01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Chambers, J. K. (2008). Sociolinguistic Theory: Linguistic Variation and Its Social Significance (revised ed.). Wiley-Blackwell.
章の要約
本書は本文約270ページ、全5章で、ほかに注、参考文献、索引があり、Language in Society シリーズの一冊である。Wiley は、言語の変異と変化の研究を中心に据えた社会言語学の批判的総合として紹介している。初版・第2版・改訂版それぞれの序文を備えた版で、Wiley は第3版としている。各章は番号付きの節と小節に分かれ、小節の見出しが取り上げる研究を挙げているため、目次は変異研究の文献索引としても使える。
第1章:相関(Correlations)
最初の章は社会言語学の領域を定義し、個人的特性、言語的スタイル、社会的特性、社会文化的・社会学的要因、社会言語学と言語社会学を扱う。続いて、構造的単位としての変項と社会言語学の営み(ラボフのニューヨーク調査、言語変項と独立変項、結果を示す図表)を紹介する。最後の節では、変異をカテゴリー性の伝統に照らして論じ、ラングとパロール、カテゴリー性の公理、コミュニケーション能力、カテゴリー性のない言語学を扱う。
第2章:階層、ネットワーク、移動(Class, Network, and Mobility)
最も長い章で、社会階層と社会言語学的サンプリング、社会経済指標・被験者指標による階層の指標化、ボストンの「short o」、ノリッジの (ao)、モントリオールの que 脱落などの研究における階層標識を扱う。続いて移動と均質化の影響、ネットワーク(規範の強制、ネットワークの結びつきと統合度の測定)、ネットワーク統合の言語的相関を論じる。最後は、ネットワークと他の独立変項との相互作用、野心家、闖入者、内部者などを含む個人の役割を扱う。
第3章:性とジェンダーの表現(Expressing Sex and Gender)
生物学と社会学の相互作用、(ng) のような安定した変項に見られる性のパターンから始まる。デトロイトの都心部とベルファストのバリーマカレットという二つの共同体における言語、ジェンダー、移動を比較し、「地位意識」「面子」「言語能力」などによる説明を含め、ジェンダーに基づく変異と性に基づく変異を論じる。また日本と中東を例に、他の社会における男女の話し方のパターンも扱う。
第4章:時間の中のアクセント(Accents in Time)
加齢から始め、社会方言の習得、家族や友人の影響、青年期と青年のネットワーク(デトロイトのジョックスとバーンアウツを含む)、「言語市場」における若年成人を検討する。最後は進行中の変化:年齢階梯、実時間と見かけの時間、見かけの時間仮説の検証を扱う。
第5章:言語変異の適応的意義(Adaptive Significance of Language Variation)
最終章は、変異がなぜ存続するのかを問う。バベル仮説、全体的な非適応性と局所的な適応性から始め、下等動物の方言や遺伝的適応・社会的適応の理論を論じる。そのあと非標準的な話し方の存続、多様性の源泉についての伝統的な理論と社会言語学的な理論、自然さ、俗語の根、言語変異と社会的アイデンティティを扱う。
主要概念
第1章:相関
- 言語変項:その変異形が社会的要因と相関づけられる構造的単位。
- カテゴリー性の公理:言語理論が研究対象をカテゴリー的なものと仮定すること。本章はこれを問い直す。
第2〜3章:階層・ネットワーク・移動、性とジェンダー
- 社会階層の指標化とサンプリング:話者をどう分類し選ぶか。
- 社会ネットワークの統合:ネットワークの結びつきの測定とその言語的相関。
- 性差とジェンダー差:その区別と、差異が確率的なものであること。
第4〜5章:年齢、変化、適応
- 見かけの時間と実時間:進行中の変化を推定する二つの方法。
- 年齢階梯:世代ごとに繰り返される年齢に関連したパターン。
- 潜在的威信:非標準的な話し方の存続。
- 自然さと経済性:多様性の源泉を説明する際に本章が比較検討する要因。
批判的分析
長所
- 一つの主題を軸にした総合。 5章は主要な社会的相関要因(階層とネットワーク、性、年齢)を順に取り上げ、証拠が全体として何を示すのかを問う。
- 研究ごとの詳細。 小節の見出しが具体的な共同体と変項を挙げているので、主張の根拠を探しやすい。
- 理論が冒頭と末尾に置かれている。 第1章はカテゴリー性の公理とその代案を示し、第5章は説明に戻るため、実証の章が議論に挟まれている。
- 改訂版。 新しい序文があり、Wiley によれば分野の最新の展開を取り入れている。
短所
- 変異研究に特化。 多言語使用、言語政策、談話的アプローチは5章の範囲外である。
- 証拠が古い。 2008年の出版で、その後の社会的意味とスタイルの研究は含まれない。その転換はエッカートの本が扱っている。
- 密度が高い。 番号付きの小節が多数の個別研究を示しており、参照には向くが、初学者には本筋が追いにくい。
コースにおける位置づけ
ホームズ&ウィルソンの An Introduction to Sociolinguistics、トラッドギルの Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society、ウォードハウ&フラーの An Introduction to Sociolinguistics は分野の入門書で、トラッドギルのものが最も短い。チェンバーズは、それらに続く、変異研究の中核のための次の一冊である。リー・ウェイの The Bilingualism Reader はバイリンガリズムの研究論文集で、エッカートの Meaning and Linguistic Variation は、変異研究が社会的意味へと転じたことを論じる後の著作である。
本書の使い方
社会言語学の入門講義を履修し、言語変項と基本的な音声表記を知っている学部上級生・大学院生に向く。
読み方の計画:
- 中核: 概念的な枠組みのための第1章、次に主要な社会的相関要因を扱う第2〜4章。
- 議論: 証拠になじんだ後に第5章。
- 選択的に: 第2章ではネットワークの節が方法として最も重要。第3章はジェンダー、第4章は年齢と変化。
まず入門書で基礎を固め、チェンバーズのあとにエッカートを読んで、相関から社会的意味への転換をたどるとよい。
