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A First Course in Complex Analysis(複素解析入門) cover

数学

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A First Course in Complex Analysis(複素解析入門)

Matthias Beck; Gerald Marchesi; Dennis Pixton; Lucas Sabalka

英語原題: A First Course in Complex Analysis

一学期の学部向け複素解析講義のための、無償のオープンライセンス教科書。これが最初の厳密な解析学の講義となる学生を想定して書かれている。実解析の結果への依存をできるだけ減らし、数列と級数を一から扱い、留数定理を到達目標とする。250題を超える演習と SageMath を使う課題を含む。

前提知識: 多変数の微分積分と、証明を読み書きした経験がある程度。実解析の知識は役に立つが前提とはしない。

難易度レベル
初級
学術レベル
学部
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01 / 読書ガイド

読書ガイド

引用

Beck, M., Marchesi, G., Pixton, D., & Sabalka, L. (2025). A First Course in Complex Analysis (Edition 1.6). Orthogonal Publishing L3C. Free official edition: https://matthbeck.github.io/complex.html

章の要約

第1章:複素数

三次方程式に対するカルダノの公式から複素数が生まれた経緯を簡単に紹介した後、ℂ を特定の乗法をもつ実数の組として形式的に定義し、それが体であることを証明する。続いて代数的な見方と幾何的な見方を行き来しながら、極形式、指数表記 e^{iφ}、1のべき根、共役、絶対値と三角不等式を扱い、後の章で必要となる平面の初等的な位相(開集合と閉集合、境界、領域、道、連結性)で締めくくる。省略可能な演習(ラボ)では、手計算した結果を SageMath で確かめるよう求めている。

第2章:微分

複素関数の極限と連続性を定義し、複素微分可能性を導入する。開集合上で微分可能な関数を正則関数と呼ぶ。実部と虚部の偏導関数と複素微分可能性を結びつける条件としてコーシー=リーマンの方程式を導き、調和関数が初めて登場する。短い節では、領域上で導関数が0の関数は定数であることを証明する。

第3章:関数の例

この章では例の蓄えを作る。メビウス変換が円と直線を円と直線に写すことを示し、無限遠点を加えることで複比と球面への立体射影へと進む。指数関数と三角関数を複素数の引数に拡張すると、指数関数の周期性のような新しい性質が現れる。対数は分枝を通じて扱われ、複素数のべき乗もあわせて論じられる。

第4章:積分

区分的に滑らかな道に沿った複素積分を定義し、基本的な性質と道の長さによる標準的な評価を示す。原始関数と積分が道によらない条件を調べ、閉じた道のホモトピーを導入して、ホモトピー版のコーシーの定理を証明する。最後にコーシーの積分公式を、まず円板について(平均値型の形も含めて)、次により一般的な単純閉曲線について示す。

第5章:コーシーの定理の帰結

第4章を土台に、導関数の積分公式を導き、正則関数は無限回微分可能であると結論する。続いてモレラの定理と、単連結領域での原始関数の存在を示し、最後の節ではコーシーの公式を「極限まで押し進めて」代数学の基本定理と有界な整関数に関するリウヴィルの定理を証明する。

第6章:調和関数

実数値関数に戻り、正則関数の実部は調和関数であること、また単連結領域ではすべての調和関数がそのような実部であることを示す。調和関数の平均値の性質と最大値・最小値原理を証明し、演習を通じてディリクレ問題とポアソン核を論じる。

第7章:べき級数

これまでの道具では計算できない積分を動機として、数列、完備性、級数と収束判定法を一から展開し、さらに関数列と関数項級数、一様収束を扱う。べき級数には収束半径が存在することを証明し、そうした級数がどこで収束するかを記述する。

第8章:テイラー級数とローラン級数

べき級数と正則関数を双方向に結びつける章である。べき級数は収束円板の内部で正則であり、逆にすべての正則関数は局所的にべき級数展開をもつ。零点を分類し、一致の定理と最大値の原理を証明し、円環領域上のローラン級数を導入する。最後に、第7章の動機となった積分を、被積分関数を特異点のまわりで展開することによって計算する。

