01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Bingham, T. (2010). The Rule of Law. Allen Lane.
章の要約
背景と主張
本書は、当時イギリスの首席常任上訴貴族(Senior Law Lord)だったビンガムが2006年にケンブリッジ大学で行ったサー・デイヴィッド・ウィリアムズ講演から生まれた。政治家や裁判官が絶えず口にするこの言葉が、実際には何を求めているのかを問う。短い歴史を述べたうえで、今日の西側民主主義国における法の支配の意味を捉えるとする八つの条件を示し、それぞれに一章を充てる。最後の二章では、テロリズムと議会主権を手がかりにこの理念を試す。本文は約170ページで、注と索引が続く。
第1章:法の支配の重要性
冒頭の章は、この理念がなぜ重要か、そして何ではないかを説明する。出版社の紹介によれば、それは狭い技術的な法理ではなく、公正な社会、責任ある政府、経済成長の土台である。後に展開される八つの条件への地ならしとなる。
第2章:歴史を少し
この理念の系譜を、マグナ・カルタからアメリカ革命・フランス革命とその憲法秩序までたどる。後の章が拠りどころとする歴史的な奥行きを与えるが、本格的な通史にはならない。
第3章:法のアクセス可能性
第一の条件は、法がアクセス可能であり、可能な限り理解しやすく、明確で、予測できることである。拙い起草の立法が増えていることや、容易に見つけられず理解もできない規則を人々に守らせることの難しさと結びつけて論じる。
第4章:裁量ではなく法
法的な権利や責任の問題は、公的な裁量の行使ではなく、法の適用によって解決されるべきである。法・判断・裁量の相互作用と、決定が歯止めのない選択に委ねられたときの予測可能性への脅威を論じる。
第5章:法の下の平等
法はすべての人に等しく適用されるべきである。形式的平等と実質的平等を区別する。
第6章:権力の行使
公権力を持つ者は、それを適法に、かつ権限の範囲内で用いなければならない。法が権力の行使をどう統制し、公務員にどう責任を負わせるかを検討する。
第7章:人権
ビンガムは基本的人権の保護を法の支配の条件の一つに含めるため、この概念は形式的な適法性にとどまらない。国内法と国際的な人権基準を結びつける。
第8章:紛争解決
当事者が民事紛争を自力で解決できないとき、国家はその解決手段を提供しなければならない。裁判所の役割と、それ以外の紛争解決の方法を検討する。
第9章:公正な裁判
国家が用意する手続は公正でなければならない。公正な審理の特徴、たとえば公平な審判機関を含め、それらが刑事・民事の場面でどう適用されるかを扱う。
第10章:国際法秩序における法の支配
八つの条件の最後は、国家が国際上の義務を遵守することを求める。この理念を国境の外へ広げ、国際法と国際機関の役割を検討する。
第11章:テロリズムと法の支配
テロの脅威が前の各章の原則にかける圧力と、安全保障上の措置と法的保護との均衡を取り上げる。
第12章:法の支配と議会主権
最後の章は、法の支配が議会主権の教義とどう両立するかを検討する。Bharat Chugh の書評は、この関係を時に落ち着かないものと評している。
主要概念
第1〜2章:理念とその歴史
- 法の支配:すべての人と機関が、公に定められた法に拘束され、その恩恵を受ける資格があるという原則。
- マグナ・カルタと革命後の憲法秩序:本書がこの理念をたどる際の歴史上の節目。
第3〜6章:法、裁量、平等、権力
- アクセス可能な法:人々が自らの事柄を整えられるよう、明確で理解しやすく、予測できる法。
- 裁量ではなく法:法的権利が、公務員の選択ではなく規則によって決まること。
- 法の下の平等:法が等しく適用されること。形式的平等と実質的平等の区別を伴う。
- 権力の適法な行使:公職者が権限の範囲内で行動すること。
第7〜10章:権利、紛争、裁判、国際法
- 基本的権利:人権の保護を法の支配の一部とみなすこと。
- 紛争解決へのアクセス:当事者が自力で解決できない紛争を解決する手段。
- 公正な裁判:公正な手続と公平な審判機関。
- 国際上の義務:国家が国際法を遵守する義務。
第11〜12章:圧力のかかる点
- 安全保障と適法性:テロ対策が他の原則をどう試すか。
- 議会主権:最終章が法の支配との関係を検討する教義。
批判的分析
長所
- 明快なリストによる構成。 八つの条件が一章ずつ(第3〜10章)あり、本書は見通しがよく、法制度や制定法を評価するためのチェックリストとしても使える。
- 短く、専門外の読者に向く。 出版社は、この理念が何で成り立つのかを問う短い本と紹介している。書評者の Bharat Chugh は、約170ページで数世紀の法思想を、駆け足の印象を与えずに捉えていると述べる。
- 著者の立場。 ビンガムはイギリスの元首席裁判官として執筆し、哲学者だけでなく判決や制定法も引く。もとは公開講演だった。
- 形式的適法性にとどまらない。 人権と国際法を条件に含めることで、より狭い定義と比べられる立場をとっている。
短所
- 圧縮された扱い。 各条件に一章、全体で約170ページのため、定義と適用をめぐる論争は紹介にとどまり、掘り下げられない。
- 単一法域の視点。 著者はイギリスの司法の立場から書いており、第12章は議会主権を特に扱う。ほかの制度を学ぶ読者は、議論を自分の制度に置き換える必要がある。
- 時代に固定されている。 本書は2010年に出版されており、その後の憲法や人権裁判の展開は扱わない。
- 方法ではなく叙述。 実務家の論考であり、理論に体系的に取り組む法哲学書ではない。哲学的な文献への入り口にはなるが、代わりにはならない。
コースにおける位置づけ
この憲法・行政法の書目の中で、ビンガムは短く、原則を軸にした読み物である。Bradley らの Constitutional and Administrative Law と Le Sueur らの Public Law: Text, Cases, and Materials は教科書の形で法理を示し、Loughlin の The British Constitution: A Very Short Introduction は憲法全体の簡潔な概観である。Harlow らの Law and Administration と Hickman の Public Law after the Human Rights Act は行政法と権利をより深く扱い、Loughlin の The Idea of Public Law は理論的な研究である。
ビンガムは、これらの前か並行して読むのがよい。それらの細部をまとまりあるものにする考え方を示しているからで、裁量、権力の行使、人権、公正な裁判についての章は、大部の書が判例とともに展開する司法審査や権利裁判の論点を先取りしている。
本書の使い方
法学の予備知識は要らない。一年次の学生、一般読者、公法の授業の準備をする人に向く。数回で読み通せる。まず第1章と第2章を読み、続いて第3〜10章を、各章が一つの原則を扱うチェックリストとして順に読む。第11章と第12章は原則に慣れてからにするのがよい。これらは原則を試す章だからである。
読みながら、八つの原則をそれぞれ一文で書き出し、自分の法域でそれを満たす、または破る規則や判断の例を探すとよい。ビンガムのリストをより狭い適法性の定義と比べ、人権を含めることが理念を強めるのか複雑にするのかを考える。巻末の注には各章の参考文献があり、各原則の背後にある判例を知るには公法の教科書が自然な併読書になる。
