01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Christensen, C. M. (1997). The Innovator's Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail. Harvard Business School Press.
章の要約
初版(Harvard Business School Press、1997年)は約225ページの短い本で、序論、二部構成の10章、索引からなる。第1部は、よく経営された業界トップ企業が、ある種の技術変化が訪れたときになぜ失敗するのかを説明し、第2部はその説明をマネジャーへの助言に変える。1999年に The TRIZ Journal で本書を書評したEllen Dombのまとめによれば、本書の中心的な区別は、企業の既存市場向けに製品を改良する持続的技術(sustaining technology)と、まず非伝統的な市場や用途で成功し、典型的には新規参入者によって持ち込まれる破壊的技術(disruptive technology)との区別である。2000年のHarperBusiness版以降の版には第11章が加わっているため(後述)、第7章より後の章番号は版によって異なる。
第1部:Why Great Companies Can Fail(優れた企業はなぜ失敗しうるのか)
第1章:How Can Great Firms Fail? Insights from the Hard Disk Drive Industry(優れた企業はどのように失敗するのか:ハードディスクドライブ産業からの洞察)
冒頭の、もっとも長い章の一つは、議論をディスクドライブ産業の上に組み立てる。Dombによれば、クリステンセンはこの産業を、生物学者が世代交代の速い昆虫で遺伝学を研究するように、変化の速い試験例として扱っている。Dombは、メインフレーム用の14インチドライブから8インチ、5.25インチ、3.5インチを経て2.5インチ、1.8インチへと続くドライブの大きさの世代交代を挙げ、最初の世代を除いて、新しい大きさはいずれも既存の業界の関心を引けなかった新参者によって開発されたと指摘している。
第2章:Value Networks and the Impetus to Innovate(価値ネットワークとイノベーションへの推進力)
もっとも長いこの章は、題名にある価値ネットワークという概念を導入し、それを企業をイノベーションへと駆り立てる誘因に結びつける。これが、トップ企業がある種のイノベーションには資源を投じ、他のものには投じない理由についての議論の後半部分となる。
第3章:Disruptive Technological Change in the Mechanical Excavator Industry(機械式掘削機産業における破壊的技術変化)
二つ目の産業事例は、議論をエレクトロニクスの外、土木機械で検証する。Dombもこれを本書の事例の一つとして挙げている。
第4章:What Goes Up, Can't Go Down(上に行ったものは下に戻れない)
第1部は、題名が示す非対称性で締めくくられる。既存企業は、より要求の厳しい上位市場へは容易に移動するが、破壊的技術が始まる市場へ下りていくことはきわめて難しい。
第2部:Managing Disruptive Technological Change(破壊的技術変化のマネジメント)
第5〜6章:Give Responsibility for Disruptive Technologies to Organizations Whose Customers Need Them(破壊的技術の責任を、その技術を必要とする顧客を持つ組織に与えよ);Match the Size of the Organization to the Size of the Market(組織の規模を市場の規模に合わせよ)
第2部は、章題として述べられた二つの処方箋から始まる。破壊的技術は、それを実際に求める顧客を持つ組織に置くこと。そしてその組織を、小さな新興市場でも意味を持つほど小さくすることである。
第7章:Discovering New and Emerging Markets(新しい市場、新興市場の発見)
題名のとおり、この章は既存の市場に仕えるのではなく、破壊的技術が根づく新しい市場やまだ生まれつつある市場を見つけることを扱う。
第8章:Performance Provided, Market Demand, and the Product Life Cycle(提供される性能、市場の需要、製品ライフサイクル)
この章は、技術が提供する性能と市場が求める性能とを関係づけ、それを製品ライフサイクルに結びつける。2000年以降の版では第9章にあたる。
第9〜10章:Managing Disruptive Technological Change: A Case Study(破壊的技術変化のマネジメント:ケーススタディ);The Dilemmas of Innovation: A Summary(イノベーションのジレンマ:まとめ)
第9章は本書の処方箋を一つの具体的な事例に適用し、第10章はジレンマを短くまとめる。2000年以降の版では、新しい章「How to Appraise Your Organization's Capabilities and Disabilities(自社の能力と無能力をどう評価するか)」が第8章として挿入され、読書会用のガイドも加えられている。
