01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Van De Mieroop, M. (2015). A History of the Ancient Near East, ca. 3000–323 BC (3rd ed.). Wiley-Blackwell.
章の要約
本書は番号付きの16章からなる。導入の章に続いて、三つの部にまとめられた15章が並び、その後にエピローグ、王名表、文献案内、参考文献、総合年表が付く。三つの部は著者自身の時代区分に従っており、都市国家、領域国家、帝国の順に進む。出版社によれば、第3版には各章末の「Key Debate」(論点)コラム、ペルシア帝国下の統治と連続性を扱う新しい章、46点の新しい図版が加わっている。
第1章:序論的な課題(Introductory Concerns)
最初の章は、叙述に入る前に対象を定義する。「近東」を東地中海沿岸から中央イランまで、黒海から紅海までの地域とし、エジプトは、その帝国がアジアに及んだ場合を除いて扱わない。各節は史料(粘土板と考古学)、地理、そして物語に先立つ先史時代の展開を取り上げる。さらに、本書がなぜ前4千年紀後半から始まり、アレクサンドロスによるペルシア打倒で終わるのかを説明し、以後の構成を支える都市国家、領域国家、帝国という枠組みを示す。
第I部:都市国家
- 第2章 起源:ウルク現象:都市の起源、文字と行政の発達、「ウルクの拡張」とその余波。
- 第3章 競い合う都市国家:初期王朝時代:文字史料とその歴史的利用、メソポタミア南部の政治的展開、より広い近東、初期王朝時代の社会と書記文化。
- 第4章 前3千年紀後半の政治的中央集権化:アッカドの諸王とウル第三王朝。
- 第5章 前2千年紀初頭の近東:遊牧民と定住民、バビロニア、アッシリアと東方、マリと西方。
- 第6章 前2千年紀初頭における領域国家の成長:シャムシ・アダドと上メソポタミア王国、ハンムラビのバビロン、古ヒッタイト王国、そして「暗黒時代」。
第II部:領域国家
- 第7章 大国のクラブ:主要国の政治体制、外交と交易、地域間の戦争、共有された思想と社会組織。
- 第8章 前2千年紀後半の西方諸国:ミタンニ、ヒッタイト新王国、シリア・パレスチナ。
- 第9章 カッシート、アッシリア、エラム:バビロニア、アッシリア、中期エラム王国。
- 第10章 地域体制の崩壊とその後:出来事、その解釈、そして余波。
第III部:帝国
- 第11章 前1千年紀初頭の近東:東方の諸国と西方。
- 第12章 アッシリアの台頭:アッシリア帝国主義のパターン、史料、前9世紀の拡大、内部の衰退。
- 第13章 アッシリアの世界支配:帝国構造の形成、大国との戦いでの勝利、統治とイデオロギー、アッシリアの文化、帝国の滅亡。
- 第14章 メディア人とバビロニア人:メディア人とアナトリアの諸国、新バビロニア王朝。
- 第15–16章 世界帝国の形成:ペルシア/世界帝国の統治:ペルシア:史料とその難しさ、ペルシアの台頭と拡大、属国の統治、帝国構造、行政、ペルシア行政の地方的な形態、そして帝国の終焉。
エピローグと巻末資料
エピローグの後に、王名表(348–363頁)、文献案内、参考文献、総合年表が続く。
主要概念
対象の枠組み(第1章)
- 古代近東:メソポタミアとその隣接地域を指し、固定された国境ではなく、史料が残る場所によって定義される。
- メソポタミア、アッシリア、バビロニア:用法を説明するコラムで本書が定める地理的な用語で、アッシリアは北部、バビロニアは南部を指す。
- テル:居住の堆積によってできた人工の丘で、この地域に典型的な遺跡の形。
政治の形態(第I–III部)
- 都市国家、領域国家、帝国:本書の構成に用いられる政治組織の三つの段階。
- ウルク現象:第2章が扱う、前4千年紀後半の都市、文字、行政の展開。
- 「暗黒時代」:前2千年紀初頭の後に続く史料の乏しい時期で、第6章で論じられる。
- 大国のクラブ:第7章が扱う、前2千年紀後半の外交体制。
