01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Strang, G. (2023). Introduction to Linear Algebra (6th ed.). Wellesley-Cambridge Press.
章の要約
第6版(著作権表示は2022年、刊行は2023年)は10章、10の短い付録、数式と記号の索引から成る。序文は本書を MIT の講義 18.06 の教科書と位置づけ、MIT OpenCourseWare の講義動画が本書に対応していることを紹介したうえで、従来の版からの主な変更を説明する。講義は今では連立方程式からではなく、行列の列、一次独立、列空間から始まり、第1章で A = CR という分解を導入する。全体を貫く二つの柱は、四つの基本部分空間と、行列の五つの分解(A = CR、LU、QR、S = QΛQᵀ、特異値分解 A = UΣVᵀ)である。序文によれば最初の7章で「ほとんどの線形代数の講義は十分以上に埋まり」、その後に最適化と深層学習へ向かう選択的な章が続く。本書のウェブサイトにある見本の節は、冒頭でその節の要点を囲みで示し、問題集で終わる。いくつかの節には「Review of the Key Ideas」、例題、チャレンジ問題もある。
第1章:ベクトルと行列
ベクトルと一次結合、内積から求める長さと角度、行列とその列空間、そして行列の積 AB と CR。序文の冒頭の例は、3×4 行列を1列ずつ組み立てて、独立な列と従属な列、そして C と R がそれをどう記録するかを示す。
第2章:一次方程式 Ax = b を解く
消去法と後退代入、消去行列と逆行列、行列の計算と A = LU、置換と転置、そして行列を微積分と結びつける、導関数と差分行列についての締めくくりの節。
第3章:四つの基本部分空間
ベクトル空間と部分空間、A = CR を用いた消去法による零空間の計算、Ax = b の完全な解、独立性・基底・次元、そして四つの部分空間の次元。見本の第3.5節は、行空間と列空間がどちらも階数 r の次元をもつことを証明し、左零空間をグラフの接続行列とキルヒホッフの電流則で例示する。
第4章:直交性
ベクトルと部分空間の直交性、直線と部分空間への射影、最小二乗近似、正規直交基底とグラム・シュミット法(A = QR)、そして行列の擬似逆行列。
第5章:行列式
短い章:3×3 の行列式と余因子、行列式の計算と利用、行列式による面積と体積。
第6章:固有値と固有ベクトル
Ax = λx への導入、行列の対角化、対称正定値行列、複素数・複素ベクトル・複素行列、そして線形微分方程式の解法。
第7章:特異値分解(SVD)
特異値と特異ベクトル、線形代数による画像処理、SVD による主成分分析。序文は、第6章で固有値を学んだ読者に第7.1節まで読み進めるよう勧め、SVD が四つの部分空間すべてに特別な基底を与えることで線形代数の基本定理を完成させると述べている。
第8章:線形変換
線形変換の考え方、線形変換の行列、よい基底の探索。
第9章:最適化における線形代数
この版で新設:多変数関数の最小化、誤差逆伝播法と確率的勾配降下法、制約・ラグランジュ乗数・最小ノルム、線形計画法・ゲーム理論・双対性。序文はこれを「線形代数が微積分と出会う場所」として示している。
第10章:データから学ぶ
これも新設:区分線形な学習関数、作って試すこと、平均・分散・共分散。
付録
10の短い付録:AB と A + B の階数、行列分解のまとめ、基本的な分解におけるパラメータの数え方、数値線形代数のコードとアルゴリズム、ジョルダン標準形、テンソル、条件数、マルコフ行列とペロン・フロベニウスの定理、消去法と分解、コンピュータグラフィックス。
主要概念
第1–3章:列、消去法、部分空間
- 列空間:A の列のすべての一次結合。
- A = CR:行列を、独立な列から成る C と、それらを組み合わせてすべての列を作る行列 R の積として表すこと。
- 消去法と A = LU:行の操作で Ax = b を解き、それを下三角行列と上三角行列の積として記録すること。
- 四つの基本部分空間:列空間、行空間、零空間、左零空間。次元はそれぞれ r、r、n − r、m − r。
- 階数:独立な列の数で、独立な行の数に等しい。
第4–6章:直交性、行列式、固有値
- 射影と最小二乗法:Ax = b に解がないとき、b を列空間へ射影して最も近い解を求めること。
