01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
de Janvry, A., & Sadoulet, E. (2021). Development Economics: Theory and Practice (2nd ed.). Routledge.
章の要約
第2版は572ページで、短い序論と21の章からなる。著者は開発の七つの次元、すなわち成長、貧困、脆弱性、不平等、基本的ニーズ、持続可能性、生活の質を軸に全体を組み立て、理論と実証分析に、プログラムや政策の設計と評価を組み合わせている。出版社は、事例研究、定量的な演習問題、章末の設問、豊富な参考文献を特徴として挙げ、ExcelとStataの演習をデジタル補助教材として用意している。
序論
序論では、経済発展とは何か、開発経済学は何を研究するのか、なぜこの分野に関心をもつべきかが論じられる。
第1–3章:What is Development? Indicators and Issues(発展とは何か:指標と論点);The State of Development(発展の現状);History of Thought in Development Economics(開発経済学の思想史)
最初の章で枠組みが定まる。第1章は七つの次元を示し、所得の成長だけで発展が実現できるのかを問う。第2章はそれらの次元に沿って現状を概観し、所得成長における収斂クラブから、飢餓、不平等、基本的ニーズ、資源利用、生活の質まで扱う。第3章は思想史で、思想史を分析するための基本原則と、いくつかの代表的な学派を取り上げる。
第4章:Impact Evaluation of Development Policies and Programs(開発政策とプログラムの影響評価)
意図的に早い位置に置かれた方法論の章である。無作為化実験、傾向スコア・マッチング、差の差の推定とそのパネルデータによる段階的導入への拡張、回帰不連続デザイン、イベント分析、操作変数法、定性的手法を紹介し、評価を政策にもっと役立てる方法も論じる。付録で各手法の背後にある計量経済学が示される。
第5–6章:Poverty and Vulnerability Analysis(貧困と脆弱性の分析);Inequality and Inequity(不平等と不公正)
第5章は、厚生指標と貧困線の選び方、貧困プロファイルと貧困地図、脆弱性、行動面での貧困の罠、貧困削減の方法を扱う。第6章は、不平等の測定と分解、クズネッツの逆U字曲線の実証、不平等の長期的変化、貧困層に有利な成長と成長発生曲線、公平性と包摂的成長の役割を扱う。
第7–9章:International Trade and Industrialization Strategies(国際貿易と工業化戦略);Explaining Economic Growth: The Macro Level(経済成長の説明:マクロの水準);Exchange Rate Policies and Development(為替政策と発展)
第7章は貿易の利益、保護と貿易政策、輸入代替工業化、そして貿易と成長、貧困、環境、食料安全保障との関係を扱う。第8章は成長モデルを提示する。ハロッド=ドーマー・モデル、成長会計を伴うソロー・モデル、構造転換、二重経済モデル、内生的成長である。第9章は為替制度と実質為替レートを扱う。
第10–12章:The Economics of Farm Households(農家の経済学);Population and Development(人口と発展);Labor and Migration(労働と移動)
第10章は、分離可能性、純買い手と純売り手、リスクと自己保険、世帯内の資源配分を含む農家の行動モデルを構築する。第11章は人口学の概念、人口転換、人口政策を扱う。第12章は労働と雇用、都市への農村からの移動とその影響に移る。
第13–14章:Financial Services for the Poor(貧困層への金融サービス);Social Programs and Targeting(社会プログラムとターゲティング)
第13章は高利貸しやインフォーマルな制度から出発し、マイクロファイナンス革命、貯蓄、指数型天候保険、モバイルマネーを経て、マイクロファイナンスは貧困削減にどれほど役立つのかを問う。第14章は社会プログラムの類型、ターゲティングの便益と費用、排除誤りと包含誤り、現金給付と開発プログラムをめぐる論争を示す。
第15–17章:Sustainable Development and the Environment(持続可能な発展と環境);Common Property Resources and Determinants of Cooperation(共有資源と協力の決定要因);Human Capital: Education and Health(人的資本:教育と保健)
第15章と第16章は、外部性、不完全な財産権、公共財、環境サービスへの支払い、共有資源、協力の決定要因、そして土地の権利を保障することの意義を扱う。第17章は就学と健康の決定要因、教育の収益率、条件付き現金給付、保健補助金をめぐる議論を扱う。
第18–21章:Agriculture for Development(発展のための農業);Development Aid and Its Effectiveness(開発援助とその有効性);Institutional Innovations and Development(制度革新と発展);Political Economy and the Role of the State(政治経済学と国家の役割)