第9章:孤立特異点と留数定理

孤立特異点を除去可能特異点、極、真性特異点に分類し、カゾラーティ=ワイエルシュトラスの定理で真性特異点の近くでの振る舞いを記述する。留数を定義していくつかの規則で計算し、閉じた道に沿った積分を留数の和に変える留数定理に至る。章の最後では零点と極を数える偏角の原理とルーシェの定理を扱い、演習では留数を実数の広義積分に応用する。

第10章:留数定理の離散的な応用

最後の章は、複素積分を用いて離散的な問題に答える、段階的に誘導される複数ステップの課題の集まりである。1/k² の和のような無限和の計算、二項係数の恒等式、フィボナッチ数の公式、デデキント和の相互法則を扱う。教員向けの注記では、これらを長めの宿題やグループ課題として使うことを勧めている。

付録A:微積分の定理

短い付録に、本文で使う実数の微積分の結果、たとえば最大値・最小値の定理、平均値の定理、微分積分学の基本定理をまとめている。

主要概念

第1章:複素数

  • 体としての複素数:定められた加法と乗法をもち、通常の代数法則を満たす実数の組。
  • 極形式:z = r e^{iφ} と書くこと。乗法は長さの積と角の和になる。
  • 領域:平面の連結な開集合で、本書における複素関数の標準的な定義域。

第2章:微分

  • 正則関数:開集合のすべての点で複素微分可能な関数。
  • コーシー=リーマンの方程式:微分可能な関数の実部と虚部が満たす偏微分方程式 u_x = v_y, u_y = −v_x。

第3章:関数の例

  • メビウス変換:ad − bc ≠ 0 である写像 (az + b)/(cz + d)。円と直線を円と直線に写す。
  • 立体射影:拡張された平面と球面の対応で、円を円に写す。
  • 対数の分枝:複素指数関数が周期的であるために必要となる、領域上での対数の連続的な選び方。

第4章:積分

  • 道に沿った積分:パラメータ表示された道に沿った複素関数の積分。
  • コーシーの定理:道が領域内で一点に変形できるとき、正則関数の閉じた道に沿った積分は0になる(ホモトピー版)。
  • コーシーの積分公式:閉じた道の内部での正則関数の値は、道に沿った積分によって決まる。

第5章:コーシーの定理の帰結

  • 無限回微分可能性:正則関数はあらゆる階数の導関数をもち、それらは積分公式で与えられる。
  • リウヴィルの定理:有界な整関数はすべて定数である。
  • 代数学の基本定理:定数でないすべての多項式は複素数の根をもつ。

第6章:調和関数

  • 調和関数:連続な2階偏導関数をもち、ラプラス方程式を満たす実関数。
  • 最大値原理:領域上の定数でない調和関数は、内部で最大値も最小値もとらない。

第7章:べき級数

  • 一様収束:点によらない速さで関数列が収束すること。連続性を保ち、項別積分を可能にする。
  • 収束半径:べき級数が収束する円板の半径。

第8章:テイラー級数とローラン級数

  • テイラー展開:すべての正則関数は局所的にべき級数の和である。
  • 一致の定理:領域上の二つの正則関数が集積点をもつ集合上で一致すれば、至るところで一致する。
  • ローラン級数:円環領域で正則な関数を表す両側に無限の級数。

第9章:孤立特異点と留数定理

  • 留数:孤立特異点でのローラン展開における (z − z₀)⁻¹ の係数。
  • 留数定理:閉じた道に沿った積分は、囲まれた留数の和の 2πi 倍に等しい。
  • ルーシェの定理:二つの関数が道の内部に同じ個数の零点をもつことを示す比較の判定法。

第10章:留数定理の離散的な応用

  • 留数による和の計算:π cot(πz) から作った関数を広がっていく道に沿って積分し、Σ 1/k² のような級数を求める方法。
  • デデキント和:その相互法則を留数定理で証明できる整数論的な和。

