01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Lane Fox, R. (2006). The Classical World: An Epic History of Greece and Rome. Penguin Books. (First published 2005 by Allen Lane as The Classical World: An Epic History from Homer to Hadrian.)
章の要約
本書は、ホメロスの叙事詩から皇帝ハドリアヌスの治世(117–138年)まで、およそ千年を一冊で語る通史である。55の短い章が年代順に六つの部に分けられ、冒頭にハドリアヌスと古典世界を論じる章、末尾にハドリアヌスについての回顧が置かれる。ペーパーバック版は約700ページで、参考文献と索引が付く。出版社の説明も、Kirkus(2006年)と BookPage の書評もともに強調するように、自由・正義・奢侈という三つの主題が全体を貫いている。
序章:ハドリアヌスと古典世界
本書はハドリアヌスで始まり、ハドリアヌスで終わる。彼はギリシアの過去を賞賛のまなざしで振り返り、アテナイの寛大な後援者となった皇帝である。ロジャー・ビショップによる BookPage の書評はこの枠組みに触れており、ハドリアヌスの古典期ギリシアへの関心が本書の視点となっている。
第I部:アルカイック期のギリシア世界
10章:ホメロスの叙事詩/ギリシア人の植民/貴族たち/不死の神々/僭主と立法者/スパルタ/東方のギリシア人/民主政へ/ペルシア戦争/西方のギリシア人。叙述はホメロスから始まる。Kirkus が指摘するように、レイン・フォックスはホメロスを前8世紀後半の一人の「記念碑的詩人」として扱うことをためらわない。そこから海外への植民、貴族的価値観、宗教、僭主と立法者の台頭、そしてアテナイ民主政への道とペルシア戦争へと進む。
第II部:古典期のギリシア世界
10章:征服と帝国/変わりゆくギリシアの文化世界/ペリクレスとアテナイ/ペロポネソス戦争/ソクラテス/自由と正義のための戦い/女性と子ども/マケドニアのフィリッポス/二人の哲学者/前4世紀のアテナイ人。中心はアテナイで、ペリクレス、スパルタとの戦争、ソクラテスを扱い、続いて女性と子どもの地位、マケドニアの台頭、前4世紀の哲学者たちの章が来る。
第III部:ヘレニズムの諸世界
10章:アレクサンドロス大王/アレクサンドロスの初期の後継者たち/大都市の生活/税と技術/新世界/ローマの進出/神々の平和/南方の解放/ハンニバルとローマ/外交と支配。アレクサンドロスの伝記の著者でもあるレイン・フォックスは、征服とその後継王国から始め、都市生活と経済に目を向け、イタリア、カルタゴ、ギリシア東方での戦争を通じてローマを物語に導き入れる。
第IV部:ローマ共和政
8章:奢侈と放縦/内外の混乱/ポンペイウスの凱旋/キケロの世界/ユリウス・カエサルの台頭/内戦の影/運命の独裁官/裏切られた解放。ここでは奢侈の主題が際立ち、共和政末期の政治危機がポンペイウス、キケロ、カエサルを通して語られる。
第V部:共和政から帝政へ
6章:アントニウスとクレオパトラ/皇帝の誕生/道徳と社会/見世物としての競技/ローマ軍/新しい時代。アウグストゥスのもとでの君主政への移行を扱い、社会立法、公共の娯楽、軍隊についての章を含む。
第VI部:帝国の世界
11章:ユリウス=クラウディウス朝/属州統治/帝国の影響/キリスト教とローマの支配/四皇帝を生き延びる/新しい王朝/ポンペイ最後の日々/行動する新人/一人の異教徒とキリスト教徒たち/内外の体制転換/過去の提示。紀元1世紀を扱う。皇帝たち、属州統治とその影響、ローマ支配下の最初のキリスト教徒、四皇帝の年とそれに続く新王朝、ポンペイ、そしてハドリアヌスに至る治世である。
終章:ハドリアヌス――回顧
本書はハドリアヌスに戻り、時代全体を振り返って終わる。
主要概念
本書を貫く主題
- 自由:ギリシアの諸都市からローマ皇帝まで、政治的自由とその限界。Kirkus は三つの主題の中でこれを最も重要とみる。
- 正義:社会が正しい行いをどう理解し、誰のためにどう強制したか。
- 奢侈:富とその誇示。本書はこれをギリシアの貴族からローマのエリートまで追う。
ギリシア
- アルカイック期の貴族制:ホメロスの叙事詩に由来する価値観をもつ、初期ギリシア諸都市のエリートの世界。
- 僭主と立法者:民主政以前にアルカイック期の都市を作り変えた人物たち。
- アテナイの民主政と帝国:ペリクレス時代のアテナイとスパルタとの戦争。
- ヘレニズム世界:アレクサンドロスの征服と後継者たちが生み出した王国と都市。
