01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Pedrotti, J. T., Lopez, S. J., McDermott, R. C., & Snyder, C. R. (2024). Positive Psychology: The Scientific and Practical Explorations of Human Strengths (5th ed.). SAGE Publications.
章の要約
第5版は全15章で、8つの部に分かれている。導入から始まり、感情、思考、人間関係、応用の場面へと進み、最後は著者同士の対話で閉じる。多くの章の末尾にキーターム一覧があり、いくつかの章には尺度やワークシートが付録として収められている。
第I部:ポジティブな視点から心理学を見る(第1〜3章)
第1章:ポジティブ心理学へようこそは、従来の心理学が否定的な面に偏っていたことから、人間の機能を「よりバランスのとれた完全な」形で見る立場へ移り、本書が問う問いと構成の案内を示す。第2章:ポジティブ心理学の東洋と西洋の視点――「ME+WE=US」は溝を埋められるかは、歴史的・哲学的伝統、個人主義と集団主義の文化、強みの現れ方の違いを比べ、「私」と「私たち」のバランスで結ぶ。第3章:ポジティブ心理学における分類と測定は、ギャラップの Clifton StrengthsFinder、VIA の強み分類、測定の文化的等価性、測定のガイドを扱う。
第II部:文脈の中のポジティブ心理学(第4〜5章)
第4章:強みの発達とよく生きることにおける文化の役割は、文化を心理学全体の背景として捉え、強みと文化が歴史的にどう扱われてきたかをたどる。第5章:人生のあらゆる段階でよく生きるは、年齢を通じたレジリエンス、青少年のポジティブな発達、成人期の人生課題を扱い、この分野にもっと発達的な視点が必要だと論じる。
第III部:ポジティブな感情状態とプロセス(第6〜7章)
第6章:快の原理――ポジティブ感情、幸福、ウェルビーイングを理解するは、感情に関する用語を定義し、ポジティブとネガティブを区別し、主観的ウェルビーイングを論じる。第7章:感情体験を生かすは、感情焦点型コーピング、感情知能、高齢期の社会情動的選択性、感情の語り(ペネベーカーの方法)の四つを順に扱う。
第IV部:ポジティブな認知状態とプロセス(第8〜10章)
第8章:自己効力感、楽観性、希望を通して未来を見るは、未来に向かう三つの概念を一つずつ扱い、付録で希望理論をまとめる。第9章:知恵と勇気――賢い人と勇敢な人の特徴は、それぞれの理論、賢くなる・勇敢になる過程、勇気の研究を紹介する。第10章:マインドフルネス、フロー、スピリチュアリティ――最適な体験を求めては、三つの主題を扱い、スピリチュアリティの本当の利点は何かを問う。
第V部:向社会的行動(第11〜12章)
第11章:共感とエゴイズム――利他性と感謝への入り口は、利他性と感謝、その社会的含意を論じ、付録に援助態度尺度と6項目の感謝質問紙を収める。第12章:愛着、愛、よい関係、そして赦しは、乳幼児期と成人の愛着から、愛、関係の行動、親密な関係の神経生物学、受容、赦しへと進み、付録は Heartland 赦し尺度である。
第VI部:人間の行動を理解し変える(第13章)
第13章:悪を防ぎ、善を促すは、介入を一次予防、二次予防(心理療法)、一次的増進、二次的増進に分け、予防と増進のバランスを論じる。希望療法のワークシートが付く。
第VII部:ポジティブな環境(第14章)
第14章:ポジティブな学校教育とよい仕事は二部構成で、前半は学校教育(構成要素、使命としての教職、教育への脅威)、後半は有益な雇用(満足、強みに基づく働き方、自分の仕事を改善する方法)を扱い、付録で香港のポジティブな職場を取り上げる。
第VIII部:他者の中に強みを見いだす(第15章)
第15章:公共の利益のためのポジティブ心理学の未来――著者間の対話は、この分野の基本原則、今後検討すべき課題、結びの考察で構成される。
主要概念
- 強みとその分類:第3章で紹介される Clifton StrengthsFinder と VIA の分類。
- ME・WE・US:第2章で個人主義・集団主義の志向とそのバランスを表す呼び方。
- ポジティブ感情と主観的ウェルビーイング:第6章の感情面の中心。
