01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
Ray, D. (1998). Development Economics. Princeton University Press.
章の要約
本書は18章に2つの付録、参考文献、索引が付き、約850ページに及ぶ。プリンストン大学出版局は、開発に関する新旧の文献を総合したものであり、開発の過程の多くは、市場の効率的で公平な働きを妨げる要因を研究することで理解できる、という考え方で全体が貫かれていると説明している。詳細な目次によれば、各章は一般に要約と演習問題で締めくくられる。
第1〜2章:序論、経済開発:概観
第1章は4ページの短い序論である。第2章は分野を概観する。所得と成長(歴史的経験と測定上の問題を含む)、途上国における所得分配、低開発のさまざまな側面(人間開発とその指数を含む)、そして人口の特徴、職業・生産構造、急速な農村から都市への移動、国際貿易といった構造的特徴が取り上げられる。
第3〜4章:経済成長、新成長理論
第3章は現代の経済成長の基本的特徴から始まり、続いて成長理論として、ハロッド=ドーマー・モデル、それを超えるさまざまな考慮、ソロー・モデル、技術進歩を示す。最後は収束に関する節で、無条件の収束、条件付きの収束、データの再検討が扱われる。第4章は新成長理論に移り、人的資本と成長、条件付き収束の再検討、そして人々の意図的な意思決定の結果としての技術進歩を論じ、外部性、全要素生産性、東アジアの奇跡にも触れる。
第5章:歴史、期待、開発
この章は、補完性(導入の例はQWERTY配列のキーボード)、調整の失敗、波及関係と政策の問題を展開する。続いて歴史と期待を対比し、収穫逓増(市場への参入、市場規模、国際貿易における競争と複数性)を論じ、最後に社会規範や現状維持を含む、歴史のその他の役割を扱う。
第6〜8章:経済的不平等、不平等と開発:相互関係、貧困と栄養不足
第6章は経済的不平等とは何かを問い、予備的な観察を示したうえで、4つの基準、ローレンツ曲線、完全な不平等指標を通じて測定の仕方を検討する。第7章は不平等を成長と結びつける。逆U字仮説とその検証、不平等と貯蓄、政治的再分配、需要構成、資本市場、人的資本が扱われ、不完全な資本市場における複数の定常状態に関する付録もある。第8章は基本原理から貧困を論じ、概念上の問題と貧困指標を含め、続いて人口の特徴、農村と都市の貧困、資産、栄養、そして貧困が信用、保険、労働市場、家計に及ぼす機能上の影響を述べる。
第9〜10章:人口増加と経済開発、農村と都市
2つの章が、開発の人口面と、農村と都市の関係を扱う。
第11〜15章:農業における市場:序論、土地、労働、信用、保険
本書で最も長いまとまりで、約220ページある。農村の市場に移り、農業市場の序論に続いて、土地、労働、信用、保険をそれぞれ独立した章で扱う。出版社は、扱われる題材として、土地契約におけるモラルハザードと、情報に基づく信用市場の理論を特に挙げている。
第16〜18章:国際貿易、貿易政策、貿易政策への多国間アプローチ
最後の章は、国際貿易、貿易政策、貿易政策への多国間アプローチを取り上げる。
付録:初等ゲーム理論、初等統計的方法
2つの付録が、ゲーム理論と統計的方法の背景知識を提供する。
主要概念
成長と調整(第3〜5章)
- ハロッド=ドーマー・モデルとソロー・モデル:第3章で示される2つの成長モデル。
- 収束:貧しい経済が豊かな経済に追いつく傾向があるかどうか。無条件と条件付きの形で論じられる。
- 調整の失敗:意思決定の間の補完性により、経済が望ましくない均衡にとどまってしまう結果。
- 歴史と期待:経済の経路が過去によって決まるのか、人々の期待によって決まるのか。
不平等、貧困、人口(第6〜10章)
- ローレンツ曲線と不平等指標:所得分配を描写する図形的・数値的な方法。
- 逆U字仮説:不平等は所得の成長とともにまず拡大し、その後縮小するという命題。
- 貧困指標:貧しい人々を数え、要約する方法で、栄養や資産とあわせて論じられる。
農村市場と貿易(第11〜18章)
- 土地・労働・信用・保険市場:農村経済における各市場を1つずつ検討する。