- 地域体制の崩壊:その体制の終わりで、第10章はこれに独立した解釈の節を設けている。
批判的分析
長所
- 明快な構成原理:都市国家、領域国家、帝国という流れは、27世紀に及ぶ広大な叙述に見通しを与える。第19頁、第135頁、第221頁から始まる部の区切りにより、どの時代も探しやすい。
- 史料についての率直さ:第1章は、残された文書と発掘が政治的に強い時期と支配者の視点に偏ること、また発掘が現代の政治状況に左右されてきたことを説明する。第3章は、文字史料とその歴史的利用についての節で始まる。読者は叙述を受け取るだけでなく、証拠を疑うことも教えられる。
- 政治だけでなく主題も扱う:書記文化、社会、アッシリアの文化、共有された思想、行政についての節が、王朝の叙述と並んでいる。
- 学習のための仕掛け:前付けには図版、図表、地図、論点、コラム、文書の一覧があり、巻末には王名表、文献案内、年表がある。
短所
- メソポタミア中心:著者は第1章で、メソポタミアが地理的・年代的な枠組みを与え、他の地域はそれとの接触を通して扱われることが多いと認めている。
- 限られた範囲:エジプトは、その帝国がアジアに及んだ場合を除いて扱われず、先史時代は導入部で概観されるにとどまり、叙述はアレクサンドロスで終わる。それ以前や以後の時代を知りたい読者は、別の本が必要である。
- 国家と時代による構成:章立てが支配者と国家に沿っているため、社会、経済、文化は、全期間を通して追うテーマとしてではなく、時代別の章の中の節として現れる(例えば第3章の初期王朝時代の社会と書記文化)。
コースにおける位置づけ
古代史のコースの中で、近東を扱うのは本書だけであり、一つの地域を詳しく通観する本格的な概説書である。Cartledge の Ancient Greece: A Very Short Introduction は11の都市を通して語る短い歴史、Lane Fox の The Classical World はギリシアとローマを一冊で描く物語的な通史、Hornblower の The Greek World 479–323 BC と Goodman の The Roman World 44 BC–AD 180 は時代を区切った詳細な歴史である。Van De Mieroop の叙述は、前331年のアレクサンドロスによるペルシア打倒で終わり、Hornblower の巻が終わる年の少し前にあたる。ペルシアを扱う二つの章は、ギリシアとの戦争が Hornblower の出発点の背景となっている帝国の歴史を語る。
Livy の The Early History of Rome は、ローマ人自身による起源の物語という、性質の異なる一次史料である。Van De Mieroop の後に読めば、別の文明が自らの始まりをどう書いたかが分かる。一方、近東の本は、現代の歴史家が粘土板と発掘から過去をどう再構成するかを教える。
本書の使い方
近東史を初めて読む人に向いている。出版社は、この地域の多文化的な諸文明の包括的な概観であり、主要な文書や史料を分かりやすく論じていると紹介している。叙述はメソポタミア、アナトリア、シリア・パレスチナ、エジプトとの境界、イランの間を行き来するので、地図や年表を読み慣れていると助けになる。
実践的な進め方は次のとおり。
- まず第1章から:地理的名称についてのコラムも含め、以後の語彙を整える。
- 中心となる道筋:起源と最初の国家は第2–6章、外交体制は第7章、崩壊は第10章、その後に前1千年紀の帝国を扱う第12、13、15–16章。
- ざっと読む、または参照用:特定の地域や国家を調べるなら第8、9、11章。人名や年代の位置づけには王名表を使う。
- 学習のための仕掛けを使う:各章の Key Debate コラムを批判的に読み、その章自身が挙げる史料と照らし合わせる。地域を行き来するときは年表を手元に置く。
- 一次文書を足す:出版社は聖書とギルガメシュ叙事詩の議論に触れているので、どちらかの翻訳を読めば、各章を確かめる文書が得られる。
