01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Payne, T. E. (1997). Describing Morphosyntax: A Guide for Field Linguists. Cambridge University Press.
章の要約
本書は文法を書くための作業用アウトラインである。序論のあとに、記述文法の順序に沿った12の章が続く。言語の背景から語の構造、節の構造、談話へと進み、最後に、データと模範的な文法書についての2つの付録が置かれている。序論によれば、本書の目的は「ガイドであり橋である」ことにある。つまり、記録の乏しい言語の形態論と統語論を記述しようとするフィールド言語学者のための手引きであり、言語構造に関する既存の文献と、言語記述という複雑で混乱しがちな実際の作業とをつなぐ橋である。出発点は、世界の約6,000の言語のうち約4,000が散発的にしか記述されていないか、まったく記述されていないという推定である。
序論;第1章:人口統計学的・民族誌的情報
序論は本書の目的と構成を述べる。第1章は、あらゆる文法や文法スケッチが最初に行うべき作業、すなわち言語の特定とその民族言語学的背景を扱う。話者が自分たちを指す名称と、外部の人々が用いてきた(しばしば異なる)名称の区別も含まれ、その言語についての先行研究を読者に示すことも求められる。
第2章:形態類型論
短い章で、形態論の基本用語(意味を表す最小の形式としての形態素、派生と屈折の違い)を定義し、その言語で語がどう作られるかを特徴づける文法の節のためのアウトラインを提案する。
第3章:文法範疇
初期の章のなかで最も長い。品詞を扱い、すべての言語にある範疇としての名詞と動詞、ある言語にはあり別の言語にはない範疇としての形容詞と副詞、接続詞・助詞・接置詞などの小さな範疇を取り上げる。範疇の境界は整然としていないこと、所属が談話での用法に左右されうること、記述では立てる範疇ごとに経験的な証拠を示す必要があることが強調される。
第4章:構成素順序の類型論
構成素順序の類型論、すなわち言語が節の主要な要素をどのように並べるかを扱う。
第5–6章:名詞と名詞句に関する操作;名詞述語とそれに関連する構文
第5章は、最初の数章の「形式から入る」概観を離れ、名詞句に結びつく機能と、そこで表される操作(複合語もその一つ)を扱う。第6章は、包含、等価、属性、所在、存在、所有を表す一群の節と、諸言語がそれらを作る既知の方法を記述する。
第7–8章:文法関係;ヴォイスと結合価を調整する操作
第7章は、主語、直接目的語、間接目的語、能格、絶対格、斜格が、格標示、動詞上の参与者指示標示、構成素順序によって特定できることを示す。第8章は本書で最も長い章で、意味役割と文法関係の対応を調整する操作を扱う。身近な例は受動態であり、結合価を変える関連の操作がまとめて扱われる。
第9–10章:その他の動詞・動詞句に関する操作;語用論的に有標な構造
第9章は、それまでの章で扱っていない動詞の操作を集める。典型的には派生にあたる名詞化と複合、典型的には屈折にあたる時制・アスペクト・法、場所・方向、参与者指示、証拠性である。第10章は、既出、新情報、前提、焦点、主題、同定可能性といった語用論的ステータスと、それらを標示する構造に移る。
第11–12章:節の結合;結論:使用される言語
第11章は、動詞や節を結びつける構文を扱い、独立節と従属節の対比、および定形性は連続体であるという考え方によって整理されている。最終章は、談話の言語学的分析と談話の解釈を区別し、意味役割の「動作主」と文法関係の「主語」の区別によってその違いを例示する。
付録1–2:誘導データとテキストデータ;参考文法書の例
付録1は、テキストデータと誘導(エリシテーション)データを定義し、それぞれが何に最も適しているかを示し、フィールド調査のなかで両者をどう管理するかを提案する。付録2は、実際に使った言語学者の非公式な委員会が成功していると判断した参照文法書を挙げ、記述の組み立て方の別の例としている。
主要概念
第1–4章:背景、語の構造、範疇
- 形態素:意味を表す最小の形式。形態類型論の章はこの単位を軸にしている。
- 文法範疇:品詞のこと。典型的な中心部をもつが境界は整然としておらず、形式的テストと談話での用法によって特定される。
- 構成素順序の類型論:節の主要要素の配列による言語の分類。
第5–9章:操作と関係
