01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Lakhani, N., Kulkarni, K., Barwell, J., Vasudevan, P., & Dorkins, H. (Eds.). (2023). Clinical Genetics and Genomics at a Glance. Wiley-Blackwell.
章の要約
本書は初版で、多数の執筆者による編著である。272ページに14部99章を収め、序文(foreword)、はしがき(preface)、用語集、索引を備える。5章の序論のあとは身体の系統と診療科ごとに構成され、第1部以降のほぼすべての章が一つの疾患または疾患群にあてられている。各章は「At a Glance」シリーズの短く図解された単位の形式に従うが、長さは一定ではない。目次からは1ページの章もあれば3〜4ページの章もあることがわかる。編者はレスター大学病院の臨床遺伝専門医や臨床医と、Journal of Medical Genetics の編集長を務めるオックスフォードの医学チューターであり、サンプル章は英国国民保健サービス(NHS)の立場から書かれている。
第1部:序論(第1〜5章)
臨床遺伝学とゲノム医療とは何か、遺伝、細胞遺伝学と分子遺伝学的手法、遺伝学的検査報告書の読み方、遺伝・ゲノムカウンセリング。Wileyが公開しているサンプルの第1章は、臨床遺伝専門医の仕事(染色体異常、先天異常、単一遺伝子疾患、家族性がんをもつ家系の診断と管理)を定義し、家系図の描き方とバリアント解釈の重要性の高まりを説明し、英国における遺伝学的検査と保険の問題を論じる。さらにゲノム医療を個別化医療、統合ケア、集団データサイエンスに分け、古典的な単一遺伝子遺伝学を超える六つの領域を、ゲノムワイド関連解析や薬理遺伝学から腫瘍DNA検査、エピジェネティクスまで挙げている。第2〜5章は残りの道具立て、すなわち遺伝形式、検査技術、報告書の読み方、カウンセリングを提供する。
第2部:循環器(第6〜9章)
構造的心疾患と先天性心疾患、心筋症、虚血性心疾患、不整脈と心臓突然死。突然死のリスクがあるものを含む遺伝性心疾患は、第1章が臨床遺伝専門医の扱う疾患として挙げているグループである。
第3部:皮膚科(第10〜20章)
結節性硬化症、Gorlin症候群、Darier病、葉状魚鱗癬、Mal de Meleda、皮膚ポルフィリン症、Cowden症候群とCowden様症候群、表皮水疱症、Muir-Torre症候群、X連鎖性魚鱗癬、Birt-Hogg-Dubé。これらのいくつかは腫瘍素因症候群の皮膚所見であり、この部を第11部と結びつけている。
第4部:内分泌(第21〜28章)
性分化疾患、先天性副腎過形成、アンドロゲン不応症、Klinefelter症候群、Turner症候群、糖尿病、尿崩症、Fabry–Anderson病。
第5部:代謝(第29〜34章)
代謝疾患の遺伝学への導入に続き、アミノ酸代謝異常、糖質代謝異常、脂質代謝異常、ペルオキシソーム病、プリン・ピリミジン代謝異常の概説が置かれる。ほとんどの部と異なり、これらの章は単一の疾患ではなく疾患群の概観である。
第6部:消化器(第35〜39章)
炎症性腸疾患、Wilson病、遺伝性ヘモクロマトーシス、セリアック病、膵がん。
第7部:血液(第40〜41章)
悪性血液疾患と非悪性血液疾患の2章で、分野全体を広く扱う。
第8部:免疫(第42〜58章)
最大の部で、先天性免疫異常症について17章を収める。重症複合免疫不全症、分類不能型免疫不全症、胸腺の発生に影響する先天異常、DNA修復異常、X連鎖性および常染色体劣性無ガンマグロブリン血症、Wiskott-Aldrich症候群、高IgM症候群、高IgE症候群、慢性皮膚粘膜カンジダ症、免疫調節異常・自己免疫を伴う疾患、家族性血球貪食性リンパ組織球症、メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症、慢性肉芽腫症、白血球遊走異常、Toll様受容体とそのシグナル伝達経路の異常、自己炎症性疾患と周期性発熱症候群、補体欠損症である。
