01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Anton, H., & Kaul, A. (2019). Elementary Linear Algebra (12th ed.). John Wiley & Sons.
章の要約
第1章:Systems of Linear Equations and Matrices
最も長い章で、連立一次方程式とガウスの消去法から始め、行列の演算、逆行列とその代数的性質、基本行列、対角・三角・対称行列、そして線形変換とその合成の入門へと進む。最後に二つの応用の節が置かれる。連立一次方程式の応用(ネットワーク解析、電気回路、化学反応式の係数合わせ、多項式補間)とレオンチェフの投入産出モデルである。
第2章:Determinants
行列式は余因子展開によって導入され、次に行基本変形によって計算され、その性質がクラメルの公式とともに展開される。この章は三つの節しかない。
第3章:Euclidean Vector Spaces
2次元、3次元、n 次元空間のベクトルから、R^n におけるノルム、内積、距離、直交性、連立一次方程式の幾何学、外積へと進む。
第4章:General Vector Spaces
第3章の考え方を、抽象的な実ベクトル空間に一般化する。部分空間、生成系、一次独立性、座標と基底、次元、基底の変換を扱う。章末は行空間・列空間・零空間、そして階数、零度、行列の基本部分空間である。
第5章:Eigenvalues and Eigenvectors
固有値と固有ベクトル、対角化、複素ベクトル空間のあとに、二つの応用が続く。微分方程式、および力学系とマルコフ連鎖である。
第6章:Inner Product Spaces
内積、内積空間における角度と直交性、グラム=シュミットの方法と QR 分解、最良近似と最小二乗法、最小二乗法による数学的モデリング、関数近似とフーリエ級数を扱う。
第7章:Diagonalization and Quadratic Forms
直交行列と直交対角化から、2次形式と2次形式を用いた最適化へ進む。最後の節はエルミート行列、ユニタリ行列、正規行列を扱う。
第8章:General Linear Transformations
一般のベクトル空間の間の線形変換を扱い、合成と逆変換、同型、一般の線形変換の行列、相似、行列作用素の幾何学を含む。
第9章:Numerical Methods
LU 分解とべき乗法のあとに、連立一次方程式の解法の比較、特異値分解、特異値分解によるデータ圧縮が続く。
補足的な話題と付録
目次にはオンラインの補足的な話題が載っている(線形計画法についての三つと、平面幾何におけるベクトル、剛体の釣り合い、割当問題、行列式関数、レオンチェフ経済モデル)。付録 A は証明の扱い方、付録 B は複素数である。巻末には演習問題の答えと索引がある。
主要概念
第1–2章:連立方程式、行列、行列式
- ガウスの消去法:連立一次方程式を系統的に簡約して解を求める方法。
- 逆行列と基本行列:行基本変形と可逆性の結びつき。
- 余因子展開とクラメルの公式:小さな連立方程式や可逆性の判定のための行列式の道具。
第3–4章:ベクトル空間
- 内積、ノルム、直交性:R^n の幾何学。
- 一次独立性、基底、次元:一般のベクトル空間の構造。
- 行空間・列空間・零空間、階数と零度:行列の基本部分空間。
第5–7章:固有値、内積空間、対角化
- 固有値と固有ベクトル:行列が向きを変えずに伸ばす方向。
- グラム=シュミットの方法と最小二乗法:直交基底の構成とデータへの当てはめ。
- 直交対角化と2次形式:対称行列の対角化とその最適化への利用。
第8–9章:変換と数値計算法
- 相似と一般の線形変換の行列:異なる基底に関して変換を表現すること。
- LU 分解、べき乗法、特異値分解:計算のための分解とその用途。
批判的分析
長所
- 教育方法が第一。 ワイリーは本書を、学部の最初の課程に適した初等的な扱いであり、基礎をできるだけ明晰に示すことを目指すものと説明している。
- 微積分は任意。 微積分は前提ではない。微積分を使う演習と例ははっきり表示され、連続性を損なわずに省略できる。
- 豊富な演習。 第1章の見本では、各節が演習問題で終わり、そこには正誤問題が含まれ、多くは「Working with Proofs」と「Working with Technology」の群も加わるので、計算、推論、ソフトウェアの利用がすべて練習できる。
- 抽象化の前に幾何。 ユークリッド空間(第3章)が一般のベクトル空間(第4章)より先に来て、行列式も早い(第2章)。
- 応用が全体に。 第1章はネットワーク、回路、化学反応式、多項式補間、レオンチェフモデルで終わる。後の章では、微分方程式、マルコフ連鎖、最小二乗法、フーリエ級数、2次形式、データ圧縮に理論を応用する。
- 証明への支援。 付録 A「Working with Proofs」は、学生が証明を読み書きし始める助けになる。
短所
- 抽象化が遅い。 一般の線形変換は固有値のあとの第8章まで現れないので、線形写像を軸に証明から入る扱い(アクスラーのような)を望む学生には順序が異なる。
- 数値計算法は簡潔。 第9章は5節、約40ページで、主要な分解に出会うには足りるが、数値線形代数の課程には足りない。
- オンラインの教材がある。 線形計画法の三つを含む補足的な話題は、印刷された本文には含まれない。
- 分量。 本書は500ページを超え、ほとんどの課程はそのすべてを使わない。
コースにおける位置づけ
アントンは、線形代数のリストのなかで、応用を重視する従来型の最初の課程にあたる。ストラングの Introduction to Linear Algebra は四つの基本部分空間を軸に展開して特異値分解に至り、ヘファロンの Linear Algebra は最初の課程のための無料の教科書で、結果を証明しながら数学的成熟を育てる。アントンの順序(連立方程式、次に幾何、次に抽象化)は、公理を見る前に計算に習熟したい学生に向く。
より理論的な本として、アクスラーの Linear Algebra Done Right はベクトル空間と線形写像からこの分野を展開し、行列式を後回しにする。アンソニーとハーヴェイの Linear Algebra: Concepts and Methods は、アントンと同様に、行列と連立方程式からベクトル空間、対角化、直交性へ進む学部向けの本である。ホーンとジョンソンの Matrix Analysis は、アントンの範囲をはるかに超える大学院レベルの参考書である。
本書の使い方
本書は、数学、理科、工学、経済学を学ぶ学部1〜2年生向けである。前提は学校の代数と幾何で、微積分は印のついた演習にだけ役立つ。
第1〜4章が最初の課程の中核で、続いて第5章(固有値)と第6章(内積空間)を読む。第7章は対称行列と2次形式の結果を与える。第8章と第9章、そして第1章と第5章の後半の節は選択でき、課程が理論(第8章)を重視するか、計算と応用(第9章、1.10節と1.11節、5.4節と5.5節)を重視するかによって選ぶ。
演習は与えられた順に解き、各演習セットで正誤問題と「Working with Proofs」の問題を少なくともいくつか解くこと。それらは考え方を理解しているかどうかの有効な確認になる。巻末の答えで自分の解答を確かめ、テクノロジー演習でソフトウェアに慣れる。
