01 / 読書ガイド
読書ガイド
引用
McQuarrie, D. A. (2007). Quantum Chemistry (2nd ed.). University Science Books.
章の要約
本書は約690ページで、12の章、章の間に置かれた8つの短い「MathChapter」(AからH)、数値問題の解答、索引からなる。各章には幅広い問題と演習が付いている。
第1章:The Dawn of the Quantum Theory
量子論を歴史的な出発点から説き起こし、波動方程式が現れる前に新しい力学が必要であることを示す。直後にMathChapter A(複素数)が続く。
第2章:The Classical Wave Equation
シュレーディンガー方程式への準備として、まず古典的な波動方程式を扱う。続いてMathChapter B(確率と統計)がある。
第3章:The Schrödinger Equation and a Particle in a Box
シュレーディンガー方程式を導入し、最初の厳密に解ける模型である箱の中の粒子に適用する。続いてMathChapter C(ベクトル)がある。
第4章:The Postulates and General Principles of Quantum Mechanics
量子力学の形式的な枠組みを公準として述べ、演算子と測定を支配する一般原理を示す。続いてMathChapter D(級数と極限)がある。
第5~6章:The Harmonic Oscillator and Vibrational Spectroscopy;The Rigid Rotator and Rotational Spectroscopy
この2章は、模型系とそれが説明する分光学を組にしている。振動には調和振動子、回転には剛体回転子である。出版社によれば、分子分光学はこれらの章を通じて論じられる。両章の間にMathChapter E(球座標)があり、第6章の後にMathChapter F(行列式)が続く。
第7章:The Hydrogen Atom
水素原子は独立した章で扱われ、出版社によれば電子分光学もそこで論じられる。続いてMathChapter G(行列)がある。
第8章:Approximation Methods
厳密に解けない系に至るための道筋として近似法が示される。続いてMathChapter H(行列の固有値問題)がある。
第9章:Many-Electron Atoms
電子が複数ある原子だけを扱う章。出版社の説明では、ヘリウム原子の自己無撞着場(SCF)計算が段階を追って示され、多電子原子の性質を計算するためにハートリー・フォック原子軌道のウェブサイトが用いられる。
第10~11章:The Chemical Bond: One- and Two-Electron Molecules;Qualitative Theory of Chemical Bonding
第10章は原子から分子に進み、水素分子のSCF計算を段階的に示す。第11章は結合の定性的理論を扱う。
第12章:The Hartree–Fock–Roothaan Method
最終章はハートリー・フォック法とポスト・ハートリー・フォック法による分子の性質の計算に充てられる。出版社によれば、ガウス型軌道と計算を表す記法(HF/STO-6GやHF/6-31G**など)が導入され、最後の節で配置間相互作用、結合クラスター理論、密度汎関数理論が半定量的に扱われる。
主要概念
第1~4章:基礎
- 量子論の起源:古典力学を置き換える必要があった実験的・歴史的な理由。
- シュレーディンガー方程式:その解が量子系を記述する波動方程式で、最初に箱の中の粒子に適用される。
- 量子力学の公準:状態、演算子、測定値を結びつける形式的規則。
第5~8章:模型系と近似
- 調和振動子と剛体回転子:振動と回転の模型系で、振動分光・回転分光と結びつく。
- 水素原子:厳密に解ける原子とその電子分光。
- 近似法:厳密解のない系のための手法。
第9~12章:原子、結合、計算
- 多電子原子:水素を超える原子構造と、自己無撞着場計算。
- 化学結合:1電子・2電子分子の扱いと、それに続く結合の定性的理論。
- ハートリー・フォック・ルーターン法:ガウス型軌道を用いる現代の分子計算の基礎と、それに続くポスト・ハートリー・フォック法。
批判的分析
長所
- 数学が分離されている。 MathChapterは、学生が物理的原理に集中できるよう、本書の途中に置かれた短い幕間の章である。複素数、確率と統計、ベクトル、級数と極限、球座標、行列式、行列、行列の固有値問題を、最初に必要になる箇所で扱う。
- 前提条件が低い。 出版社の説明では、前提は微積分1年分で、微分方程式の知識は必須でないとされ、標準的な化学の素養から入りやすい。
- 現代的な計算が組み込まれている。 第2版では、ヘリウムと水素のSCF計算の実例、ハートリー・フォックとその先を扱う章、計算化学プログラムやNISTの実験・非経験的計算データのウェブサイトを使う問題が加わった。
- 分光学が模型と結びついている。 振動・回転分光は調和振動子・剛体回転子と同じ章で展開され、水素の電子スペクトルは独立した章で扱われる。
短所
- 範囲は量子化学の中核に限られる。 章の構成はハートリー・フォック・ルーターン法で終わり、配置間相互作用、結合クラスター理論、密度汎関数理論は終盤の節で「少なくとも半定量的に」扱われるにとどまるため、計算の実践には別の資料が要る。
- 分子の対称性や群論の章は目次にない。 講義でこれらを扱う場合は別の資料が必要である。
- 分量。 約690ページ、12章と8つのMathChapterからなり、1学期で全体を扱うのは難しい。
コースにおける位置づけ
このコースの本の中で、McQuarrieは化学者のための量子力学を自己完結的に展開した本である。EngelとReidのPhysical Chemistry: Quantum Chemistry and Spectroscopyは学部の物理化学コースの一巻で、量子論の起源から原子・分子を経て分光学に進むため、物理化学の連続講義の中での対応する選択肢になる。ThakkarのQuantum Chemistry: A Concise Introductionは、理論を展開するよりも分光学や計算を使う読者向けの、短く考え方中心の本で、McQuarrieの前の軽い入門になる。
JensenのIntroduction to Computational Chemistryは、McQuarrieの最終章が止まるところから続き、McQuarrieが紹介するだけにとどまる計算手法の次の一冊になる。PaviaのIntroduction to SpectroscopyとSilversteinのSpectrometric Identification of Organic Compoundsは、スペクトルから有機化合物の構造を同定するという別の目的に応え、分子がなぜそのスペクトルをもつかを説明するMcQuarrieの理論を補う。
本書の使い方
微積分を1年学んだ学生で、化学で使う量子力学を完全な形で学びたい人に向く。学部上級でも大学院初年度でもよい。微分方程式は事前に必要ない。
実践的な進め方は次のとおり。
- 中核: 第1~4章を順に読み、第5~7章で標準的な厳密に解ける三つの系に進む。
- 必要に応じて数学: 各MathChapterは、それが続く章で必要になったときに読み、既知のものは飛ばす。
- 原子と分子: 第8~11章で近似法と、原子・結合への最初の応用を学ぶ。
- 計算: 第12章が分子計算への入口である。計算化学プログラムとNISTのデータサイトを使う問題と組み合わせるとよい。
各章に幅広い問題があるので、講義の進行に合わせて解き、数値の結果は巻末の解答と照合する。
