01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Baten, J. (Ed.). (2016). A History of the Global Economy: 1500 to the Present. Cambridge University Press.
章の要約
本書は編著書で、序論、十の地域別の章、短い結論、索引から成る。各地域の章は、その地域を専門とする研究者が執筆している。地域の章の間と内部には、一つのテーマを地域横断的に追う「連結章」(interlinking chapters)と、特定の出来事・企業・人物を扱うより短い「ハイライト記事」(highlight articles)が配されている。各章の収録情報にあるページ範囲から見ると、地域の章は約20ページ(日本、中国)から、40ページ以上(南欧・東欧・中欧、ラテンアメリカ、中東・北アフリカ・中央アジア、サハラ以南アフリカ)まで幅がある。編者は序論で全体を導く問いを示している。世界のある地域はなぜ豊かで別の地域はなぜ貧しいのか、両者はいつ分かれたのか、その原因は何か、という問いである。
序論:世界経済の歴史――「なぜ」と「どのように」
ヨアヒム・バーテン(Joerg Baten)が本書の問いと方法を述べる。すべての地域に共通の発展指標を適用し、貿易、移民、制度、物的資本と人的資本の移動を、成長の説明として繰り返し取り上げる。
第1章:北西ヨーロッパ
ヤン・ライテン・ファン・ザンデン(Jan Luiten van Zanden)による地域概観が巻頭を飾る。続いて、スティーブン・ブロードベリ(Stephen Broadberry)の連結章「世界経済における大分岐――実質所得の長期的趨勢」と、キャサリン・シェンク(Catherine Schenk)による国際金融規制・監督に関するハイライト記事が置かれている。
第2章:南欧・東欧・中欧
バーテン自身が執筆したヨーロッパのその他の地域の章。連結章「スプートニク・ショックとPISAショック――世界的な成長の決定要因としての人的資本」(同じくバーテン)と、内戦期の国家財政を論じるパブロ・マルティン・アセーニャ(Pablo Martín Aceña)、ロシア帝国の財産権を論じるイリーナ・ポトキナ(Irina Potkina)のハイライト記事が付く。
第3章:アメリカ合衆国とカナダ
プライス・フィッシュバック(Price Fishback)が北米を担当する。ケビン・オルーク(Kevin O'Rourke)の連結章は、1930年代の大恐慌と2008年以後の世界経済危機を比較する。フランコ・アマトーリ(Franco Amatori)とクヌート・ソーネル(Knut Sogner)による三本のハイライト記事は、多事業部制企業と経営者資本主義、経営史とイノベーション、そしてアルフレッド・D・チャンドラー・ジュニア(Alfred D. Chandler Jr.)その人を扱う。
第4章:ラテンアメリカ
ルイス・ベルトラ(Luis Bértola)とホセ・アントニオ・オカンポ(José Antonio Ocampo)がラテンアメリカの章を書いている。バーテンの連結章は「天然資源の呪い」はあったのかを問う。ハイライト記事は、1500~1800年の初期接触・疫病・計算能力(numeracy)の発達(バーテン)と、独立の経済的帰結(サロモン・カルマノビッツ、Salomón Kalmanovitz)を扱う。
第5章:ユーラシアの視点から見た日本の長期成長過程
斎藤修(Osamu Saito)が日本をユーラシア規模の比較の中に位置づける。岡崎哲二(Tetsuji Okazaki)のハイライト記事は第二次世界大戦期の日本の産業を論じる。
第6章:中国
中国の章には、国際博覧会と近代における東アジアの参加についてのデビン・マ(Debin Ma)のハイライト記事と、連結章「1820~1913年の貿易と貧困――第三世界はいかに取り残されたか」が付く。目次はこの連結章を第5章と第6章の橋渡しとして掲げている。
第7章:中東・北アフリカ・中央アジア
リマ・ガネム(Rima Ghanem)とバーテンが中東・北アフリカ・中央アジアを概観する。世界経済史における女性についての連結章と、オスマン帝国の帝国的拡大とその文化的決定要因に関するハイライト記事が添えられている。
第8章:南アジアの経済史――定量研究のサーベイ
南アジアに関する定量研究のサーベイ。植民地帝国における健康指標としての身長を論じる連結章と、インド人移民の計算能力を証拠に、インドからの頭脳流出が低開発の原因になったかを問うハイライト記事が組み合わされている。
第9章:東南アジアとオーストラリア/ニュージーランド
マーティン・シャナハン(Martin Shanahan)の章は、東南アジアとオーストラリア・ニュージーランドを一つにまとめる。東南アジアの先史・古代・古典期に関するハイライト記事と、世界経済史における制度の発展についての連結章が付いている。
第10章:サハラ以南アフリカ
ガレス・オースティン(Gareth Austin)の章が地域めぐりを締めくくる。ハイライト記事は、19世紀末の「アフリカ分割」でなぜエチオピアは植民地化されなかったのかを問う。
結論
編者による3ページの結びの章。
主要概念
