01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Kandel, E. R., Koester, J. D., Mack, S. H., & Siegelbaum, S. A. (2021). Principles of Neural Science (6th ed.). McGraw Hill.
章の要約
第6版は全64章、9部構成である。出版社の基本的な立場は、あらゆる行動は神経活動の現れだというもので、遺伝子と単一の細胞から出発して、神経回路、各系、認知、疾患へと積み上げていく。分量が大きいため、以下では章を部ごとにまとめ、章題は原題どおりに示す。
第I部:全体の見取り図(第1〜6章)
冒頭の部は、脳と行動(第1章)、遺伝子と行動(第2章)、神経細胞、神経回路と行動(第3章)、神経回路が行動を媒介する神経解剖学的基盤(第4章)、行動を媒介する神経回路の計算論的基盤(第5章、今回新設)、画像と行動(第6章)からなる。神経科学の大きな主題、神経系の解剖学的な構成、機能と行動の遺伝的基盤を示す。
第II部:神経系の細胞の細胞・分子生物学(第7〜10章)
神経系の細胞(第7章)、イオンチャネル(第8章)、膜電位とニューロンの受動的電気特性(第9章)、伝播する信号:活動電位(第10章)の4章。出版社はこの部を、信号の生成と伝導を含む神経細胞の基本的性質を扱うものと説明している。
第III部:シナプス伝達(第11〜16章)
シナプス伝達の概観(第11章)、直接ゲート伝達:神経筋接合部(第12章)、中枢神経系におけるシナプス統合(第13章)、セカンドメッセンジャーによるシナプス伝達とニューロン興奮性の修飾(第14章)、伝達物質の放出(第15章)、神経伝達物質(第16章)。シナプス伝達の電気生理学的・分子的機構に焦点を当てる。
第IV部:知覚(第17〜29章)
最も長い部で、感覚コーディング(第17章)に始まり、体性感覚の受容器(第18章)、触覚(第19章)、痛み(第20章)が続く。視覚には5章(第21〜25章)があてられ、視覚処理の構成的性質、網膜、中次レベルの視覚処理と視覚プリミティブ、「視覚から認知へ」という高次の視覚処理、注意と行為のための視覚処理と進む。次に聴覚と平衡覚として、蝸牛による聴覚処理(第26章)、前庭系(第27章)、中枢神経系による聴覚処理(第28章)。最後は嗅覚と味覚(第29章)である。
第V部:運動(第30〜39章)
感覚運動制御の原理(第30章)、運動単位と筋の作用(第31章)、脊髄における感覚運動統合(第32章)、歩行運動(第33章)、随意運動:運動皮質(第34章)、視線の制御(第35章)、姿勢(第36章)、小脳(第37章)、大脳基底核(第38章)、ブレイン・マシン・インターフェース(第39章、新設)。出版社は、大脳基底核が運動の選択をどう行い強化学習を実現するかについて新しい扱いがあると述べている。
第VI部:情動、動機づけ、恒常性の生物学(第40〜44章)
脳幹(第40章)、視床下部:生存のための自律・ホルモン・行動の制御(第41章)、情動(第42章)、動機づけ、報酬、嗜癖状態(第43章)、睡眠と覚醒(第44章)。
第VII部:発達と行動の出現(第45〜51章)
神経系のパターン形成(第45章)、神経細胞の分化と生存(第46章)から、軸索の伸長と誘導(第47章)、シナプスの形成と除去(第48章)、経験とシナプス結合の洗練(第49章)へ進み、損傷した脳の修復(第50章)と神経系の性分化(第51章)で終わる。
第VIII部:学習、記憶、言語、認知(第52〜56章)
学習と記憶(第52章)、潜在記憶の貯蔵の細胞機構と個性の生物学的基盤(第53章)、海馬と顕在記憶の貯蔵の神経基盤(第54章)、言語(第55章)、意思決定と意識(第56章、新設)。
第IX部:神経系の疾患(第57〜64章)
末梢神経と運動単位の疾患(第57章)、てんかん発作とてんかん(第58章)、意識的・無意識的心的過程の障害(第59章)、統合失調症における思考と意志の障害(第60章)、気分障害と不安障害(第61章)、社会認知に影響する障害:自閉スペクトラム症(第62章)、神経変性疾患の遺伝機構(第63章)、加齢する脳(第64章)。出版社はこの部を、神経系の障害の背後にある神経科学的原理を扱う新しい部と説明している。