批判的分析

長所

  • 最初の厳密な授業のために書かれている。 著者らによれば、多くの学生にとって複素解析は最初の厳密な解析学の授業であり、本書はそれを反映している。実解析への依存をできるだけ減らし、数列と級数を一から展開し、必要な微積分の定理を付録にまとめている。
  • 構成を形づくる明確な目標。 本書は留数定理を目指して進む。第4〜5章の道具では扱えない積分が第7章の冒頭で示され、第8章でローラン級数を使って苦労して計算され、第9章で留数によってあっさり片づけられるので、読者は級数の道具立てがなぜ必要かを理解できる。
  • 離散的な応用。 無限和、二項係数、フィボナッチ数、デデキント和に関する第10章の誘導つき課題は入門書としては珍しく、留数定理が連続数学と離散数学を結びつけることを示している。
  • 演習とソフトウェア。 250題を超える演習(多くにヒントつき)と数多くの SageMath の課題が本文全体に配置されている。オープンライセンス(CC BY 4.0)なので、教員は内容を改変して使える。

短所

  • べき級数の登場が遅い。 級数を一から構築するため、テイラー級数は第8章になって初めて現れる。実解析をすでに知っている学生には第7章が冗長に感じられるかもしれず、べき級数を先に扱いたい教員は内容を並べ替える必要がある。
  • 留数以外の範囲は限られる。 等角写像はメビウス変換と初等関数にとどまり、リーマンの写像定理、解析接続、無限積、ガンマ関数やゼータ関数は扱われない。さらに学ぶには、より高度なテキストが必要である。
  • 応用は主に数学的。 調和関数とディリクレ問題の動機づけを除けば、流体の流れや積分変換のような物理・工学的応用はほとんどない。
  • 実積分は演習に任されている。 留数による実数の広義積分の標準的な計算は、例題の節ではなく演習にしか現れないので、応用的な授業でこの技法を必要とする学生には追加の例が必要である。

本書で扱う応用

応用は第10章と演習に集中している。第10章では、π cot(πz)/z² の留数を用いた ζ(2) とその交代級数版の計算、二項係数の恒等式、フィボナッチ数の閉じた公式、デデキント和の相互法則(著者らはこの方法をラーデマッハーに帰している)へと読者を導く。第5章と第9章の演習では有理関数の実数の広義積分を求め、第6章では調和関数をディリクレ問題とポアソン核に結びつけている。

コースにおける位置づけ

この複素解析のリストで、Beck らの本は、Brown と Churchill の Complex Variables and Applications(一般に応用志向の入門書とされる)と並ぶ。二冊のうち Beck らのほうが証明中心であり、Brown と Churchill は工学的応用が重要な場面でよく使われる。Tristan Needham の Visual Complex Analysis は一般に図を駆使した幾何的な扱いとされ、直観を補う併読書として、特に第3章のメビウス変換や複素数の乗法の幾何に役立つ。Stewart と Tall の Complex Analysis も学部レベルの選択肢の一つである。

Ahlfors の Complex Analysis と Stein と Shakarchi の Complex Analysis は、一般に大学院や上級学部の授業で使われる。Beck らの本はどちらへの準備としても適している。ホモトピー版のコーシーの定理、留数計算、ルーシェの定理は、それらのテキストが等角写像、解析接続、特殊関数を築く土台となる。

本書の使い方

本書は、複素解析がおそらく最初の厳密な解析学の授業となる学部生を対象としている。読者には多変数微積分(偏微分、線積分の考え方、極座標)と、証明を読み書きすることへのある程度の慣れが必要だが、実解析は前提としない。

著者らは、1学期に収まる以上の内容があると述べている。中核となる道筋は第1〜5章、次に第7〜9章で、留数定理で締めくくる。第6章の調和関数と第3章の一部(立体射影、複比)は短縮でき、実解析を知っている学生は7.1〜7.2節を速く進められる。第10章は授業の最後の課題として使うのが最もよい。各章末の演習(多くにヒントがある)に取り組み、SageMath の課題と第1章の省略可能なラボを使って計算を確かめ、関数を視覚化するとよい。

版と出典

本ガイドは A First Course in Complex Analysis の Edition 1.6(2025年8月、© 2002–2025 Matthias Beck, Gerald Marchesi, Dennis Pixton, Lucas Sabalka、CC BY 4.0)に基づき、公式の書籍ページ https://matthbeck.github.io/complex.html の無料PDFを読んで作成した。ペーパーバック版は Orthogonal Publishing から刊行されている。「本書について」、教員向けの注記、目次全体、全10章と付録の導入部、すべての節見出し、主要な番号付き定理と命題の主張、いくつかの例題(メビウス変換、ホモトピー、留数の計算)、および第1・5・6・9章の演習問題を参照している。