01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Moore, R. I. (2007). The Formation of a Persecuting Society: Authority and Deviance in Western Europe 950–1250 (2nd ed.). Wiley-Blackwell.
章の要約
本書は短く、本文は約170ページと書誌的な補論からなり、議論そのものが主な内容である。出版社の紹介は問題を次のように示す。十世紀から十三世紀にかけて、ヨーロッパでは民衆の異端が現れ、異端審問が確立し、ユダヤ人の財産没収と大量殺害が行われ、ハンセン病者を隔離して市民的権利を制限する精巧な措置が講じられた。これらは従来、別々の現象として、それぞれの犠牲者が中世社会に突きつけた問題から説明されてきた。ムーアは、これらの少数集団やほかの集団への扱いに見られる一致は個別には説明できず、すべてが一つの迫害の型に属し、その型がヨーロッパを迫害社会にしたと論じる。1987年に初版が出た本書の第二版は、序文、新しい最終章、批判的文献目録を加え、批判に応えている。
序論
約5ページの短い序論が、議論と本書が追う問いを開く。
第1章:迫害
最も長い章で、約55ページ。ここから論証が始まる。題名と出版社の紹介は、迫害そのものを問題にしていることを示す。序論が並べて置く、異端者、ユダヤ人、ハンセン病者への扱いである。
第2章:分類
第2章は約30ページで「分類」を取り上げる。目次がこの語で指すのは、人や集団をカテゴリーに仕分ける営みである。
第3章:穢れと危険
この章題は、儀礼的な清浄と汚染を論じたメアリー・ダグラスの有名な人類学の書の題名でもある。約23ページで、主要な章のなかでは最も短い。
第4章:権力と理性
約27ページのこの章は、権力と理性を対にしている。本書の副題『権威と逸脱』(Authority and Deviance)が、議論の枠組みとなる二つの語を示している。
第5章:迫害社会
第二版で加わった約28ページの最終章は、1987年以降の研究を踏まえ、「迫害社会」という概念に戻る。出版社によれば、ムーアはこの概念を精緻化し、初版への批判に応えている。
書誌的補論:迫害社会をめぐる議論
約25ページの批判的文献目録が続き、そのあとに文献目録と索引が置かれる。本書が呼び起こした議論を概観するもので、学界の論争への案内になる。
主要概念
序論と第1–3章
- 迫害社会:出版社の用語。少数集団の迫害が一つの型をなすヨーロッパを指し、その型は十世紀から十三世紀に現れ、以後も続いたとされる。
- 分類:人と集団をカテゴリーに分けること。第2章の主題。
- 穢れと危険:第3章の題。メアリー・ダグラスの儀礼的清浄の研究から借りている。
第4–5章と補論
- 権威と逸脱:副題のこの対が、分析の枠組みをなす。
- 個別の事件ではなく型:異なる迫害が一つの展開をなすという命題。
- 史学上の論争:批判的文献目録が、1987年以降の学界の反応を記録している。
批判的分析
長所
- 凝縮された議論。 本文は約170ページで、論点を簡潔に示しており、授業に向く。
- 別々の主題を結びつける。 紹介は、異端、反ユダヤの暴力、ハンセン病者への扱いを併せて研究すべきことを本書が示すとしている。
- 批判に応える第二版。 新しい序文、最終章、批判的文献目録が、一世代分の研究と批判を扱っており、ワイリー社は本書を中世史の古典と呼んでいる。
短所
- 論争のある命題。 出版社自身が議論を論争的と述べ、第二版も一部は批判に応えるために出されているため、批判的文献目録と併せて読むのがよい。
- 西ヨーロッパに限定。 範囲は950年から1250年の西ヨーロッパに限られる。
- 概説ではない。 論証を主眼とする本なので、読み始める前に中世史の通史から背景を得ておく必要がある。
コースにおける位置づけ
中世史のコースでは、ムーアは通史のあとに読む、論証的な小著である。ウィッカムの『中世ヨーロッパ』(Medieval Europe)、ローゼンワインの『中世小史』(A Short History of the Middle Ages)、ベネットとバーズリーの『中世ヨーロッパ小史』(Medieval Europe: A Short History)が、十世紀から十三世紀が置かれる叙述の文脈を与える。ルービンの『中世:ごく短い入門』(The Middle Ages: A Very Short Introduction)は、人びとがどう生き考えたかを扱う主題別の入門である。ウィッカムの『初期中世の枠組み』(Framing the Early Middle Ages)はより早い数世紀(400–800年)を壮大な規模で扱うが、ムーアは簡潔で、盛期中世に関心を向ける。
本書の使い方
中世ヨーロッパを学び、十一・十二世紀の教会の概要を知っている学生に向く。まず序論を読み、次に第1章と第5章で命題とその修正に触れ、第2–4章をそれらを結ぶ議論として読む。書誌的補論で賛否の論拠を見て、事例(異端、ユダヤ人、ハンセン病者)を一つ選び、専門書で議論を検証するとよい。
短い演習の案:第1回は第1章、第2回は第2–4章、第3回は補論とともに第5章を取り上げ、ムーアが描く型が各集団に当てはまるかを順に問う。
読むあいだは950–1250年の年表を手元に置く。教会改革や最初の異端審問の制度を含めるとよい。議論はこれらを連続した展開として扱うからである。命題を検討するときは、第5章を読み終えた段階でムーアの説明を一段落にまとめ、そのあと補論を読んで、どの批判がどの要素に関わるかを書き留めると役に立つ。また、通史のなかの異端やヨーロッパのユダヤ人についての章とムーアを並べると、通史が何を省いているかが見えてくる。
