01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Willingham, D. T. (2021). Why Don't Students Like School? A Cognitive Scientist Answers Questions About How the Mind Works and What It Means for the Classroom (2nd ed.). Jossey-Bass.
章の要約
第2版は約320ページで、序論、10の章、結論、用語集、注、索引からなる。各章は教師が抱きそうな問いを題に掲げ、冒頭に短い答えと一つの「認知的原理」を示し、末尾に教室への示唆、平易なものと専門的なものに分けた読書案内、ディスカッション用の問いを置く。序論によれば、本書はもともと九つの原理のリストから始まった。選ばれた原理は、実験室だけでなく教室でも成り立つこと、多くの証拠に支えられていること、学習に実際に大きな違いをもたらすこと、教師がまだ知らないかもしれない応用を示唆することを条件としている。第2版ではテクノロジーを扱う第10章が加わった。
第1章:生徒はなぜ学校が好きではないのか
冒頭の章は、心は考えることを避けるようにできていると論じる。思考は遅く、努力を要し、当てにならないので、人はできる限り記憶に頼る。それでも思考がうまくいけば人はそれを楽しむため、好奇心が続くのは易しすぎも難しすぎもしないと感じられる問題に限られる。環境・作業記憶・長期記憶からなる単純な心のモデルが導入され、本書全体で用いられる。教室への示唆としては、授業に本物の問題を組み込むこと、作業記憶の限界を尊重すること、答えを与える前に問いを育てること、出した問題の難しさがどうだったかを日誌に記録することなどが挙げられる。
第2章:標準テストが事実しか問わないのに、生徒に必要なスキルをどう教えればよいのか
この章は、教師が最も重視するスキルには背景知識が欠かせないと論じる。書評はその主張を「事実的知識がスキルに先立つ」とまとめている。知識は読解と批判的思考を支え、知っていることが多いほど新しいことを学びやすくなる。索引によれば、チャンキングや余暇の読書もこの章で扱われる。
第3章:生徒はなぜテレビの内容は何でも覚えているのに、私の話はすべて忘れてしまうのか
記憶を扱う章であり、本書で最もよく知られた言葉「記憶は思考の残滓である」の出どころである。生徒は授業で考えさせられたことを覚える。示唆は、生徒が実際に何について考えることになるかを軸に授業を計画すること、物語の構造を借りること(索引には物語における因果関係が挙がっている)、それ自体に意味の乏しい内容には記憶術を使うことである。
第4章:生徒にとって抽象的な考えを理解するのはなぜそれほど難しいのか
新しい考えはすでに知っている考えを通して理解されるので、抽象的な原理は例、比較、アナロジーを通してつかまれる。この章は、ある場面で学んだ知識が別の場面になかなか転移しない理由も説明する。
第5章:反復練習には価値があるのか
この章は、熟達には練習が必要だと主張する。練習によって基本的な処理が自動化され、作業記憶がより難しい思考のために空き、学習も長続きする。索引には、練習を間隔をあけて行うことや、何を練習すべきかの決め方が挙がっている。
第6章:生徒に本物の科学者、数学者、歴史家のように考えさせる秘訣は何か
熟達者が初心者と違う考え方をするのは、長年にわたって蓄積した知識と練習のためである。この章は、生徒が目指すべきは熟達者のやり方をまねることではなく深い理解だと結論する。序論はこの点を、生徒に本物の科学者のように考えさせようとすべきではないと端的に述べている。
第7章:さまざまなタイプの学習者に合わせて、教え方をどう調整すべきか
生徒の能力には違いがあるが、学び方に一貫した違いがあるという証拠はないとこの章は報告する。学習スタイルやハワード・ガードナーの多重知能を検討し、授業の教え方を決めるのは生徒のスタイルとされるものではなく、教える内容だと論じる。
第8章:学習の遅い生徒をどう助ければよいのか
第2版で更新された研究にもとづき、この章は、知能は持続的な努力によって変えられ、遺伝よりも環境に負うところが大きいと論じる。索引はその証拠の一つとしてフリン効果を挙げている。能力よりも学習の過程に目を向けること、失敗を学習の一部として扱うこと、熟達への道は努力であると示すことを勧める。ある書評は、この章が成長マインドセットへの介入の効果を小さいと報告している点にも触れている。
第9章:新しいテクノロジーが生徒の学習を向上させるかどうかを、どうすれば判断できるのか
新設のこの章は、テクノロジーは心の働き方を変えておらず、学習への影響はしばしば予想外だと論じる。索引によれば、「デジタルネイティブ」、授業中のノートパソコン、電子書籍、1日のスクリーンタイムとそれが押しのけるもの(余暇の読書を含む)、ビデオゲーム、デジタル・ディバイドを扱っている。助言は、ツールを導入する前に証拠を確かめること、スクリーンタイムの制限を検討することである。
第10章:私自身の心はどうなのか
最終章は教師自身に目を向ける。教えることは認知的なスキルであり、意図的練習によって上達する。個々の下位スキルに取り組むこと、同僚とフィードバックをやり取りすること、自分の授業の録画を見ること、他の教師とのディスカッション・グループに参加することがその内容である。
結論