- 感情焦点型コーピング、感情知能、社会情動的選択性:第7章の感情スキル。
- 自己効力感、楽観性、希望:第8章の未来志向の概念。
- 知恵、勇気、マインドフルネス、フロー、スピリチュアリティ:第9・10章。
- 利他性、感謝、愛着、愛、赦し:第11・12章の向社会的・関係的主題。
- 予防と増進:第13章の行動を変えるための四区分。
批判的分析
長所
- 文化が全体を貫いている。 出版社は、本版が人種、民族、性的指向、世代、出身国、社会経済的地位、ジェンダーなどを含む、より広い文化の定義を展開していると述べている。目次もそれを裏づけ、第2章と第4章が文化的視点にあてられ、第3章には測定の文化的等価性の節がある。
- 実践の仕組みが組み込まれている。 出版社は「個人のミニ実験」と「生活向上の方策」を特色に挙げ、事例や分野の第一人者のコメントも加わる。独自性欲求尺度、援助態度尺度、感謝質問紙(6項目)、Heartland 赦し尺度など実際の尺度が章末にあり、概念がどう測られるかを確認できる。
- 構成が明快。 8つの部が、定義と測定から感情、認知、関係、介入、応用場面へと進む。出版社のページに引用された教員の評は、包括的でエビデンスに基づき、研究・事例・活動のバランスがよいと述べている。
- 扱う主題が広い。 希望、楽観性、感謝、フローなど定番の主題に加え、知恵と勇気、社会情動的選択性、青少年のポジティブな発達、ポジティブな学校教育と仕事も目次に含まれる。
短所
- 深さより広さ。 15章で感情、認知、関係、予防、学校と仕事までを扱う。第13章は介入全体を一章で述べ、第14章は学校と雇用を一緒にしているので、特定の応用分野を詳しく学びたい読者は別の資料が必要になる。
- 生物学的内容は分散している。 出版社は神経・生物学的内容の拡充を強調しているが、目次に専用の章はなく、第12章の親密な関係の神経生物学の節のように各章の中に現れる。
- 教科書としての性格。 授業用の概説書であり、特定の研究プログラムを深く掘り下げるものではない。最終章も証拠の総括ではなく著者同士の対話である。
コースにおける位置づけ
ポジティブ心理学・健康心理学のコースの書目の中で、本書はポジティブ心理学そのものを扱う主要な学術教科書である。ポール・ドーランの Happiness by Design とジョナサン・ハイトの The Happiness Hypothesis は一般読者向けの幸福論、エリッサ・エペルの The Stress Prescription はストレスに対処する実践プログラムであり、いずれも軽めの入門や併読に向く。Pedrotti らの本は、これらの一般書にはない概念、測定道具、研究志向を提供する。
コースにはさらに健康に目を向けた教科書が二冊ある。行動、ストレス、病気を扱う学部向けの、アネット・スタントンとシェリー・テイラーの Health Psychology と、社会・文化的文脈を重視する Marks、Murray、Estacio の Health Psychology: Theory, Research and Practice である。ストレスとコーピングの扱いは本書の第7章・第13章とつながるので、コースがウェルビーイングより健康寄りなら二冊目の教科書として使える。
本書の使い方
ポジティブ心理学を初めて学ぶ学生に適しており、演習があるため教育、経営、カウンセリングなど心理学以外の読者にも使いやすい。各章で測定とエビデンスを論じるので、心理学入門と基礎的な研究法を学んでおくと役立つ。
読み進め方の例は次のとおり。
- **中核:**枠組みと測定の第1・3章、感情の土台である第6章、自己効力感・楽観性・希望の第8章、考えを介入につなげる第13章。
- **文化の軸:**第2・4章。後の章を文化的文脈を意識して読めるよう、早めに読むとよい。
- **関心に応じて:**第9〜12章(知恵、勇気、マインドフルネス、フロー、スピリチュアリティ、利他性、感謝、愛着、愛、赦し)はどの順でもよい。教育や職場に関心があれば第14章。
- **最後に第15章:**著者の対話で、この分野の基本原則と未解決の問いを振り返る。
「個人のミニ実験」に取り組み、付録の尺度も見ながら進めると、各概念がどう定義され測られるかが最もよくわかる。読みやすさのためにコースの書目から一般書を、ストレスとコーピングが課程の中心なら健康心理学の教科書を組み合わせるとよい。