- 文法関係:主語、目的語、能格、絶対格、斜格。格、動詞の一致、語順によって特定される。
- ヴォイスと結合価の操作:受動態のように、意味役割と文法関係の対応を調整する仕組み。
- 時制・アスペクト・法と証拠性:場所・方向、参与者指示とともに扱われる動詞の屈折範疇。
第10–12章と付録:談話での使用とデータ
- 語用論的ステータス:既出、新情報、焦点、主題、同定可能性。発話内容を聞き手が持っていると想定される知識に結びつける。
- 定形動詞と非定形動詞:節の結合を整理するために用いられる連続体。
- テキストデータと誘導データ:強みの異なる2種類の証拠。
批判的分析
長所
- **文法を書くという作業を軸に組み立てられている。**各章は記述文法の節に沿っており、出版社によれば、フィールド言語学者が主要なトピックに取り組めるよう設計された問いが示されている。Austin Haleは Notes on Linguistics の書評で、フィールド言語の形態統語論を記述するための実践的な戦略の重要な一部として高く評価した。
- **証拠を重んじる姿勢。**範疇の章は、立てる範疇ごとに経験的な証拠を求めている。データの付録は、テキストデータも誘導データも、相手の仕事を肩代わりさせるべきではない理由を説明する。
- **幅広い例。**出版社は、よく知られた言語とほとんど知られていない言語の両方から例を引いていると述べており、巻末には言語・語族・地域の索引がある。
- **本書の外への案内。**第2付録は組織の異なる模範的な参照文法を挙げており、本書のアウトラインが唯一のものとして示されているわけではない。
短所
- **形態論と統語論に限られる。**範囲は題名のとおりである。音韻論や語彙は扱わず、フィールド調査の方法についてはデータの付録にとどまるため、調査実践の手引きを別に併用する必要がある。
- **数あるうちの一つのアウトライン。**出版社は「一つの可能なアウトライン」を示すものと説明している。付録2のように別の構成の文法書のほうが、特定の言語に合うこともある。
- **参照文献が古い。**刊行は1997年であり、その後の類型論の研究や資源は扱われない。
- **初学者には用語が多い。**文法関係、結合価、語用論的ステータスの各章は専門用語を惜しみなく使っており、形態論と統語論の授業をすでに履修した読者のほうが使いこなしやすい。
コースにおける位置づけ
類型論・フィールドワークのコースのなかで、文法そのものを書くことが目的ならPayneを使う。Bowernの Linguistic Fieldwork: A Practical Guide と、Meakins、Green、Turpinの Understanding Linguistic Fieldwork は、周辺の作業、すなわちプロジェクトの計画、話者やコミュニティとの協働、倫理、録音と保管を扱う。Payneの本はこれらにあまり触れず、形態統語論で何を探し、何を書き留めるかに集中しているので、組み合わせて使うのがよい。
Kroegerの Analyzing Grammar は、形態論と統語論の分析技能を身につけるための手引きで、Payneのアウトラインの準備になる。Velupillaiの An Introduction to Linguistic Typology は全領域にわたって類型論を概観し、通言語的な背景を与える。Croftの Typology and Universals は類型論の方法と説明を扱う上級の書で、Payneが依拠する比較の背後にある理論を知りたい読者に向いている。
本書の使い方
本書は、これから言語を記述する学生や言語学者、あるいは参照文法書を読んで各部分に何が書かれるべきかを知りたい人のためのものである。形態論と統語論の授業と、類型論の用語への多少の慣れがあれば、各章はずっと読みやすくなる。
実践的な進め方は次のとおり。まず序論と第1–3章を読む。プロジェクトの枠組みと、ほかのすべてが依拠する範疇が示されているからである。そのうえで第4–11章は、研究対象の言語が問いを提起する順に選んで読み、各章の問いをデータのチェックリストとして使う。第7章は文法関係についての背景説明から始まるが、記述の手順だけが必要な読者は飛ばしてよい。データを集める前に付録1を、記述の組み立てを決める前に付録2を読み、第12章を使って構造の分析と談話の解釈を切り分ける。フィールド調査の方法論の本と、記述する言語に近い言語の文法書を併用するとよい。