結論は10章の原理を一つの要約表にまとめ、その後に本文で使われた専門用語の用語集が続く。
主要概念
第1〜3章:思考、知識、記憶
- 作業記憶:環境からの情報と長期記憶からの情報が組み合わされる限られた場所。過負荷になると考えることが難しくなる。
- 長期記憶:事実と手続きの貯蔵庫。日常の問題の大半を決まりきったものにしてくれる。
- 事実的知識はスキルに先立つ:批判的思考のようなスキルは、考える対象についての知識に依存する。
- 記憶は思考の残滓である:生徒が授業中に考えたことが、生徒の覚えることである。
第4〜6章:理解、練習、熟達
- アナロジーと例:既知の考えから抽象的な新しい考えへ至る道筋。
- 転移:深い構造は同じで表面が異なる新しい問題に知識を適用すること。
- 自動性:作業記憶をほとんど必要としなくなるまで練習された処理。
- 熟達者と初心者:熟達者の異なる考え方は、生徒がまだ持っていない知識と練習に支えられている。
第7〜10章:個人差、テクノロジー、教師
- 学習スタイルと多重知能:学習者のタイプに関する通説的な理論。本書はこれを検討し、教え方の根拠としては退ける。
- 変えられる知能:知能は環境と努力によって大きく形づくられるという見方。
- テクノロジーの証拠:新しいツールを宣伝文句ではなく研究の示すところで判断すること。
- 意図的練習:特定の下位スキルに焦点を当て、フィードバックを伴って行う練習。ここでは教師に適用される。
批判的分析
長所
- 何を収めるかの基準が明確。 序論は各原理を選んだ理由を述べている。どの場面でも成り立ち、大量のデータに支えられ、効果が大きく、教師が知らないかもしれない応用を示唆する、という基準である。その結果、扱う範囲が規律あるものになっている。
- 教師のために作られている。 教室の日常から取った問い、各章冒頭の短い答えと一つの原理、末尾の「教室への示唆」によって、本書は使いやすい。
- 学習と議論のための材料。 各章の読書案内は平易な文献と専門的な文献を分けており、この版で加わったディスカッション用の問いはゼミや教師の読書会に向く。Learning and the Brain の書評もそうした使い方を勧めている。
- 必要なところが更新されている。 フォーダム研究所のインタビューでウィリンガムは、第2版では知能に関する研究を改訂し、テクノロジーの章、ディスカッション用の問い、用語集を加えたが、もとの原理はそのまま成り立っていると説明している。
短所
- 選び抜かれた少数の原理。 本書は意図的に、ウィリンガムが十分に確立していると考える考えだけを扱う。教育心理学の概説ではなく、たとえば発達、動機づけの理論、評価はそれ自体としては主題になっていない。
- 現職教師向けに書かれている。 例と示唆は教室を、しばしば初等・中等教育の教室を前提としている。授業の一環として読む大学生は、助言を自分の状況に置き換える必要がある。
- 一般向けの文体。 証拠は本文で要約され、注や読書案内で参照先が示されるが、研究が一つずつ提示されるわけではない。研究を自分で評価したい読者は、それらの文献をたどる必要がある。
コースにおける位置づけ
本書は、このコースの書目の中で、思考、記憶、練習について認知心理学が何を言っているかを最も直接的に紹介する本である。Ormrod、Anderman、Anderman の Educational Psychology: Developing Learners は発達、動機づけ、学習者の個人差、評価を扱う幅広い教科書であり、ウィリンガムの本はその認知に関する章を前もって見渡す、短く論旨のはっきりした入門として先に読むことができる。Schunk の Learning Theories は行動主義、認知、社会的認知、構成主義の説明を比較しており、ウィリンガムの認知的アプローチを分野全体の中に位置づけてくれる。
全米研究評議会と全米アカデミーズの二つの報告書 How People Learn と How People Learn II は、研究の合意をまとめた総説として似た領域を扱う。ウィリンガムは第1章で後者を概観として勧める一方、ときに周辺的な話題に踏み込みすぎると述べている。Dweck の Mindset は、成長マインドセットをより慎重に扱う第8章と自然な組み合わせになる。Piaget の The Child's Conception of the World は発達研究という別の伝統に属する古典であり、Handbook of Educational Psychology は各章の話題をさらに追うための研究上の参考書である。
本書の使い方
本書は心理学の予備知識を必要としない。教職課程の学生や現職教師、教育心理学の最初の授業を受ける学生、そして知識、練習、学習スタイルをめぐる現在の議論の背後にある認知科学を知りたい人に向いている。
- 中核: 第1〜5章。第1章の心のモデルは他のすべての章で使われ、第2〜5章が知識、記憶、理解、練習についての中心的な原理を担う。
- 次に: 第6〜8章。これらの原理を熟達、学習者の個人差、知能に適用する。両方がコースにあるなら、第8章は Dweck と合わせて読むとよい。
- 必要に応じて: テクノロジーを扱う第9章と、教師自身の成長を扱う第10章。結論の要約表は復習用のシートとして使える。
読みながら、各章の示唆を自分が教えた、あるいは見学した授業に照らして検証し、ディスカッション用の問いをゼミや勉強会で使うとよい。中核の各章について「専門的」な文献を一つたどり、要約の背後にある研究を確かめておきたい。