第9部:神経(第59〜65章)
脊髄性筋萎縮症、運動ニューロン疾患/筋萎縮性側索硬化症、脆弱X症候群、Huntington病、認知症、Parkinson病、筋強直性ジストロフィー。
第10部:小児科と産科(第66〜71章)
胎児異常スクリーニング、出生前診断検査と着床前遺伝学的診断、Edwards症候群、Patau症候群(13トリソミー)、Williams症候群、DiGeorge症候群。生殖に関わる検査と、四つの染色体異常・微細欠失症候群を組み合わせた部である。
第11部:腫瘍(第72〜81章)
がんへの導入、神経線維腫症、泌尿器がん、Peutz-Jeghers症候群、Von Hippel-Lindau症候群、遺伝性大腸がん、遺伝性上部消化管がん、遺伝性乳がん、網膜芽細胞腫、多発性内分泌腫瘍症。第1章はすでに、神経線維腫症2型と多発性内分泌腫瘍症1型を、一連の徴候から診断する例として用いている。
第12〜14部:眼科、腎臓、筋骨格(第82〜99章)
眼科:先天性・小児白内障、色覚異常と全色盲、網膜色素変性症、原発先天緑内障、Bardet–Biedl症候群。腎臓:多発性嚢胞腎、ネフロン癆、髄質嚢胞腎、Alport症候群、シスチン症、シスチン尿症。筋骨格:Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群、先天性四肢欠損、Duchenne型筋ジストロフィー、Charcot–Marie–Tooth病、強直性脊椎炎、骨系統疾患。
主要概念
第1部:序論
- 臨床遺伝学とゲノム医療:主に単一遺伝子疾患や染色体異常をもつ家系の診断と管理と、ゲノム情報・臨床情報・その他のデータを統合して予測と個別化を図るケアとの違い。
- 家系図:リスクのある人を特定し、遺伝形式を推測するために用いる標準的な家系の図。
- バリアント解釈:検査で見つかった遺伝的変化が患者の病態やリスクに関係するかどうかを判断すること。
- 薬理遺伝学:薬物処理に関わる遺伝子のバリアントから、薬物代謝、副作用、効果の欠如を予測すること。
- 遺伝学的検査報告書とカウンセリング:検査結果を読み解くことと、患者と家族にリスクを説明すること。それぞれに独立した章がある。
第2〜14部:系統別の疾患
- がん素因症候群:神経線維腫症、Von Hippel-Lindau症候群、多発性内分泌腫瘍症などの遺伝性疾患で、皮膚科と腫瘍の部にまたがって扱われる。
- 先天性免疫異常症:第8部の17の免疫不全症と免疫調節異常症。
- 先天代謝異常症:第5部で、障害される代謝経路ごとにまとめられている。
- 出生前検査と着床前検査:第10部で扱われる生殖医療への応用。
批判的分析
長所
- 系統別の構成。 Wileyは系統に基づくアプローチを掲げており、目次はそれを裏づけている。循環器、皮膚科、腎臓などの実習中の学生は、その診療科の遺伝性疾患に直接たどり着ける。
- 実践的な序論の章。 第1部には、遺伝の基礎や検査技術に加えて、遺伝学的検査報告書の読み方と遺伝・ゲノムカウンセリングの章があり、研修医が実際に直面する作業を扱っている。
- 臨床的な広さ。 90を超える疾患の章は、短い本ではまず見出しにならない希少疾患(Mal de Meleda、Birt-Hogg-Dubé、ネフロン癆)にまで及ぶ。出版社は本書を学習書としてだけでなく、病棟で使える参考書としても位置づけている。
- ゲノム医療の現在の見方。 サンプル章は、バリアント解釈、ゲノムワイド関連解析、薬理遺伝学、循環腫瘍DNA、連結された医療データの活用を取り上げ、単一遺伝子遺伝学をゲノム医療の中に位置づけている。