- グラム・シュミット法と A = QR:正規直交な列を作ること。
- 固有値と対角化:A が伸縮させるだけのベクトルと、それが十分にあるときの A = XΛX⁻¹。
- 対称行列と S = QΛQᵀ:実数の固有値と正規直交な固有ベクトル、そして正定値行列。
第7–10章:SVD、変換、データ
- 特異値分解:すべての行列に対する A = UΣVᵀ。正規直交な特異ベクトルと正の特異値をもつ。
- 主成分分析:SVD からデータの主な変動の方向を見つけること。
- 線形変換と基底の変換:変換の行列は基底によって変わり、よい基底を選ぶと簡単になる。
- 勾配降下法と誤差逆伝播法:学習関数の訓練を支える最適化の方法。
批判的分析
長所
- 明快な全体像。 四つの部分空間と五つの分解が章ごとに繰り返し現れるので、学生は新しい考えがどこに位置づくかを常に把握できる。分解の一覧は表紙にも印刷されている。
- 最初から列と独立性。 第1章で列空間と A = CR を導入することで、消去法の手順より先に階数と独立性という中心的な考えが与えられる。これは序文が強調する変更点である。
- 応用が組み込まれている。 差分、グラフとキルヒホッフの法則、最小二乗法、画像処理、主成分分析、微分方程式、最適化、データからの学習の節が、理論を工学やデータサイエンスに結びつける。
- 無料の手厚い支援。 本書は OpenCourseWare の MIT 18.06 講義動画と連動しており、公式サイトでは見本の節、第1〜8章の問題集の抜粋解答、MIT の過去の試験、正誤表、第5版からウェブに移された節が提供されている。
短所
- 証明中心ではない。 文体は説明的で計算重視であり、形式的な証明や抽象的なベクトル空間の役割は、理論を先に立てる授業より小さい。
- ウェブに移された話題。 序文によれば、フーリエ級数、ノルムと条件数、反復法、暗号は印刷版からウェブサイトに移された。アレン・ステンガーによる MAA Reviews の紹介(2023年4月)も、第5版の多くの例題とチャレンジ問題が削られたと報告している。
- 行列式は圧縮されている。 第5章は3節しかなく、行列式の理論を重視する授業では補足資料が必要になる。
- くだけた説明。 ストラングは一人称で語りかけるように書く(「ここが鍵だ!」)。要点は囲みで示されるが、試験に向けて復習する学生は、定義と定理の一覧を自分で作るとよいだろう。
コースにおける位置づけ
このコースでは、ストラングは応用重視で行列中心の最初の教科書である。ジム・ヘフェロンの無料の『Linear Algebra』は、より証明を重視し、練習問題に完全な解答を付けた最初の授業向けの本で、数学的な成熟を身につけたい学生に向いている。ハワード・アントンの『Elementary Linear Algebra』は、もう一つの標準的な入門教科書である。どちらもストラングと並行して、同じ話題を別の角度から説明するものとして使える。
ストラングの後には、シェルドン・アクスラーの『Linear Algebra Done Right』が、行列式を後回しにして、ベクトル空間と線形写像を通して証明とともに主題を展開する。数学を専攻する学生にとって自然な2番目の授業である。マーティン・アンソニーと M・ハーヴィーの『Linear Algebra: Concepts and Methods』は応用を含む厳密な扱いを提供し、ホーンとジョンソンの『Matrix Analysis』は、ストラングの第6〜7章から先へ進む人のための、行列理論の大学院レベルの参考書である。
本書の使い方
主な前提は高校までの代数である。第2.5節、第6.5節、第9章では微積分の知識が多少役立つ。
- 1学期の授業: 第1〜7章を順に。第1章と第3章が列空間と四つの部分空間という中心的な考えを担い、第3.5節と、射影と最小二乗法を扱う第4章は欠かせない。第5章は手早く済ませてよい。
- 第6章で止まらない: 序文は、講義全体をまとめる SVD の第7.1節まで読み進めるよう求めている。
- 選択的な章: より抽象的な見方には第8章、最適化・機械学習・統計に関心のある学生には第9〜10章。
- 講義動画を活用する: 各節の前か後に対応する 18.06 の講義を見る。サイトの抜粋解答と MIT の過去の試験は、答え合わせのできる練習になる。
- 問題集に取り組む: 例題から始め、基本問題がやさしく感じられるようになったらチャレンジ問題に進む。
第5版を使う学生は、節が再編成され、いくつかの話題がオンラインに移されたことに注意したい。
