01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Stein, E. M., & Shakarchi, R. (2003). Complex Analysis. Princeton University Press. Princeton Lectures in Analysis, II.
章の要約
本書は10の章と2つの付録からなり、全4巻の Princeton Lectures in Analysis の第2巻である。序論はフーリエ解析を扱う第1巻をたびたび参照している。各章の終わりには演習問題があり、第1章以降の各章にはさらに難度の高い問題が付く。
第1章:Preliminaries to Complex Analysis(複素解析への準備)
複素平面、収束と平面上の集合、連続関数と正則関数、べき級数、曲線に沿った積分を扱う。Cauchyの定理の準備となる章で、章末には演習のみがある。
第2章:Cauchy's Theorem and Its Applications(Cauchyの定理とその応用)
Goursatの定理から、円板での原始関数の局所的存在とCauchyの定理が導かれる。最初は単純な「おもちゃの閉路」に限る。続いていくつかの積分を計算し、Cauchyの積分公式を証明し、さらにMoreraの定理、正則関数列、積分で定義される正則関数、Schwarzの鏡像原理、Rungeの近似定理といった応用を述べる。
第3章:Meromorphic Functions and the Logarithm(有理型関数と対数)
零点と極、留数公式とその例、特異点と有理型関数、偏角の原理とその応用、ホモトピーと単連結領域、複素対数を扱い、最後の節でFourier級数と調和関数の関係を論じる。
第4章:The Fourier Transform(Fourier変換)
目次でℑと記される特定の関数のクラスに対するFourier変換の作用と、Paley–Wienerの定理を扱う。序論は、この章をFourier変換と複素解析の美しい結びつきとして紹介している。
第5章:Entire Functions(整関数)
Jensenの公式、有限位数の関数、無限積(サインの積公式を含む)、Weierstrassの無限積、Hadamardの因数分解定理。
第6章:The Gamma and Zeta Functions(ガンマ関数とゼータ関数)
ガンマ関数の解析接続とさらなる性質を述べ、次にゼータ関数とその関数等式、解析接続を扱う。
第7章:The Zeta Function and Prime Number Theorem(ゼータ関数と素数定理)
ゼータ関数の零点と1/ζ(s)の評価を述べ、素数定理を関数ψとψ₁の漸近挙動に帰着させ、その漸近式を証明する。
第8章:Conformal Mappings(等角写像)
等角同値、円板と上半平面、帯状領域でのDirichlet問題、Schwarzの補題と自己同型、Riemannの写像定理(Montelの定理を含む)、Schwarz–Christoffel積分による多角形への等角写像を扱い、最後に楕円積分に戻る。
第9章:An Introduction to Elliptic Functions(楕円関数入門)
楕円関数、Liouvilleの定理とWeierstrassの℘関数、続いて楕円関数のモジュラー的性質とEisenstein級数を、約数関数との関係を含めて扱う。
第10章:Applications of Theta Functions(テータ関数の応用)
Jacobiのテータ関数の積公式と変換則、母関数と分割の簡単な紹介、2平方和・4平方和定理の証明。章の冒頭は、テータ関数が一方の変数では楕円的、他方ではモジュラー的という二面性を持つことを強調している。
付録A・B:Asymptotics;Simple Connectivity and Jordan Curve Theorem(漸近解析;単連結性とJordanの曲線定理)
付録AはBessel関数、Laplaceの方法とStirlingの公式、Airy関数、分割関数を扱う。付録Bは単連結性の同値な定式化、Jordanの曲線定理、Cauchyの定理の一般形の証明を与える。
主要概念
第1〜3章:正則関数、Cauchyと留数
- 正則関数:複素の意味で微分可能な関数。差分商の極限に関する条件が理論全体を動かす。
- Cauchyの定理と積分公式:正則関数の適当な閉曲線上の積分は0であり、円内の値は円周上の積分で与えられる。
- 留数公式と偏角の原理:積分や零点・極の個数を局所的な計算に変える道具。
第4〜7章:Fourier、整関数、ゼータ
- Paley–Wienerの定理:この章の締めくくりの結果で、関数の性質とそのFourier変換の性質を結びつける。
- Hadamard分解:有限位数の整関数を零点を通じた無限積で表すこと。
- ζの関数等式:解析接続を与え、素数定理の証明を支える関係式。
第8〜10章:等角写像、楕円関数とテータ関数
- Riemannの写像定理:平面の単連結な真部分開集合はすべて単位円板と等角同値である。
- Weierstrassの℘関数:基本的な二重周期関数で、楕円関数はこれから構成される。
- テータ関数:楕円的性質とモジュラー的性質をあわせ持つ級数で、平方和の定理の証明に使われる。
批判的分析
長所
- 冒頭で方法が明快に示される。 序論は三つの現象(周回積分、正則性、解析接続)を挙げ、主要な性質の証明は短く示唆に富むと述べる。読者は技術的な章に入る前に全体像をつかめる。
- 標準的なカリキュラムを超える広がり。 出版社の紹介は、Fourier解析、数論、組合せ論とのつながりを強調している。目次も、Fourier変換、素数定理、楕円関数、平方和の定理の章でそれを裏付ける。
- 各章に演習がある。 第1章以降、どの章にも演習問題と別立ての問題があり、出版社は一部の演習について正誤表を公開している。
- 厳密さと動機づけの両立。 出版社は、概念的な洞察と厳密な解析の技術的基盤との慎重なバランスを説明している。各章は証明の前にエピグラフと章の狙いの説明を置いている(第2章と第10章など)。
短所
- シリーズの一冊として書かれている。 序論は第1巻の結果を引いているので、Fourier級数と実解析の一部を学んでいない読者には欠落が生じる。
- 初学者への手当ては少ない。 第1章は演習で終わる準備の章であり、複素数が初めての学生には、より穏やかな教科書が別に必要になる。
- 後半の章は専門的。 楕円関数とテータ関数の第9・10章と、漸近解析の付録Aは数論に進む読者向けで、一般的な講義には必須でない。
コースにおける位置づけ
Stein と Shakarchi は、複素解析を解析学の他分野と結びつける、厳密な発展的扱いである。リスト中のより早い段階向け、またはより穏やかな選択肢には、Beck、Marchesi、Pixton、Sabalka の無料の1学期用テキスト、Brown と Churchill の入門書、Stewart と Tall の英国の学部向けテキストがある。Needham の Visual Complex Analysis は幾何的に説明し、直観を養うよい併読書になる。
Ahlfors の古典的な大学院向けテキストは同じ中核を大学院レベルで扱い、第2の資料を求める読者の比較対象になる。Stein と Shakarchi の特色は、Fourier解析、ゼータ関数、テータ関数を講義に組み込んでいる点で、実解析を学んだうえでそれらの応用を学びたい学生に向く。
本書の使い方
本書は、しっかりした実解析の講義を修め、Fourier級数を学んだか学ぶ用意のある学生に向く。1学期の講義の主教材にも独習にも使える。
- 中核: 第1〜3章が中心理論(Cauchy、留数、偏角の原理、対数)を与える。一般的な講義では、次に第8章の等角写像が自然である。
- 次の段階: 第5〜7章で整関数とゼータ関数を学び、素数定理に至る。
- 選択: 第9・10章と付録は、楕円関数、数論、漸近解析に関心のある読者向け。
演習は読み進めながら解き、各章末のより骨のある問題にも取り組むこと。一部の演習については出版社の正誤表を参照するとよい。
