01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Kahneman, D. (2011). Thinking, Fast and Slow. Farrar, Straus and Giroux.
章の要約
本書は約500ページ、5部38章に加えて、序論、結論、そして「不確実性のもとでの判断」「選択、価値、フレーム」と題された2つの付録からなる。専門家ではなく一般読者に向けて書かれており、速く自動的で直観的な思考(システム1)と、遅く熟慮的で労力を要する思考(システム2)という対比を軸に構成されている。
序論
本書の課題を示す。判断と選択に関する数十年の研究(その多くはエイモス・トヴェルスキーとの共同研究)を、一般の読者が使える形にまとめることである。
第1部 2つのシステム:第1〜9章
各章の題は「物語の登場人物」「注意と努力」「怠惰な制御者」「連想マシン」「認知的容易さ」「規範、驚き、原因」「結論に飛びつくマシン」「判断はどのように生まれるか」「より易しい問いに答える」である。2つのシステムを「登場人物」として紹介し、努力と注意がシステム2をどう制約するか、システム1が限られた証拠から一貫した印象をどう素早く作り上げるかを示す。この部の最終章は、本書全体で繰り返される癖、すなわち難しい問いを易しい問いにすり替えることを取り上げる。
第2部 ヒューリスティクスとバイアス:第10〜18章
各章は「少数の法則」「アンカー」「利用可能性の科学」「利用可能性、感情、リスク」「トムWの専攻」「リンダ:少ないほうが多い」「因果は統計に勝る」「平均への回帰」「直観的予測を手なずける」。ヒューリスティクスとバイアスの研究の中核で、直観が小さな標本をどう誤って判断するか、無関係な数字にどう左右されるか、思い浮かべやすい事例にどう頼るか、なぜ統計より因果的な物語を好むかを扱う。最後の数章は予測に移り、直観的な予測の修正を論じる。
第3部 自信過剰:第19〜24章
各章は「理解の錯覚」「妥当性の錯覚」「直観対公式」「専門家の直観:いつ信頼できるか」「外部の視点」「資本主義のエンジン」。一貫した物語が過去の説明や将来の予測に根拠のない自信を生むこと、単純な公式が専門家の判断に勝つ場合、外部の視点が計画や予測をどう正すかを検討する。この部は、資本主義における楽観の役割を扱う章で終わる。
第4部 選択:第25〜34章
各章は「ベルヌーイの誤り」「プロスペクト理論」「保有効果」「悪い出来事」「4分類のパターン」「まれな出来事」「リスク方針」「記録をつける」「逆転」「フレームと現実」。標準的な効用理論によるリスク選択の説明から、著者のノーベル賞の根拠となったプロスペクト理論へと進み、損失回避、まれな出来事への態度、心理会計、フレーミングへと続く。
第5部 2つの自己:第35〜38章
各章は「2つの自己」「物語としての人生」「経験された幸福」「人生について考える」。経験する自己と記憶する自己を区別し、その区別が人々の人生の評価にとって何を意味するかを問う。
結論と付録
結論は5つの部の後に本書を締めくくる。付録Aは「不確実性のもとでの判断」、付録Bは「選択、価値、フレーム」と題され、第2部と第4部の背景にある研究に対応している。
主要概念
第1部:2つのシステム
- システム1とシステム2:速く自動的な思考様式と、遅く労力を要する思考様式。本書全体で判断がどう生じるかを説明するために用いられる。
- 認知的容易さ:流暢さの感覚で、主張や印象を見慣れた、真実らしいものに感じさせる。
- すり替え:実際に問われた問いの代わりに、より易しい問いに答えること(第9章「より易しい問いに答える」)。
第2部:ヒューリスティクスとバイアス
- アンカリング:事前に示された数字、たとえ無関係なものでも、判断がそれに引き寄せられる。
- 利用可能性:頻度やリスクを、例の思い浮かべやすさで判断する。
- 連言錯誤:「リンダ」問題で、より詳細な記述のほうが、より広い記述より確からしいと判断される。
- 平均への回帰:極端な結果の後には平均的な結果が続きやすいが、人はそれを誤った原因で説明しがちである。
第3〜5部
