01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Hutcheon, L. (1988). A Poetics of Postmodernism: History, Theory, Fiction. Routledge.
章の要約
本書は約285ページ、全13章で、二部に分かれる研究書である。著者のリンダ・ハッチオン(Linda Hutcheon)はトロント大学の研究者で、芸術における形式的な自己意識を扱った自著(『ナルシシズム的物語』と『パロディの理論』)の延長にあるものとして本書を述べ、そこに歴史的次元とイデオロギー的次元を加えている。本書はポストモダンの擁護でも非難でもない。ポストモダン建築をモデルに、「ポストモダニズム」は、形式とイデオロギーの大きなパラドクスによって特徴づけられる現在の文化的実践の呼び名とされる。本書が示す詩学は、現代理論と文化的実践とが交差する関心の中に現れるこれらの矛盾から引き出される。第I部(第1〜6章)は理論的な枠組みを組み立て、第II部(第7〜13章)は歴史記述的メタフィクションと表象の政治を通じてそれを展開する。
第I部、第1章:Theorizing the Postmodern: Toward a Poetics
冒頭の章は、ポストモダニズムの詩学とは何か、なぜこの語に詩学が必要なのかを述べる。出版社によれば、この語は文学、視覚芸術、映画、建築、文学理論、歴史、哲学で広く使われ、また誤用もされているからである。
第2章:Modelling the Postmodern: Parody and Politics
著者の前著の主題だったパロディを、ポストモダンの中心的な形式として取り上げ、論証の政治的な側面に結びつける。
第3章:Limiting the Postmodern: The Paradoxical Aftermath of Modernism
ポストモダニズムとモダニズムとの関係を扱い、きれいな断絶ではなく、パラドクスを含んだ余波として捉える。
第4章:Decentering the Postmodern: The Ex-Centric
脱中心化と「エクス=セントリック」、すなわち支配的文化の周縁にある声や位置を考える。
第5章:Contextualizing the Postmodern: Enunciation and the Revenge of “Parole”
論証は文脈と発話行為へ向かい、体系としての言語と個別の発話との区別を用いる。
第6章:Historicizing the Postmodern: The Problematizing of History
第I部の最終章は歴史に向かい、ポストモダンの作品が過去の記述をどう問い直すかという問題を立てる。これは第II部が展開する主題である。
第II部、第7章:Historiographic Metafiction: “The Pastime of Past Time”
本書と最も結びつく用語、歴史記述的メタフィクションを導入し、第II部の出発点とする。
第8章:Intertextuality, Parody, and the Discourses of History
フィクションが先行テクストや、歴史を書くための言説とどう関わるかを見る。
第9章:The Problem of Reference
指示、つまりテクストと、それが記述すると主張する世界や過去との関係を扱う。
第10章:Subject in/of/to History and His Story
主体と歴史との関係、歴史が語られる立場を含めて論じる。
第11章:Discourse, Power, Ideology: Humanism and Postmodernism
言説・権力・イデオロギーの観点から、ポストモダニズムをヒューマニズムと対置する。
第12章:Political Double-Talk
ポストモダンの実践が持つ政治的な両義性を扱う。
第13章:Conclusion: A Poetics or a Problematics?
結論の章は、本書が組み上げたものが詩学なのか、それとも問題系なのかを問う。
主要概念
第I部:理論化と文脈化(第1〜6章)
- ポストモダニズムの詩学:ポストモダンの実践自体の矛盾から引き出された説明。
- パロディ:先行作品を反復し、アイロニカルに書き換える形式。形式的であると同時に政治的とされる。
- エクス=セントリック:支配的文化の中心から離れた位置。
- 発話(enunciation):話す行為。言語の体系と対置される。
第II部:歴史・指示・イデオロギー(第7〜13章)
- 歴史記述的メタフィクション:自らの作られ方に強く自覚的でありながら、歴史に関わるフィクション。
- 間テクスト性:テクストと他のテクストや言説との関係。
- 指示:テクストが自らの外にある世界や過去をどう指し示すか。
- ヒューマニズムとイデオロギー:ポストモダニズムが利用しつつ問いに付す価値観。
批判的分析
長所
- 明快な二部構成。 目次は理論的な第I部と、歴史記述的メタフィクションを軸にした第II部とを分けており、一般的な論証がどこで終わり、具体的な文学の事例がどこから始まるかがわかる。
- 方法としての矛盾。 出版社は、この詩学が外から課された定義ではなく、形式とイデオロギーのパラドクスから引き出されたものだと説明している。これが本書に一貫した立場を与え、最終章が結果は詩学か問題系かを問う理由にもなる。
- 諸芸術にまたがる広がり。 本書はポストモダン建築をモデルとし、理論と文化的実践が交差する関心を取り込むので、小説を孤立させず他の芸術と並べて扱う。
- 評価。 ピーター・キットソン(Peter Kitson)は『Notes & Queries』で、歴史とフィクションを問題化するポストモダニズムの理にかなった、抑制された知的な擁護であり、ポストモダン文化をめぐる議論に関心のあるすべての人が読むべきだと評した。ジェフ・ウェイド(Geoff Wade)は『Reviewing Psychology』で、文学・芸術・「エンターテインメント」の現在の研究に関心のある人には必読だと評価した。
短所
- 刊行年による制約。 本書は1988年に初めて刊行され、描かれるポストモダンは当時見えていたものである。その後の小説や、その後のポストモダニズム論は範囲外である。
- 特定の主張。 本書は、ポストモダニズムが継承するものを利用しつつ挑戦する矛盾した実践だという特定の見方を主張しており、ポストモダンの作家や運動の中立的な概観ではない。
- 理論の言葉で論じられる。 発話、指示、主体、言説、イデオロギーを扱う章題は、論証が現代理論の用語で進められることを示しており、それらの用語にある程度なじんでいる必要がある。
コースにおける位置づけ
モダニズムと現代文学のリストの中で、本書は単独著者によるポストモダニズムの理論である。バトラーの Modernism: A Very Short Introduction、チャイルズの Modernism、ルイスの The Cambridge Introduction to Modernism、複数執筆者による The Cambridge Companion to Modernism は、第3章がポストモダニズムの先行者として扱う運動の背景を与え、この時代に初めて触れる読者にはより適した出発点である。イーグルストンの Contemporary Fiction: A Very Short Introduction は近年の小説を短く読みやすく概観しており、ハッチオンの前後に読めば、後の時代の見取り図がどう描かれるかがわかる。
本書の使い方
現代文学のコースを履修し、文学理論にある程度なじみのある上級の学部生や大学院生に向いている。
最初は第1章を読み、次に第3章と第7章を読む。それぞれ枠組みとなる問い、モダニズムとの関係、歴史記述的メタフィクションの概念を示す。続けて第II部の残りを読み、必要に応じて第2、4、5、6章に戻る。過去を扱う小説を一つ選び、自己意識、間テクスト性、指示についてのハッチオンの主張を当てはめて試すのも有益である。最後に第13章を読み、論証がまとめられ、どのような詩学が生まれたのかが問われるのを確認する。