序論および第1~4章:ヨーロッパとアメリカ大陸
- 大分岐:世界の豊かな地域と貧しい地域の間に生じた実質所得の長期的な乖離。ブロードベリの連結章がたどっている。
- 人的資本:成長の推進力としての教育と技能。「スプートニク・ショック」と「PISAショック」の比較を通じて論じられる。
- 天然資源の呪い:資源の豊かさがラテンアメリカ経済の足かせになったのかという問い。
- 計算能力(numeracy):数を扱う力。就学記録がない時代について、バーテンが人的資本の歴史的指標として用いる。
第5~10章:アジア、中東、アフリカ
- 貿易と貧困:1820~1913年を扱う連結章は、貿易と、今日第三世界と呼ばれる地域が取り残されたことの関係を問う。
- 身長:植民地帝国における健康状態と生活水準の指標としての平均身長。
- 制度:第9章の連結章は、世界経済史における制度の発展を比較する。
- 経済史における女性:本書が独立した連結章を割いているテーマ。
批判的分析
長所
- 地域専門家と共通の枠組み。 各地域の章はその地域の専門家が書き、各章は同じ発展指標を用いる。ヌーノ・パルマ(Nuno Palma)は『TSEG』(2017年)の書評で、多数の著者による編著としては「驚くべき一貫性」があると評した。
- ヨーロッパ以外への広がり。 J. L. ローゼンブルーム(J. L. Rosenbloom)は『Choice』誌で、発展途上国の扱いが特に価値あるものだと指摘し、各章が当該地域の研究の妥当な概観になっていると評価した。パルマは、近年の経済史がヨーロッパ中心主義から離れてきた流れを本書が反映しており、近世にも十分な注意が払われていると述べている。
- 発展の代替的な指標。 一人当たりGDPのほか、人体計測(身長)データ、計算能力、その他の人的資本指標が使われる。パルマはこの点と、多数の有益な地図を本書の特色として挙げている。
- 地域を横断するテーマ。 連結章のおかげで、天然資源や女性の経済的役割といった一つの問いを、単一の地域の章を越えて追うことができる。
短所
- 初学者には凝縮されすぎている。 パルマは、小さな本にこれほど多くの情報が詰め込まれていることに感嘆しつつも、事前知識や教員の補助がなければ、多くの学部生には記述が簡潔すぎるかもしれないと考えた。
- 連続した物語ではなく選択的な叙述。 パルマによれば、指標と地域の専門化を重視した分、より伝統的な叙述が犠牲になっており、特に西側諸国は必然的により手厚く扱われる。
- 規模の不均等。 章の長さは大きく異なり、日本と中国の章はそれぞれ約20ページで、他のいくつかの地域は40ページ以上あるため、国ごとの扱いは均等ではない。
- サーベイであって単一の論証ではない。 出版社は各章を、主要な知見・論争・考え方の要約と説明している。多数の著者によるものなので、成長の起源に関する一貫した主張を求める読者は、それを統一された論証ではなく共有された問いの中にしか見いだせない。
コースにおける位置づけ
経済史のコースに挙げられている本のうち、本書は地域別のサーベイ型教科書にあたる。ラリー・ニール(Larry Neal)とロンド・キャメロン(Rondo Cameron)の A Concise Economic History of the World は、最古の農耕社会から現在までを一人の著者が語る通史である。バーテンの本は1500年から始まり、単一の語り手を各地域の専門家に置き換えている。マーク・コヤマ(Mark Koyama)とジャレッド・ルービン(Jared Rubin)の How the World Became Rich や、アセモグル(Acemoglu)とロビンソン(Robinson)の Why Nations Fail は、成長がなぜ始まりなぜ不均等なのかを論じる、主張を軸にした書物であり、問いの枠組みを得るために本書の前に、因果をめぐる論争を深めるために本書の後に読める。ダグラス・ノース(Douglass North)の Institutions, Institutional Change and Economic Performance と、アセモグルとロビンソンの Economic Origins of Dictatorship and Democracy はより理論的で、バーテンの各章で実証的な背景に慣れてから取り組むのがよい。
本書の使い方
本書は学部生と一般読者を対象とする。パルマは研究者にとっても最近の文献への手引きとして有用だと見ている。特別な準備は要らないが、GDP、生産性、貿易といった基本概念を知っていると、データの多い章が読みやすくなる。
実用的な読み方としては、まず序論を読む。後続のすべての章が使う問いと指標がそこに示されているからである。次に、授業やプロジェクトに必要な地域の章を、それぞれに付いた連結章とともに読む。実質所得を扱うブロードベリの章(第1章の後)と人的資本を扱うバーテンの章(第2章の後)は比較の骨格をなし、周辺の地域を飛ばす場合でも読む価値がある。ハイライト記事は短いケーススタディとして読めばよく、初回は省いてもよい。最後に結論を読む。制度の役割のような一つの問いを軸にする授業では、制度の発展についての連結章を二、三の地域の章と組み合わせ、各著者が同じ指標をどう扱っているかを比べるとよい。
