01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Chalmers, D. J. (1997). The Conscious Mind: In Search of a Fundamental Theory. Oxford University Press.
章の要約
本書は1996年にオックスフォード大学出版局から刊行された。この項目が対象とするのは1997年のペーパーバック版で、約414ページである。序論と謝辞のあと、全10章が4つの部(基礎、意識の還元不可能性、意識の理論に向けて、応用)に分かれ、注と参考文献が続く。著者はより技術的な節にアスタリスクを付け、最も専門的な文献上の議論は巻末注に回している。
序論:意識を真剣に受けとめる
序論は、脳がどのように情報を処理し報告を生み出すかという「易しい」問題と、そのすべてがなぜ経験を伴うのかという「難しい」問題とを区別する。そして本書の制約として、意識を真剣に受けとめること、科学を真剣に受けとめること、意識を自然法則に従う自然現象として扱うことの3点を掲げる。また、基本概念として同一性よりも付随性(supervenience)を用いる理由も説明される。
第I部 第1章:心の二つの概念
第1章は、心の現象的概念(経験の感じられる側面)と心理的概念(行動の原因や説明に関わる側面)とを区別する。各節では、心的用語の「二重生活」、そこから生じる二つの心身問題、そして意識の二つの概念が扱われる。
第I部 第2章:付随性と説明
第2章は、以後の議論で用いられる枠組みを整える。付随性、還元的説明、論理的付随性、そして概念的真理と必然的真理の関係である。最後の節は、ほとんどすべてのものが物理的なものに論理的に付随すると論じ、意識がその例外かもしれないという主張への準備をする。著者はこの章を最も技術的な章と呼んでいる。
第II部 第3–5章:意識は還元的に説明できるか;自然主義的二元論;現象的判断のパラドックス
第3章は、意識が物理的なものに論理的には付随しないと論じ、認知モデリング、神経生理学的説明、新しい物理学への訴え、進化的説明を検討する。第4章はこの結論を唯物論への論証へと発展させ、事後的必然性からの反論に答え、得られた立場が随伴現象説かどうかを問い、選択肢の「論理的地理」を整理する。第5章は防御的な章で、意識についての判断がどのように物理的に説明されうるかという難問を扱い、自己知、記憶、指示からの論証によって応答する。
第III部 第6–8章:意識と認知のあいだの整合性;欠如クオリア、色あせるクオリア、踊るクオリア;意識と情報:若干の思弁
第6章は、気づきと意識を結びつける整合性の原理を提案し、それを心身の法則として位置づける。第7章は、神経細胞をシリコンで置き換える思考実験を用いて、組織的不変性の原理と非還元的機能主義を擁護する。第8章は、情報という観点から基礎理論がどのようなものになりうるかを素描し、未解決の問いで終わる。著者はこれを群を抜いて思弁的な章と呼んでいる。
第IV部 第9–10章:強いAI;量子力学の解釈
第9章は強いAIを擁護し、計算を実装するとはどういうことか、中国語の部屋やその他の反論を取り上げる。第10章は量子力学の枠組みを概観し、それまでの考えを用いて解釈を論じ、エヴェレット解釈とそれへの反論を扱う。著者はこの2章を、それまでの議論の応用と述べている。
主要概念
序論と第I部
- ハード・プロブレム:物理的な情報処理がそもそもなぜ経験を伴うのかという問題。機能を説明する「易しい」問題と区別される。
- 心の現象的概念と心理的概念:前者は感じられる経験に、後者は因果的・機能的な役割に関わる。
- 付随性:依存関係の一種。本書は心身をめぐる議論を同一性ではなくこれによって組み立てる。
- 還元的説明:高次の現象が低次の事実から導かれることを示すことによる説明。
第II部〜第IV部
- 自然主義的二元論:経験は物理的事実によって論理的には定まらないが、自然的な心身法則に従うという立場。
