01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
VanPatten, B., Keating, G. D., & Wulff, S. (Eds.). (2025). Theories in Second Language Acquisition: An Introduction (4th ed.). Routledge.
章の要約
本書は編著で、全11章(約330ページ)に用語集と索引が付く。Routledge の「第二言語習得研究」シリーズの一冊である。総論の章に続く9章は、それぞれ一つの理論または枠組みを取り上げ、その理論と関わりの深い研究者が執筆している。出版社によれば、各理論の章は共通の構成に従う。理論の基本的な説明、その理論が用いるデータや研究モデル、よくある誤解、そして理論が実際にどう使われるかを示す事例研究である。最終章は、理論が言語教育に何を意味するかを振り返る。
第1章:Introduction: The Nature of Theories
VanPatten、Williams、Keating、Wulff による章。第二言語習得(SLA)研究において理論とは何であり、何をするものかを論じる。
第2章:Linguistic Theory, Universal Grammar, and Second Language Acquisition
リディア・ホワイト(Lydia White)が生成文法的アプローチを紹介する。L2習得の研究は、学習者が築く言語知識の理論と結びつけられる。
第3章:Usage-Based Approaches to L2 Acquisition
ニック・エリス(Nick C. Ellis)とステファニー・ウルフ(Stefanie Wulff)が、言語使用の経験を習得の中心に置く用法基盤アプローチ群を扱う。
第4章:Input Processing in Adult L2 Acquisition
ビル・ヴァンパッテン(Bill VanPatten)が入力処理を紹介する。学習者が聞いたり読んだりした言語にどう気づき、意味を理解するかの説明である。
第5章:Processability Theory
マンフレッド・ピーネマン(Manfred Pienemann)とアンケ・レンツィング(Anke Lenzing)が処理可能性理論を論じる。処理上の負荷が、ある段階で学習者に何が産出できるかをどう左右するかが関心の中心である。
第6章:The Declarative/Procedural Model: A Neurobiologically Motivated Theory of First and Second Language
マイケル・ウルマン(Michael T. Ullman)が、神経生物学的な根拠を持ち、母語と第二言語をあわせて扱うモデルを提示する。
第7章:Skill Acquisition Theory
ロバート・デケイザー(Robert DeKeyser)と鈴木祐一(Yuichi Suzuki)が、技能学習の一般的な説明を言語に適用する技能習得理論を扱う。
第8章:Input, Interaction, and Output in L2 Acquisition
スーザン・ガス(Susan M. Gass)、アリソン・マッキー(Alison Mackey)、メグ・モンティー(Meg Montee)が相互交流主義の伝統を扱う。中心となる概念は、インプット、会話でのやりとり、学習者のアウトプットである。
第9章:Complex Dynamic Systems Theory
ダイアン・ラーセン=フリーマン(Diane Larsen-Freeman)とフィル・ハイヴァー(Phil Hiver)が、言語発達を複雑で変化し続けるシステムとして捉える枠組みを紹介する。
第10章:The Modular Cognition Framework
マイケル・シャーウッド・スミス(Michael Sharwood Smith)とジョン・トラスコット(John Truscott)が、言語をより広いモジュール的な心の見方の中に位置づける枠組みで、一連の理論を締めくくる。
第11章:Theories, Frameworks, and Models: Implications for Language Teaching?
ヴァンパッテンが、本書全体が投げかける問いに戻る。SLAの理論は言語教育に何を示唆するのか、という問いである。
主要概念
第1〜4章
- SLAにおける理論:学習者がなぜそのように言語を習得するのかを説明しようとする枠組み。冒頭の章の主題である。
- 普遍文法:学習者の言語知識は生得的な言語原理に制約されるという、生成的アプローチの主張。
- 用法基盤の習得:学習は言語使用の経験から生じるという見方。
- 入力処理:学習者が初めて言語に接するとき、形式と意味をどう結びつけるか。
第5〜8章
- 処理可能性:処理上の負荷が、構造が使えるようになる順序を決めるという考え方。
- 宣言的記憶と手続き的記憶:言語知識の基盤として提案される二つの記憶システム。
- 技能習得:練習を通じて、明示的知識から流暢で自動化された使用へ発達すること。
- インプット、インタラクション、アウトプット:相互交流主義の伝統の三つの概念。
第9〜11章
- 複雑動的システム:言語発達を、相互作用し、ばらつきがあり、変化するシステムとして見ること。
- モジュール的認知:心を専門化したモジュールの集まりとして捉え、言語に当てはめる見方。
- 教育への示唆:学習理論が教室での実践をどこまで導けるかという問い。
批判的分析
長所
- 理論と結びついた執筆者。 出版社は、各章がその理論と結びついた第一線の研究者によって書かれている点を強調している。どの説明も、その理論の内側で研究している人の手によるものである。
- 共通の章立て。 各理論の章は、基本的な説明、関連するデータや研究モデル、よくある誤解、事例研究を備える。これにより理論どうしを直接比較でき、それぞれがどんな証拠に依拠するかも見える。
- 誤解への正面からの対応。 「よくある誤解」の項が設けられているため、二次的な要約でしか理論を知らない読者に役立つ。
- 前後を挟む枠組み。 冒頭の理論の性質についての章と、最後の教育への示唆の章が理論の章を挟み、本書は理論とは何かと、理論は何のためにあるのかの両方を問う。
- 見直された構成。 出版社によれば、第4版では利用の少ない複数の理論が新しい枠組みに置き換えられており、選択が現在の研究に沿っている。
短所
- 意図的な取捨選択。 約330ページに理論の章が9つでは、すべてのアプローチは扱えない。目次を見る限り、社会文化的な視点などに独立した章はない。
- 内部の人による擁護。 各章は当該理論の支持者が書いているため、理論を横断した本格的な批判は別の資料に求める必要がある。
- 入門レベルの深さ。 出版社は大学院生向けの入門書と位置づけている。一つの理論について研究の詳細を知りたい読者は、各章が挙げる文献に当たる必要がある。
コースにおける位置づけ
応用言語学のリストの中では、「どの理論が何を主張しているのか」を知りたいときに読む本である。ライトバウンとスパダの How Languages Are Learned は、SLA研究とその教室への示唆を扱った短く読みやすい入門であり、ブラウンとリーの Principles of Language Learning and Teaching は言語教師向けの概説である。この分野が初めての読者には、どちらも出発点として適している。エリスの The Study of Second Language Acquisition は分野全体を扱う大部の単著の参考書であるのに対し、本書は各理論に一章ずつを割き、その提唱者が執筆している。
リストにある応用言語学の二つの入門書(Schmitt と Rodgers、Hunston と Oakey)は、SLAをより広い分野の中に位置づける。やさしいSLA入門書を読み、次に本書、そして最も関心のある理論の原典に進むという順序が自然である。
本書の使い方
本書は、SLA、応用言語学、言語教育を学ぶ大学院生や、自分の専門外の理論を把握したい研究者に向いている。想定される前提は、SLAまたは応用言語学の入門コースである。
第1章を最初に、第11章を最後に読むとよい。前者は理論とは何かを説明し、後者は理論が教育に何を意味するかを問う。その間の理論の章は、概観が目的なら順に読み、特定の研究課題があるなら最も近い章から読んで、対照的な章を一つ組み合わせる。たとえば生成的な章と用法基盤の章を並べて読む。各章の事例研究は、その理論が実際にどう使われるかの手本として、用語集は著者ごとに用法が異なる用語を整理するために使うとよい。
