01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Nelson, R. J., & Kriegsfeld, L. J. (2022). An Introduction to Behavioral Endocrinology (6th ed.). Oxford University Press (Sinauer).
章の要約
第6版は13章から成り、ほかに主要ホルモン一覧の付録、用語集、参考文献があり、全体で約800ページである。著者らは一つの考え方を軸に本書を構成している。ホルモンは、行動する動物の三つの構成要素、すなわち入力機構(感覚・知覚の過程)、神経系の中枢処理、出力機構(効果器と末梢構造)の一つ以上に作用して行動に影響する、という考えである。方法は比較的で、証拠はヒトとほかの動物の両方から得られ、各章末には要約、討論課題、推薦文献、重要用語一覧が付く。
第1章:The Study of Behavioral Endocrinology(行動内分泌学の研究)
冒頭の章は、ベルトホルトの実験に始まる分野の歴史的起源を扱い、ホルモンを定義する。行動研究の問題点と非ヒト動物モデルから学べることを論じ、ホルモンが行動にどう影響しうるか、行動がホルモンにどう影響しうるかを問い、ホルモンと行動の相互作用を確かめるための証拠の種類を整理する。長い節が研究技法を概観し、破壊・補充法やイムノアッセイから、脳画像、遺伝子操作、光遺伝学、RNAシーケンシングまでを扱う。章はキスペプチンに関する事例研究で終わる。
第2章:The Endocrine System(内分泌系)
生理学的な基礎の章である。化学的コミュニケーション、内分泌系の一般的特徴、そして主要な脊椎動物の腺とそのホルモン(タンパク質・ペプチドホルモン、ステロイド、モノアミン、脂質系ホルモン)の概観を扱う。最後に、ホルモンがどのように調節されるか、受容体の種類を含むホルモン作用の細胞・分子機構が述べられる。
第3~4章:Sex Differences in Behavior: Sex Determination and Differentiation(行動の性差:性決定と性分化);Sex Differences in Behavior: Animal Models and Humans(行動の性差:動物モデルとヒト)
第3章は、哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類における性決定と性分化、非典型的な発達、代替的な繁殖戦術、そして組織化/活性化仮説を扱い、エピジェネティックな影響や環境の影響にも触れる。第4章は、なぜ性差を研究するのかを問い、神経的・分子的な差異、鳥のさえずりやプレインフィン・ミッドシップマン(魚)などの動物モデル、ヒトの性役割、性自認、性的指向、認知能力の性差を扱う。
第5~7章:Male Reproductive Behavior(雄の生殖行動);Female Reproductive Behavior(雌の生殖行動);Parental Behavior(親行動)
第5章は、齧歯類、霊長類(ヒトを含む)、鳥類の雄の性行動を追い、ホルモンとの関連と脳のしくみを扱う。第6章は、雌の行動研究の歴史、雌の性行動の構成要素、生殖周期、ロードーシスと霊長類の性行動の神経機構を扱う。第7章は親投資理論と性差から始まり、鳥類と哺乳類の親行動を、内分泌との関連や神経の変化を含めて論じる。
第8章:Hormones and Social Behavior(ホルモンと社会行動)
この章は、親和(適応的機能、ホルモン、ノナペプチド、オピオイド)と攻撃(季節的・思春期・性差、個体差、社会的経験がホルモンに及ぼすフィードバック、脳機構)の二つに分かれる。
第9~10章:Homeostasis and Behavior(恒常性と行動);Biological Rhythms(生物リズム)
第9章は、体液バランス、エネルギーバランス、摂食の制御に向かい、末梢性・中枢性のシグナル、同化性・異化性のペプチド、性腺ステロイドの役割を扱う。第10章は、生物時計と、概日・概年・季節のリズムを扱い、分子時計、視交叉上核、リズムとホルモンと健康のつながりを含む。
