01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Fancher, R. E., & Rutherford, A. (2016). Pioneers of Psychology (5th ed.). W. W. Norton & Company.
章の要約
約768ページの大部の教科書で、心理学の歴史を、それを形づくった人々を通して語る。出版社は、心理学史の研究者が書き、過去約400年を対象に、「実在の人物、その個人的な歩み、知的な洞察」の丹念に練られた物語を通して、心理学史の主要なテーマと論争を明らかにする本と説明している。第5版では、歴史がどう研究されどんな意味を持つかを扱う章、1600年以前の心理学的な考えを扱う章、臨床心理学の章の3章が加わった。図書館目録の目次は17の項目を挙げており、以下に順に示す。確認できた資料は章題までで、本文ではないため、記述は題名と出版社の説明から分かる範囲にとどめる。
序論:心理学史を学ぶ(Studying the history of psychology)
出版社が述べる新しい史学史の章に当たると見られる冒頭章で、歴史はどのように研究され、なぜ重要かを問う。以後の人物ごとの章の枠組みとなる。
古代に遡る基礎的な考え(Foundational ideas from antiquity)
1600年以前の考えを扱う新章と見られる。近世の哲学者以前に、この学問が持つ長い前史を示す。
心の哲学の先駆者:デカルト、ロック、ライプニッツ(Pioneering philosophers of mind: Descartes, Locke, and Leibniz)
のちの心理学の背景にある心の説明を提示した三人の哲学者を、一章で併せて扱う。
心の生理学者:ガルからペンフィールドまでの脳科学者(Physiologists of mind: brain scientists from Gall to Penfield)
ガルからペンフィールドに至る脳科学者の系譜をたどり、心における脳の役割についての考えがどう発展したかを見る。
感じ、知覚する心:カントからゲシュタルト心理学者まで(The sensing and perceiving mind: from Kant through the Gestalt psychologists)
カントからゲシュタルト心理学者に至る、感覚と知覚の理論の章。
ヴントと実験心理学の確立(Wundt and the establishment of experimental psychology)
ヴィルヘルム・ヴントと実験的学問としての心理学の創設。
進化する心:ダーウィンとその心理学的遺産(The evolving mind: Darwin and his psychological legacy)
ダーウィンの進化思想と、それが心理学にもたらしたもの。
心を測る:ゴルトンと個人差(Measuring the mind: Galton and individual differences)
フランシス・ゴルトンと個人差の測定。
アメリカの先駆者:ジェームズ、ホール、カルキンス、ソーンダイク(American pioneers: James, Hall, Calkins, and Thorndike)
初期アメリカ心理学の四人の人物。メアリー・ウィートン・カルキンスを含む。
行動の科学としての心理学:パヴロフ、ワトソン、スキナー(Psychology as the science of behavior: Pavlov, Watson, and Skinner)
パヴロフからワトソン、スキナーに至る行動主義の系譜。
社会的影響と社会心理学:メスメルからミルグラムとその先へ(Social influence and social psychology: from Mesmer to Milgram and beyond)
メスメルの影響をめぐる考えからミルグラムの服従研究、さらに後の社会心理学に至る道筋。
葛藤する心:フロイト派精神分析とその後継者(Mind in conflict: Freudian psychoanalysis and its successors)
フロイトの精神分析と、その後に続いた思想家たち。
心理学は「パーソナリティ」を得る:オルポート、マズローと広がる分野(Psychology gets "personality": Allport, Maslow and the broadening field)
パーソナリティ心理学と人間性心理学的なアプローチの展開。
発達する心:ビネー、ピアジェ、知能研究(The developing mind: Binet, Piaget, and the study of intelligence)
知能検査に関するビネーと、認知発達に関するピアジェ。
心、機械、認知心理学(Minds, machines, and cognitive psychology)
認知心理学の興隆と、機械やコンピューティングとの関係。
心理学を応用する:証言台から職場まで(Applying psychology: from the witness stand to the workplace)
法的場面から職場組織までの応用心理学。
臨床心理学の技と科学(The art and science of clinical psychology)
出版社が述べる新しい臨床心理学の章に当たる終章。
主要概念
基礎から実験室の創設まで
- 史学史:歴史がどう書かれるかの研究で、冒頭章の主題。
- 心と脳:心の哲学者から生理学者へと続く糸。
- 実験心理学:ヴントの実験室に始まる学問。
学派と領域
- 進化と個人差:ダーウィンとゴルトンを源とする二つの主要な研究の伝統。
- 行動主義:行動の科学としての心理学。
- 精神分析とパーソナリティ:フロイト、その後継者、パーソナリティ理論家。
- 知能、認知、応用:ビネー、ピアジェ、認知心理学、応用心理学と臨床心理学。
批判的分析
長所
- 伝記が構成原理になっている。 ほとんどの章題が扱う人物を示しており、人物ごとにたどりやすい。出版社の説明も、物語がテーマと論争を説明する手段だと述べている。
- 心理学史の専門家が執筆。 出版社の説明(Internet Archive の目録記録にも転載)は、最新の歴史研究に基づくとしており、第5版では史学史の章が加わった。
- 範囲が広い。 古代から、脳科学、創設期の実験室、心理測定、行動主義、精神分析、社会・発達・認知・応用心理学、臨床心理学までを含む。
短所
- 非常に長い。 768ページ(Internet Archive の記録では本文 xli + 650ページと76ページの巻末部分)で、手早い概観ではなく通年向けの教科書である。人物ごとの構成のため、個人をまたぐ主題は複数の章に分散しうる。
- 先駆者中心。 意図的に主要な著名人物に沿って語るため、学派や社会的な力で整理された歴史を求める読者には、別の本のほうが向く(下記参照)。
- 版の情報が資料によって異なる。 目録は第5版を2017年とし、Norton UK は2016年としている。ページ番号を指定する前に、刷を確認するとよい。
コースにおける位置づけ
このコースの書籍の中で最も本格的な入門的通史で、心理学史の最初の通年授業に向く。Wertheimer と Puente の A Brief History of Psychology はより短い概観を求める読者向けの簡潔な最初の教科書で、Schultz と Schultz の A History of Modern Psychology も簡潔だが、学派の変遷を軸に、伝記と原典の抜粋を用いて構成されている。
Leahey の A Critical History of Psychology: From Antiquity to Modernity は、この学問の内部の議論を、周囲の社会的・経済的・政治的な力と並べて位置づけ、Danziger の Constructing the Subject は、心理学実験がどのように組織されるようになったかの歴史研究である。どちらも、Fancher と Rutherford のような概説を読んだあとで、論点を持った本を読みたい人に向く。フロイトの The Interpretation of Dreams は、精神分析の章の一次資料にあたる。
本書の使い方
心理学入門を履修していると役立つが、歴史の知識は不要。心理学史の授業を取る学部生や、創始者たちの物語を通して学問を学びたい人に向く。
1学期の授業での実践的な進め方は、まず歴史の学び方を扱う冒頭章を読み、続いて哲学者からヴント、ダーウィンとゴルトンの伝統、アメリカの先駆者、行動主義、精神分析へと年代順の骨格をたどることである。後半の章(パーソナリティ、発達、認知、応用、臨床)は、関心や心理学プログラムの他科目に合わせて選べる。独習では、他の授業で出会う人物やアプローチの章を選び、章題に挙がる一次資料でさらに進むとよい。