終盤の章は、農業成長と食料安全保障、マクロとミクロの視点からの援助とその有効性、市場の失敗の源としての制度と取引費用およびそれに対する制度的対応、国家の理論、レントシーキングと腐敗を論じる。
主要概念
第1–3章:発展の次元
- 発展の七つの次元:成長、貧困、脆弱性、不平等、基本的ニーズ、持続可能性、生活の質。本書全体の構造がこの上に成り立つ。
- 収斂クラブ:第2章が発展の現状を述べる際に検討する所得成長のパターン。
第4章:影響評価
- 無作為化比較試験:プログラムへの割り当てを無作為に行う実験デザインで、この章で最初に紹介される方法。
- 差の差の推定と回帰不連続デザイン:無作為化ができない場合に比較群を構成する二つの準実験的手法。
- 操作変数法:プログラムへの参加が無作為でない場合に効果を推定する手法。
第5–6章:貧困と不平等
- 貧困線と脆弱性:貧困層と非貧困層をどう分けるか、現在の貧困に加えて貧困に陥る危険がなぜ重要か。
- クズネッツの逆U字曲線:所得水準と不平等の関係についての仮説で、第6章が実証と突き合わせる。
- 成長発生曲線:成長が貧困層に有利かを判断する道具。
第7–9章:貿易、成長、為替
- 輸入代替工業化:第7章が政策上の賭けと述べる貿易政策の戦略。
- ハロッド=ドーマー・モデルとソロー・モデル:第8章の資本蓄積と成長会計の枠組み。
- 二重経済モデル:構造転換において農業に役割を与えるモデル。
第10–14章:世帯、労働、信用、社会プログラム
- 分離可能性:農家の生産の意思決定を消費の意思決定から切り離して分析できる条件。
- グループ貸出:マイクロファイナンス革命の中核にある仕組み。
- ターゲティングの誤り:社会プログラムにおける排除(第1種)と包含(第2種)の誤り。
第15–21章:環境、制度、国家
- 共有資源:共同で利用される資源で、中心的な問題は協力である。
- 取引費用:市場の失敗の源で、制度革新はこれに対応する。
- レントシーキング:最終章が検討する公的権力の経済学とその限界。
批判的分析
長所
- 一冊で広い範囲を扱う。 21の章は、マクロの主題(成長、貿易、為替)、世帯と市場のミクロ経済学(農家、労働、信用、土地、共有資源)、政策分野(社会プログラム、援助、教育と保健、環境)を覆う。一つの講義の読み物をほぼ本書だけでまかなえる。
- 方法が必要な場所に置かれている。 影響評価は第4章として、貧困、不平等、金融、社会プログラムの前に登場するため、後の章は無作為化・準実験的研究の証拠を共通の土台の上で論じられる。この章の付録は背後の計量経済学を示す。出版社が引く第1版の二人の評者は、無作為化試験の文献に由来する材料と、古典的な問題の深い扱いの両方に言及している。
- 演習教材。 出版社は事例研究、定量的な演習問題、章末の設問を挙げ、ExcelとStataの演習をデジタル補助教材として用意しており、データ分析を含む講義に使いやすい。
- 第2版での更新。 新版は、持続可能な開発目標、拡大を続ける不平等、公共財としての保健、社会的保護のための現金給付、炭素取引への目配りを加えている。
短所
- 長さと取捨選択。 21章、572ページで、1学期の講義では選択が必要になる。全体を1学期で読み通すことはできない。
- 前提知識が重い。 影響評価、世帯モデル、成長理論の扱いは、ミクロ経済学、ある程度の計量経済学、形式的なモデルへの慣れを前提とする。
- 個々の主題の深さより広さ。 人口、為替、援助などは主題ごとに1章で扱われるため、特定の分野の研究の最前線を知りたい読者は専門書へ進むことになる。
コースにおける位置づけ
開発経済学の書目の中で、本書は理論、証拠、政策にまたがる大学院レベルの本格的な教科書である。隣り合う本は二種類に分かれる。Ian Goldinの短い入門書と一般向けのPoor Economicsは取り付きやすい最初の読み物で、前者は簡潔な概観、後者はフィールド実験に基づいて貧しい世帯が食料、健康、教育、貯蓄をどう決めるかを描き、第1・2・13章の下地になる。Debraj RayのDevelopment Economicsは単純な形式モデルを軸にした理論志向の教科書、TodaroとSmithのEconomic Developmentは政策志向の学部向けテキストで、どちらも本書の前の最初の一巡として、あるいは成長理論と政策の第二の資料として使える。
BardhanとUdryのDevelopment Microeconomicsは、貧しい経済のミクロ経済理論を扱う簡潔な大学院向けテキストで、土地、労働、信用、保険市場のモデルを含む。契約理論については第10章から第13章よりも踏み込んでおり、これらの章と併せて読むのがよい。本書は、理論だけの本に欠けるもの、すなわちマクロの主題、影響評価、プログラム設計を補う。
本書の使い方
経済学、公共政策、農業経済学の大学院生や、開発プログラムを評価する分析道具を必要とする実務家に向く。現実的な前提知識は、中級のミクロ経済学とマクロ経済学、およびある程度の計量経済学で、学部の開発経済学の講義を受けていると助けになる。
実践的な読み方は次のとおり。
- 中核: まず序論と第1・2・4章で七つの次元と評価の道具立てを整え、続いて貧困と不平等を扱う第5・6章を読む。
- 関心に応じて選ぶ: マクロと貿易は第7~9章、世帯、労働、金融、社会的保護は第10~14章、環境、制度、国家は第15~21章。第3章の思想史は背景としてどの時点で読んでもよい。
- 本文と並行して: 演習問題とExcel・Stata演習、とくに第4章のものに取り組み、小さなデータセットで一つの評価手法を再現してみる。章末の参考文献をたどれば、各章の主題の拠り所となる研究論文に進める。
