01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Haidt, J. (2006). The Happiness Hypothesis: Finding Modern Truth in Ancient Wisdom. Basic Books.
章の要約
本書は十の「偉大な考え」を軸に構成されている。それぞれが古代の伝統に由来し、現代の心理学と神経科学に照らして検討される。序論、十の章、短い結論からなり、約300ページである。著者自身のサイトは、各章を、複数の文明に見られる一つの考えをじっくり味わい、研究に照らして問い直し、今も通用する教訓を取り出す試みだと説明している。
序論:知恵が多すぎる
序論は、受け継がれた膨大な知恵を一章に一つ、十の考えに絞るという計画を説明し、各章を順に予告する。
第1章:分裂した自己
心は分裂したものとして示され、ハイトは意識的で制御された推論と自動的な過程との分裂に焦点を当てる。比喩は象に乗る人である。乗り手は導けるが象を力ずくで動かすことは難しく、これが意志の弱さを説明する助けになる。
第2章:心を変える
「象」の自動的な反応は人生の多くを導き、否定性への偏りもある。この章は、その反応を変える三つの方法、すなわち瞑想、認知療法、抗うつ薬を検討する。
第3章:復讐を伴う互恵性
人間は並外れて社会的であり、ゴシップで補われた黄金律が、大規模な協力集団を可能にする一因となっている。ロバート・チャルディーニの影響力研究を手がかりに、互恵性がどう働き、どう悪用されうるかを説明する。
第4章:他人の欠点
人は気づかないまま、他人から自分がどう見られるかを操作しようとする。ハイトは、自己正当化、偽善、確証バイアス、ロイ・バウマイスターの「純粋な悪の神話」、そして「道徳の眼鏡」を外す方法を論じる。
第5章:幸福の追求
中盤に当たるこの章は、幸福は内から来るのか外から来るのかを問う。ハイトは、研究によればいくつかの外的条件は確かに重要だと論じ、幸福を高めうる変化を検討する。
第6章:愛と愛着
愛がどこから来て何をするかを考える。ジョン・ボウルビィの母性的養育に関する研究と、ハリー・ハーロウのサルの実験を手がかりにしている。
第7章:逆境の効用
「死なない程度のものはわれわれを強くする」というニーチェの主張を検証し、心的外傷後ストレスと心的外傷後成長を論じる。
第8章:徳の幸福
徳を卓越性とみる考え方から出発し、古代の人格に基づくアプローチと近代の道徳的推論とを対比して、ポジティブ心理学における徳と強みの研究へ向かう。
第9章:神がいてもいなくても神聖なもの
ハイトは、神聖さの感覚は人間の心の基本的な特徴だと論じ、嫌悪、高揚、畏敬の感情を検討する。
第10章:幸福は間から来る
最後の主要な章は人生の意味を考え、人生に対する目的と人生の中の目的を区別し、愛、仕事、「生き生きとした関与」、水準をまたぐ一貫性を論じる。
結論:バランスについて
結論は、古代と現代、東洋と西洋、宗教的視点と科学的視点の間のバランスを説く。
主要概念
第1〜4章
- 乗り手と象:意識的な推論は導くが、自動的な過程のほうが強い。
- 感情的プライミングと否定性バイアス:知覚を形づくる自動的な反応。
- 互恵性:協力の基盤であり、操作の基盤でもある規範。
- 自己正当化と偽善:他人の欠点が自分の欠点より見えやすい理由。
第5〜10章と結論
- 幸福仮説:幸福は内から、外から、それとも間から来るのかという問い。
- 心的外傷後成長:逆境が成長につながりうる可能性。
- 徳と強み:古代の人格倫理と、ポジティブ心理学の分類との並置。
- 生き生きとした関与と水準間の一貫性:意味を論じるために用いられる考え。
批判的分析
長所
- 明快な構成。 一章に一つの考えという十の考えが、本書を見通しやすく、区切って読みやすくしている。
- 読みやすい総合。 評者は明快さを称えた。Daniel Nettle は Nature で現代の行動科学への目配りの広さを評価し、James Flint は The Guardian で明晰さと分別を称賛した。Publishers Weekly は、引き込まれる流麗な再検討だと評した。
- 複数の伝統からの出典。 ギリシア、インド、聖書、中国の源泉を現代科学と並べて引いており、どの考えが伝統を超えて繰り返されるかが分かる。
短所
- 選択的で解釈的。 Publishers Weekly は、ハイトが還元主義的に見えることもあると指摘した。広い分野から十の考えが選ばれているので、本書は一つの解釈として扱うべきである。
- 研究の基盤が古い。 本書は2005〜06年の刊行であり、その後の研究や、社会心理学の知見の信頼性をめぐるその後の議論は反映できない。頼ろうとする研究は、最新の資料で確認すること。
- 広いが深くはない。 十のテーマを進むため、方法論に割く余地は限られる。特定の話題を詳しく知りたい読者には別の資料が要る。
コースにおける位置づけ
ポジティブ心理学と健康心理学の中で、本書は教科書ではなく一般読者向けの総合である。ペドロッティ、ロペス、マクダーモット、スナイダーの Positive Psychology は、ウェルビーイングと強みについての研究教科書であり、ドランの Happiness by Design は日常生活を改善するための行動科学的アプローチを示す。エペルの The Stress Prescription はストレスに関する実践的プログラムである。スタントンとテイラーの Health Psychology、およびマークス、マレー、エスタシオの教科書は、健康行動と病気を教科書の水準で扱う。
まず方向づけにハイトを読むか、教科書のあとに読んで、この分野の問いをより広い文脈で見るとよい。意味と逆境という点では、フランクルの Man's Search for Meaning と組み合わせられる。
本書の使い方
予備知識は要らず、学部生や一般読者に向く。第1章の乗り手と象の比喩が繰り返されるので順に読むのがよいが、各章は独立したエッセイとしても読める。
短く読むなら、序論、第1・5・10章、結論である。ウェルビーイングの授業では、逆境と徳を扱う第7・8章を加える。各章の後で、その偉大な考え、それを検証するのに用いられた研究、証拠に説得されるかどうかを書き留める。そのうえで、章が挙げる原典の研究に当たるとよい。
