01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Thaler, R. H., & Sunstein, C. R. (2008). Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness. Yale University Press.
章の要約
2008年版は約290ページで、序論、五つの部に分かれた十八の章、注、文献一覧からなる。2021年には全面的に書き直された「最終版(Final Edition)」が出ているため、新しい版では章の内容や番号が以下の目次と異なる場合がある。
第1部:ヒューマンとエコン(第1〜5章)
冒頭の部では、問題とその処方が示される。第1章「Biases and Blunders(偏りと失敗)」と第2章「Resisting Temptation(誘惑に抗う)」は、判断の系統的な誤りと自制を扱う。第3章「Following the Herd(群れに従う)」は社会的影響に移る。第4章「When Do We Need a Nudge?(ナッジはいつ必要か)」はどのような場面で人々に助けが要るかを問い、第5章「Choice Architecture(選択アーキテクチャ)」は選択が行われる環境の設計という考え方を導入する。この五章が本書の中心的な考えを担い、残りはその応用である。
第2部:お金(第6〜9章)
四つの章が枠組みを金融上の意思決定に当てはめる。「Save More Tomorrow」(第6章)、「Naïve Investing」(第7章)、「Credit Markets」(第8章)、「Privatizing Social Security: Smorgasbord Style」(第9章)である。退職後の貯蓄、投資、借り入れ、社会保障口座の設計が、著者たちが方法を試す場となる。
第3部:健康(第10〜12章)
第10章「Prescription Drugs: Part D for Daunting」は、米国のメディケア薬剤給付に加入する人々が直面する選択を論じる。第11章「How to Increase Organ Donations」と第12章「Saving the Planet」は、議論を臓器提供と環境問題へ広げる。
第4部:自由(第13〜15章)
最も政策色の強い部で、「Improving School Choices」(第13章)、「Should Patients Be Forced to Buy Lottery Tickets?」(第14章)、「Privatizing Marriage」(第15章)を扱う。部の題名からは、これらの章がこのアプローチが選択の自由をどこまで尊重するかを検討するものだと読める。
第5部:拡張と反論(第16〜18章)
第16章「A Dozen Nudges」はさらに多くの例を集めている。第17章「Objections」は批判者に答え、第18章「The Real Third Way」が本書を閉じる。章題は、著者たちの立場を「本当の第三の道」として示している。
主要概念
第1部:ヒューマンとエコン
- エコンとヒューマン:部の題名は、標準的な経済モデルの完全に合理的な主体と、現実の人間とを対比している。
- 偏りと失敗:常に良い選択をするという想定に対して、第1章が示す判断の予測可能な誤り。
- 群れ行動:他者の選択から受ける影響。第3章の主題である。
- 選択アーキテクチャ:意思決定の提示のされ方が選択を左右するという考えで、著者たちの提案の土台となる。
第2〜5部
- Save More Tomorrow:第6章の題名に掲げられた、退職後の貯蓄のための仕組み。
- リバタリアン・パターナリズム:著者たちの立場で、人々がオプトアウトの自由を保ったまま選択を誘導できるという考え。第18章はこれを「真の第三の道」として提示する。
批判的分析
長所
- 明快な核と多様な応用。 最初の五章が考え方を述べ、残りの十三章がそれをお金、健康、学校、結婚、環境に適用する。同じ枠組みがさまざまな分野で使われる様子を確認できる。
- 反論に正面から応じている。 第17章は反論に、第18章は著者自身の立場に充てられており、人々の選択に影響を与えることの倫理を議論したい授業に向く。
- 広い評価。 公刊された書評によれば、The Economist は本書を2008年のベスト・ブックの一つに挙げ、Guardian の評者は口調を楽しく明快だと評した。
短所
- 長い事例列挙による議論。 文体については評者の意見が分かれた。Bryan Appleyard は The Times で非常に退屈な読み物で政策を「ひたすら行進する」ようだと評し、Christopher Shea は Washington Post で、提案や研究の要約が最後には読み疲れを誘うと述べた。
- 考え方自体への未解決の問い。 Elizabeth Kolbert は The New Yorker で、人々が自分の利益を認識できないのならなぜナッジで止めるのか、他人のための決定を誰に任せられるのかと問うた。Gerd Gigerenzer は後に、行動に影響するほぼすべてのものがナッジと呼ばれるようになり、概念が意味を失ったと論じた。
- 効果の証拠。 2011年の英国貴族院小委員会による行動変容の検討は、ナッジ単独の効果的な影響を示す証拠はほとんどないと報告したと、その委員長へのインタビューは伝えている。ナッジの長期的効果に関するその後の研究は、2008年の本には含まれない。
- 政策の細部が古い。 メディケアのパートDや社会保障の章は、2000年代半ばの米国の政策に対応したものである。
コースにおける位置づけ
判断と意思決定を扱うリストの中で、本書は政策に向いた一冊である。カーネマンの Thinking, Fast and Slow は、二つの思考様式とそれが生む偏りを一般向けに説明し、第1部が拠って立つ判断の心理学を扱う。エヴァンスの Thinking and Reasoning: A Very Short Introduction は人間の推論を概観する簡潔な入門書、バザーマンとムーアの Judgment in Managerial Decision Making は組織における意思決定の誤りを扱う短い教科書である。ヘイスティとドーズの Rational Choice in an Uncertain World とバロンの Thinking and Deciding はより本格的な教科書で、ギゲレンツァーらの Simple Heuristics That Make Us Smart はヒューリスティクスをしばしば有効なものとみなす研究プログラムを提示する。
偏りをどう記述するかではなく、それにどう対処するかが問いになったときに、一般的な入門書のあとで、あるいは教科書と並行して本書を読むとよい。ギゲレンツァーは本書の批判者の一人なので、対抗する視点として併読できる。
本書の使い方
専門的な予備知識は要らない。一般読者と、経済学、心理学、法学、公共政策を学ぶ学生に向けて書かれている。時間が限られる読者は、序論と第1部を読み、関心に合う応用の章を選び、最後に第5部を読むとよい。
実践的な進め方としては、まず第1〜5章を読み、次に第2〜4部から一章を選ぶ。各提案について、デフォルトは何か、ナッジは何を変えるか、どの自由が保たれるかを書き留める。意見を固める前に第17〜18章を読み、上で挙げたAppleyard、Kolbert、Gigerenzerの批判と議論を照らし合わせる。2021年の最終版は書き直されているので、授業で指定された版を確認してから章番号を対応させること。
