01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Åström, K. J., & Murray, R. M. (2008). Feedback Systems: An Introduction for Scientists and Engineers. Princeton University Press. 無料の電子版:http://www.cds.caltech.edu/~murray/amwiki
章の要約
本書は12章からなり、読んだ版は408ページである。序文は、対象読者を、物理、生物、情報、社会のシステムにおけるフィードバックを理解し活用したい科学者と技術者とし、目標を、フィードバックと制御に関する現在の知識を簡潔かつ洞察に富む形で示すことだと述べている。数学的な要求は控えめだが、厳密さは犠牲にしない。前半はほぼ状態空間だけで進み、後半は伝達関数に基づく「古典制御」である。各章の末尾には短い「参考文献案内(Further Reading)」と演習問題がある。
第1章:序論
この章はフィードバックを、二つ以上の動的システムが互いに影響し合うように結合された状況と定義する。そのため因果的な推論が循環し、形式的な方法が必要になる。遠心調速機などの初期の技術的な例をはじめとして、工学史、電力、航空宇宙、材料と加工、計装、ロボットと知能機械、ネットワークと計算機システム、経済、自然界のフィードバックを概観する。続いて、フィードバックの性質(不確かさに対するロバスト性、動特性の設計、より高いレベルの自動化、欠点)と、簡単な形のフィードバック(フィードフォワード、正のフィードバック、オン・オフ制御、PID制御)を論じる。
第2–3章:システムのモデル化;例
第2章は、モデル化を、解析とシミュレーションのためにシステムの精密な表現を作ることとして示す。力学と電気工学の遺産に触れ、常微分方程式と差分方程式による状態空間モデルを導入し、シミュレーション、ブロック線図、実験からのモデル化、正規化とスケーリング、モデルの不確かさを含むモデル化の方法論を与える。第3章は、全体を通して使う例を集めている。クルーズコントロール、自転車の力学、演算増幅器回路、計算システムとネットワーク(ウェブサーバー制御と輻輳制御)、原子間力顕微鏡、薬物投与、個体群動態である。初めて読む人は、自分の背景に最も近い例に集中するよう勧められている。
第4章:動的挙動
この章は非線形微分方程式を扱う。解、位相図、平衡点と極限周期軌道、安定性の定義、線形系の安定性と線形近似、リアプノフ関数、吸引領域、分岐、フィードバックによる非線形動特性の設計である。
第5章:線形システム
行列指数関数と畳み込み方程式が、線形時不変系の入出力の挙動を特徴づける。この章は、固有値とモード、座標不変性、定常応答、そして非線形系を線形系に関係づける方法としてのヤコビ線形化とフィードバック線形化も扱う。
第6–7章:状態フィードバック;出力フィードバック
第6章は可到達性を導入し、一定の条件のもとで、状態フィードバックによって閉ループの固有値を任意に配置できることを示す。可到達標準形、2次および高次の系の設計、積分動作を含む。第7章は可観測性、オブザーバ、推定した状態を使った制御(分離原理が証明される)、カルマンフィルタ、一般的なコントローラ構造へ進む。
第8–9章:伝達関数;周波数領域解析
第8章は指数信号への応答を通して伝達関数を導入し、ブロック線図、極と零点、極零相殺、代数ループ、ボード線図を扱い、最後の節でラプラス変換を扱う。第9章は、ループ伝達関数、ナイキストの安定判別法(条件付き安定性を含む)、安定余裕、ボードの関係式と最小位相系、一般化されたゲインと位相(小ゲイン定理と受動性を含む)を構築する。
第10–11章:PID制御;周波数領域設計
第10章は、PID制御、複雑なシステムのための簡単なコントローラ、調整(リレーフィードバックとジーグラー=ニコルス則を含む)、積分器のワインドアップ、微分のフィルタリング、設定値の重み付け、アナログおよび計算機による実装を扱う。第11章は、感度関数、フィードフォワード設計、性能仕様、進み・遅れ補償によるループ整形、右半平面の極と零点、時間遅れ、ボードの積分公式から生じる基本的な限界を展開する。章末の設計例は、ベクトル推力航空機の横方向制御である。
第12章:ロバスト性能
最後の章は、不確かさ(パラメータ変動と未モデル化ダイナミクス)をモデル化し、ナイキストの判別法によるロバスト安定性と、不確かさがあるときの性能を検討し、ロバスト極配置を示す。最終節では、定量的フィードバック理論と線形二次制御を含む、ロバスト性能のための手法を概観する。
主要概念
第1–5章:モデルと挙動