- 貿易政策:国際貿易に対する政策の設計と効果で、多国間アプローチの章がある。
批判的分析
長所
- 全体を貫く考え方。 出版社は、市場の効率的で公平な働きを妨げる要因を軸に叙述が組織されていると述べ、新成長理論、土地契約におけるモラルハザード、情報に基づく信用市場の理論、不平等のマクロ経済的含意といった互いに異なる話題が、この1つの見方のもとにまとめられていると説明している。読者は話題の一覧ではなく、枠組みを与えられる。
- 詳細な構成。 目次は前半の各章を名前のついた多数の節に分け、要約と演習問題で締めくくっており、特定の話題を探したり復習したりしやすい。
- 自己完結した背景知識。 プリンストンは、前提とされるのは経済学の入門知識だけで、数学の使用は最小限にとどめられていると述べている。初等ゲーム理論と統計的方法に関する2つの付録は、必要な読者に道具を提供する。
- 注目すべき推薦。 出版社の紹介に引用されているAmartya Senは、理論的な推論と、経験的な状況や制度の可能性と限界への目配りとを結びつけている点を称賛している。
短所
- 古い。 本書は1998年に刊行され、参照した資料には後の版が見当たらないため、それ以降の研究は含まれていない。
- 政策を概観する本よりも範囲が狭い。 目次には、教育と保健、環境、対外資金と援助を扱う独立の章がない。TodaroとSmithの目次では、これらにそれぞれ章が与えられている。
- 解答が制限されている。 Rayのウェブサイトによれば、章末問題の解答は教員が請求すれば入手できる。そのため、独学の読者は解答集を持てない可能性がある。
- 分量。 約850ページあり、1つの授業で扱える範囲を超えるため、取捨選択が必要である。
コースにおける位置づけ
Ray の本は、この書目のなかで理論志向の学部向け教科書である。Todaro と Smith の Economic Development は、政策志向で国別の事例研究を備え、多くの同じ話題を扱っており、より幅広い補完的な本として、あるいは代わりに使える。Ian Goldin の Development: A Very Short Introduction は、開発とは何か、どのように起こるのかを問う短い出発点である。Banerjee と Duflo の Poor Economics は、無作為化されたフィールド実験をもとに、食料、健康、教育、貯蓄に関する家計の意思決定を説明しており、Ray の本にはない1998年以降の証拠を提供する。
大学院向けには、Bardhan と Udry の Development Microeconomics が、貧しい経済のミクロ経済理論を扱う簡潔な教科書で、家計、契約、不完全情報のモデルを用いて土地、労働、信用、保険の市場を分析する。これは Ray の第11〜15章の主題にあたる。De Janvry と Sadoulet の Development Economics: Theory and Practice は、理論、証拠、政策の設計と評価を結びつける大学院水準の教科書である。
本書の使い方
プリンストンは、本書が経済学の入門知識だけを前提とし、数学の使用を最小限にとどめていると説明している。中級ミクロ経済学は、土地、労働、信用、保険に関する後半の章に役立つ追加の準備だが、出版社はそれを必須とはしていない。
実際的な進め方は次のとおりである。
- 中核: 全体像をつかむために第2章、成長と調整の失敗のために第3・5章、不平等と貧困のために第6〜8章。
- 発展: 新しい成長理論なら第4章、人口と農村・都市の問題なら第9・10章、農業市場、信用、保険の経済学なら第11〜15章、貿易なら第16〜18章。
- 道具: どちらかになじみがなければ、2つの付録を手元に置く。ゲーム理論は調整の失敗の背後にある戦略的推論のため、統計学はデータをめぐる議論のためである。
各章末の要約と演習問題を確認の手段として使い、授業で本書を使う場合は、問題の解答について著者のウェブサイトを参照する。実証の部分は、より新しい資料と併せて読むのがよい。本書は、いまやこの分野の多くを形づくっている実験的証拠より前に書かれたものだからである。
