01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Mills, C. W. (2000). The Sociological Imagination (40th anniversary ed., with an afterword by Todd Gitlin; first published 1959). Oxford University Press.
章の要約
本書は10の章と付録からなり、この版にはさらにギトリン(Todd Gitlin)の後書きが付く。第1章で中心となる着想を示し、第2〜6章でミルズの時代の社会学を批判しつつ、かつての「古典的」伝統を思い起こさせる。第7〜10章では、社会科学がどのように営まれるべきか、また何のためにあるのかを論じる。付録は研究者の日々の作業習慣についての実践的な小論である。
第1章:約束
ミルズは、私的な生活が罠の連続のように感じられるという感覚から出発し、そこから抜け出す道は、伝記(個人の生涯)を歴史に、また身近な生活環境(ミリュー)における個人的な「困りごと(troubles)」を社会構造に根ざす公的な「争点(issues)」に結びつける精神の働き、すなわち社会学的想像力にあると論じる。例として失業と離婚が挙がる。一件だけなら私的な問題だが、発生率が高ければ構造的な問題である。章の終わりでは、この約束を歪めかねない社会科学内部の傾向が挙げられる。
第2章:グランド・セオリー
標的はタルコット・パーソンズの『社会体系論』である。ミルズはその議論をより平易な言葉で言い直し、社会が共有された価値によって束ねられているという見方は、対立・権力・支配を見落とすと批判する。代わりに、抽象の水準に注意を払うこと、そして制度の諸秩序がさまざまな仕方で統合されうることに目を向けることを求める。
第3章:抽象化された経験主義
第二の標的は、意見データを積み上げていく調査研究であり、ここではポール・ラザースフェルドと結びつけて論じられる。ミルズによれば、この種の研究は実質よりも方法を優先し、データを個人に結びつけるため心理学主義に傾き、なぜその意見が持たれるのかを説明できない。
第4章:実用性の型
ミルズは、社会科学の「イデオロギー的」な用法(権力者を正当化するか批判するか)と「官僚的」な用法(制度をより効率的に動かす)を区別する。リベラルで改革志向の社会学から、管理エリートへの奉仕へと流れが移ったことを跡づけ、大学の内部にも同じ官僚化が進んでいると指摘する。
第5章:官僚的エートス
前の二章を結びつける章である。標準化された調査と体系化された研究機関を特徴とし、研究者の思考習慣が変わり、学問が自律性を失っていく「官僚的」社会科学の姿が描かれる。
第6章:科学の哲学
ミルズは、二つの極のどちらにも属さない「古典的社会科学」を対置する。それは、私的な困りごとと公的な争点を結ぶ、歴史的に特定された問いを立て、自由と理性という価値に導かれる。
第7章:人間の多様性
建設的な転換点となる章である。社会科学は人間の多様性を研究するものとして定義され、伝記・歴史・社会構造を結びつける。通常の作業単位は国民国家とされる。ミルズはまた、学問分野間の境界がより流動的になりつつあると論じる。
第8章:歴史の用途
歴史は単なる背景説明ではない。ミルズは、適切な問いを立て、構造を捉えるために歴史的理解が必要な理由を挙げ、社会が自らを過去を通じて理解するかどうかについての但し書きも加える。
第9章:理性と自由について
ミルズは「第四の時代(Fourth Epoch)」を描く。理性が増せば自由も増すという、自由主義と社会主義が共有した啓蒙の前提はもはや成り立たない。合理化された組織は拡大するが個人の理性は拡大せず、そこから彼が「陽気なロボット(Cheerful Robot)」と呼ぶ人間像が生まれる。
第10章:政治について
ミルズは、社会科学者の役割として、哲人王、権力者への助言者、独立した公的な発言者の三つを検討し、第三の道を支持する。真理・理性・自由を指導理念とし、自由教養教育を学者に許されたささやかな影響力の手段とする。
付録:知的職人技について