短所
- 初学者には短い序論。 遺伝、細胞遺伝学、分子遺伝学的手法のすべてが第2〜3章、約6ページに収められている。遺伝の仕組みと遺伝的変異の基礎がない読者は、原理から説く本を併用する必要がある。
- 配分の偏り。 免疫には17章があるのに対し、血液は2章であり、糖尿病、認知症、Parkinson病のような一般的な疾患が希少な症候群と同じ形式で扱われている。この配分は、疾患に出会う頻度よりも執筆陣の選択を反映している。
- 英国・NHSの文脈。 サンプル章はNHSの検査室認定、英国の保険の規則、10万ゲノムプロジェクトを論じている。他の医療制度のもとにある読者は、検査と保険について現地の指針を参照する必要がある。
- 多執筆者によるばらつき。 多くの執筆者による編著であるため、章の構成は1ページから4ページまでばらつきがある。またサンプル章は確立した診療と、人工知能や消費者データについての将来志向の見解とを混在させており、学生は後者を確立した実践ではなく意見として読むべきである。
コースにおける位置づけ
本書は医学遺伝学コースにある二つの短い入門書の一つである。もう一つはReadとDonnaiの New Clinical Genetics で、各章を患者と家族から始め、必要に応じて科学を積み上げていく症例ベースの入門書であり、遺伝と染色体からゲノム検査、がん遺伝学、薬理遺伝学、倫理までを扱う。両者は異なる必要に応える。ReadとDonnaiは症例を通して原理を教え、本書は診療科ごとに構成された疾患別の参考書である。最初の講義ではReadとDonnai、あるいは教科書の原理の章から始め、実習で出会った疾患を調べるために本書を使うのがよい。
Emery's Elements of Medical Genetics and Genomics と Thompson & Thompson Genetics and Genomics in Medicine は、遺伝、遺伝的変異、検査を詳しく説明するより本格的な教科書で、科学的な土台はこれらが担うべきである。Harper's Practical Genetic Counselling はリスク推定とカウンセリングの専門的な手引きで、第5章を発展させる。StrachanとReadの Human Molecular Genetics は、ゲノムの構成と疾患の機序を扱う上級の書である。
本書の使い方
出版社は医学生と新人の医療従事者を対象とし、本書を入門書・復習用の本として、また病棟での参考書として紹介している。基礎的な細胞生物学と、DNA、染色体、メンデル遺伝の概略を知っていると最も役立つ。第2〜3章はこれらを簡単に復習するにとどまる。
実際的な学習計画:
- まず第1部を通読する。 第1章は臨床遺伝学とゲノム医療が何を含むかを示し、第2〜3章は遺伝と手法を簡潔に復習し、検査報告書とカウンセリングを扱う第4〜5章は後のすべての章に関わる。
- その後は実習や講義の単位ごとに読む。 その時の診療科に合った部を読む。循環器の実習中は循環器の部、産科では第10部、腫瘍学では第11部である。第8部は免疫学の講義に合わせて読むのがよい。
- 部をまたいで関連する章を結びつける。 結節性硬化症、Gorlin症候群、Cowden症候群、Birt-Hogg-Dubé(第3部)は第11部のがん素因の章と、Duchenne型筋ジストロフィー(第14部)は脊髄性筋萎縮症や筋強直性ジストロフィー(第9部)とあわせて読む。
- 検査報告書で練習する。 第4章を読んだあと、疾患の章を読みながら繰り返し第4章に戻り、なじみのない用語は用語集で確認する。
- 現地の実践を確認する。 英国以外での検査の流れ、保険、スクリーニングについては、各国の指針を参照する。
