01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Baron, J. (2023). Thinking and Deciding (5th ed.). Cambridge University Press.
章の要約
第5版は3部20章からなり、序文、参考文献、索引を含めて約550ページである。全体を貫く考え方は第I部の冒頭に示されている。どの主題も三つの問いで扱われる。規範的な問いは、思考と意思決定をどの基準で評価すべきかを問う。記述的な問いは、人々が実際にどう考えるか、何がその基準を満たすことを妨げるかを問う。処方的な問いは、個人としても社会としても、思考を改善するために何ができるかを問う。
第I部 第1〜4章:What is thinking?;The study of thinking;Rationality;Logic
第1章は思考を定義し、決定・信念・目標についての思考を区別し、探索—推論の枠組みを導入する。続く節は問題解決、専門性、ヒューリスティクス、知識と理解を扱う。第2章は記述的・処方的・規範的という三種類の問い、実証研究の方法、バイアスの分類を導入する。第3章は、よい思考を目標の達成に役立つ思考として説明し、合理性と感情、合理性と信念、人は本当に非合理であることがあるのかという節を置く。第4章は推論の古くからの規範的基準として論理を扱い、心的モデル、論理的推論の誤り、非形式論理の誤謬を含む。
第II部 第5〜9章:Normative theory of probability;Descriptive theory of probability judgment;Hypothesis testing;Judgment of correlation and contingency;Actively open-minded thinking (AOT)
第5章「確率の規範理論」は、確率とは何か、偶然的不確実性と認識的不確実性、確率判断の評価、ベイズの定理を扱う。第6章は確率判断の正確さと、確率におけるヒューリスティクスとバイアスに移る。第7章は仮説検証を、まず科学での、次に心理学での姿として扱う。第8章は相関と連関の判断を扱い、注意のバイアスや錯誤相関を含む。第9章は積極的に開かれた思考を導入し、自分側バイアス、非合理な信念の固執、個人差の節を置く。
第III部 第10〜14章:Choice under uncertainty: Normative theory;Choice under uncertainty;Risk;Choice under certainty;Utility measurement
第10章は、不確実性下の選択の規範モデルとして期待効用理論を提示し、それがなぜ規範的なのかを説明する。第11章は記述的な描像を示す。経験効用・予測効用・決定効用、プロスペクト理論、結果の感情的効果、曖昧性効果である。第12章はこれをリスクに適用し、リスク規制、保険、防護行動を含む。第13章は確実性下の選択を扱い、選好逆転、利用可能な選択肢の効果、保有効果・デフォルト・サンクコスト効果などを含む心的会計を取り上げる。第14章は効用の測定を扱い、単純な直接判断から標準的賭け、時間トレードオフ、仮想評価法までの方法を述べる。
第III部 第15〜16章:Decision analysis and values;Quantitative judgment
第15章は、基本的価値と手段的価値、価値の発見、多属性効用理論、ルールとトレードオフ、人命の価値を扱う。第16章は量的判断を、重回帰、レンズモデル、人間の判断の改善、判断のメカニズム、事例との類似による分類を通じて扱う。
第III部 第17〜19章:Moral judgment and choice;Fairness and justice;Social dilemmas: Cooperation vs. defection
第17章は道徳判断とは何かを問い、功利主義と義務論の見方を比べ、保護された価値と不作為バイアスを論じる。第18章は衡平理論、公正な配分についての直観、交渉を扱う。第19章は社会的ジレンマを扱い、囚人のジレンマのような実験室での型から、動機、信頼、有権者の錯覚、地域主義、解決策までを述べる。
第20章:Decisions about the future
最終章は、個人的目標の選択、計画に固執するよい理由と悪い理由、割引、自己制御、感情と時間、道徳と思慮の関係を扱う。
主要概念
第I部
- 探索—推論の枠組み:思考を探索とそれに続く推論として捉える本書の説明で、第1章で導入される。
