01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
McEnery, T., & Hardie, A. (2012). Corpus Linguistics: Method, Theory and Practice. Cambridge University Press.
章の要約
本書は9つの章に用語集、注、参考文献、索引が付き、約312ページで、Cambridge Textbooks in Linguistics シリーズの1冊である。序文は目的を次のように述べている。コーパス言語学がどう発展し、方法論としてどう用いられているか、コーパス言語学者が直面する主要な理論的問題、そして言語学の内外でコーパスを使う研究者が実際に抱える問題を説明すること。著者らは、コーパスを調べるための手順を段階的に示すことはせず、コンコーダンス、コロケーション、キーワードなど標準的なツールの出力の詳細にも立ち入らない。それらは他の本が扱っているからである。第1章から第3章は方法と実務、第4章から第6章は分野の歴史と主要な伝統、第7章から第9章は言語学の他の分野との関係と将来を扱う。
第1章:コーパス言語学とは何か(What Is Corpus Linguistics?)
最初の章は、この分野を言語を研究する一連の手順と定義しつつ、コーパス言語学は一致した方法の一枚岩ではなく不均質な分野であり、少なくとも主要な一派はそれを方法論とする見方を受け入れていないと注意する。コーパスは、機械可読のテクストの集まりで、通常は手作業で分析するには大きすぎ、特定の研究課題の基礎として適切とみなされるものと説明される。章は、コーパス言語学が言語理論にデータを提供するだけでなく、理論そのものを作り変えうると論じる。
第2章:コーパスデータへのアクセスと分析(Accessing and Analysing Corpus Data)
章は言語学におけるデータの歴史から始まる。20世紀半ばまでの観察データ、チョムスキーの影響による内省の台頭、1980年以降のコーパスデータの復権である。続いて、コーパスデータの選択、注釈付け、活用に関する実務的な問題に進み、Roberto Busa の初期の仕事についての節を含む。この節には第4章が立ち返って言及している。
第3章:ウェブ、法、倫理(The Web, Laws and Ethics)
この章は、実務的な問題の概観を、コーパス構築における法的な考慮、とくにウェブからの収集を主な例として、またコーパスの構築・配布・利用に伴う倫理的な問題へと続ける。著者らは、自分たちが西洋の立場から書いていることを断り、法と倫理の世界的な概観は試みない。
第4章:英語コーパス言語学(English Corpus Linguistics)
この章は、1960年代以降の英語についての研究の伝統を概観する。著者らはそれを本書で述べるアプローチが形づくられたるつぼと呼ぶ。また、Busa や Juilland の頻度辞書のような他の言語での初期のコーパス研究も認め、歴史を英語中心に描くことに注意を促す。
第5章:共時的・通時的変異のコーパスに基づく研究(Corpus-Based Studies of Synchronic and Diachronic Variation)
時間をまたぐ変異と、使用の文脈をまたぐ変異を見る章である。通時的変異では、古英語から現代英語までと現代英語における言語変化を検討し、共時的変異では、Douglas Biber に結びつく多次元アプローチ(ジャンルやレジスターをまたぐ変異を、テクストを単位として見る)と、変異論的社会言語学(社会的カテゴリーをまたぐ変異を、話者を単位として見る)を対比する。
第6章:ネオ・ファース派のコーパス言語学(Neo-Firthian Corpus Linguistics)
J. R. Firth の考えに従うコーパス言語学者の一派を検討する章である。バーミンガム大学の John Sinclair が率い、Michael Hoey、Susan Hunston、Michael Stubbs らを含む。コロケーションと談話が2つの中心的な考えであり、章はこれらの用語がどう使われているかを論じる。
第7–8章:コーパス手法と機能主義言語学/コーパス言語学、心理言語学、機能主義言語学の収斂(Corpus Methods and Functionalist Linguistics; The Convergence of Corpus Linguistics, Psycholinguistics and Functionalist Linguistics)
第7章は、コーパス言語学が機能主義(認知言語学や用法基盤)の言語学と収斂しつつあると論じる。機能主義者はコーパスの証拠をますます用いており、とくに Stefan Gries をはじめ、機能・認知理論を使って結果を解釈するコーパス言語学者もいる。第8章はこの議論を実験心理言語学に広げ、外部の理論なしにコーパス駆動で研究することを好むネオ・ファース派が、この収斂にどう異なって関わるかを論じる。
