索引 / 001 JA
Public Finance and Public Policy(財政学と公共政策) cover

経済学

経済学

Public Finance and Public Policy(財政学と公共政策)

Jonathan Gruber

英語原題: Public Finance and Public Policy

米国の医療・税制政策に深く関わってきた経済学者による、政府の経済学に関する代表的な学部向け教科書です。各理論トピックを政策が実際にどう機能するかの実証的証拠と対にし、政府がなぜ介入するのか、社会保険や公共プログラムがどう設計されるのか、税が行動と所得分配にどう影響するのかを扱います。

前提知識: 中級ミクロ経済学が理想ですが、しっかりした経済学原理と基本的な代数があれば大半の章は読めます。

難易度レベル
中級
学術レベル
学部
public financepublic economicstaxationsocial insurancepublic policy教科書

01 / 読書ガイド

読書ガイド

引用

Gruber, J. (2026). Public Finance and Public Policy (8th ed.). Macmillan Learning.

章の要約

第8版は4部25章で構成される。出版社は本書を、厳密な理論、最新の実証的証拠、政策志向の応用を組み合わせた教科書と説明しており、各章には「Application(応用)」と「Empirical Evidence(実証的証拠)」という2種類のコラムが置かれている。

第I部 第1–4章:なぜ財政学を学ぶのか/財政学の理論的道具/財政学の実証的道具/予算分析と赤字財政

導入部では、政府がなぜ市場に介入するのかを示し、以後の章で使う2つの道具立てを用意する。理論的な道具(第2章)と実証的な道具(第3章)である。第1章はこの版で全面的に書き改められ、バイデン政権末期から第2次トランプ政権発足までの政策変化を扱い、ワクチン接種をめぐる応用コラムも更新されている。第3章には、職場のウェルネス・プログラムを題材に、バイアスとランダム化比較試験の必要性を論じる新しい記述が加わった。第4章は政府予算と財政赤字、そして赤字を抑えつつ支出を管理することの難しさを取り上げる。

第II部 第5–8章:外部性:問題と解決策/実際の外部性:環境と健康の外部性/公共財/費用便益分析

市場の失敗を扱う中核の章である。第5章は外部性の問題とそれへの政策対応を示し、第6章はその分析を環境と健康の外部性に応用する。環境規制と気候変動に関するデータも更新されている。第7章と第8章は、公共財と、公共事業を実施する価値があるかを判断するための費用便益分析を扱う。

第II部 第9–11章:政治経済学/州・地方政府の支出/教育

第II部の残りは、政府が実際にどのように支出を決めるのかを問う。第9章は政治経済学を扱い、出版社によれば米国における政治的分極化についての新しい記述が加わっている。第10章は州・地方政府の支出に移り、第11章は教育にあてられている。

第III部 第12–14章:社会保険:政府の新しい機能/社会保障(Social Security)/失業保険・障害保険・労災補償

第III部は、政府がなぜ保険を提供するのかを論じる総論の章から始まり、それを最大規模の制度に当てはめる。第13章は公的年金である Social Security、第14章は失業保険、障害保険、労働者災害補償を扱う。

第III部 第15–17章:医療保険I:医療経済学と民間医療保険/医療保険II:メディケア、メディケイド、医療制度改革/所得格差と政府の移転プログラム

著者の研究分野である医療に2章があてられる。第15章は医療経済学、民間保険、米国の医療の費用と質を、第16章はメディケア、メディケイド、医療費負担適正化法(ACA)を扱う。第17章は所得格差と、現物給付を含む移転プログラムを論じる。

第IV部 第18–20章:課税:その仕組みと意味/課税の公平性への含意:租税の帰着/租税の非効率性と最適課税への含意

課税の理論を3段階で扱う。税制がどう機能するか(第18章)、税を実際に負担するのは誰か(第19章)、そして税の効率費用と、それが最適な税制設計に何を意味するか(第20章)である。

第IV部 第21–25章:労働供給への課税/貯蓄への課税/リスクテイクと富への課税/事業所得への課税/抜本的税制改革と消費課税

残りの章は理論を個々の課税ベースに当てはめる。労働供給(最近の税制案を含む)、貯蓄、リスクテイクと富(抜け穴をふさぐ試みや富裕税の議論を含む)、事業所得(法人税の新しい動向を含む)である。第25章は抜本的な税制改革と消費課税で本書を締めくくる。

主要概念

第I部:導入と背景

  • 理論的道具と実証的道具:本書は、後の章で使う理論と実証手法にそれぞれ独立した章をあてている。
  • ランダム化比較試験とバイアス:単純な比較がなぜ誤解を招きうるのか、政策評価でなぜランダム化された証拠が重視されるのか。
  • 赤字財政:歳入を上回る支出を政府がどう賄うか、そしてそれが生む予算上の問題。

第II部:外部性と公共財

  • 外部性:取引の当事者以外に及ぶ費用や便益と、それに対する民間・公共の対処法。
  • 公共財:政府が供給すべきかどうかという問題を生む財。
  • 費用便益分析:公共事業の費用と便益を比較衡量する手法。
  • 政治経済学:政治過程が政府の実際の選択をどう形づくるか。