- 規範的・記述的・処方的モデル:本書のすべての主題を整理する三つの問い。
- 合理性:感情のない思考ではなく、人が目標を達成するのに役立つ思考。
第II部
- 偶然的不確実性と認識的不確実性:第5章で区別される二種類の不確実性。
- ベイズの定理:確率判断を更新するための規範的な規則。
- 自分側バイアスと積極的に開かれた思考:自分の立場に有利に傾くバイアスと、それに対抗する態度。
第III部
- 期待効用理論とプロスペクト理論:不確実性下の選択の規範モデルと、そこからの逸脱を説明する代表的な記述理論。
- 心的会計:基準点、デフォルト、サンクコスト、保有効果。
- 多属性効用とレンズモデル:価値を分析し、判断を統計モデルと比べるための形式的な道具。
- 功利主義と不作為バイアス:道徳的選択の規範理論と、道徳判断におけるバイアス。
- 割引と自己制御:人が現在と将来をどう秤にかけるか。
批判的分析
長所
- 一貫した整理の枠組み。 第I部が示す三つの問いが各主題に投げかけられており、目次にもそれが表れている。確率の規範理論に記述理論が続き、期待効用理論に実際の選択の説明が続くように、章はしばしば対になっている。
- 幅の広さ。 論理、確率、仮説検証、効用、リスク、道徳判断、公正、社会的ジレンマ、将来についての決定までが一冊に収められており、この分野の単独の参照書として使える。
- 取り組みやすい前提。 出版社は、本書が高校の初等代数以上の特別な前提を要しないとしつつ、上級の学部生、大学院初年次の学生、ビジネス、政治、法、医学、経済学、哲学などの分野の研究者を対象とすると述べている。
- 確立した著者と版。 第5版であり、出版社の略歴によれば、著者は1974年から2013年までペンシルベニア大学で教え、雑誌 Judgment and Decision Making の創刊共同編集者である。
短所
- 長く、百科事典的。 約550ページで、20章のうち11章を占める第III部が最も長く、手早い入門というより、参照書や2学期分のコースとして向いている。第13・14章だけで約24の番号付き小節が並ぶ。
- 規範の立場がある。 第10章と第17章は期待効用理論と功利主義を規範モデルとして示し、後の章は行動をそれに照らして評価する。これらの基準を受け入れない読者は、合理性についてほかの文献を読む必要がある。
コースにおける位置づけ
判断・意思決定のコースでは、Baronは包括的な教科書であり、より短い入門のあとに進む場所である。Jonathan Evansの Thinking and Reasoning: A Very Short Introduction とHastieとDawesの Rational Choice in an Uncertain World は、人がどう判断し選ぶかをやさしく概観する最初の本であり、Kahnemanの Thinking, Fast and Slow とThalerとSunsteinの Nudge は、ヒューリスティクスとバイアスの伝統とその政策への応用を物語として示す一般向けの本である。
BazermanとMooreの Judgment in Managerial Decision Making は、組織で意思決定をする読者向けの短い教科書であり、Gigerenzer、Todd、ABC Research Groupの Simple Heuristics That Make Us Smart は、素早く簡素なヒューリスティクスを擁護する研究モノグラフである。Baronのあとは、最も関心のある主題の一次文献に進むのが自然である。
本書の使い方
本書は上級の学部生、大学院初年次の学生、研究者に向き、応用分野の読者にも読める。出版社は高校の初等代数以上の前提は不要としている。認知心理学や意思決定の入門講義、第II部と第10〜12章のための基本的な確率の理解があると助けになる。
実際の読み方は次のとおり。
- 中核: 枠組みを導入する第I部(第1〜3章)を通読し、そのあと確率と選択における規範理論と観察された行動の対比の中心をなす第5・6・10・11・13章を読む。
- 発展: 信念形成に関心のある読者は、仮説検証、相関、開かれた思考を扱う第7〜9章。リスク、効用測定、決定分析には第12・14・15章。
- 社会・道徳の主題: 第17〜19章は、確率の章とは独立に読める。
- 締めくくり: 計画、割引、自己制御に関心のある読者は第20章。
- 学習の進め方: 各主題について、規範的基準、逸脱のパターン、処方的な対策を書き出す。本書自身の三つの問いは、ノートの構成としてもよい。
