01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Hickman, T. (2010). Public Law after the Human Rights Act. Hart Publishing.
章の要約
本書は全11章の研究書で、索引を含め約350ページ、ハート出版(Hart Publishing)から刊行され、2010年に『Cambridge Law Journal』で書評された。出版社によれば、1998年人権法の施行から10年を経ても、その法とは何か、公法における人権原理とコモン・ローの法理はどう関係するのか、伝統的な公法原理は置き換える必要があるのか、同法は裁判所・政府・議会の憲法上の関係をどう変えたのか、といった基本的な問いに明確な答えがなかった。本書は同法だけを扱う書物とは異なり、同法が公法全体に及ぼす影響を見渡し、同法がコモン・ロー憲法の上に築かれていると示唆する。2011年にインナー・テンプル若手著者図書賞を受賞した。
第1章:Introduction(序論)
本書が取り組む問いと、人権法とより広い公法の構造との関係に対する全体的なアプローチを示す。
第2章:The Common Law and the Human Rights Act(コモン・ローと人権法)
人権原理とコモン・ローの関係を取り上げ、同法はコモン・ロー憲法に取って代わるのではなく、その上に築かれているというテーゼを展開する。
第3章:Constitutional Theory and Constitutional Dialogue(憲法理論と憲法上の対話)
同法の憲法上の地位と、それが裁判所・政府・議会の関係をどう変えるかを扱い、諸機関の間の対話という考え方にも触れる。
第4章:Standards and Rights in Public Law(公法における基準と権利)
公法が政府の行為に適用する基準が権利とどう関係するかを検討する。
第5章:Weight and Deference(重みと敬譲)
権利との適合性を審査する際に、裁判所が意思決定者の判断にどれだけの重みを与えるか、また敬譲(deference)の法理を検討する。
第6章:Proportionality(比例性)
権利への介入を正当化するテストとしての比例性を、英国の裁判所の実務に即して検討し、従来の審査基準との関係を扱う。
第7章:Reasonableness(合理性)
ウェンズベリー的不合理性を含む合理性を取り上げ、人権の時代にもそれが役割を保つかを問う。
第8章:The Forbidden Process Element in Human Rights Review(人権審査における禁じられた手続的要素)
人権事件における意思決定過程の審査を、決定内容の実体の審査と区別して扱う。
第9章:The Substance and Structure of Public Law after the Human Rights Act(人権法後の公法の実体と構造)
それまでの諸論点を、人権の時代における公法の構造の説明としてまとめる。
第10章:The Right of Access to Court(裁判所へのアクセス権)
裁判所へのアクセス権を分析する。
第11章:Derogation and Emergency(デロゲーションと緊急事態)
緊急事態における権利からのデロゲーション(適用除外)を扱って結ぶ。
主要概念
第1〜3章:序論、コモン・ローと人権法、憲法理論と憲法上の対話
- コモン・ロー憲法:人権法は、コモン・ローにすでにある憲法原理の上に築かれているというテーゼ。
- 憲法上の対話:同法の下での裁判所・政府・議会の関係。
第4〜8章:基準と権利、重みと敬譲、比例性、合理性、禁じられた手続的要素
- 敬譲と重み:裁判所が意思決定者の判断にどこまで従い、どれだけの重みを与えるか。
- 比例性:権利への介入を正当化するための構造化されたテスト。
- ウェンズベリー的不合理性:同法によって圧力を受けた伝統的な審査基準。
- 手続の審査:何が決定されたかではなく、どのように決定されたかの審査。
第9〜11章:実体と構造、裁判所へのアクセス、デロゲーションと緊急事態
- 裁判所へのアクセス権:紛争を裁判所で判断してもらう権利で、第10章で分析される。
- デロゲーション:緊急時における条約上の義務の例外的な停止。
批判的分析
長所
- **明確なテーゼ。**本書は、同法と公法をめぐる少数の構造的な問いに答えることを目指しており、各章はコモン・ロー上の基礎から審査基準、緊急事態の扱いへと、その目的に沿って進む。
- **理論だけでなく法理にも目配りしている。**重みと敬譲、比例性、合理性、手続を扱う章は司法審査の実際の道具立てを扱い、索引からは貴族院とストラスブールの判決を幅広く検討していることがわかる。
- **評価。**出版社はインナー・テンプル若手著者図書賞を挙げており、本書は『Cambridge Law Journal』(2010年、682〜684頁)で書評された。
短所
- **入門書ではない。**人権法、司法審査、主要判例の知識を前提とする研究書であり、それらを学んでいない学生には議論を追えない。
- **その後の展開で古くなっている。**2010年刊行のため、その後の判例や同法の改正・廃止をめぐる議論は扱っていない。
- **特定の見解。**コモン・ロー憲法のテーゼは異論の余地のある主張であり、対立する説明と併せて読むべきである。
コースにおける位置づけ
このコースでは、BradleyらのConstitutional and Administrative Lawが法源、機関、権利、司法審査を扱う学部向けの入門書で、Le SueurらのPublic Law: Text, Cases, and Materialsは包括的な判例教材である。HarlowらのLaw and Administrationは文脈的アプローチをとる行政法の教科書である。LoughlinのThe British Constitution: A Very Short IntroductionとBinghamのThe Rule of Lawは短く読みやすい著作で、LoughlinのThe Idea of Public Lawは基礎を探る大学院レベルの著作である。
Hickmanは専門的な発展的読書である。公法の基本科目を終え、司法審査と人権法をすでに知っている段階で読むものであり、比例性、敬譲、同法の憲法的効果に関する論述に役立つ。
本書の使い方
上級の学部生、大学院生、実務家向けである。まず第1〜3章でテーゼをつかみ、その後はテーマ別に選ぶ。審査基準なら第5〜7章、裁判所へのアクセスなら第10章、緊急事態なら第11章である。議論がまとまる様子を見るには第9章がよい。
本書が論じる判例とともに、人権法および関連する条約の条文を手元に置いて読むこと。索引を使って事件や法理を章をまたいで追い、依拠するつもりの論点については後の判決を確認すること。