主要概念
- 脳と行動:第I部の前提で、行動は神経活動の現れであり、遺伝子、回路、計算、画像を通して研究される。
- 膜電位と活動電位:第II部で扱うニューロンの電気的性質。
- シナプス伝達:直接ゲート、統合、セカンドメッセンジャーによる修飾、伝達物質放出(第III部)。
- 感覚コーディング:第17章で個々の感覚に先立って示される一般原理。
- 感覚運動制御:第V部の組織原理で、脊髄から小脳、大脳基底核まで。
- 恒常性、情動、動機づけ:第VI部の皮質下系。
- 発達とシナプスの洗練:第VII部が述べる、回路の形成と経験による形づくり。
- 潜在記憶と顕在記憶:第53章と第54章の二つの記憶貯蔵。
批判的分析
長所
- 一冊で全体を網羅。 9つの部が分子・細胞から感覚、運動、情動、発達、高次機能、疾患までを覆うので、一つの主題をメカニズムから臨床的帰結まで同じ本の中でたどれる。
- 今回の版での更新。 出版社は、神経回路の計算論的基盤、ブレイン・マシン・インターフェース、意思決定と意識の新しい章、疾患の新しい部、ヒトの記憶の諸形態の拡充、脳卒中、パーキンソン病、多発性硬化症の詳しい章を挙げている。
- 図版が豊富。 マグロウヒルは、新しい図、模式図、放射線画像、PET画像300点を含む2,200点の画像があるとしており、解剖と画像に依存する分野に適している。
- 確立した評価。 出版社は40年以上続く定番の参考書と述べ、Doody's Core Title に選ばれたことにも触れている。
短所
- 規模と深さ。 64章・9部で、1学期用の教科書というより参考書である。多くの授業では一部の部だけを使うことになる。
- 生物学の前提。 細胞、イオンチャネル、膜電位から始まるので、確かな生物学の基礎、できれば神経科学か生理学の既習が必要である。心理学の背景しかない学生には第II・III部が重いかもしれない。
- 心理学的主題は後ろにある。 情動、記憶、言語、精神疾患は第VI・VIII・IX部にあり、その前に細胞、感覚、運動の内容が長く続く。
コースにおける位置づけ
生物心理学の書目の中で、本書は包括的な大学院レベルの参考書である。ジェームズ・カラットの Biological Psychology とPinelとBarnesの Biopsychology は学部向けの教科書、WinnとGrealyの Biopsychology: The Basics とリチャード・パッシンガムの Cognitive Neuroscience: A Very Short Introduction は短い入門書である。神経系が初めてなら、まずそのいずれかを読み、特定の主題を深く知りたいときにKandelに戻るとよい。
NelsonとKriegsfeldの An Introduction to Behavioral Endocrinology はホルモンが脳と行動に及ぼす作用を扱い、第VI部(視床下部、動機づけ、睡眠)と第51章「神経系の性分化」を補う。
本書の使い方
大学院生、神経科学や心理学の上級学部生、詳しい参考書を求める臨床家に向く。細胞生物学を含む大学レベルの生物学を既習であることが前提である。
読み方の例は次のとおり。
- **心理学の読者の中核:**全体像として第1〜4章、必要な細胞的基礎として第7〜10章と第11〜16章(既知なら流し読みでよい)、そして第17章の感覚コーディング。
- **主題別に選ぶ:**授業に応じて、視覚(第21〜25章)、運動(第30〜39章)、情動と動機づけ(第42〜44章)、記憶(第52〜54章)、言語と意識(第55〜56章)、疾患(第57〜64章)を選ぶ。
- **参考書として使う:**短い教科書で生じた疑問を確かめるのに該当の章を引き、部を順に通読しない。
- **軽い本と併用する:**KalatやPinelとBarnesなど。章が濃すぎるときはそれらを先に読み、詳細はKandelの該当章に戻る。
