代の人種化された神話)
序論は人種主義を流動的で文脈に左右されるものとして示し、現在の政策を帝国の歴史に結びつける。人種主義的な語りは、国家が緊縮、放置、追放を正当化する助けになると主張する。
第1部 危機の人種化(Racialising the Crisis):第1〜3章
- 第1章:Windrush(ウィンドラッシュ)。 長年定住してきたカリブ系移民の送還と不当な扱いを、孤立した行政上の失敗ではなく、移民制度がもたらしたものとして読む。
- 第2章:'Knife Crime': Prevention and Order(「ナイフ犯罪」:予防と秩序)。 ナイフ犯罪をめぐるモラル・パニック、それが頼る若い黒人男性のイメージ、職務質問や予防的措置を検討する。
- 第3章:Gang Land(ギャングの土地)。 「ギャング」という観念を、黒人コミュニティへの監視と取り締まりを支える人種化された脅威として分析する。
第2部 ナショナリズムの持続(The Persistence of Nationalism):第4〜6章
- 第4章:Nationalist Convulsions(ナショナリズムの痙攣)。 ブレグジット期のナショナリズムを、植民地へのノスタルジアと人種的不安に結びつける。
- 第5章:Progressive Patriotism(進歩的愛国心)。 左派が愛国心を取り戻そうとする試みを批判し、帝国的・人種的な前提が手つかずのまま残ると論じる。
- 第6章:The Limits of Representation(代表性の限界)。 公的生活における多様性の拡大を評価し、それだけでは構造的な人種主義に対処できないと結論づける。
第3部 国家の家父長制(State Patriarch):第7〜9章
- 第7章:Our Heart Belongs to Daddy(私たちの心はパパのもの)。 ジェンダー、人種、国民国家をあわせて考え、国家権力に潜む家父長的な価値に注目する。
- 第8章:'Pakistani Grooming Gangs'(「パキスタン系グルーミング・ギャング」)。 このレッテルをめぐるパニックが、ムスリムのコミュニティへのプロファイリングを助長し、性暴力というより広い問題を覆い隠してきた点を検討する。
- 第9章:(Powerful) Men Behaving Badly((有力な)男たちの悪ふざけ)。 ボリス・ジョンソンを含むポピュリスト的な男性政治家が、見かけの道化ぶりと権威主義的な魅力をどう組み合わせるかを分析する。
第4部 軍隊を送れ(Send in the Army):第10〜12章
- 第10章:Longing for Authority(権威への渇望)。 社会問題への答えとして軍事的・権威主義的な手段を求める声を考察する。
- 第11章:Militarisation on the Mainland(本土の軍事化)。 軍事化された警察活動と国境管理を、植民地での実践にさかのぼって跡づける。
- 第12章:Zero-sum Game(ゼロサム・ゲーム)。 一方の得は他方の損だとする論理を、移民、福祉、安全保障の議論の中で追う。
第5部 これからどうするか(What Now?):第13〜14章
- 第13章:Covid-19: A Real Crisis(新型コロナ:本当の危機)。 パンデミックを、人種と階級の不平等、そして新自由主義政策の限界を露わにした危機として扱う。
- 第14章:Shared Grief, Hope and Resistance(共有される悲しみ、希望、抵抗)。 最後の章は連帯、集団行動、運動づくりへ向かう。
主要概念
序論
- 人種資本主義:人種主義と経済危機およびグローバル資本主義のかたちとの結びつき。出版社は、これを本書が加わる論争として挙げている。
- 人種化された神話:排除や残酷さをもっともらしく見せる、人種についての語り。
第1〜2部:第1〜6章
- モラル・パニックと「フォーク・デビル」:ナイフ犯罪とギャングの事例は、脅威がどう作り上げられ、取り締まられるかを示す。
- 権威主義的ナショナリズム:衰退の感覚から生まれ、排除を支えるナショナリズム。
- 代表性の政治:目に見える少数派の人物が増えれば人種主義に答えられるという見方で、著者たちはこれに疑問を呈する。
第3〜4部:第7〜12章
- 国家の家父長制:国家権威のジェンダー的な側面。
- 軍事化:軍事的な手法が国内の警察活動や国境に広がること。
第5部:第13〜14章
- ケアと連帯:懲罰的な国家の行動に代わる集団的な応答。
批判的分析
長所
- 明快な枠組みの中の具体的な事例。 各章はウィンドラッシュ、ナイフ犯罪、グルーミング・ギャング言説、パンデミックといった1つの出来事や現象を取り上げ、より広い論理を示す。読者は事例ごとに議論を追える。
- 短い章。 各章はおよそ7〜17ページで、単独で読める。5つの部がテーマごとにまとめている。
- 現在への目配り。 著者たちはブレグジット、ブラック・ライヴズ・マター、ロードズ・マスト・フォール、新型コロナと向き合っており、2020年前後の政治的な局面を読む手がかりになる。
- 多様な角度。 8人の著者が異なる分野から執筆するため、警察活動、ナショナリズム、ジェンダー、軍事化、パンデミックをあわせて扱える。
短所
- イギリスに特化している。 事例もそこで分析される国家もイギリスのものである。人種の一般理論や他国との比較を求める読者は別の本が必要になる。
- 特定の時期に結びついている。 パンデミックまでの出来事に密接に応答しており、一部の例は古くなる。
- 概観ではなく論証である。 各章は批判的な立場をとり、競合する説明を詳しく並べることはしない。そのため、学生はそうした役割を果たす入門書と併読するとよい。
コースにおける位置づけ
人種とエスニシティのコースでは、国家が人種主義をどう生み出し用いるかを扱う、イギリス中心の現代的な研究である。Kivisto と Croll の Race and Ethnicity: The Basics、Rattansi の Racism: A Very Short Introduction、Garner の Racisms: An Introduction は一般的な入門書で、本書が前提とする語彙を与えてくれる。Omi と Winant の Racial Formation in the United States は、アメリカの事例に即して、人種が国家政策と政治闘争を通じてどう形成されるかを論じる理論で、本書のイギリスの素材と並べて読める。著者の1人 Elliott-Cooper は Black Resistance to British Policing も書いており、第2・3章の警察活動のテーマをより長く展開している。
本書の使い方
社会学、政治学、法学、文化研究の学部上級生や大学院生に向く。イギリスの帝国史と移民史の概略、そしてウィンドラッシュ事件とブレグジットを知っていると役立つ。
まず前書きと序論を読む。主張がそこに述べられているからである。そのあと、各部を順に読むか、関心に応じて選ぶ。警察活動(第2〜3章)、ナショナリズム(第4〜6章)、ジェンダーと性暴力(第7〜9章)、軍事化(第10〜12章)、パンデミックと抵抗(第13〜14章)などである。第14章は結論として最後に読むとよい。
ゼミで使う場合は、1回に1章を指定し、その事例が国家について何を示し、何を省いているか、他の場所の似た事例ならどう違うかを問う。人種主義の一般的な入門書を併せて使うと、語彙が確かになる。