ローマ
- 共和政末期:ポンペイウス、キケロ、カエサルの時代の政治危機。
- 元首政:共和政の形式を保ちつつアウグストゥスが築いた君主政。
- 属州統治:帝国が属州をどう治め、それがどんな影響をもたらしたか。
- キリスト教とローマの支配:帝国の中の初期キリスト教徒。
批判的分析
長所
- ギリシアとローマを一つの物語に。 ホメロスからハドリアヌスまでを一続きに語る本は多くない。ヘレニズム世界と共和政の部は、ローマを改めて一から始めるのではなく、ローマがギリシア世界に入ってくる様子を示す。
- 短い章。 55章で平均10数ページなので、扱いやすい分量ずつ読むことも、特定の時代や人物を拾い読みすることもできる。
- 文章と主題。 BookPage は本書を博識で読みやすいと評し、この時代の暴力や政治が文脈の中で説明されるため、単なる人名と年代の羅列にならないと述べる。自由・正義・奢侈の三主題は長い時代を通す糸となり、書評者は、本書がこれらの理念が社会によって異なる意味をもち、しばしばエリートにのみ適用されたことを示していると付け加える。
- 歴史家への目配り。 BookPage はまた、ヘロドトス、トゥキュディデス、ポリュビオス、タキトゥスについての論述など、歴史叙述そのものの扱いにも注目しており、学生がこれらの著者を読む準備になる。
短所
- 教科書ではない。 レベッカ・フト・ケネディは、概説講義の教材選びについて Bryn Mawr Classical Review(2010.02.36)で論じる中で、本書には良い点もあるが癖もあり、教科書として書かれた本がもつ利点の一部を備えていないと判断している。
- 選択的で、アテナイとローマが中心。 BookPage は、ペリクレスとソクラテスのアテナイ、カエサルとアウグストゥスのローマに重点があることを指摘しており、本書は政治生活と思想、文学、芸術、哲学に集中している。社会史・経済史は全体を通してではなく個別の章で扱われる。
- ハドリアヌスで終わる。 3世紀の危機やキリスト教帝国を含むローマ帝国後期は範囲外である。
- 個人的な解釈。 主題に沿った判断は著者自身のものであり、Kirkus はこれらの主題を通して語られる物語をやや暗いものと感じている。読者は本書を概説であると同時に一つの議論として読むべきである。
コースにおける位置づけ
本書は古代史の書目の中で連続した通史を担う。ポール・カートレッジの Ancient Greece: A Very Short Introduction は、11の都市を通してギリシア世界に入る、はるかに短い道である。先にそれを読めば地図が手に入り、レイン・フォックスはそこに一続きの物語を与え、ローマを加える。マルク・ヴァン・デ・ミエロープの A History of the Ancient Near East, ca. 3000–323 BC は、レイン・フォックスが周縁でしか触れない東方の諸文明を扱う。
より深く学ぶには、サイモン・ホーンブロワーの The Greek World 479-323 BC が、史料に細心の注意を払った古典期の詳細な政治史・社会史として第II部に対応し、マーティン・グッドマンの The Roman World 44 BC–AD 180 は、ほぼ第V部・第VI部の時代について、叙述と、統治・社会・信仰を扱う主題別の章とを組み合わせている。リウィウスの The Early History of Rome は、レイン・フォックスがローマのギリシア世界への進出の時点でようやく扱う初期ローマについての一次史料である。
本書の使い方
予備知識は不要である。本書は学生だけでなく一般読者に向けても書かれている。ギリシアとローマについて一続きの説明を必要とする歴史学・古典学の1年生や、ギリシア・ローマの文学や哲学の背景を知りたい他分野の学生に向いている。
推奨プラン:
- ギリシア史の授業の中核: 第I部と第II部、ヘレニズム世界については第III部。
- ローマ史の授業の中核: 第III部の「ローマの進出」以降、続いて第IV–VI部。
- 全体を読む場合: 6週間で1週に1部程度。ハドリアヌスについての序章と終章を最初と最後に読む。
叙述は地域間を素早く移動するので、各部を地図とともに読み、簡単な年表をつけるとよい。本書は教科書ではないので、翻訳の一次史料と組み合わせること。第I部にはホメロス、第I–II部にはヘロドトスとトゥキュディデス、第III部にはポリュビオス、第IV部にはキケロとプルタルコス、第VI部にはタキトゥスがよい。専門書を探すには参考文献を使い、レポートで叙述ではなく証拠と学説上の議論が必要なときはホーンブロワーやグッドマンに当たること。