- 外部の視点:自分の計画の細部ではなく、類似事例の実績に基づいて予測すること。
- プロスペクト理論と損失回避:選択は参照点に対する利得と損失で評価され、損失は同じ大きさの利得より重く感じられる。
- フレーミング:論理的に同等な記述の違いが、異なる決定を生む。
- 経験する自己と記憶する自己:出来事を生きる自己は、それを記録し評価する自己とは異なる。
批判的分析
長所
- 1つの統一的な着想。 2つのシステムの対比が第1部で導入され、注意、判断、予測、リスク選択、幸福の研究を貫いている。第1部を読み終えれば、以降を理解するための語彙が得られる。
- 短く独立した章。 目次を見ると各章は短く、題が主題を直接示すので、拾い読みしやすい。
- 主要な研究者自身による叙述。 著者はトヴェルスキーらと行った研究を報告しており、「不確実性のもとでの判断」「選択、価値、フレーム」の2つの付録は、物語から技術的な論文へ進む道を示している。
- 実践に届く。 第3部と第4部は予測、専門家の判断、計画を扱い、心理学の授業を超えて役立つ。
短所
- 証拠が古くなっている。 刊行以来、特にプライミング研究を中心に、後の研究者が再現しにくいとした研究に依拠しているとの批判がある。個々の知見は確定事項ではなく、現在の文献で確かめるべき主張として扱うのがよい。
- 教科書ではなく一般書。 目次に演習問題や章末問題はなく、分野を体系的に概観する構成でもない。判断・意思決定の文献全体を学ぶ学生には、教科書の併用が必要である。
- 一つの研究プログラムの視点。 本書が提示するのはヒューリスティクスとバイアスの伝統であり、ヒューリスティクスを適応的な道具と見る別の説明にはほとんど触れない。それらは他の書物で学ぶ必要がある。
- 分量。 本文約500ページに注が加わる。5つの部は、課程によっては同じ重要度を持たない。
コースにおける位置づけ
この判断・意思決定のコースにおいて、カーネマンの本はヒューリスティクスとバイアスの研究プログラムを、その創始者の一人が一般読者向けに語った物語的な解説である。より穏やかな、あるいはより構造化された出発点として、問題解決と推論を簡潔に概観するエヴァンスの『Thinking and Reasoning: A Very Short Introduction』と、人々の実際の判断と選択を合理性の基準と比較するヘイスティ、ドーズの『Rational Choice in an Uncertain World』がある。バザーマンとムーアの『Judgment in Managerial Decision Making』は、同じ伝統を組織の意思決定に応用した短い教科書で、経営系の授業の自然な相棒になる。
体系的な学術的扱いとしては、バロンの『Thinking and Deciding』が、規範的、記述的、処方的モデルを軸に分野を整理しており、カーネマンが物語を与えた後の参照書として使える。ギゲレンツァー、トッド、ABCリサーチグループの『Simple Heuristics That Make Us Smart』は単純なヒューリスティクスが適応的でありうると論じ、カーネマンの後に読めば誤りの強調に対する対論になる。セイラーとサンスティーンの『Nudge』はこれらの知見の政策的帰結をたどり、第4部の続編として適している。
本書の使い方
技術的な予備知識は不要だが、第2部と第3部では確率の感覚があると役立つ。この分野を初めて読む人、心理学・経済学・経営学・公共政策の学生、行動経済学の背景にある考え方を知りたい人に向いている。
実践的な読み方:
- 中核: 語彙を学ぶ序論と第1部、古典的なバイアスを扱う第10〜18章、プロスペクト理論とフレーミングの第25〜26章と第34章。
- 次に: 予測、専門家の判断、計画を扱う授業なら第3部(特に第21〜23章)。幸福と人生の評価に関心があれば第5部。
- 任意: 2つの付録。対応する部を読んだ後に読む。
読むときは、説明を読む前に本の思考実験を自分で試してみること、どの結果が統制実験によるものかを書き留めること、主要な知見を最近のレビュー論文や再現研究の報告と照合することが勧められる。演習と網羅性のために、コースの書目にある教科書を併用するとよい。