- 現象的判断:自分の経験についての判断。意識との関係が難問を生むが、第5章はそれが致命的ではないと論じる。
- 整合性の原理:意識と認知的処理との体系的な結びつき。
- 組織的不変性:機能的組織が同じ系は同じ経験を持つという原理。欠如・色あせ・踊るクオリアの論証で擁護される。
- 意識と情報:基礎理論が経験を情報と結びつけるだろうという思弁的な提案。
批判的分析
長所
- 散在する文献に一つの枠組みを与える。 著者は意識をめぐる文献が体系性を欠いていると述べ、付随性と還元的説明という共通の語彙で構造を与えようとする。これにより、異なる伝統の議論を比較できる。
- 論証のあとに理論構築がある。 否定的な論証(第3–4章)のあとに、肯定的な原理を築こうとする3つの章と2つの応用が続く。非還元的な理論が実際にどのようなものになりうるかを知りたい読者が、反論の段階で取り残されることはない。
- 選択的な読み方に配慮している。 アスタリスク付きの節、巻末注、そして著者自身が示す短い読み筋によって、本書は異なる深さで使える。著者は、シリコン脳の思考実験を含む第7章を最も完結した章と述べている。
- 前提に率直である。 序論は、ハード・プロブレムの証明は不可能であり、論証はどこかで直観に訴えると認め、そこに含まれる直観を明示するよう努めたと述べている。
短所
- 中心的な前提に異論がある。 議論は問題を「身をもって感じる」読者に向けられている。著者のウェブサイトに集められた書評には、この前提を退けるもの(たとえばDavid Papineauの『タイムズ文芸付録』の書評)や、論証を評価しつつ立場は退けるもの(たとえばColin McGinnの『タイムズ高等教育付録』の書評)が見られる。唯物論側の応答を併せて読むのが望ましい。
- 肯定的理論は暫定的である。 第8章は自ら強い思弁性を認めている。また、複数の書評者がこの立場を随伴現象説にコミットするものと読んだが、著者は後の章での議論を挙げてこれを否定している。
- 前半に技術的な節がある。 第2章の枠組み、および第4章・第5章の一部は哲学的意味論の問題にかかわるため、初学者は主要な論証が組み立てられるまさにその箇所でつまずきかねない。
コースにおける位置づけ
本書は立場のはっきりした専門書なので、入門書のあとに読むのがよい。Ian Ravenscroftの入門書、Amy Kindの簡潔な入門、John Heilの概説は、標準的な立場(二元論、行動主義、同一説、機能主義)を整理しており、よい準備になる。Jaegwon Kimの教科書も自然な併読書である。20世紀の主要な立場に沿って心身問題をたどり、物理的世界が心をどこまで収容できるかを問うもので、これは第2–4章が別の仕方で答える問いである。
Kimのより短い研究書は心的因果を論じ、最も有益な対照を与える。非還元的物理主義は心的性質がいかにして因果的な違いを生むかを説明できないと論じ、部分的に還元主義的な解決を提案する。Chalmersと並べて読めば、同じ困難に対する、真剣だが対立する二つの応答が見えてくる。
本書の使い方
本書は、心の哲学の入門科目を終え、可能性・必然性・概念的真理についての議論に対応できる学生に向いている。著者は哲学者でない読者も想定して書いているため、主要な論証の筋道に科学の訓練は要らない。
最初の通読では、著者自身が勧める短い読み筋に従うとよい。第1章を読み、第2章の冒頭を流し読みして付随性の考えを確実に押さえ、第3章は全体を読み、第4章は最初と最後の節を読み、第6章の冒頭を読み、そのあと第7章の思考実験を読む。第8–10章は、機械の意識や量子力学の解釈を扱う授業でない限り任意である。エヴェレット解釈の節は単独でも読める。
二度目には、第2章と第4章を通して読み、続けて第5章を読んで、事後的必然性からの反論への応答と現象的判断をめぐる論証に注目する。第3–5章のそれぞれについて、物理主義者が最初に疑う前提を書き出し、物理主義の教科書にある応答と照らし合わせてから、自分の立場を決めるとよい。