第9章:結論(Conclusion)
最後の章は、言語学におけるコーパス言語学の位置を考察する。1980年代末ごろまでの、チョムスキー派の懐疑に抗してこの分野が確立された初期と、コーパス手法が言語学全般の道具箱の一部になった後期の、2つの時期を描く。方法論的多元主義と、人文・社会科学におけるコーパス手法の可能性も検討される。
主要概念
第1–3章:基礎と実践
- コーパス:機械可読のテクストの集まりで、通常は手作業の分析には大きすぎ、特定の研究課題の基礎として選ばれる。
- 方法としてのコーパスと理論としてのコーパス:「方法論者」のコーパス言語学者とネオ・ファース派の見方の区別。
- 内省と観察データ:言語学で何が証拠とみなされるかの変化。
- 法的・倫理的な問題:コーパス構築、とくにウェブからの構築における考慮事項。
第4–6章:伝統と変異
- 通時的変異と共時的変異:時間を通じた変化と、使用の文脈による違い。
- 多次元分析:Biber によるレジスター間の変異へのアプローチ。
- コロケーションと談話:ネオ・ファース派の仕事の中心にある2つの考え。
第7–9章:収斂と展望
- 用法基盤・機能主義言語学:言語構造が使用によって形づくられるとみなす枠組み。
- 方法論的多元主義:この分野の将来についての著者らの見方。
批判的分析
長所
- 際立った範囲。 序文は、本書を入門的な手引き書に対置している。歴史、理論、研究の実際上の問題を扱うため、それらの本にはない位置を占める。
- 両方の学派が提示される。 方法としてのコーパスと、理論としてのコーパスであるネオ・ファース派の立場が並べて示され、第7章と第8章は、それぞれが機能主義言語学や心理言語学とどう関わるかをたどる。
- 見落とされがちな問題への対応。 法的・倫理的問題に1章が丸ごと充てられており、その章自身がそれを、あまり論じられないものと呼んでいる。ウェブからのコーパス構築も含まれる。
- 読者への支援と評価。 出版社は、各章末の実践課題と討論課題、充実した用語集を挙げている。Stefan Gries(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)は、理論的な論争と実践的な問いの両方を扱う包括的で最新の概観と呼び、Karin Aijmer(ヨーテボリ大学)はユニークな資料と呼んでいる。いずれも出版社のページに引用された推薦文である。
短所
- 手順の手引きではない。 著者ら自身の言明によれば、段階的な手順は示さず、コンコーダンス、コロケーション、キーワードも詳しくは扱わないので、学生は道具を別の場所で学ぶ必要がある。
- 英語中心の歴史。 第4章をはじめ、本書の物語の多くは英語の研究をたどっている。ただし著者らは英語中心の叙述に注意を促している。
- 法と倫理は西洋の立場から。 第3章は西洋の立場から書かれたと断っており、ほかの法域は概観していない。
コースにおける位置づけ
本書は、このコースにおけるコーパス言語学の方法と理論の教科書である。Csomay と Crawford の Doing Corpus Linguistics は、公開コーパスを使った小課題を伴う段階的な入門書で、McEnery と Hardie があえて省いた実践面についての自然な最初の1冊である。コーパスを検索したことがなければ、これを先に、あるいは並行して読むとよい。
プログラミングについては、Gries の Quantitative Corpus Linguistics with R が自分でプログラムを書く方法と統計を教え、Bird、Klein、Loper の Natural Language Processing with Python と Jurafsky と Martin の Speech and Language Processing は計算言語学と言語技術に進む。オープンアクセスの入門書 Language and Computers は、言語技術のより取りつきやすい概観を与える。これらの道具の背景にある問い、すなわちコーパスとは何か、何が証拠となるか、この分野が言語学の中でどう位置づけられるかを知るには、McEnery と Hardie を読むとよい。
本書の使い方
言語学の最初のコースを終えた学生、コーパスのプロジェクトを設計したりコーパス手法について書いたりする上級の学部生や大学院生に向いている。序文は、本書を入門的な教科書とは違うものとして位置づけているので、実践経験のない読者は実践的な教科書と組み合わせるのがよい。
進め方の例を挙げる。まず第1章と第2章で、この分野の定義とコーパスデータへのアクセスと分析を学び、ウェブのデータを集める前に第3章を読む。第4章から第6章が歴史と主な伝統を与える。語彙や談話に関心があれば第6章を、言語の変異や変化に関心があれば第5章を読む。第7章と第8章は理論や心理言語学に関心のある学生にとって最も重要で、第9章は著者らの見る分野の行方を示す。各章末の実践課題と討論課題で理解を確かめ、用語は用語集で確認する。