学者を職人になぞらえ、固定した手順に頼らずに研究を進めるための助言を述べる実践的な小論である。
Todd Gitlinによる後書き
2000年版で加えられたもので、ミルズの貢献と、再刊時点のアメリカ社会との関係を論じる。
主要概念
第1章:約束
- 社会学的想像力:個々人の生活が社会や歴史とどう結びついているかを見抜く力。
- 困りごとと争点:ミリュー内の私的な困難と、制度に根ざす公的な問題。
- 伝記と歴史:あわせて読まなければならない二つの次元。
第2〜6章:批判
- グランド・セオリー:特定の社会から切り離された、きわめて一般的な概念。
- 抽象化された経験主義:方法を実質より優先する大規模な意見調査。
- 官僚的エートス:行政官のために働く、標準化され効率重視の研究。
- 古典的社会科学:小さな規模と大きな規模を結ぶ、歴史に根ざした問い。
第7〜10章と付録
- 人間の多様性:社会科学が説明しようとする人々と社会の幅。
- 陽気なロボット:合理化の下で独立した理性を手放した人間。
- 知的職人技:固定した手順ではなく、判断を働かせて磨く技能としての研究。
批判的分析
長所
- 一つの着想を早い段階で提示。 第1章は「困りごと/争点」「伝記/歴史」という対を平易に示している。この用語は社会学入門の教育で広く使われ、国際社会学会(ISA)の1998年の「20世紀の本」リストでも第2位に挙げられた。
- 批判と積極的な構想。 前半は論争的だが、第6〜10章と付録は、代わりに何をすべきか、研究者の公的な役割をどう考えるかまで踏み込む。
- 読みやすい議論。 学習ガイドの要約は、率直で挑発的な文章を指摘しており、事前の理論的知識がなくても哲学的な論点を追いやすい。
- 現代からの位置づけ。 2000年版にはギトリンの後書きがあり、1959年のテクストを位置づける助けになる。
短所
- 標的が時代に縛られている。 第2〜5章は1950年代の特定の学派(パーソンズの体系構築、ラザースフェルド型の調査研究)に向けた議論である。「抽象化された経験主義」という見方には批判もあるため、これらの章はミルズが描いた論敵の肖像として読むのが適切である。
- 言葉づかいと枠組み。 一般に「men(男たち)」と書き、冷戦期の不安を前提としているため、読者は現在の状況に置き換えて読む必要がある。
- 方法の手引きではない。 付録は助言を与えるが、手順・演習・実例研究は本書にはない。
コースにおける位置づけ
本サイトの社会学入門の本の中で、ミルズは概説ではなく、どう考えるかについての短い議論である。第一課程向けの公開ライセンス概説書であるOpenStaxのIntroduction to Sociology 3eや、理論・方法・制度・不平等を幅広く扱うGiddensとSuttonのSociologyのような教科書が、ミルズが読者に補ってほしい内容を提供する。BaumanとMayのThinking Sociologicallyは、似た視点を日常生活に当てはめ、より取っつきやすい、テーマ別の章立てで示している。
第二次世界大戦後の社会理論を概観するJoasとKnöblのSocial Theory: Twenty Introductory Lecturesや、対話を通じてブルデューのアプローチを紹介するBourdieuとWacquantのAn Invitation to Reflexive Sociologyは、より歯ごたえのある続編であり、ミルズ以降の社会理論をめぐる議論を追いたい読者に向いている。
本書の使い方
ミルズは、基本的な社会学の語彙に触れたことのある1・2年次の学生で、この学問が何のためにあるのかを知りたい人に向いている。技術的な前提知識は不要だが、パーソンズや調査法を知っていると第2〜5章が読みやすい。
- 中核: まず第1章、次に第6・7・10章。
- 背景: 第2〜5章と第8・9章は、機能主義と調査法についての教科書の説明と並べて、二度目に読むと得るところが大きい。
- 実践: 付録は、初めてのレポートや論文に取りかかる前に役立つ。
読み進めながら、失業や住居費など現在の身近な困難を一つ選び、ミルズの用語でそれを捉え直してみるとよい。困りごとか争点か、どの制度が関わるか、どの歴史的時期に属するか、を書き出す。