主要概念
第1部:優れた企業はなぜ失敗しうるのか(第1〜4章)
- 持続的技術:既存の主流顧客がすでに重視している次元で性能を高めるイノベーション。
- 破壊的技術:当初はそれらの次元で性能が劣るが別の特性を提供し、新しい市場や非伝統的な市場に根づくイノベーション。
- 価値ネットワーク:企業がどのイノベーションを支援する価値があるかを判断する、顧客・供給者・経済性からなるシステム。
- 上位市場への非対称性:企業が上位市場へは容易に移動できるが、下へ移動するのは難しいこと。
第2部:破壊的技術変化のマネジメント(第5〜10章)
- 組織上の配置:破壊的技術を、それを必要とする顧客を持つ部門に置くこと。
- 組織規模と市場規模の一致:小さな市場を、それを重視するほど小さな組織に任せること。
- 市場の発見:事前に分析できない市場について学ぶこと。
- 供給される性能と求められる性能:技術改良の軌跡を、顧客が使いこなせる性能と比べること。
批判的分析
長所
- 産業史に基づく証拠。 議論は詳細な産業事例、とりわけディスクドライブ、次いで掘削機に基づいている。Dombは、身近な製品から得られた実際のデータを示している点に、ディスクドライブの分析の価値を見ている。
- 例外に対する率直さ。 Dombによれば、データが命題と矛盾する場合、クリステンセンはそれを隠さずに食い違いを指摘し、その理由を推測している。
- 事例の幅。 中心的な事例のほか、書評はディスカウント小売(KresgeのK-Martによる成功とWoolworthの失敗)、小型オートバイにおけるホンダとハーレーダビッドソン、ヒューレット・パッカード、ディジタル・イクイップメント・コーポレーションを挙げており、製品だけでなくサービスやビジネスモデルも対象にしている。
- 簡潔で構造的。 10章は診断(第1部)から処方(第2部)へと進み、処方箋が章題として示されているので、要点をまとめやすく議論しやすい。
短所
- 主として後から振り返った事例から組み立てられた理論。 概念は事後に読み解かれた産業史から導かれている。持続的変化と破壊的変化を、後知恵ではなく事前に見分けられるのかという疑問が批判者から出されており、授業ではこの点を明示的に議論する価値がある。
- 深く分析された実証の基盤は狭い。 章全体を使って本格的に分析されるのは二つの産業だけで、他の事例はより短い例示である。
- 版による違い。 1997年版には、後の版で加わる組織の能力と無能力を評価する章がなく、第7章より後の章番号が変わる。教員が章番号で課題を出す場合には注意が必要である。
- 古い事例。 扱われる産業は1970年代から1990年代半ばのものであり、読者は現在の事例を自分で補う必要がある。
コースにおける位置づけ
本書は、既存企業がある種のイノベーションに苦戦する理由についての、このコースの古典的な議論であり、全体を通読できる短さである。TiddとBessantの Managing Innovation は、イノベーションを組織内で管理できる過程として扱い、技術・市場・組織の変化を統合する研究に基づく教科書である。クリステンセンの破壊の考え方をより広い研究の中に位置づけるので、本書の後に、あるいは並行して読むとよい。Riesの The Lean Startup はジレンマの反対側、つまり顧客とともに素早くアイデアを検証する新しいベンチャーを扱っており、市場の発見を扱う第7章の自然な相棒となる。
起業論の教科書であるBarringerとIrelandの Entrepreneurship と、無料のOpenStax版 Entrepreneurship は、ベンチャーを立ち上げて成長させる過程をたどる。クリステンセンは、新規参入者がなぜときに既存企業を追い越せるのかを説明する戦略的な文脈を補う。Shaneの A General Theory of Entrepreneurship は、個人がどのように機会を発見し活用するかについての研究書であり、さらに進みたい学生にとって、機会の側面をより学術的に扱う一冊となる。
本書の使い方
本書は専門家ではなくマネジャーに向けて書かれており、技術的・数学的な予備知識は必要ない。経営学、工学、経済学の学部生が、イノベーションや戦略の授業の早い段階で読むことができる。
- 第1部を丁寧に読む。 第1章と第2章が中核の理論、すなわちディスクドライブの証拠と価値ネットワークの概念を担う。ドライブの各世代がどのように市場に入り、誰が持ち込んだかをメモしておくとよい。第3章と第4章は議論を検証し、拡張する。
- 第2部を処方箋の集まりとして読む。 各章の題名が一つの規則を述べている。それぞれについて、第1部のどの証拠がそれを支えているか、マネジャーは何を変える必要があるかを問う。
- まとめの章で読み終え、それから第2章に戻って、ジレンマが価値ネットワークの考え方からどう導かれるかを確かめる。
- 版を確認する。 授業が後の版を使う場合、第8章は能力と無能力に関する追加の章であり、残りの章は一つずつ番号が繰り下がる。
理論をただ吸収するのではなく検証するには、現在の産業を一つ選び、結果を知る前に最近のイノベーションを持続的か破壊的かに分類してみて、その後実際に起きたことと比べるとよい。クリステンセン自身が例外として指摘している事例も議論するとよい。