第III部:社会保険と再分配

  • 社会保険:老齢、失業、障害、病気などのリスクに対して政府が提供する保険。
  • 移転プログラム:所得格差に対処する現金給付と現物給付のプログラム。

第IV部:課税の理論と実際

  • 租税の帰着:形式上税を納める者と、実際に負担を負う者との区別。
  • 最適課税:税が生む非効率性を踏まえて税を設計すること。
  • 消費課税:所得ではなく支出に課税することで、抜本的税制改革の一つの道筋となる。

批判的分析

長所

  • 理論と証拠の組み合わせ。 実証手法に独立した章を設け、全編に Empirical Evidence のコラムを置いているため、学生はモデルが何を予測するかだけでなく、政策効果に関する主張がどのように検証されるかを学べる。第3章に加わったバイアスとランダム化試験の記述は、この側面をさらに強めている。
  • 幅広く政策に即した内容。 25章は市場の失敗から、社会保険と医療を経て、主要な課税ベースごとの課税にまで及ぶ。第III部の6章はすべて社会保険、医療保険、移転に充てられている。
  • 政策実務の経験をもつ著者。 出版社の著者紹介によれば、Gruber は米国財務省の次官補代理を務め、マサチューセッツ州の医療改革と医療費負担適正化法の立案に関わった。医療と税の章は、著者自身が直接携わった分野に基づいている。
  • 新しいデータ。 出版社によれば、第8版ではすべての統計、表、図、応用例が更新され、政治、医療、格差、労働供給、法人税の章が大きく改訂された。

短所

  • 米国中心。 第III部で分析される制度は米国のもの(Social Security、メディケア、メディケイド、ACA)であり、第1章も最近の米国政権を軸に組み立てられている。他国の読者は、分析を自国の制度に置き換えて読む必要がある。
  • 分量が多い。 25章は1学期で扱える量を超えるため、授業では取捨選択が必要になる。
  • 内容が古くなりやすい。 多くの記述が現在の政策とデータに結びついており、出版社が挙げる長い改訂項目の一覧は、版ごとにどれほど内容が変わるかを示している。旧版は理論の学習には使えるが、事実関係の参照には向かない。
  • 独習への支援が限られる。 解答集とテストバンクは教員向け資料とされており、独学の学生には公式の解答がない。

コースにおける位置づけ

公共経済学と労働経済学を扱うこのコースで、Gruber は財政学の部分の主教科書となる。Stephen Smith の Taxation: A Very Short Introduction は、政府がなぜ課税するのか、誰が税を負担するのかを多くの国の例とともに平易に概観する短い本で、第IV部の前に手早く読むのに適しており、その国際的な広がりは Gruber の米国中心の視点を補う。Thomas Piketty の The Economics of Inequality は、格差の測定と、税と移転による再分配を扱う短い入門書で、第17章と第19章の良い副読本になる。

Ehrenberg、Smith、Hallock の Modern Labor Economics は学部レベルの労働経済学の教科書で、課税と労働供給、社会保険、移転プログラムの点で Gruber と重なる。第21章をその労働供給の扱いと並べて読むと、同じ問いを2つの分野から眺めることができる。Cahuc、Carcillo、Zylberberg の Labor Economics は形式的なモデルと計量経済学的研究の概観を備えた大学院向け教科書で、より技術的な深さを求める学生が後に進む本である。Levine と Rubinstein の Smart and Illicit は一本の実証研究論文であり、第3章で論じられる種類の証拠の実例として読むのがよい。

本書の使い方

本書は、経済学の入門コースを終えた経済学部の学部生に向いている。中級ミクロ経済学を学んでいれば第2章と第20章は読みやすくなるが、道具立ての章は読者の準備を補うために置かれている。公共政策を学ぶ学生にとっては、経済学者が政府のプログラムをどう評価するかを知る手引きとなる。

1学期で使う場合の実践的な計画:

  • 中核: 第1–3章(動機と道具)、第5–8章(外部性、公共財、費用便益分析)、第12章(社会保険の論理)、第18–20章(税の仕組み、帰着、効率性と最適課税)。これで分野の分析的な骨格が得られる。
  • 関心に応じて選択: 第III部から制度の章を1、2章(Social Security、医療、または失業・障害保険)、第21–25章から課税ベースの章を1、2章。第21章は労働経済学の授業と自然に組み合わせられる。
  • 任意: 第4、9、10、11章(予算、政治経済学、州・地方の支出、教育)は、政策や政治の比重が大きい授業向けである。

Empirical Evidence のコラムは読み飛ばさないこと。本文の主張がどのように裏づけられるかを示しており、コラムで見慣れない手法が出てきたら第3章に戻ると理解が進む。米国外の読者は、第III部の各章について自国の対応する制度を調べ、分析のどの部分がそのまま当てはまるかを考えるとよい。