第11~13章:Stress(ストレス);Learning and Memory(学習と記憶);Hormones and Affective Disorders(ホルモンと感情障害)
第11章は、ストレス反応、その生理的・病理的影響、反応性を変える要因、対処における心理的要因を述べる。第12章は、学習と記憶へのホルモンの影響、性差、季節変動を検討する。第13章は、アンドロゲン、摂食障害、産後うつ、ホルモンとうつ病、月経前症候群、季節性感情障害で締めくくる。
主要概念
第1~2章
- 行動の三つの構成要素:ホルモンは入力、中枢処理、出力の各機構に作用する。
- 証拠の種類:ホルモンが行動に影響することを示すために必要な実験の種類。
- ホルモンの種類と受容体:ペプチド、ステロイド、モノアミン、脂質系ホルモンと、その受容体機構。
第3~7章
- 組織化/活性化仮説:ホルモンは発達中の神経系を形づくり、のちに行動を活性化する。
- 誘引性・求愛性・受容性:雌の性行動の構成要素。
- 親投資理論:親行動の性差を説明する進化的枠組み。
第8~10章
- チャレンジ仮説:社会的経験が逆にホルモン濃度を変えうる。
- エネルギーバランス:摂食を制御する末梢性・中枢性のシグナル。
- 概日時計:視交叉上核を主時計とする内因性の計時機構。
第11~13章
- ストレス反応:生理的反応と、健康や生殖への帰結。
- ホルモンと気分:産後うつ、うつ病、季節性感情障害への内分泌の寄与。
批判的分析
長所
- 統一的な枠組み。 入力・中枢処理・出力という図式が多くの主題に共通の論理を与え、冒頭章の証拠の種類は、ホルモンに関する主張をどう評価するかを読者に教える。
- 比較の幅。 各章は齧歯類、鳥類、魚類、霊長類、ヒトを取り上げ、ある種での知見がほかの種に一般化できる場合とできない場合があることを学べる。
- 充実した学習支援。 出版社は、学習目標、欄外の重要用語の定義、章末の要約、討論課題、推薦文献、この版で新たに加わった学習活動、さらにオンラインのアニメーションと用語集を挙げている。
- 読みやすさへの配慮。 出版社は、分子・細胞レベルの扱いが増えたにもかかわらず、生物科学以外の学生にも分かりやすいことを目指していると述べる。
短所
- 分量と専門性。 書誌情報では約828ページで、内容は生物心理学の基礎を前提とする。最初の入門書ではなく、専門コース向けの教科書である。
- 詳細が密。 生殖や摂食などの章には、特定の種や特定のペプチドに関する小節が多く、一般原理だけが必要な読者は取捨選択が要る。
- 生殖とストレス以外の主題の扱いにむら。 目次を見る限り、学習と記憶(第12章)や感情障害(第13章)は比較的短く、補う資料が必要かもしれない。
コースにおける位置づけ
神経系の基礎をすでに学んだ課程向けの専門的な教科書である。KalatのBiological PsychologyとPinelとBarnesのBiopsychologyは、ホルモンを多くの主題の一つとして含む総合的な学部向け教科書で、WinnとGrealyのBiopsychology: The Basicsは簡潔な最初の入門書である。まずこれらのいずれかを読み、そのうえでNelsonとKriegsfeldを使って内分泌の側面を深く学ぶとよい。
KandelのPrinciples of Neural Scienceは、ニューロン、回路、脳システムに関する包括的な参考書で、入門書よりはるかに長く詳しい。NelsonとKriegsfeldが簡単にしか触れない神経の詳細を補う。PassinghamのCognitive Neuroscience: A Very Short Introductionは脳画像と心的機能を扱い、本書との重なりは小さい。
本書の使い方
心理学、生物学、人類学、動物学の上級学部生と大学院生を対象とする。出版社もこうした課程に適すると述べている。生物心理学入門と基礎的な生物学を履修済みであることが望ましく、生理学の知識があれば助けになる。
一学期のモジュールで使うなら、まず第1章と第2章を読む。全体で使う語彙、方法、証拠の論理がここにある。そのうえで目的に応じて選ぶ。性分化と生殖なら第3~7章、社会行動・ストレス・気分なら第8、11、13章、摂食とリズムなら第9~10章である。学習目標と討論課題は復習の整理に使え、卒業論文などでは各章末の推薦文献から原著論文を選べる。読む間は、付録の主要ホルモン一覧を手元に置くとよい。