- フィードバックと開ループ・閉ループ:システムが循環状に結ばれた状態と、ループを切った状態。
- 状態空間モデル:状態、入力、出力で記述されるシステム、
dx/dt = f(x, u)、y = h(x, u)。 - 安定性とリアプノフ関数:解が平衡点の近くにとどまるか収束するかを判断する方法。
- 行列指数関数と畳み込み:線形時不変系の応答の完全な記述。
第6–9章:状態フィードバック、オブザーバ、周波数領域
- 可到達性と可観測性:状態を操作できるか、出力から推定できるか。
- 固有値配置とオブザーバ:閉ループの動特性の設計と、測定されない状態の推定。
- 伝達関数とボード線図:指数応答から得られる入出力の記述と、その周波数応答のグラフ。
- ナイキストの判別法と安定余裕:開ループの周波数応答から閉ループの安定性を判定する。
第10–12章:設計とロバスト性
- PID制御:比例、積分、微分動作、調整とワインドアップ。
- 感度関数とループ整形:ループ伝達関数を通して閉ループ応答を整える。
- 基本的な限界:右半平面の極と零点、遅れによる制約。
- ロバスト安定性とロバスト性能:プロセスに不確かさがあるときの安定性と性能。
批判的分析
長所
- 複数の読者層に応える設計。 序文によれば、本書はカリフォルニア工科大学の授業から生まれ、受講者は工学系の学部生と、生物学、計算機科学、物理学の大学院生だった。ラプラス変換に頼らず、指数応答から伝達関数を導入している。例は機械、電気、計算、生物、経済のシステムにわたる。
- 現代的な主題に早く到達する。 非線形動力学、リアプノフ安定性、行列指数関数、可到達性と可観測性、基本的な限界が最初のコースに登場する。序文は、従来の内容の一部と引き換えにこれらを選んだと述べている。
- 分かりやすい道しるべ。 発展的な節が本の中で示され、序文は10週間と14〜15週間の授業の具体的な計画を提案し、各章末の参考文献案内は教科書と歴史を指し示す。
- 付属のウェブサイト。 序文は、コード、補足の例題と演習問題、講義資料を備えた付属ウェブサイトを告知している。
短所
- 省かれた古典的技法。 序文によれば、根軌跡、進み・遅れ補償、ボード線図とナイキスト線図を手で描く詳細な規則は意図的に軽く扱われている。これらを期待する授業は補う必要がある。
- スカラーの設計が中心。 簡単のため、第6・7章の状態フィードバックと出力フィードバックの設計は、1入力1出力で展開されている。多入力の設計には別の資料が必要になる。
- 数学的な前提。 線形代数、微分方程式、複素数が前提とされ、それらを復習する付録はない。序文は最終章をより進んだ学習への導入と述べているので、ロバスト設計の完全な扱いではなく、出発点である。
- 版。 これは2008年の初版である。2021年に第2版が出ており、その内容はここで述べたものと異なる。
コースにおける位置づけ
信号・システム・制御のコースのなかで、広い読者を想定して書かれた制御の教科書である。Niseの Control Systems Engineering は、MATLABとSimulinkを使って応答とコントローラ設計を扱う応用的な入門書で、より多くの工学的な実習を望む学生の自然な併読書になる。OppenheimとWillskyの Signals and Systems とSadikuの入門書は、信号と変換の背景を与える。ÅströmとMurrayはラプラス変換を必要としないので、これらは有用な背景だが前提ではない。Downeyの Think DSP とCraigの Introduction to Robotics は、より専門的な隣接書で、それぞれPythonによる信号処理と、ロボットの力学と制御を扱う。
本書の使い方
工学と自然科学の学部上級生および大学院初年次の学生に向く。序文は、2年次レベルの線形代数、基本的な常微分方程式、いくらかの複素数の知識を前提としている。
10週間の授業では、著者は第1–2章、第4–6章、第8–11章を毎週1章ずつ進め、最後の章の一部を省くことを提案している。14〜15週間なら第3章と第12章を加えられる。独習者も同じ計画に従える。まず第1・2章を読み、第3章は自分の分野に最も近い例を拾い読みし、状態空間の章を周波数領域の章より先に通読する。第12章は最後に回すのがよい。序文が、いくつかの標準的な結果を演習に委ねていると述べているので、各章末の演習を解き、付属ウェブサイトのコードを実行する。
版と出典
本ガイドは、初版(Princeton University Press、2008年)を対象とし、著者による電子版v2.10c(2010年3月4日)に基づく。これは訂正を加えた刷で、著者のウェブサイトから個人利用のために提供されている。序文と目次、各章の冒頭とその節構成、第1・6・7・10・11・12章の一部の節に基づいている。
